我田引水

2006年6月23日 医療の問題
『 -- 療養型の収益率8・3% 一般病院の6倍強  --

 長期療養向け患者が多く入院する療養型病院は収入に対する黒字の割合(収益率)が8・3%と、一般の病院の1・3%の6倍強となっていることが21日、厚生労働省の2005年6月実施の医療経済実態調査で分かった。

 病院には急性期の医療を担う一般病床のほか、慢性病などを抱えた療養病床があるが、今回新たに全病床のうち療養病床が6割以上を占める療養型病院の収支が判明し、初めて公表された。

 公的病院などを除く医療法人の収支を見ると、一般病院の場合、収入に対する費用の割合は給与費52・1%、医薬品11・8%など全体で98・7%。この結果、収益率は1・3%となった。

 一方、療養型は費用のうち医薬品が6・2%と一般に比べ低く、費用が収入に占める割合は91・7%と低く抑えられ、収益率は8・3%と高水準となった。

 これまで療養病床は高齢化の進展を背景に、高齢者医療や慢性期医療を支える病床として位置付けられてきたが、今回の調査で高収益体質が明らかになり、7月からの診療報酬を引き下げる材料となりそうだ。』

 療養病床の削減と診療報酬改定が終わったばかりなのにそれ以前の収益率を今頃だしてくるのは何故なのだろうか.療養型病床の認定を受ける時に病棟の増改築をやった病院がほとんどのはずなのにたった数年でまた制度の変更をされ,まだ借金の返済も終わらないうちに今回の改定で病棟を閉鎖したところも多いというのに.官庁の優越的地位の乱用というものはわが国では問題にされないということだろう.

 厚生労働省は本気で健康保険医療を崩壊させようとしているのではないだろうか.一般の病院の1・3%の6倍強というと高く聞こえるかもしれないが,一般の病院の収益率が1・3%しかなかったということは今回の改定では赤字に転落しているはずで,これで医療費削減をするのは無謀なのではないのだろうか.勤務医の立場で言わせてもらえば,その高い収益率というのも厚生労働省が意図的に労働基準法を医師に適用せずに医療コストを下げるという不公正な手段を用いて達成されているということも忘れるべきではないだろう.

 医療機関に自ら健康保険診療を放棄させた挙げ句にすべてを医者の責任にして厚生労働省の責任を隠ぺいするという常套手段で健康保険制度を崩壊させようとしているのかもしれない.そうなれば困るのは高額な医療費を直接負担する患者ということになるだろうが,それでいいのだろうか.最近のB型C型肝炎の訴訟に対する厚生労働省の態度をみてもまったく無責任な彼らのやることなど信用できないと思うのは私だけだろうか.
『 -- 75歳以上は独立医療制度 政管健保は県単位に運営 --

 75歳以上が加入する独立した「後期高齢者医療制度」が2008年4月に創設され、医療費の公定価格である診療報酬も別建てになる。都道府県内の全市町村が参加する広域連合が運営し、患者の窓口負担を除いた財源は高齢者本人の保険料1割や現役世代からの支援金4割、税金5割で賄う仕組みだ。

 これに伴い、健康保険組合加入者などの扶養家族でこれまで保険料を負担していない人も含めて、全員が保険料を支払う。医療費のコスト意識を持ってもらうため、地域の医療費によって異なった保険料になる。

 厚生労働省の試算では、全国平均で見ると厚生年金を年208万円受給している場合の保険料は月6200円、基礎年金(年79万円)だけの場合は月900円。扶養家族になっている高齢者については、激変緩和措置として加入から2年間は軽減される。原則、年金からの天引きになる。

 中小企業の会社員が加入する政府管掌健康保険も08年10月に再編。現在は社会保険庁が全国一本で運営しているが、新たに発足する「全国健康保険協会」が都道府県ごとの支部で運営する。

 保険料率も同様に地域の医療費に見合った額になる。試算では、現在は全国一律の8・2%(労使折半)が、最低の長野県で7・6%、最高の北海道で8・7%となる。』

 今後は健康保険制度の運営は地方単位にするということなのだろう.医療費は地域差が大きく,最多の福岡県と最少の長野県では1.5倍も違うそうだから医療費の多い地域を狙い撃ちにして抑制させようということなのだろう.医療費適正化計画とかいうのを策定させて達成が危ぶまれるときは,その都道府県だけの診療報酬を引き下げる特例措置も盛り込まれたそうだ.診療報酬を引き下げて病院の数を減らせば医療費が抑制されるとでも思っているのだろうか.

 保険料率も地域によって格差が生じることが明らかになった.地域の拠点病院に医師を集約しても労働時間や訴訟リスクの軽減にはならないだろうから地方の医師不足もさらに加速することになるのだろう.今後は都道府県単位での勝ち負けがより鮮鋭化し地方の住民の生活や健康が脅かされることになるような気がするのだがどうだろうか.
 
小さな花には小さな虫が
 なんという名前かわからないのですが,登山道の脇に直径5mmくらいの小さな花が集まって咲いている木がありました.
 よく見るとその小さな花にこれまた小さな昆虫が何匹も来ているではありませんか.(何匹いるかわかりますか?)

 地球に群がる人間も宇宙から見たらこの虫たちみたいなものかもしれないですね.

 今週もご苦労さま.天気が悪いので週末はゆっくり休養しましょう.
『 -- 青戸病院事件の判決要旨 --    

 東京地裁が15日、青戸病院の元医師3人に有罪を言い渡した判決の要旨は次の通り。

 【3人の技術】
 前立腺がん摘出の腹腔(ふくくう)鏡手術は開腹術に比べ技術的困難性が高く、生命身体への危険性が高い。斑目旬(まだらめ・じゅん)被告ら3人の中には、前立腺がん摘出の腹腔鏡手術を術者として経験したことのある人は1人もいなかった。長谷川太郎(はせがわ・たろう)、前田重孝(まえだ・しげたか)両被告は手術に立ち会った経験すらなかった。

 3人は、自分たちの技術が手術を安全に施行できるか否かをまったく確認せず、出血管理の困難さについて、事前に一切考慮しなかった。高度先進医療の申請などの手続きもとらなかった。

 3人は、開腹術に移行すれば安全に手術を終えることができるなどと安易に考え、指導医を呼ばず、どのような場合開腹術に移行すべきかなどを検討していなかった。

 手術では組織をいたずらに傷つけて出血させ、最も基本的な出血管理もせず続行した。3人だけで手術を安全にできる最低限度の能力がなかったことは明らかだ。

 【死亡との因果関係】
 患者は低酸素脳症が原因の肺炎によって死亡した。知識、技術や経験がない3人が患者の全身状態を全く把握せずに手術を続けて死亡させたことから、その過失と死亡との間に因果関係があることは明らかだ。また麻酔医の輸血措置などについては非常識な行為だったとまでは認められず、因果関係を否定するほどの特殊事情はない。

 被告らは死亡は麻酔医の輸血の遅れによるものだとして、あたかも出血管理に責任がないように主張している。しかし出血管理が麻酔医だけの責任でないことは明らか。被告らに責任がないとする根拠は認められない。

 【量刑の理由】
 3人に手術を安全に施行する能力はなく、適切な鉗子(かんし)操作ができず組織を傷つけ、出血管理もできなかった。自分たちの能力を過信し、安全対策を講じないままの手術で、無謀というほかなく過失の程度は大きい。必要性、緊急性がないのにこの方法を選択し、何度も開腹術へ移行する機会がありながらこの方法を続行した経過をみれば、少しでもこの方法の経験を積みたいという自己中心的な利益を優先していたことも否定できず、患者の安全と利益の確保という医師としての最も基本的な責務を忘れた行為は強い非難に値する。無謀な行為が真剣に医療に取り組む多くの医師に与えた委縮的効果も見過ごせず、責任は重い。

