先日,近郊の町立病院の整形外科医から電話で患者さんの依頼があった.

 5日前に転倒して頭部を打撲したが,3日前の昼頃に突然頭が痛くなってきたので町立病院を受診した.頭部CTを撮ったら右のシルビウス裂の上の方に小さな白いものが写っていて右のシルビウス裂の見えが悪いと言う.担当の整形外科医は頭部打撲による脳挫傷と脳浮腫を疑っているようだった.

 しかし,この話から私は脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血を疑ったので,搬送のことをたずねたら,患者さんが自分で車を運転して来院するようなことを言うので危険だから救急車で搬送するように伝えた.

 搬入後に持参した町立病院のCTでやはりクモ膜下出血だった.頭部MRAで前交通動脈瘤をみとめた.発症後時間が経っているので脳血管攣縮の危険もあったが,正月の休日体制下で再破裂されると困るので緊急手術した,経過は良好である.

 脳神経外科専門医なら初診時の頭部CTでほぼ間違いなくクモ膜下出血の診断をつけるだろうが,研修医にはわからないだろうし,他科の医師でも頭部CTを見慣れていないと動脈瘤破裂には思いいたらなくとも不思議ではない.もっともCTがなくとも頭痛の発症時のことを患者さんによく聞けば鑑別診断でまず第一に考えるべきものである.

クモ膜下出血の頭痛の特徴は0から100になる頭痛だということだ.突然に頭をなぐられたかのように痛くなるらしい.私の経験でも電話で息子を怒鳴った瞬間にとか,パチンコで777が出た瞬間にとか,妻と久しぶりにの最中に突然激しい頭痛がしてという例がある.重症な場合はそのまま意識を失ったり呼吸が停止する.

歩いて外来に来ることをWalking SAHなどというが,出血が少なくて頭痛だけが唯一の症状の場合の診断が一番難しいのである.突然の激しい頭痛という発症の特徴だけが唯一の手がかりというわけである.

なぜ,突然にこんな事を書いたのかというと,いつもお正月休みにはクモ膜下出血の患者さんがやって来て緊急手術になるので,今日書いておけばゆっくり休めるような気がしたからである.

今年も半分愚痴のような拙文を読んでいただいた皆さまには大変感謝しております.くれぐれも飲み過ぎ,食べ過ぎ,騒ぎ過ぎに注意してどうぞよいお年をお迎えください.
『厚生労働省は05年の介護保険制度改正で、特別養護老人ホームなどに所属するケアマネジャーらが入所者の要介護度の認定調査をすることを禁じたり、事業者が認定申請を代行するのを制限したりするなど調査を厳格化する方針を決めた。事業者による甘い調査で要介護度が上がり、必要度が低い人にまで介護サービスを提供する「過剰な掘り起こし」が給付費の急増の一因と判断した。06年4月から実施する予定。
 認定調査は、介護サービスを最初に利用するときに研修を受けたケアマネジャーらが、申請した高齢者と面接して介護の必要度を調べる。継続して利用する場合も原則1年(最長2年)ごとに調査を受ける必要がある。調査をもとに、市町村の介護認定審査会で要介護度を認定する。 ケアプランを作る居宅介護支援事業者や特養などの介護保険施設は、市町村の委託を受けて認定調査をしているほか、高齢者に代わって認定を申請することができる。
 厚労省は改正で、新たに認定を申請する場合の認定調査は原則市町村が行うようにする。委託する場合も介護予防や相談事業の拠点となる地域包括支援センターなどに限り、民間事業者所属のケアマネジャーは行えないようにする。継続利用の場合でも、施設のケアマネジャーが入所している高齢者の調査をすることは認めない。また、新規に認定を申請する場合は事業者が代行することは認めず、地域包括支援センターや民生委員に限る。事業者は継続利用のための申請代行はできるが、本人が承諾していないのに申請を代行するなど悪質なケースはペナルティーを科す方針だ。 厚労省は、入所施設のケアマネジャーが認定調査した場合は、それ以外と比べて要介護度が高くなる傾向があるとしている。認定申請では居宅介護支援事業者などの代行が79%を占めている。 』

どんな理由をつけてもいいが,結果的に介護認定の件数が減ればいいわけだ.こうなることはある程度予想されていたことで別に驚くにはあたらないが, 制度をつくっている厚労省にもっともそうな理由を述べられるのにはいつもながら嫌気がさしてくる.

介護保険サービスの主体はすでに民間業者である。民間業者であれば利益を追求するのはあたりまえだ。もともと民間人である経営者には医師のような医療倫理を期待するのは無理だろう。だからきちんとしたルールが必要だろう。介護認定はケアマネージャが主体だが介護サービス業者に雇用されているケアマネージャが業者に有利な判定をしてもそれを責めることはできないだろう。

そもそもは医師が勧めてもいないのに安易に介護保険をすすめる自治体の窓口が問題だろうが、これについては介護保険制度の主体が自治体に今後変わることによって財政難の自治体では抑制が起こるだろう。

医師も介護保険申請の意見書を書いている。私も当然書いているが患者の状態を書くだけで、患者さんの希望や受けられるサービスのことを考えれば、わざわざ申請に障害になるようなことはするわけがない。だから申請すればほとんど全例サービスが受けられるようになるわけだ。これのどこがいけないのだろうか?