 泌尿器科診療部長、同副部長らが監督責任を果たしていたとはいえず、その責任は軽視できない。また手術後、慈恵医大と青戸病院では死因を心不全と偽る工作を行うなど、組織ぐるみで事件の隠ぺいを図ろうとしたことが認められる。患者の全身管理を第1次的に担う麻酔医が必要な情報を被告らに伝えなかったことも死に至らしめた大きな要因となっている。

 【結論】
 刑事責任は重いが、責任を全面的に負わせることが相当でない事情もあり、今回に限り刑の執行を猶予するのが相当だ。』

 患者は低酸素脳症が原因の肺炎によって死亡したとあるが,直接の死因が肺炎であるのであれば過失致死になるのだろうか.肺炎で死亡したのならなぜ慈恵医大と青戸病院では死因を心不全と偽る必要があったのだろうか.また,今回に限り刑の執行を猶予するのが相当だというのはどういう意味なのだろうか.他にも責任をとるべきものがいるとすればそれは誰なのか.

 こういった点がこの判決要旨を読んでいて疑問だったのだがどうなのだろうか.相手が裁判官では解説は期待できない.前立腺がん摘出の腹腔鏡手術を術者として経験したことがないのに手術をするなんてことは私の常識では考えられないことなので,脳外科医としてはこの事件の判決が真剣に医療に取り組む多くの医師に委縮的効果を与えるとも思えない.少なくとも自分の患者さんにとって最適な治療を患者さんの理解と同意のもとに行っているのであればここまでひどい話にはならないと思う.

 今回の事件はむしろ手術を受ける患者と家族にとって学ぶべきことが多いのではないだろうか.最近はテレビや週刊誌で医療機関や名医そして最新の治療に関する情報があふれているが,私はそんなものは信用しないほうがいいと思っている.それよりも自分の目の前にいる主治医の話を良く聞いて治療法を選択し,手術をしてくれる執刀医に手術の適応や手術法の話を良く聞いて信頼関係を築くことが一番だと思う.

 自分たちにとって都合いいように話を聞いて,結果が悪いと訴えるというのではライブドアに投資しておきながら後で損害賠償を請求するようなものではないだろうか.確かに外科医としてあるまじき手術であったと思うが,そんな医師を信用してしまった患者や家族にも反省すべき点はあったようにも思えるのである.少なくとも私が患者なら手術前にもっと情報収集をしただろうとは思う.

 長女は医師3人に対し「二度と医師をしてほしくない。1日でも長く刑務所にいて、罪を考えてほしい」とコメントしていたが,私は「死亡させたことは申し訳ないが、麻酔医の過失」と無罪を主張したという記事を見て,その外科医としてはあまりに情けない言い訳に『医師である以前に人として責任感に欠けているのではないか』という思いを禁じえなかった.
『 -- 医療制度改革法が成立 高齢者の負担増、入院日数削減 --

 高齢者を中心とする患者の窓口負担増や、新たな高齢者医療制度の創設を柱とする医療制度改革関連法は、14日午前の参院本会議で自民、公明の与党などの賛成多数で可決、成立した。患者負担引き上げに加え、長期入院患者の療養病床削減、生活習慣病予防など、高齢化で増え続ける医療費の抑制を強く打ち出した内容で、今年10月から順次実施される。

 10月には患者の負担増が始まる。70歳以上で一定所得以上の人の窓口負担は現在の2割から、働く世代と同じ3割に。療養病床に入院しているお年寄りの食費・居住費が全額自己負担になるほか、70歳未満の人も含め医療費の自己負担の月額上限が引き上げられる。

 75歳以上の全員が加入する高齢者医療制度は08年4月スタート。これに合わせて一般的な所得の70〜74歳の窓口負担が1割から2割に上がる。75歳以上は1割のままだが、全国平均で月6200円程度と見込まれる新保険制度の保険料を払わなければならなくなる。

 現在、全国に約38万床ある療養病床は12年度初めまでに15万床に削減。減らす23万床分は老人保健施設や有料老人ホーム、在宅療養などに移行させる。生活習慣病予防は中長期的な抑制策の軸で、40歳以上の全員を対象にした健康診断・保健指導を健康保険組合などの保険者に義務づける。

 地方に抑制の責任を担わせるのも特徴。都道府県ごとに平均入院日数の短縮など数値目標を盛り込んだ医療費適正化計画を作らせる。中小企業の会社員ら約3600万人が加入する政府管掌健康保険の運営は、国から公法人の「全国健康保険協会」に移管。都道府県の支部ごとに保険料率を決めるようになる。

 厚生労働省はこれらの施策で2025年の医療給付費を、現行のままの場合の56兆円から48兆円程度に抑えられるとしている。

 国会審議では、野党側が患者負担増について「高齢者の家計は大きな打撃を受ける。行き過ぎた受診抑制を招く」と批判。療養病床削減には与党からも、行き場のない高齢者が出かねないと心配する声があがった。

 このため参院厚生労働委員会での採決では、低所得者への配慮や、療養病床再編に対する支援策の充実などを盛り込んだ付帯決議がつけられたが、どこまで実効性があるかは未知数だ。』

 団塊の世代が死に絶えるまでこうやって医療費を抑制しないと健康保険制度が崩壊するということらしい.もちろん健康保険制度が崩壊する前に保険医療そのものが崩壊しないというのが前提だろう.だが,「次の世代のために、このつらさを耐えなければならない」と医療機関が耐えられるのはいつまでだろうか.今日という日が年金事業を破綻させた厚生労働省が医療制度も崩壊させる最悪のシナリオの記念日とならないことを祈るのみである.
『 -- リハビリ制限に不安 必要な治療受けられない --

 4月からの診療報酬改定で、公的医療保険で受けられるリハビリテーションに上限日数が新設されたことに伴い、医師や患者、家族の中には「必要なリハビリが受けられない」との不安が広がっている。日本リハビリテーション医学会などは、改定の見直しを求める要望書を今月中にまとめ、厚生労働省に申し入れる方針だ。

 従来のリハビリに上限日数はなかったが、4月以降は(1)脳卒中など脳血管疾患(上限180日)(2)骨や関節など運動器(同150日)(3)呼吸器(同90日)(4)循環器や心臓血管(同150日)-とされた。厚労省研究班の「長期にわたり、効果が明らかでないリハビリが行われている」との指摘を受けた措置だ。

 ただ、失語症や高次脳機能障害、難病などは除外する規定がある。当初は、長期にリハビリを続ける患者が多い脳血管疾患にも上限日数が決められたことについて医療現場が混乱。このため、厚労省は4月末、脳血管疾患が除外規定の一部に該当し「状態の改善が期待できると医師が判断した場合」にはリハビリ継続が認められるとの通知を出した。

 しかし「どこまで医師の判断が認められるのか」「県によっては、保険の審査支払機関の解釈に違いが出る可能もある」などの不安がなくなったわけではない。

 一方、関節の変形や骨粗しょう症など高齢者に多い運動器のリハビリは除外対象でない。上限日数の後は介護保険のリハビリで対応するというのが厚労省の考えだ。

 例えば、ひざの軟骨がすり減って痛む「変形性ひざ関節症」で、昨年から診療所で週1回のリハビリを受けている人は、診療報酬改定の4月1日から150日が経過した後、医療保険でのリハビリは認められない。介護保険でリハビリを続けようとしても、リハビリに対応した訪問サービスや通所施設は少ないことから、継続には不安が残ることになる。

 東京都台東区の「たいとう診療所」の今井稔也(いまい・としや)院長は「たとえ週1回、月1回でもリハビリをすることで、寝たきりにならずに日々の生活を維持できている患者がいる。一律に上限日数を決めるのではなく、せめて週何回、月何回までといった制限にとどめるように配慮してほしい」と話す。

 慶応大月が瀬リハビリセンターの木村彰男所長は「急性期のリハビリに重点を置く改定の方向は間違っていない」とする一方で「健康体操やレクリエーションが多い介護保険のリハビリで、ようやく回復した機能を維持できるのか。必要な患者はリハビリを続けられるようにするべきだ」と、改定を批判している。』

 他の科のことはわからないが,脳血管疾患等リハビリテーション料については高次機能障害や言語障害そして神経疾患の例外がみとめられており,脳梗塞についても神経障害による麻痺であるという解釈で算定上限日数を超えて算定できるようである.だが,現実的には入院日数のほうでリハビリテーションの患者さんたちが入院を続けるのは困難になるのではないかと思う.

 医療型療養病床の診療報酬の改定に伴い療養病床が減少していることと療養病棟入院基本料の見直しにより脳血管障害で麻痺があっても医療区分は1で入院基本料は低く抑えられているために療養病床にリハビリテーションだけの患者さんを入院させることは難しい状況になってきているからである.平均在院日数の問題があるからもとより急性期病棟でリハビリテーションを続けることなどできないのにである.

 そうなればリハビリテーションの患者さんたちは通院していただくしかなくなるわけだが,入院中なら毎日できたリハビリテーションも通院となると家族の協力などで恵まれた条件の患者さんしか通院できなくなるのではないだろうか.脳梗塞で一側の手足が麻痺して寝たきりや車イスが必要な患者さんにとって病院はかなり敷居が高い所となってしまうほうが私には心配である.

 こういったことを厚生労働省はちゃんと計算しているということなのだろうか.医療費削減とは結局こういうことなのだろうか.
『 -- 不眠は約3兆5000億円の損失 日本大教授が試算 --

 不眠の問題で生じている日本の経済損失は年間約3兆4700億円-。日本大学医学部の内山真(うちやま・まこと)教授(精神神経医学)が7日までに、こんな試算をした。睡眠に問題を抱える人は、勤務中の眠気で作業の効率が約4割ダウンし、交通事故に遭う割合も高いという。内山教授は「仕事のミスや事故を防ぐには、十分な睡眠時間と質の改善が必要だ」と話している。

 大阪の化学企業に勤める20-60代の男女5312人を対象にアンケート。このうち有効な回答があった3075人のデータや、国などの統計資料を基に試算した。

 それによると、男性で34・7%、女性で42・6%が寝付けなかったり、夜間や早朝に目が覚めるなど「睡眠に問題あり」とされた。問題がある人は欠勤・遅刻が多く、勤務中に眠くなり、眠気がある場合の作業の効率は約60%。

 内山教授は、これらのデータに労働人口や平均的な給与額などを加味して全国規模の損失額を算出。眠気による作業効率の低下、欠勤や遅刻などによる損失は約3兆2300億円で、交通事故に伴う損失も約2400億円とした。』

 このニュースを読んだ医師はそれなら勤務時間を守らせろとか当直を減らしてくれとか思ったに違いない.以前に電車の運転士や旅客機のパイロットの睡眠時無呼吸が問題になっていたが,医師の場合は必要な休息が十分に取れないというのが一番問題だろう.

 さすがに研修医の頃ほど睡眠不足になることはないが,それでも救急車が夜中から明け方に続けて来ると私でも翌朝は疲労感が残って頭はボーッとしている.予定手術なら前日の当直を避けることは可能だが,臨時手術ではそうもいかないし人手が足りないから臨時手術のあとに予定手術をやらなければならないこともある.そもそも医師が当直明けに代休をもらえる病院なんて聞いたこともない.

 看護師さんには夜勤明けには休みがあるが医師にはないのである.医師には労働基準法は関係ないとでもいうのだろうか.そもそも当直業務は勤務時間に入っていないようだし時給で計算して通常勤務と比べると報酬も低いのが現実である.しかし,医師からみれば,他に医師がいない病院に残される精神的な負担は大きいし労働量は少なくとも休息がきちんと取れないという点で肉体的な負担も大きく,はっきり言って割に合わない仕事である.

 病院経営側からみれば当直業務だけでは収益にならないから当直料を低く抑えて,それで救急車が来てくれれば収益性は上がり好都合だろうが,そのしわ寄せはすべて医師に来るわけである.そして,もし睡眠不足で疲れた体で手術となり普段ならしないようなミスをすればそれも医師の責任となるのだ.こんな状態でずっと働き続けられる医師はそうはいないだろう.

 残念ながら労働者を守るはずの厚生労働省も看護師の夜勤回数の制限はしても医師の当直回数の制限はしていない.安全な医療を国民に提供するようなことを言いながらすべては現場まかせにしているのが現状である.医師数が足りているというならなぜ勤務時間や当直回数を制限して医師の過労を防ごうとしないのだろうか.こういった問題を真剣に議論しないかぎり地域や診療科による医師の偏在という問題は解決することはないと私は思うのだがどうだろうか.
『 -- 産科医師を書類送検 奈良、出産の女性死亡 --

 奈良県大和高田市の市立病院で出産時の処置にミスがあり女性を死なせたとして、高田署が業務上過失致死の疑いで30代の男性医師を今年3月に書類送検していたことが6日、分かった。

 同署などによると、2004年10月、30代の女性が出産中、心拍数が上昇するなど容体が急変。医師は心拍数を安定させる投薬をした。子どもは無事に生まれたが、女性は多量に出血して死亡した。

 同署は、医師が容体悪化の原因を特定せず心拍数などを下げる投薬だけを行い、適切に処置する注意義務を怠った疑いがあると判断した。

 同病院の内海敏行(うつみ・としゆき)事務局長は「出血や死亡の原因が解明されておらず、ミスとは考えていない」と話している。

 同病院は、周辺市の病院で産科の休診が相次いで今年4月ごろから患者が急増。医師3人に対し5月は105件の分娩(ぶんべん)があるなど負担が大きくなったため、今月7日から、分娩予約を同市と周辺3市1町の住民に限定する異例の措置を始める。』

 もう産科では死亡すればミスを疑われ業務上過失致死で起訴されることが確実になったような気がするのは私だけだろうか.それにしても出産というのは大変なことだ.妊婦さんは命がけ,産科医は人生がかかっている.産科は生命の誕生の瞬間が感動的で学生時代はけっこういいなあと思っていたものだが,今になって産科医にならなくて良かったと思ってしまう.こうも訴えられるんではやっぱり恐くてやってられないだろう.と脳外科医の私が言うのも変な話かもしれないが.

 聞くところによると原因は羊水塞栓症という治療困難な合併症の発生らしい.こういった救命さえも困難である合併症の場合は担当医の過失はどのくらいあるのだろうか.また,過失の程度によらず刑事訴訟に加え民事訴訟にもなるらしいから担当医はもう診療を続けることはできなくなるのではないだろうか.産科をセンター化したところで妊婦死亡率をゼロにすることは不可能だろうから今後も同様の訴訟が相次ぐことになるのだろう.