結局、医療機関から患者さんを引き離したもののそのケアにかかる費用は以前にも増して増大し、歯止めが利かないことがこんなことをはじめる理由なのだろう。本来大多数の適正な医療倫理を持った医師のいる医療機関の患者を民間業者のサービスの手に渡したのは誰だったのか、保健医療を民間業者に渡そうとしている小泉首相はわかるだろうか。
『--延命効果確認できず 肺がん治療薬イレッサ--
 肺がん治療薬イレッサ(一般名ゲフィチニブ)の比較臨床試験を日本を含まない28カ国で実施したところ、イレッサを服用した患者と偽薬をのんだ患者とで生存期間にはっきりした差はなかったとする解析結果を、輸入販売元のアストラゼネカ(大阪市)が23日までにまとめた。
 がんの縮小についてはイレッサ服用患者で改善がみられたという。最終的な結果は来年上半期に発表する。
 試験はロンドンのアストラゼネカが2003年7月から今年8月にかけ、210施設で実施。化学療法が効かない非小細胞肺がん患者を対象に、約1130人にイレッサ、約560人に偽薬を投与し、生存期間を比べた。イレッサ服用者は5.6カ月、偽薬では5.1カ月で、統計的に延命効果はみられなかった。
 ただ、マレーシア、タイなどの東洋人約370人の成績は、イレッサ服用者9.5カ月、偽薬5.5カ月と生存期間の改善が示唆された。喫煙歴のない患者でも延命効果が示唆されたという。同社は、厚生労働省に結果を報告し、医療機関への情報提供を始めた。』

http://www.astrazeneca.co.jp/activity/press/04_12_20.html

副作用の間質性肺炎でマスコミの格好のねたとなった期待の新薬であるが,こうなるとその終焉は近いと思われる.日本人での延命効果の解析はまだこれからであるが,延命が6ヶ月を超えることはないのだろう.

まあ,こういう薬は他にもあるのだろうが延命効果がどの程度なら健康保険の適用にするべきかという論議も今後出てくるのだろう.さて延命効果が6ヶ月の薬が保険適用外だったとして,いったいいくらだったら使ってもらおうと思うか考えてみようかと思ったのだが,よく考えるとその6ヶ月をどう使うのかということで値段も変わることに気がついた.

明日の朝にはサンタさんからのプレゼントをもらって喜ぶ子供たちの姿が全国的にみられる一方で,家族に看取られることもなくあの世へと旅立っていく患者さんたちも大勢いるのが現実の世の中なのである.明日はわが身と思わない人が多いだろうが,人間は実に簡単に死んでしまうし,自分がいつ死ぬかは幸いにも直前まで誰にも知らされていない.

6ヶ月.さて6ヶ月前は何をしていただろうか,今後の6ヶ月で何をするのだろうか.6ヶ月の延命が得られた人間としての視点から考えようとしてもそれすらできないということに気がついて今夜の私には延命治療の意味を考えることができなくなった.
『--不妊治療に保険適用を 治療医ら51人が請願、採択 --
 体外受精や人工授精などの不妊治療に保険適用を、と全国の不妊治療医らが訴えている。「不妊の頻度は高く、体外受精で生まれた子供は全出生児の1%を占めている。保険を適用しないのは、他の病気と比べ不公平」という理由だ。全国の不妊治療医院など122施設が集めた約1万4000人の署名を添付し、治療医51人が、衆院に請願書を提出、21日までに採択され、内閣に送られた。請願を呼び掛けたセント・ルカ産婦人科(大分市)の宇津宮隆史(うつのみや・たかふみ)院長によると、1回の体外受精費は、少なくとも30万-50万円。1回で成功するとは限らないため、借金をする夫婦や離婚の原因になるケースもあるという。
 4月に始まった国の不妊治療費助成は、年10万円を上限に2年間の支給で、不妊夫婦にとっては足りない、とした。宇津宮院長は「結婚年齢の上昇や生活環境の悪化などが男女ともに影響し、不妊は今後も増える。少子問題の解決のためにも保険適用を」としている。』

「我田引水」ー不妊治療医にしてみれば健康保険が適用されればもっと治療の機会が増えるだろうから経済的にもっともな主張であろうと納得.だが,不妊治療が子供が欲しい夫婦の欲求を満たし,離婚を防いだり少子化問題を解決するなんていう理由は納得できない.結婚年齢の上昇による不妊は自然の摂理というもので病気ではない.

少子化問題は教育により国民1人あたりの生産性を上げれば解決できるだろう.不妊治療よりもこの世に生を受けながら事件や事故や親による虐待で命を失う子供たちに対する保護のほうが先だろう.少ない子供を社会のためになるようだいじに育てることのほうが大切で,団塊の世代の老化が問題になっている時代に人口を増やせば解決できる事はないだろう.

不妊治療をする一方で,家を継いでくれる男児を希望して受精卵の選択をする不妊夫婦までいるのが今の日本である.このような人たちにまで健康保険を適用する必要があるのだろうか.成功するかしないかもわからない不妊治療であるなら成功して出産した場合にのみ不妊治療の分まで補助するのが妥当だろう.

婚姻の定義は知らないが子供がいないと夫婦関係が成り立たないというならできちゃった結婚がいちばん理にかなっている.いっそのこと子供がいないと婚姻を認めないように法改正でもすれば子供ができなくていじめられる嫁も少なくなっていいだろう.(それでも男児でないといじめられるのかもしれないが..)