 招待講演のため来日した米国の脳外科医が日本の脳外科医の報酬が他の科と同じであると聞いてそれでは脳外科医になるやつはいないだろうと真顔で言ったそうである.脳外科の診療報酬を米国並にとは言わないが,医療事故の場合に担当医だけが割を食うような現在の解決法は改善しないと脳外科のように報酬の割にリスクの高い科の医師はいずれまともな診療をしなくなるだろう.特に産科はまだ産科を目指してくれる医師が残っているうちになんとかしないと少子化対策どころではなくなると思うのだがどうだろうか.
 
『 -- 薬剤投与ミスで患者死亡 群馬県の伊勢崎市民病院  --

 群馬県伊勢崎市の伊勢崎市民病院で、脳腫瘍(しゅよう)の摘出手術のため腫瘍を固める薬剤の投与を受けた男性患者が、投与ミスによる脳梗塞(こうそく)で死亡していたことが3日、分かった。病院側はミスを認め、遺族に約6000万円を支払うという。

 病院によると、男性は昨年7月、頭痛を訴えて来院。直径6センチの髄膜腫による圧迫症状と分かり、摘出手術をすることになった。

 8月の手術の際、出血を防ぐため、脳外科医と指導医がカテーテルを使い薬剤を入れて腫瘍を固めようとしたが、薬剤が腫瘍以外の部分にも流出。男性は重度の脳梗塞状態になり、意識が戻らないまま9月に死亡した。

 病院側は、担当医らがミスを家族に説明して謝罪。8月に伊勢崎署に事故を届けたという。

 同病院の神坂幸次(かみさか・こうじ)副院長は「誠に申し訳なく深く陳謝申し上げる。事故防止に向け、職員一丸となって対応していきたい」としている。』

 このニュースは私が読んでもわからない点が多すぎるのだが一般の方はどのように理解するのだろうか.

 私の推測では『髄膜腫の腫瘍塞栓術を脳血管内手術の指導医と非専門医の脳外科医が行って,誤って脳の血管を塞栓してしまい脳梗塞となった患者さんが,それが原因で死亡した.』ということだろう.そして,おそらくこれは業務上過失致死ということになるのだろう.だが,これは推測にすぎない.そもそも事故原因の解析や死亡との因果関係さえも明らかにされていない.

 正確な医学用語での解説がされていないニュースに何の価値があるのだろうか.そして,「事故防止に向け、職員一丸となって対応していきたい」というコメントもニュースと同じくらい意味不明だ.高度に専門的な医療技術をマスターしている指導医がついていても事故を防止できなかったのに職員が一丸となってどう防止するというのだろうか.できるものなら具体的な方法を教えていただきたいものだ.
 病院近くの交差点で交通事故発生.8歳位の男の子が40歳位の女性の乗用車にはねられ右下腿に開放骨折を受傷.他に外傷なし.現場にかけつけると同時に救急車到着.加害者に状況を説明してもらい受傷機転と外傷の状態を確認し,整形外科で緊急手術に対応できる病院へ搬送してもらうことにした.

 頭部外傷はなく意識はしっかりしていた少年は,「おかあさんに言わないで.病院に入院させないで.」と興奮気味だった.私は,「救急車で病院に行くだけだから.お母さんはきっと怒らないから大丈夫だよ.」と励ましたつもりだったのだが,続きを聞くと「お母さんお金ないから入院なんかできないから.」と言うのです.

 こんな子供が自分の怪我よりも医療費を心配する世の中.なんか寂しい気持ちがしないでしょうか.そして,加害者の女性は子供を気づかうでもなく自分に非がないことばかり強調するのです.

 子供は大人を見て育つといいます.子供たちに学校で愛国心を教える前に大人たちにはやることがあるのではないでしょうか.
 研修医に最も不人気な診療科となった脳神経外科の医師に愛の手を!

『  -- 研修後の若手医師、大学病院敬遠 脳神経外科も不人気 --

 全国80の国公私立大と付属病院からなる全国医学部長病院長会議は19日、臨床研修を終えて大学に残る若手医師の割合が、4年前に比べて20ポイント減少したという調査結果を発表した。研修後の診療科別の志望をみると、形成外科や皮膚科が増え、脳神経外科や外科が減っていた。会議は、現行の臨床研修制度は地域医療を担う大学病院の弱体化を招くと指摘。近く、制度の改善策を緊急提言する。

 臨床研修(初期臨床研修)は04年に必修化され、必修化1期生が今春、医師としての進路を選ぶことになる。以前の臨床研修制度は、給与面や教育プログラムの規定がなかったため、大学病院側にとっては若手を自由に安く使える労働供給源としての面もあった。

 同会議は80大学を対象に初期臨床研修の修了者の動向を調べ、68大学が回答した。その結果、大学を卒業し、その大学で後期臨床研修を受けた若手医師の割合は、平均で51%。02年の72%に比べ21ポイント減った。地域別では四国44ポイントと北海道で43ポイント減少し、その幅は著しかった。

 専門家の間では「地方に住むのを嫌がって大都市部に流れているのでは」との指摘がある一方、「地方の別の医療機関に流れているだけ」との見方もある。調査を担当した岩手医大医学部長の小川彰教授は「医師を地域に供給してきた大学病院のシステムは崩壊している」とみている。

 一方、研修後の診療科目別の増減率をみると、最も減少率が大きかったのは脳神経外科で42%減、次いで外科(33%)、小児科(28%)と続いた。反対に、形成外科は41%増で、ほかに皮膚科(24%)、麻酔科(23%)の増加が目立った。調査を担当した小川教授は「仕事がきつく、しかも生命に直接かかわる診療科への希望が減っている」とみている。

 厚生労働省の担当者は「最近の研修医は専門医志向が強く、多くが臨床経験を望んでいる。本来なら専門技術が学べる大学病院に研修医が集まっていいはずだ。一部に魅力ある研修プログラムを用意するなど工夫している大学病院もあるが、多くは研修医のニーズに応え切れていない。臨床研修制度が医師不足の原因になっているとはいえない」と話している。』

 外科系は脳外科>外科>(小児科)>整形外科>産婦人科の順に不人気なんですね.予想はしてましたが最下位というのはちょっとショックですね.胸部外科は外科に含まれているんでしょうか.さらに北海道と四国が不人気なのはやはり地理的要因なんでしょうか,それとも大学病院の研修体制の問題なんでしょうか.いずれにしてもこれからは大学病院は経営的にもかなり厳しい状況になり弱体化はまぬがれないのではないでしょうか.

 臨床研修制度がもたらした結果がこれだとすると,なんのための臨床研修だったのかわかりませんね.まあ,他科で研修した知識を生かして形成外科医や皮膚科医に一次救急をやってもらい,脳外科医が必要な場合に転送してもらえるんなら文句はないんですが.

 それと,厚生労働省の担当者の話はあいかわらずピンボケで,その責任回避の発言には毎度のことながら失望させられますね.
『 県立大野病院事件に対する考え

 福島県立大野病院で平成16年12月に腹式帝王切開術を受けた女性が死亡したことに関し、手術を担当した医師が、平成18年3月10日、業務上過失致死、および医師法21条違反の罪で起訴された件について、日本産科婦人科学会、および日本産婦人科医会は、すでに「お知らせ」、「声明」を公表し、さらに「声明」を補足するために厚生労働省にて記者会見の場をもち、両会の考え方を示してまいりました。
 このたび両会は、本件の重要性に鑑み、ここにあらためて「県立大野病院事件に対する考え」を発表いたします。

 はじめに、本件の手術で亡くなられた方、およびご遺族の方々に対して謹んで哀悼の意を表します。

 このたび、産婦人科の医療行為について、個人が刑事責任を問われるに至ったことはきわめて残念であります。

 本件は、癒着胎盤という、術前診断がきわめて難しく、治療の難度が最も高く、対応がきわめて困難な事例であります。
 起訴状によれば、本件における手術中、児娩出後に用手的に胎盤の剥離を試みて胎盤が子宮に癒着していることを術者である被告人が認識した時に、「(被告人には)直ちに胎盤の剥離を中止して子宮摘出術等に移行し、胎盤を子宮から剥離することに伴う大量出血による同女の生命の危険を未然に回避すべき業務上の注意義務があるのに、(被告人は)これを怠り、直ちに胎盤の剥離を中止して子宮摘出術等に移行せず、同日午後2時50分ころまでの間、クーパーを用いて漫然と胎盤の癒着部分を剥離した過失により、」とあり、被告人が直ちに胎盤の剥離を中止して子宮摘出術等に移行しなかったことと、胎盤の癒着部分の剥離に用いた手段に過失がある、とされています。
 癒着胎盤の予見のきわめて困難である本件において、癒着胎盤であることの診断は、胎盤を剥離せしめる操作をある程度進めた時点で初めて可能となるものであります。したがって、結果的には癒着胎盤であった本例において、胎盤を剥離せしめる操作を中止して子宮摘出術を行うべきか、胎盤の剥離除去を完遂せしめた後に子宮摘出術の要否を判断するのが適切かについては、“個々の症例の状況”に応じた現場での判断をする外なく、それはひとえに当該医師の裁量に属する事項であります。
 また、本件のような帝王切開例における胎盤の癒着部を剥離せしめる手段としては、用手的に行うことだけが適切ということはなく、クーパーをはじめ器械を用いることにも相当の必然性があり、この手技の選択も当該医師の状況に応じた裁量に委ねられなければ、治療手段としての手術は成立し得ません。

 本件の転帰に関してはたいへん心を痛め、真摯に受け止めておりますが、外科的治療が施行された後に、結果の重大性のみに基づいて刑事責任が問われることになるのであれば、今後、外科系医療の場において必要な外科的治療を回避する動きを招来しかねないことを強く危惧するものであります。

平成18年5月17日
                   社団法人 日本産科婦人科学会
                        理事長  武谷 雄二

                   社団法人 日本産婦人科医会
                        会 長  坂元 正一
                                  』

 どこまでが医師の裁量かという議論は常にあってもいいと思う.しかし,手術室の中で予期し得なかった緊急事態になったときに当該医師の状況に応じた裁量に委ねられないというのであればその患者にはその医師の手術を受ける資格はない.そういう意味での『何かの時には先生にお任せします.』というのが医師と患者の信頼関係ではないだろうか.自分の望んだ結果でなければ訴えるというのが世の中の風潮であるかも知れないが,それを医療の世界に持ち込んでも患者の利益はないだろう.産科や小児科だけでなく僻地の医療が崩壊している本当の原因は患者側にあり,さらに現場の医師のことを考えられない行政にもあると私は思うのだがどうだろうか.
『 -- 改革の前提65兆円は過大? 厚労省より低い試算も --

 少子高齢化の進展で2025年度の国民医療費は65兆円と現在の約32兆円に比べ倍増、制度が維持できない-というのが、現在国会で審議している医療制度改革関連法案の前提だ。法案では高齢者を中心とした負担増などで59兆円に抑制する。だが、日本医師会は25年度で 49兆円にしかならないと試算、改革の前提に疑問を投げかけている。

 Q どうしてこんなに大きく違う。

 A 医療費の伸びをどうみるかが違っているからだ。厚生労働省は1995-99年度の平均で1人当たり医療費の伸びを一般2・1%、高齢者3・2%とし、これに人口変動を加味した。日医は診療報酬が初めて引き下げられた2002年度を除く01-05年度の平均で、一般1・4%、高齢者1・3%とした。

 Q 厚労省が基にした時期は古いね。

 A 2000年4月からは医療費の抑制にもつながる介護保険が導入され、03年4月からはサラリーマンの窓口負担が2割から3割に引き上げられた。厚労省は「大きな制度変更がなかったそれ以前のほうが、高齢化による伸びがよく表れている」としている。通常は直近5年間を基にするが、今回は参考にならないというわけだ。

 Q でも、日医は直近の時期を基にしている。

 A 2000年度からの医療費の伸びは、相次ぐ制度変更で大きく鈍化しているのは事実。制度変更を元に戻すわけではないので、日医は「むしろ直近の方が実態をよく反映している」としている。神奈川県の保険医でつくる同県保険医協会も直近の伸びを基に47兆8000億円と試算した。

 Q 厚労省の推計は過大なのだろうか。

 A それは分からない。ただ、厚労省が過去に25年度の国民医療費をどう推計していたかをみると、1994年には141兆円と見積もっていた。それが97年には104兆円、2000年81兆円、02年70兆円、今回は65兆円と次々に下方修正してきた。この間には介護保険導入をはじめさまざまな制度変更もあったが、わずか10年あまりで半分以下というのはね...。

 Q 国会でも疑問が出ている。

 A 野党は「厚労省推計はわざわざ伸びの高かった時期を基にして、危機感をあおっている」と批判している。日医などの試算だと、少なくとも高齢者を中心とした負担増などは必要なくなる。推計の仕方で改革の方向が変わるだけにきちんとした検証が必要だね。』

 わざわざ伸びの高かった時期を基にして、危機感をあおっているとしても何故そうするのか本当の理由がわからない.

『 -- 首相、「私は医師会の協力勢力」 パーティーであいさつ --

 小泉首相は16日、東京都内で開かれた日本医師会の唐沢祥人会長の就任披露パーティーで「私は医師会の抵抗勢力でなく、医師会の協力勢力であることをお忘れなく」とあいさつし、自民党と関係がぎくしゃくしていた日本医師会に秋波を送った。

 日本医師会は4月の会長選挙で「反小泉」路線の植松治雄・前会長に代わり、「政権与党との関係修復」を掲げる唐沢氏を新会長に選出した。

 首相は「高度成長時代と違って、皆さんの団体の言うことばかり聞くわけにもいかない」とクギを刺しつつも、「自民党に格別のご支援をお願いしたい」と語り、関係改善に意欲を見せた。』

 財政が破綻しつつある中で健康保険制度を維持するために医療費を縮小する必要があるのはわかるが,わざわざ過大に見積もる理由はなんなのだろうか.

 医師会も植松治雄・前会長時代はまるで無策で厚労省にやられっぱなしという感じだったが,唐沢祥人・新会長は適正な医療費と診療報酬を実現し,国民の健康を守る医療が荒廃することのないように頑張ってくれるのだろうか.