自分も含めて言うが,とかく医者は目の前の疾患にとらわれるあまり社会的視点を失うことが多い.そういう意味では良くも悪くも科学者であるのだろうが,本当は視野をもっと広く持つ必要があるのだろう.医療を病院の利益で考えるようではすでに医師ではないだろう.
『--抗生物質、服用後に6人が意識失う 厚労省が注意呼びかけ--
 咽頭(いんとう)炎や急性気管支炎などの感染症に処方される抗生物質「テリスロマイシン」(商品名ケテック錠)を飲んだ数時間後、一時的に意識を失う患者が昨年12月から半年で6人にのぼることが21日、厚生労働省のまとめでわかった。全員回復したが、車の運転中で事故が起きたケースもあり、同省は医療機関に処方の際の注意を呼びかける安全性情報を出した。 この錠剤は昨年10月に承認された。同12月に販売を始め、今年5月までの半年で投与患者は230万人にのぼる。
 意識を失ったのは50歳〜80歳代の男女6人。70歳代男性は急性咽喉(いんこう)頭炎で1日1回2錠を処方された。最初の服用から4時間後に気を失って転倒。その日のうちに回復したが、翌日も服用4時間後に倒れて搬送された。50歳代男性は服用数時間後、車の運転中に意識をなくして対向車とぶつかり、軽傷を負ったという。 厚労省は、服用後に車の運転をしないなど、処方の際に注意するよう呼びかけている。』

先週,三共のMRがやってきてケテックもよろしくと言って帰ったばかりだったが,こういう安全情報がニュースになるともう外来では使えない.外来患者の多くは車で来ているし,高齢者も転倒の危険があるのではやはり使いにくい.

もっとも230万人で6人しか起きない副作用をどう考えるのかという問題もある.だが,この情報を患者に話せば他の薬を希望されるだろう.期待の新薬もこのまま消えてしまうのだろうか?薬の副作用なんてものはもともと非常に低い確率で起こるから薬が実用になるのであって副作用が0なんて薬はきっと効果も0だろう.

いまや薬の情報もマスコミから流れるようになり記事の書き方やテレビ番組での取り上げ方によっては世間が大騒ぎという時代である.どうせやるなら副作用情報を世間の人に徹底的に公開して自分で使いたい薬を決めさせてあげたらどうだろうか.そういえば混合診療で問題になった未承認の抗がん剤なんていうのもマスコミが取り上げて話題になった結果,国内の治験が終わらなくても使えるようになったらしい.これなどもマスコミ主導で患者が使う薬を選んだ結果だろう.

これを患者のニーズなどと言った人がいたようだが,さて副作用で患者の状態が悪くなったら誰の責任なのか,この際はっきりさせておいてもらいたいものだ.
『--肩凝りと診断後意識不明に くも膜下出血で倒れる --
 長野県臼田町の佐久総合病院(夏川周介(なつかわ・しゅうすけ)院長)で頭痛の原因を肩凝りと診断された佐久市の女性(55)が、診察後にくも膜下出血で倒れ、意識不明の重体になっていることが18日、分かった。女性の関係者は、診察した医師のミスとして業務上過失傷害容疑での告訴状を臼田署に出した。
 佐久総合病院によると、女性は10月23日午後2時ごろ、後頭部に頭痛がしたため同病院で診察を受けた。研修医は、女性の症状から肩凝りが原因と診断、鎮痛剤を処方した。女性は自宅に戻った後、倒れて意識不明となった。同日午後6時すぎに救急車で同病院に運ばれ、コンピューター断層撮影装置(CT)で検査した結果、くも膜下出血だったことが判明した。女性は現在も重体のまま同病院に入院中。夏川院長は「家族には病院として誠心誠意対応したい」と話している。』

この記事では研修医がくも膜下出血を誤診したという書き方だがそれにはちょっと問題がある.まず,後頭部痛で受診したと言うことだが,初診時に頭部CTを撮っていたかいたかどうかがまず問題になる.撮っていてくも膜下出血があったのなら見逃したことになるが専門医が見てもわからないほどの切迫破裂による出血や,まだほとんど出血していない解離性動脈瘤なんてこともある.こうなると研修医には診断できなくても不思議はない.

痛みというものには個人差があり,私の経験でも脳内出血を伴う動脈瘤破裂のくも膜下出血でも外来に歩いてやって来た人もいるくらいだから痛みの程度ではわからないだろう.むしろ,それまで痛くなかったものが突然に痛み出すのがくも膜下出血の特徴でそれが唯一の診断の手がかりだと私は思っているくらいである.

くも膜下出血の診断は誤診すれば極めて重大な結果となるので注意を要するものなのである.だが,もっとも大きな問題点は研修医制度で脳外科が必須でないことであろう.現在,日本では脳卒中による死因は癌,心筋梗塞に次ぐものであり,その中でも脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血による死亡率は高齢化によりわずかに増加傾向とはいえ減少はしていないのである.

こんなことを言うと明日にでも外来が増えるかも知れないが,筋緊張性頭痛や大後頭神経痛とくも膜下出血による頭痛の鑑別診断を研修医が行って誤診したら業務上過失傷害容疑にされるのでは頭痛の診断は脳外科専門医でもなければ責任を持てないだろうと思われる.たとえ神経内科医でも頭部MRAが読めて解離性動脈瘤の経験でもなければ脳外科専門医に紹介したいところだろう.