『 -- 医療制度改革法案、衆院委で可決 与党が採決強行 --

 自民、公明両党は17日の衆院厚生労働委員会で、高齢者の負担増を柱とする医療制度改革関連法案を強行採決し、賛成多数で可決した。野党側は「審議は道半ば」として採決に抵抗したが、与党側は審議打ち切りと採決を求める緊急動議を出し、採決に踏み切った。』

 今後の医療がどうなるかの見通しは明らかにならないまま,着々と医療費圧縮への施策だけは進んでいるようである.
『 -- ニコチンパッチ保険薬に 厚労省、今月中に --

 川崎二郎厚生労働相は12日の衆院厚生労働委員会で、禁煙時に体内のニコチン濃度が低下する際の禁断症状を抑える「ニコチンパッチ」を公的保険の対象とすることを明らかにした。近く医薬品の保険適用の可否を検討する中央社会保険医療協議会を開き、今月中に保険薬とする。

 禁煙治療については、4月から公的医療保険の対象となったが、パッチが保険適用外であることから、パッチを使うと違法な「混合診療」に該当。厚労省は4月 28日の医療機関向け通知で「使えば禁煙指導全体が(全額自己負担の)自由診療となる」と明確にしていた。保険適用を急いだのは、医療現場の混乱や日本禁煙学会からの批判を受けたためとみられる。

 禁煙指導は従来、保険のきかない自由診療として全額が患者の自己負担で行われてきた。しかし4月の診療報酬改定で、ニコチン依存症と診断された患者に対して日本循環器学会などが作成した標準手順書に基づく治療をした場合の保険適用が認められた。

 学会の手順書がパッチ使用を前提としているため、パッチ自体は保険適用外でも、その分を患者が負担すれば、検査や問診には保険を適用できると判断して禁煙治療した医療機関が相次いだ。ところが、パッチ分だけの自己負担は認められず、地域の医師会が注意を促すなど、医療現場に混乱が起きていた。

 日本禁煙学会は「治療が手順書を前提としながら、パッチを使えば、保険の適用外となるのは自己矛盾だ」として、4月にさかのぼってパッチを保険適用することを求める要望書を厚労省に提出していた。』

 いまさら何だという感じで,相変わらずいいかげんな保険適用である.いまさら認可するのならもっと効果のありそうなこっちのほうがいいかも.

『 -- 米ファイザーの禁煙薬認可 脳で作用、禁断症状を緩和 --

 米食品医薬品局(FDA)は11日、米医薬品大手ファイザーが申請していた禁煙薬「チャンピックス」の販売を承認したと発表した。AP通信によると、禁煙ガムやパッチとは異なる内服用の禁煙薬としては、1997年承認の「ザイバン」(英グラクソ・スミスクライン)以来となる。

 ニコチンの代替成分が、脳内でニコチンの影響を受ける部位に作用して禁断症状を和らげるとともに、たばこを吸った場合にニコチンの作用をブロックする働きもある。FDAは国民の健康への利益が大きいと判断、優先審査の対象にした。

 喫煙者に12週間服用してもらう臨床試験の結果、5人に1人が一年後も禁煙を続けられていたという。

 米国の喫煙人口は成人の5人に1人、4500万人近くに上るといわれ、うち約3200万人は禁煙を望んでいるという。』

 それにしても5人に1人だっていうんだからやっぱり煙草を1箱1000円にしたほうが節煙効果は高いと思うのだがどうだろうか.

 ついでに言うと,いまだに受動喫煙をさせてくれる人が世の中にはいるのだが,こういう人たちをうまく撃退する機械をだれか開発してくれないだろうか.
『 -- 若手医師、脳外科離れ 激務・訴訟リスクを恐れ? --

 今春、2年間の臨床研修後に脳神経外科を専門分野として選んだ若手医師が、数年前に比べ2割程度減ったことが、日本脳神経外科学会の調査で明らかになった。同学会理事会に11日報告された。理事らは「産婦人科医や小児科医などと同様、仕事のきつさや訴訟リスクが敬遠されたのではないか」とみている。

 担当した寺本明・日本医大教授らによると、調査は全国の大学の脳外科や学会訓練施設に指定されている約390施設が対象。04年に必修化された臨床研修の1期生が2年の前期研修を終えたのを機に、今春、脳外科を選んだ医師の数を調べたところ170人だった。99〜02年の同学会の新入会員数は203〜229人で、2割前後少ない。

 全国80大学のうち23大学では、新たに脳外科を選んだ医師が一人もいなかった。都道府県別でみても9県でゼロで、地方から影響が出る恐れが指摘されている。

 志望者減の理由は調べていないが、トラブルによる訴訟や昼夜を問わないなど厳しい勤務条件が原因で減っているとされる産婦人科医や小児科医と同じ構図とみる。また「臨床研修のカリキュラムが、脳外科に魅力を感じさせるものになっていないのではないか」との見方も出ている。

 若手医師の進路に関して最近のまとまった調査はないが、日本産科婦人科学会によると、大学病院などの常勤産婦人科医は03〜05年で8%減り、お産の扱いをやめた病院も相次いでいる。

 小児科も志望者減が著しい。日本小児科学会の調査によると、今春、研修後に小児科を志望したのは276人。03年度に比べ4割以上減った。

 厚生労働省調査によると、04年の医師総数は00年に比べ5.7%増えたが、小児科医、脳神経外科医の伸びはこれを下回り、産婦人科医は4%減っている。』

 脳外科専門医は多すぎるという意見をだいぶん前に聞いたことがある.ちょうど専門医になる頃で,専門医試験が非常に難しいのは専門医を増やさないためなんだと思っていた.それから10年以上経ってみると専門医というのは単に脳外科医ですよと自己紹介するための名刺みたいなもので,だから何だと言われると今でも答えに困ってしまうようなものである.高度に専門的な知識を持っていることに違いはないが,医学博士号と同程度であると言ったらまずいだろうか.

 研修医制度がはじまったころには新入医局員が2年間は来なくなることばかりが話題になっていたが,私はむしろ臨床研修終了後に脳外科医をめざすものが半減すると心配していたから2割減ならまだいいほうだったような気がする.それよりも小児科や産婦人科がこんなひどい状況になることは当時予想していなかったことである.もっとも,脳外科医である私が小児科医にならなくてよかったと思うくらいだから研修医たちがそう感じても不思議はないのかもしれない.

 脳外科医はこれから若手が相対的に少なくなり高齢化していくことになるのだろうか.いまのところ救急対応で深刻な事態になるとは思えないが,いずれ産婦人科のように頭部外傷や脳出血などの対応に問題が出る可能性はあるだろう.ところで,脳神経外科学会は今後積極的に脳外科医を増やすつもりなのだろうか.それとも少数精鋭でやっていくつもりなのだろうか.各種ガイドラインに従って自ら手術適応をせばめて手術の数を減らしたり,脳梗塞を神経内科医や循環器内科医にみてもらえばそれほど脳外科医はいらないという考え方もあるだろう.

 脳外科医を目指す医師が減少した理由が仕事のきつさや訴訟リスクというのはたしかにあるだろうが,本当の理由はもっと他にあるのではないだろうか.胸部外科や一般外科だって仕事はきついし訴訟のリスクもそれほど変わるとは思えないからだ.私が脳外科医になりたての頃に感じたのは,脳神経というのは未だに未知の部分が多く論理的に明快でなく理解しにくい,手術時間が長いだけでなく顕微鏡を使う手術の技術の習得に時間がかかり術者になれる人が限られている,そして,その割には診療報酬や社会的な評価が相対的に低い,ということである.

 一言でいえばやりがいがないということになるのではないだろうか.そのせいか,脳外科医には自己完結型の人が多いような気がする.悪く言えばひとりよがりな人間であるが,あえて未知の領域や困難な状況を自分の力で克服することに喜びを見いだせる人にとっては魅力的な診療科だろう.もっともそんな物好きな人間がそれほどいるわけはない.臨床研修制度のおかげで研修医は進路の決定のための比較がしやすくなったのだろうが,せっかく医師になったのだから,勇気を持って脳神経外科を選択してもらいたいものだ.
『 -- 副作用情報、医師から直接 薬害防止へ厚労省収集 新薬で市販後半年間 安全対策迅速化狙う --

 厚生労働省は2日までに、副作用が起きる危険性が高い新薬について、健康被害の発生や製造販売業者による薬害防止対策の実施状況を、市販から半年にわたって医師から直接、情報収集する取り組みを始めた。

 従来、副作用の発生など市販後の調査は、薬の製造販売業者が医師らから情報を集め、厚労省に報告することになっている。国が主体となった定点観測が加わることで、薬の緊急使用中止や添付文書改訂などの安全対策を迅速に実施できる。また、業者の市販後調査が妥当かどうかもチェックしやすくなるという。

 新制度の対象は、新たに承認された薬のうち(1)似た化学構造や作用を持つものがない(2)全症例での使用成績調査が承認条件とされた(3)国内の臨床試験(治験)が50症例未満と少なく、主に海外の治験データで承認されたか、欧米主要国で未発売-のいずれかに該当する医薬品。

 専門家の意見を参考に年間5品目程度を選び、相当量の使用が見込める担当医を大学病院や診療所から薬ごとに5?6人選ぶ。

 担当医は、副作用の発生のほか、副作用を防ぐための肝機能や心電図の検査などの注意事項を業者が病院に情報提供しているかどうかや、こうした対策を病院側が守っているかどうかについて、月に1回以上、厚労省に報告する。

 医薬品による副作用は、赤ちゃんに薬害を起こしたサリドマイドや、スモンの原因となった整腸剤キノホルム、多くの死者が出ている肺がん治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)など後を絶たない。』

 厚生労働省は安全対策に前向きなように見えるが,果たしてそうなのだろうか.ここで注目すべき点は対象が新薬で市販後半年に限るということである.こんな短期間で副作用のデータが出てくる新薬などまずあり得ない.もし,あったとしたら市販前に治験をやる意味などないだろう.だから聞こえはいいが実効性は疑わしい.

 それなのに.副作用の例としてサリドマイドや、キノホルム、イレッサを挙げているのがマスコミの副作用に対する認識の低さを表しているようで情けない.マスコミが批判的な目で国民の安全を考えるのではなく,厚生労働省のPRをするのだったらどこかの公共放送と同じだろう.最近のニュースには,まるで素人のブログと同じかそれ以下の内容の報道が多いような気がするのは私だけだろうか.

 私は安全性や効果について納得できなければ新薬は使わない主義なので1年ぐらいは様子をみることが多い.昔は製薬会社に接待されると使わないと悪いような気がしたこともあったが,最近は接待されても平気で放置しておくことが多くなった.新薬を自分の患者さんで試してみるよりは,問題が少なくて効果がありそうなことがわかってから使うほうがいいと思っている.

 しかし,最近のジェネリック医薬品については私があまり使いたくなくとも患者さんが希望すれば処方を断れなくなってきている.理由はお金がかからないからなのだが,なにせ今まで使ったことがないものが多いので,副作用がどうなのかはわからない.厚生労働省が医療費削減のために処方を奨励しているようだし,マスコミも安いと宣伝するしで,外来でジェネリックを希望される患者さんが増えてきている.世の流れと言えばそれまでだが,それでいいのだろうか.

 以前も脳賦活剤と言われ効果がなかったり,副作用のため消滅していった薬品群を経験している私としては,一品目づつ医薬品としての効果や副作用が検証されていないジェネリック医薬品を信用する気になれないのだ.もし,製造工程で不純物でも混じっていたらどうなるのか.効果や副作用が正規品と比べて本当に差がないのか.

 結局,ジェネリック医薬品は患者が選んで使用するのだから患者と製造業者が責任を持てばいいということなのだろうか.メーカー品と同等ということが前提なので厚生労働省は問題があれば製造者の責任にするだけだろう.処方する医師としては効果や副作用についてなにも情報がないのだから「ジェネリック医薬品についてはすべて免責」ということなら喜んで使わせていただきたいのだがどうだろうか.
『 -- 手術で感染し死亡と提訴 --

 愛媛県八幡浜市の市立八幡浜総合病院で手術を受けた男性=当時(55)=が感染症を併発して死亡したのは、医師らが感染予防や術後の適切な処置を怠ったためなどとして、遺族が市に対し約6000万円の損害賠償を求める訴訟を松山地裁に起こした。

 訴状によると、男性は2005年4月、同病院でぼうこうがんと診断され摘出手術を受けた。術後翌日から、高熱や切開部の化膿(かのう)などの症状が出始め、約2週間後、感染症の壊死(えし)性筋膜炎を併発し死亡した。

 遺族は「手術中の消毒や術後管理などが不十分で開口部から細菌に感染したとみられ、診断と治療も遅れた」と主張している。

 病院側は「医療ミスがあったとは考えていない。裁判で主張を明らかにしたい」としている。』

 亡くなった患者さんには大変お気の毒な話であるが,手術前に合併症として感染のリスクがあるということを聞いていなかったのであろうか.こういう話は以前にもあったが,術後の感染症に限らず治療の合併症で命を落とすことが理解できないような家族がいる患者さんには今後はリスクの高い医療は提供されなくなるだろう.医療者側にとっても患者側にとっても安全性の高い治療が選択され,結果的にがん患者さんの生存期間が短かくなったとしてもそれは仕方がないことだろう.

 患者さんが手術の合併症で死亡して,その金銭的賠償を求めるのは最近では珍しいことではない.お金が目当てなのかもしれないし,担当医や病院に復讐したいのかもしれない.主張をするのはよいが,これを医療ミスだというのならきちんと科学的に因果関係を証明して欲しいと思うのは私だけではないだろう.もちろん,手術の適応があったかどうかを含めて病院や医師の判断が妥当であったかも多くの医師の意見を聞いて検証されるべきである.

 などと理想を述べてはみたが,科学的に証明することは実際にはかなり難しく時間もお金もかかることだろう.おまけに裁判で病院や医師が勝っても何も得るものはない,そもそも患者本人が死亡しているのに遺族と争う事になんの意味があるのだろうか.手術ごとに損害賠償保険を任意でかけて,その分を治療費に上乗せするのでなければそもそも感染症や出血のリスクが高いがん患者の手術はお断りしたいというのが病院側の本音ではないだろうか.だから病院側にとってハイリスクでローリターンな外科が産婦人科と同じ運命をたどる可能性もある.

 外科系診療科が生き残るためにはどうしたらよいのだろうか.今後,こういった訴訟が流行することにより術後合併症による死亡率はおそらく低下すると思われる.そして少なくとも医療訴訟に対抗する医療者側の意識や技術は確実に進歩することだろう.しかし,これを医学の進歩と素直に言える医師はどこにいるのだろうか.
『 -- 手術中に出血、男性死亡 青森署に異状死届け出 --

 青森県立中央病院(青森市)で食道がんの胸腔(きょうくう)鏡手術を受けた男性患者(72)が、手術中に大量出血して出血性ショックで死亡し、病院は25日までに、医師法に基づき異状死として青森署に届けた。

 青森署で司法解剖して死因の特定を進めるとともに、関係者から事情を聴く。

 原田征行(はらた・せいこう)院長らによると、手術は24日午前9時45分に開始。患者の胸に穴を開け胸腔鏡でがん組織を取り除こうとした際、徐々に出血量が増え始めた。開胸手術に切り替えたが出血は止まらずに血圧が低下、同日午後1時50分に死亡した。

 出血部位は最後まで特定できず、輸血分を含め約10リットルの出血があった。動脈の損傷は考えにくいという。

 患者の死亡が避けられなかったか不明だったため同病院は医療事故対策委員会を招集、届け出を決めた。

 難易度が高い手術だったが、30年以上の経験を積んだ医師が執刀に加わり、胸腔鏡手術も多数手掛けているという。』

 先日の福島県の産婦人科医逮捕の際に問題となった異状死届け出である.青森県立中央病院の医療事故対策委員会は担当医の逮捕を避けるために届け出が必要と判断したのだろう.手術中の死亡というのはもちろんそんなにあるものではないが,今のままではこのように警察に届け出る以外に方法はないのだろう.