ところで,研修医には必ず指導医がいるはずであるが,このような場合には指導医にも責任が問われるのであろうか.こんなことで責任が問われるとしたら,やっぱり指導医なんてやってられないだろう.まあ,まれなケースではあろうが臨床研修医制度にはこのような潜在的な問題点はまだまだあると思われる.
『今回の保険診療との併用を認める保険外診療の対象拡大で、これまで併用を望む患者の声が特に強かった抗がん剤など国内未承認薬について、厚生労働省は来月にも「未承認薬使用問題検討会議(仮称)」を設置。併用が可能な「治験」を認めるかどうか、申請後3カ月以内に結論を出すなど手続きを大幅にスピードアップする。 これまでは治験で安全性が確認されても、保険が利用できるようになるまでの間は併用が禁止されてきたのを改め、保険適用まで切れ目なく併用を認める。乳がん手術で失った乳房再建手術も同様の扱いとする。胃がんとの関連が指摘されているピロリ菌の除去やがん細胞が出すタンパク質(腫瘍(しゅよう)マーカー)検査は、保険で定められた回数を超えて行うと、超えた分の実費だけでなく、本来保険の対象となる入院費なども全額自己負担になっていたが、今回併用が認められ、入院費に保険が適用される。
 併用を認める医療を、保険適用のための評価を行う「保険導入検討医療」と、保険適用を前提としない「患者選択同意医療」に再編成する。それぞれ、肝臓移植などこれまでの「高度先進医療」と、差額ベッドなど従来の「選定療養」が中心となる。』

「患者は医者を選べない」という言い方があるが,正確には「患者は医者を選ぶ知識を持っていない」もしくは「患者は病気の治療を選ぶ知識がない」ということだろうか.今回の改革では少なくとも患者のニーズに合わせて医療現場での治療の選択肢が増えたことは評価したい.

混合診療と呼ばずとも今後は自費での治療の部分が拡大していくだろう.結果として医師の説明を聞いて自分で治療を選ぶ機会が増えると思われる.しかし,治療について説明する際にはとかくメリットばかりが強調されがちであるが,これを機会に治療のデメリットについて患者側にもっと理解を深めてもらう必要があるだろう.

患者側も自分に都合のいいことばかり聞き憶えることなく,治療のデメリットについてもっと正しく理解していれば,たとえ副作用などが起きたとしても自分の選択に責任を持った態度をとるべきだろう.そうすれば医療事故だの医療過誤だのと騒ぐ必要はないだろう.

そもそも医師にできることは治療の選択の機会を与えることと病気の回復の手助けをすることだけである.病気が良くなるのも悪くなるのも結局は自分の意志と体次第ということを忘れている人がほとんどなので最近の外来は特にストレスが溜まるのだ.
『--心臓手術後3人死亡、同じ医師が執刀 東京医大--
 東京医科大学病院(東京都新宿区)の第二外科で、02年10月から昨春にかけ、男性の心臓外科医(45)が執刀した心臓弁膜症の手術で、患者3人が術後に相次いで死亡していたことがわかった。遺族は東京簡裁に証拠保全を請求。同簡裁は10日、3人のカルテなどの保全手続きをした。今年1月にもこの外科医が助手を務めた手術で男性患者が死亡していた。同病院は事実関係の調査を始めた。
 遺族側の説明によると、最初の死亡事例は東京都杉並区の女性(71)。02年10月、心臓弁の閉鎖不全と急性心不全のため、この外科医の執刀で手術を受けた。しかし、術後に心臓から出血し、再手術を数回受けたが03年1月下旬に死亡した。03年1月には、同区の女性(81)が手術後、意識が戻らず、12日後に死亡した。同年3月には、心臓弁の閉鎖不全や狭心症などを起こした東京都中野区の女性(68)が、この外科医の執刀で、弁置換手術と冠動脈バイパス手術を同時に受けた。だが、術後に出血が止まらず、再手術を繰り返した後、4月中旬に死亡した。
 男性医師は3人の遺族らに対し、「合併症などが原因」などと説明したという。病院などによると、この外科医は同大の出身。心臓血管外科専門医や日本循環器学会専門医などの資格を持ち、現在は第二外科で講師を務めている。これまで約1000件の心臓手術にかかわり、うち約270件で執刀医を務めた。弁膜症の手術も約190件に加わり、21件で執刀した。同病院広報室は「現段階では医療過誤であったという認識には至っていないが、このような事態になったことは遺憾に思う。第三者を含む調査委員会を持ち、事実関係の究明に当たりたい」としている。

 弁膜症手術は広く行われている。特に人工弁に置き換える弁置換手術の数は多く、専門家によると成功率は90%を超す。一方、狭くなった部分を広げたり、広い部分を縫い縮めたりする弁形成術はある程度の熟練が必要という。ただし、弁置換でも、心臓の筋肉が弱った高齢者の場合には、出血して再手術が必要になるケースもあるという。』

弁膜症の手術21件の執刀で手術が直接の原因で術後1週間以内に3人死亡なら問題だろう.記事をよく読むと再手術を繰り返したのが2例あり,最初の手術から死亡するまでの期間が数週間あるのでこれでは直接の原因かどうかはわからない.手術後に意識が戻らず12日後に死亡したというのはやはり手術が原因だろうか.

まあ,いずれにしても弁置換手術の成功率は90%を超すそうだから21例で3例死亡させるようでは外科医としては恥ずべき成績だろう.だが,成功率90%は果たして安全なのだろうか?実は私には安全なような気がまったくしないのである.成功率で言うなら私が安全と考えるのは成功率99.5%以上というところだろう.

現実には脳外科の手術で成功率99.5%を超える手術は存在しないだろう.脳血管撮影という検査でさえも1%のリスクがあると言われているくらいである.手術に比べてリスクが少ないとマスコミで騒がれた脳血管内手術がその後に医療事故として再びマスコミのねたとなったのも記憶に新しい.

そもそも手術に成功率を考える意味はあるのだろうか.統計学的に考えるなら,病気の程度,患者の体力,術者の腕,スタッフの質,病院の設備など様々な要因で成り立つ手術の成功確率はもともと各患者で異なっているのだからそれを病名や手術名が同じものをひとつにして論じる意味がどこにあるのだろうか.

手術を治療としてみた場合に統計学的に意味があるのは患者の年齢における平均余命に対して,手術をして期待できる延命期間がどれほどあるのかということだけだろう.それも遷延性意識障害になって延命というのでは意味がない.目の前に患者がいるから手術をするだけというのでは外科医として真摯な態度ではないだろう.

患者の家族にすれば大学病院で手術することに期待もあったのだろうが,手術は外科医がするものである以上,施設の手術数や病院の規模は手術の結果とは関係ないのだ.手術の成功率だって米国みたいにリスクの高い患者の手術はしないことにすれば上げることは簡単だろう.

問題は手術の数でもなく成功率でもなく病気に対して延命効果があるかどうかだけだと思うのだが,これを統計学的に明らかにするいい方法を私は知らない.
『--混合診療:未承認薬を容認、抗がん剤など対象に 厚労省案--
 政府の規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)が全面解禁を求めている混合診療について、厚生労働省の対案が7日、明らかになった。国内未承認の抗がん剤などについて、薬学関係の有識者ら外部の専門家が安全・有効性を認めた場合は混合診療の対象として認めるなど、同診療の対象を拡大する内容。規制改革に関する閣僚折衝などで近く提示される。
 混合診療は公的な医療保険が適用になる保険診療と保険外診療の併用を認めるもの。原則として禁止され、保険が利かない治療を一部でも受けると保険適用される診療分を含め全額自己負担になる。現在は特定療養費制度で、高度先進医療(97技術)▽選定療養(差額ベッドなど13項目)−−の2分野のみ認めている。ただ、高度先進医療は大学病院など125医療機関しか申請できないなど制約も少なくない。
 厚労省は今回、特定療養費制度の名称変更も含めた全面改組を検討。海外で承認されながら国内未承認の医薬品は速やかに治験に入れるよう運用面を改め、新設する外部の専門家による検討会が認めた薬品については、厚労相の諮問機関・中央社会保険医療協議会の了承を経て混合診療を可能とする。
 未承認薬は現在、治験段階と承認後から保険適用までの期間は混合診療を認めているが、承認審査中に使うと、保険が適用される他の治療分まで患者の全額自己負担となる。厚労省の対案では、全額負担は治験段階から保険適用まで、使用した薬代だけで済む。日本は医薬品の承認手続きが煩雑で、審査に1年近くかかることが多く、有効と分かっていても負担が重くなるため、患者が使用を断念するケースもあるという。
 厚労省は未承認薬の他に混合診療を認める新分野として「必ずしも高度でない医療」も新設し、対象病院も広げる。規制改革会議は未承認薬をはじめ乳がん手術に伴う乳房の再建など15例を解禁事例に挙げているが、同省は15例すべてに対応。この中の、外国人患者のための通訳は、医療行為と切り離し、これを利用しても保険が利く診療分は自己負担にならないようにする。
 規制改革会議は「一定水準以上の病院での混合診療全面解禁」を求める姿勢を変えていないが、今回の対案を軸に調整が進む見通しだ。』

「一定水準以上の病院での混合診療全面解禁」というところに疑問がある.なにをもって一定水準というのかが怪しいのだ.治療に必要な設備は最低限の条件だろうが,病院の規模や医者の数で決めることにはあまり意味はないはずである.ましてや大学病院だからなんていうのは馬鹿げている.外科の手術と同じでいい医者が1人いればいいわけで病院の症例数なんかは関係ないだろう.

薬学関係の有識者ら外部の専門家が安全・有効性を認めた場合は混合診療の対象として認めるなら副作用に関しては事実上承認されたも同じであるはずなのに,これをわざわざ混合診療にするのもおかしな話だ.安全・有効性が確認されたなら保険適用にすればいいだけだろう.

要するに,国民健康保険料の高騰を防ぎたいがために厚生労働省が意図的に承認を遅らせてきた治療を混合診療にするだけの話に見えるのだ.だが,混合診療にすれば治療のメリットを受けられるのは大都市に居住するお金のある人たちだけになるのではないだろうか?

政府の規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)が全面解禁を求めているとは言っても,お金があれば助けてもらえるような気がする「一定水準以上の病院」はそうたくさんはいらないということだろう.
『--生後18日の新生児に脳死判定 神奈川の病院で昨秋--
 神奈川県内の病院で昨年9月、生後18日の新生児の男児が「脳死状態」と診断され、病院側と両親が話し合ったうえ人工呼吸器を外していたことが分かった。国内では生後3カ月未満の新生児については脳死判定基準が確立していない。主治医は「国が生後3カ月以上を対象に定めた基準に準じて判断した」と話している。
 病院によると、新生児は昨年8月、県内の別の病院で仮死状態で生まれ、救急搬送されてきた。生後6日目に脳死診断を実施し、深昏睡(こんすい)や瞳孔散大、脳幹反射消失を認め、「脳死状態」と診断。病院と両親は誕生の日から呼吸器を外す当日まで計7回、看護師やソーシャルワーカーも同席の上で約1時間ずつ話し合い、両親の同意の下で呼吸器を外し赤ちゃんは心停止したという。
 主治医によると、この病院では3カ月未満の新生児を「脳死」と診断したのは初めてだが、国内のほかの病院では過去に数例あるという。 国の脳死判定基準は、15歳以上が対象のドナー(臓器提供者)となることを前提とした脳死判定に用いられる。また、臓器移植を想定したものではないものの、将来15歳未満がドナーとなる可能性や医療現場からの要望に応える形で、生後3カ月以上を対象とした「小児における脳死判定基準」を旧厚生省の研究班が00年に示している。今回はこのどちらにも該当しない。主治医は「両親に重症度を理解してもらう一つの判断材料として『脳死判定』をした。赤ちゃんのターミナルケアをめぐる具体的な方策は各現場で模索している状態」と話している。』