 患者さんのためにより低侵襲な手術となるはずの内視鏡手術であるが,このようなケースの場合は,結局は開胸手術にならざるを得ないわけで,それでも死亡するということになれば手術適応が狭まることは間違いないだろう.つまり本来はリスクの高い症例にこそ必要な内視鏡手術が万が一のことを考えればできないということになるのではないだろうか.

 脳神経外科領域でも脳動脈瘤の血管内手術で以前に血管内手術の専門医が術中破裂を起して患者が死亡し業務上過失致死で訴えられた事件があった.これからは同様に警察に届けなければならないのだろうから,未破裂動脈瘤の血管内治療はかなりやりにくくなるだろう.というか術中破裂は開頭手術でも起こることだが死亡する確率は血管内手術の方がかなり高そうだから血管内手術専門医が開頭手術をすすめるケースが今後は増加するのだろう.

 結局,低侵襲を売りにする内視鏡手術や血管内手術が警察の介入という心理的な負担のためにやりにくくなることは確実で,大昔のように『助かる確率は低いかもしれないがやってみる価値がある手術』などというのはたとえ家族の了承があってももうできないということである.これからは『間違っても死なない手術』というものだけが残っていくことになるのだろう.

 リスクの高い手術をして癌患者の延命のために自分の医師生命を賭ける医師がたとえいたとしても,むしろそういう医師ほど警察のお世話になりやすくなるわけだから長続きはしないだろう.外科医としてはなんともつまらない事態になってしまったが,これで手術が減れば医療費は節約されるのだから厚生労働省は医師法改正なんかする気はないのだろう.
 小児科の個人病院から依頼書を持って10ヶ月の子供が受診してきた.

 『床に座っていて後方に転倒し,後頭部を打撲しました.後頭部に腫脹をみとめています.貴科的精査をご依頼申し上げます.』と書いてあった.2時間ほど前にひとり座りをしてバランスをくずし後方に倒れて頭をぶつけたらしい.

 20代後半らしい外見の母親が言うには.
『きのうまではあたまにこんなでっぱりはなかったんです.』

 診察させていただくと,頭皮に発赤や腫脹はなし.母親の言う『あたまのでっぱり』とは外後頭隆起のこと.たしかに少し右寄りにあるが別に異常というほどではない.赤ちゃんは機嫌が良かったが,私と母親が頭をごりごり触るものだから泣き出してしまった.ごめんね赤ちゃん.でも,こんなのでX線検査されるよりはいいんだよ.X線検査で脳腫瘍になるリスクだってあるんだから.

 最近,母親になっている人は頭にたんこぶをつくったこともないんだろうかと思う.おでこに直径1cmくらいのたんこぶをつくった小学生を1日経ってから病院につれてきた母親もいた.こどもが頭を痛がるので連れてきたそうな.今まで1回も頭のCTを撮ったことがないというから,先天異常がないかどうかのチェックの意味も含めて検査しておきましょうか.

 私が子供の頃は遊んでいて木に激突して頭に怪我しても血が止まれば病院などへは行きませんでしたけどね.医療が進歩していつでも病院にかかれるからいいんでしょうか.先に書いた小児科の先生もたんこぶつくったことがない世代だったんでしょうか.それとも,母親の言う通り脳外科に依頼しておかないと後でなにかあったら訴えられるからなのでしょうか.

 医療費削減の時代ですから病院の収益になるご依頼患者様は病院理念に従って大切にお取り扱いさせていただくつもりではございますが,本音で感想を言っていいのであれば,『つまらないことで病院にかかるな』と言ったほうがいいのでしょうか,それとも『厚生労働省でもないのに保険料を無駄使いするな』と言ったほうがいいのでしょうか.

 まあ,別にどうでもいいことなんですが,医療の質は患者の質にも影響されると感じている医師はきっと私だけではないでしょう.
『 -- 脳腫瘍見落としと発表 横浜市、主治医ら処分検討 --

 横浜市は10日、同市立脳血管医療センターで2004年5月、50代の男性の脳腫瘍(しゅよう)を見落とすミスがあり、男性は約3カ月後に死亡したと発表した。市は主治医らの処分を検討している。

 同センターによると、男性は04年5月11日、倒れて入院。脳にうみがたまる脳膿瘍(のうよう)と診断されたが、同年6月3日、脳腫瘍と判明。2日後に腫瘍から出血し緊急手術を受け、7月に転院した病院でがんも見つかり、8月に死亡した。

 遺族の要請で昨年末、磁気共鳴画像装置(MRI)の画像などを再調査した結果、センターは「遅くとも5月17日の時点で脳腫瘍を疑うべきだった」と結論づけた。

 横浜市はまた、03年8月に同センターでくも膜下出血の手術を受けて死亡し、遺族が医療ミスを指摘している米国籍の男性=当時(54)=について「治療に問題はなかった」とする調査結果を10日、発表した。』

 脳膿瘍と鑑別診断が難しい脳腫瘍はそれほど珍しいものではない.転移性脳腫瘍では消化器のがんである腺腫といわれるものが画像で脳膿瘍との鑑別が難しいことは脳外科専門医なら誰でも知っていることである.だから1.脳膿瘍,2.転移性脳腫瘍,3.原発性悪性脳腫瘍くらいの診断で抗生物質を投与して経過観察中に腫瘍内出血をきたしたのではないだろうか.

 転移性脳腫瘍ということであれば末期がんということで,たとえ予想される診断の1.と2.の順位が変わったところで生命予後はほとんど変わらなかったことだろう.腫瘍内出血して急変でもしない限りがんの原発巣を検索して治療可能性を検討する方が先であり,余命3ヶ月であれば脳腫瘍摘出術をして残り少ない人生を無駄に入院させる必要はないと考えるのが普通ではないだろうか.

 結果が家族にとって満足できないものだったので市が調査し,主治医らの責任にして決着させるつもりなのかもしれないが,そんなことをしていたら横浜市の病院にはまともな医師はいなくなるに違いない.診断というものは考えられる可能性を検証していく過程でもっとも確率の高い病名であって,検査などで新しい情報が加われば変わる可能性があるのだが,一般人にはそれがわからないということなのだろう.

 脳腫瘍について言えば確定診断はMRI画像ではなく病理組織でつけるものである.このケースのように末期がんで死亡したにもかかわらず,MRI画像を検討して主治医の診断を非難するのが横浜市のやり方というのなら,今後は横浜市では防衛医療が横行することになるのだろう.市立病院を自らの手でダメにしているようにしか見えないが,そんなことをしなくても全国的に市立病院は医師引き上げ対象なのにいったい何をやっているのだろうか.

< 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 >

 

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索