 産婦人科医の出生前診断は社会的認知がないままの医師の暴走行為であるが,今度は新生児の脳死判定とはいったいどういうことなのだろうか?私には理解できないし,この新生児を小児に準じて脳死判定したとしてもその科学的根拠をだれが示せるというのであろうか.

 私は脳死判定はそもそもが臓器移植が目的のものだと理解しているので,こういったケースでの脳死判定の必要性はないと思うのである.脳死状態であれば1週間もすれば患者は死亡するのであるから,わざわざそれを早める必要はどこにあるのだろうか.

 家族の死を受け入れるための時間と考えれば1週間は決して長い時間ではないはずである.むしろ脳死判定を急ぐ理由としては,そのまま生存し遷延性意識障害のような状態になった時にどうするのかを家族や主治医が決められないことが問題のような気がするのだ.呼吸器のついた遷延性意識障害の新生児が生存するとみんなが不幸になるにもかかわらずどうすることも出来ないのが現在の医療現場というわけだ.

こう考えると回復の見込みのない新生児の脳死判定の必要性も少しは理解できるのかも知れない.
『 強いストレスで老化早まる 米大学が人の細胞で発表
 強い心理的なストレスは細胞の老化を早める可能性が高いと、米カリフォルニア大サンフランシスコ校などのチームが30日までに発表した。研究論文が近く、米科学アカデミー紀要(電子版)に掲載される。ストレスがさまざまな病気の引き金になることは指摘されていたが、具体的なメカニズムは不明で、同チームは細胞の老化が病気を引き起こす一因とみている。
 チームは、病気の子供を介護している母親39人と、健康な子供を持つ母親19人について、免疫にかかわる白血球細胞の核の中にある「テロメア」という部分の長さを調べた。テロメアは細胞が分裂して年を経る度に短くなるため、細胞の老化の一つの目安になる。介護している母親では、介護期間が長くなるほどテロメアが短かった。また母親全体の中で、調査に対し特に強いストレスを感じていると答えたグループ(14人)は、特に小さいグループ(14人)と比べ、年数に換算して9-17年分もテロメアが短いという結果だった。』

これが本当なら介護者のストレスを減らすのが最善なのだろうが,地方自治体にまかされる介護保険の先行きは暗いものになると思われる.

身体障害者福祉や精神障害者福祉も地方自治体へ移行するせいなのだろうか,最近は社会保険事務所でいままで申請をみとめていなかったような患者の家族にしきりに申請をすすめているらしい.おかげで言い訳が面倒な申請書類を何通もかかされてストレスがたまりそうだが,それでは自分の寿命が縮むのだろう.

それでなくとも馬鹿げた医療制度改革やくだらない監査に付き合わされてストレスがたまるのだから,うまくストレスを発散することを考えなければ老化が一気に加速してしまいそうだ.
『--「犬も運ばんか」と救急隊員殴る 男2人を逮捕 北九州 --

 福岡県警小倉南署は1日、バイクにはねられた飼い犬を救急車で運ばせようとして救急隊員らに暴行したなどとして、北九州市小倉南区の建築板金業の男(44)と建築板金工(54)の2人を公務執行妨害の疑いで逮捕した。 調べでは、10月17日午後9時ごろ、同区新道寺の国道322号で、区内の飲食店員のバイクが板金業の男が飼っていた柴犬系の雑種犬をはねた。
 転倒して肩の骨を折った店員を搬送するため、市消防局小倉南消防署三谷出張所の救急車が来たところ、2人が「人ばかり診らんで犬も診らんか」と怒鳴りながら救急隊員の肩を突くなどした。別の隊員にも「犬も病院に運ばんか」と怒鳴りながら体当たりし、頭を殴るなどした疑い。隊員2人は頭などに軽いけがをしたという。 犬は即死状態だったが、隊員は店員と一緒に救急車で病院に搬送した。2容疑者は病院まで車で追いかけ、病院でも職員らに「犬も診らんか」と怒鳴り続けたという。 板金業の男は容疑を認め「かわいがっていた犬が倒れていて興奮していた」と話している。事故当時、犬は放し飼いにされていたという。 』

まったく馬鹿げた話だが,救急車をタクシー代わりにしている患者やその家族が多いのにはあきれる.このニュースでは犬もいっしょに運んだそうだが,それは問題にならないのだろうか.動物を人間と同じに扱って人畜共通感染症にかかっているだけなら世話はないが,そのうち動物病院に運べという者が現れるかもしれない.

あまりに救急車の出動が多いので消防隊員の消防と救急の兼務をみとめたというニュースもあったが,いっそのこと救急車に料金メーターを付けたり,救急搬送を民間業者にやらせてはどうだろうか.急病でも無いのに早朝から救急搬入されて外来での待ち時間なしで受診した患者を何人も知っている医者ならわかるだろう.
『北海道富良野市の民間病院に勤務していた小児科の男性医師=当時(31)=が突然死したのは過剰な時間外労働などが原因として、医師の家族が5日までに、旭川労働基準監督署に労災申請した。
 代理人の高崎暢(たかさき・とおる)弁護士によると、医師は昨年10月6日未明、自宅で突然意識不明となり、約3時間後に搬送された富良野市にある勤務先の病院で死亡した。この病院に赴任して5日目だった。 前任の道内の市立病院に勤務していたときは、約8時間の通常勤務に加え、当直や呼び出しなどで、月に2、3日しか休んでおらず、死亡前の1年間で少なくとも月100時間以上の時間外労働が続いていたという。
 高崎弁護士は「時間外労働に加え、転勤で人間関係のストレスなどが急速に高まっていた」と申請の理由を話している。』

脳外科医になりたての頃はそもそも労働時間の規定があることなど知らなかった.大学での研修というか雑用ははほとんどエンドレスだったし,先輩医師の言うことは絶対であった.だが,医師もただの職業という最近の研修医の考えを知るにつれて時間外もはたらくことに使命感を持つ必要はないことに気がついた.

良質な医療を提供するには医師にも休暇は必要である.まじめに医療に関わるほどに医師の身体的,精神的ストレスはたまるものである.適当なところで気分転換をしなければそのツケは自分だけでなく患者にもまわるということに気がついたほうがいい.

地方で自分しか医師がいないとかいうのでなければ緊急性の無い患者の夜間診療は勇気を持って断るのもいいだろう.一人しか患者がいないのならともかくも当直医は本来は入院患者のためにいるのである.自称急患は夜間急病センターにいくのが本当だろう.家から近いからとか仕事が遅く終わったからとか明日も日中は仕事があるからなどという理由でやってくる患者の相手をまともにやる必要はないだろう.

急患ならせめて急病センターかいつもかかっている開業医の紹介状でも持って救急車でやってきてほしいものだ.夜中に放射線技師を呼んで日中と同じ検査をすべてやったあげくに,異常がないとわかったら満足して帰っていくなんてのは馬鹿げている.

病院の経営を考えて患者や家族の機嫌をとるような情けない医師も最近多くなったようだが,何をそんなに怖がっているのだろうか.自分から病院をコンビニ化するのはもうやめていいんではないだろうか.コンビニの店員ならそもそも時間外に働く必要もないだろう.

当直医に急患を担当させるのもやめるべきだろう.当直も週に何回もあればそれだけでかなり疲れるものだ.厚生労働省ももっとしっかり時間外労働の規制をするべきだろう.それが患者の安全にもつながるのだから.夜間の救急患者の診療は当直医のほかに救急担当医を用意できる病院のみに認可するのが本当だろうと思うのだがどうだろうか.
『--1年で4人に3人退院を 精神障害者の復帰促す --
精神障害者が症状が重くないのに入院を続ける「社会的入院」解消を検討している厚生労働省の「精神病床に関する検討会」は26日、新しい入院患者が1年後に残る割合「平均残存率」を23-24%とするなど、具体的な数値目標を設定した報告書をまとめ、大筋で合意した。精神障害者の場合、入院治療を続けるほどの症状ではないが、受け入れ先がないためやむを得ず継続する社会的入院の解消が課題となっている。報告書には都道府県ごとの10年後の達成目標も盛り込まれている。平均残存率の目標数値は、既に上位の数県で達成している数値を平均した。1年以上入院している患者が、さらに1年後までに退院する割合を示す「退院率」については、28-29%を目指す。上位以外の都道府県は10年後の達成を目指し、現状と目標の中間値を5年後の目標と定める。さらに(1)症状が重い期間に手厚い医療を施す(2)退院支援を専門的に行う?体制づくりを目指し、患者に応じた病院の機能分化を進めることも盛り込まれた。』

『健康保険組合連合会は26日、大企業のサラリーマンが加入する健康保険組合の2003年度決算見込みを発表した。経常収支は、過去最悪だった前年度の3999億円の赤字から一転し、1385億円の黒字となった。黒字は医療費の本人負担分が1割から2割に引き上げられた1998年度以来5年ぶり。』

痴呆老人や寝たきり老人の社会的入院をなくすための介護保険制度がつくられた.次は精神障害者と身体障害者の福祉を介護保険に抱き合わせにするシナリオがすでにできているのだが,これは精神障害者の社会的入院をなくすための布石でもあったわけだ.なるほど厚生労働省らしいやり方だ.

健康保険組合連合会は黒字傾向になってほっと一安心したことだろうが,組合員たる国民は決して安心などできない.医療費や医療保険料が増えるとこまるのは国や企業もなのであるが,介護保険の主体である地方自治体は今後財政が悪化するだろう.そうなるといずれは地方税を上げざるを得なくなるだろう.

結局は老人や精神障害者の社会的入院にかかっていた費用は地方自治体の介護保険と個人が負担することになりサービスの低下と費用の増大などの問題が顕在化していくことになるだろう.そのいい例が最近の介護保険料の増大とグループホームの設置規制などである.

病院から追い出され,グループホームにも入れない老人は家庭で介護せよというのが政府の方針なのだろうか.共働きの夫婦には受け入れられない条件だろう.こんどはそれに精神障害者が加わるわけである.子供も老人も障害者もちゃんと面倒を見てもらえないで安心して働けるわけがないだろう.それとも女性はパートをやめて家にいるのが政府の理想とでもいうのだろうか.

税金はとれるだけ取っておいてこれはないだろう.福祉に関しては国はほとんどを地方自治体に丸投げにするつもりのように見える.だが,今のところ地方自治体の財源は限られている.もうそろそろ介護保険で破綻する自治体が続出してもおかしくない時期であるが,今後さらにその傾向は過疎地域で加速することであろう.
『英国の受精・胎生学局は21日、病気の子供に骨髄移植などの治療を受けさせるため、次に生まれる子供が骨髄提供者になれるかどうかの受精卵診断と、受精卵の選別を認めると発表した。英国はこれまで、遺伝病を防ぐ目的でのみ受精卵診断を認めてきたが、骨髄提供の適否を調べる診断でも受精卵に害がないことを確認できたとして要件を緩和した。治療では、体外受精した複数の受精卵のうち、病気の子供の組織のタイプと一致する受精卵だけを選び、母親の子宮に着床させる。生まれた子供のへその緒や骨髄が、病気の子供の治療に有用となる。治療が認められるのは、これが最後の手段である「極めて少数」の家族になるという。英国ではこれまで、血液病の子供を持つ親が、受精卵診断の規制が緩やかな米国に渡って治療を受けた例があり、同様な事情の家族は緩和決定を歓迎。一方、生命倫理団体は「完ぺきな人間をつくろうとするのは誤りだ」と批判している。』

自分がもし同胞を救うための臓器提供者として作られた子供だと知ったらどう考えて自分の存在というものを受け入れることができるのだろうか.この考え方の延長には受精卵から必要なものを作り出すという結果しか残らないだろう.へその緒や骨髄を提供してもらってもかまわないというのは相手が新生児であるから許されるという問題なのだろうか.

いつか受精卵から必要な臓器だけを分化させる技術ができたら受精卵はどんどん臓器移植に使われるだろうがそこにどんな意味があるのだろうか.そんなことをするくらいなら遺伝的欠陥のある受精卵を廃棄したほうがはるかに効率がいいことになってしまう.それはすなわち完ぺきな人間をつくろうとすることにほかならない.

これでは人類は家畜と同じである.遺伝子のエラーをなくして優良な労働者を量産すればよいだけなのだから.だが,優秀な遺伝子のコピーをいくら作っても人類の進化はないだろう.ある程度偶発的なエラーを許容していかなければ人類の遺伝子の進化はあり得ないと思うのだが.
『 --脳波調べず「脳死」と判定 道立羽幌病院の呼吸器外し--
北海道羽幌町の道立羽幌病院で2月、主治医(32)が男性患者(90)の人工呼吸器をとりはずして死亡させた問題で、主治医の女性医師(32)は脳死の診断に一般的に必要な7項目のうち脳幹の反応をみる対光反射しか実施せずに、患者の家族に「脳死状態」と伝えていたことが、カルテの記述などからわかった。
 同病院の佐藤卓院長によると、男性患者が昼食をのどに詰まらせて心肺停止状態で搬送されてきたのは2月14日午後1時過ぎ。蘇生措置で心臓が動き出した後、主治医は家族に、自筆の入院診療計画書を手渡した。 計画書の「考え得る診断名」の項目には「脳死状態(誤嚥(ごえん)による窒息)」とあり、治療計画の項目には「心拍は再開しましたが、大脳皮質、脳幹の機能は停止しています。人工呼吸器で生命維持の治療を行います。脳の回復の見込みはありません」と、脳死状態であることを伝えていた。
 正式な脳死判定より前に実施される脳死の診断では、脳幹の反応をみるための対光反射や角膜反応、気管支にカテーテルを入れる咳(せき)反射など7項目が一般的に必要で、さらに脳波を測定しなければならない。しかし、カルテを見る限り、主治医は、このうち対光反射を実施しただけだったという。 男性患者は最高血圧が一時120まで回復したが、翌15日午前9時ごろに50を切り、同10時ごろには30〜40まで落ちた。 主治医は家族から「話をしたい」と面会を求められ、「長い余命は望めない」と説明。家族からは「延命措置には及ばない。人工呼吸器を外してほしい」と要請された、と佐藤院長に説明したという。 主治医が書いた15日のカルテには「長男より、子ども全員で話し合った結果、脳死状態のため、レスピレーター(人工呼吸器)を外してほしいと申し出があった」「10時40分、(家族)3名同席でレスピレーターを外した」「10時55分、永眠」とある。
 病院側は「もともと余命は数時間だった」と説明するが、それではなぜ主治医が呼吸器の取り外しを急いだのか、はっきりしない。佐藤院長は「呼吸器を外すまでの治療内容には全く問題がなく、むしろよく蘇生できたと思えるほどだった。それだけに、理解に苦しむ行動だ」と話した。
 一方、この女性医師は00年1月にも、当時勤務していた北海道名寄市の市立総合病院で、40代の女性患者の家族に呼吸器外しを提案していた。 同病院の佐古和広院長によると、患者は00年1月初旬、気管支ぜんそくや慢性閉塞(へいそく)性呼吸障害などで入院、意識不明となり、人工呼吸器を装着。同月中旬、心停止状態に陥り、医師が蘇生させた。 その際、女性医師は家族に「今度心停止を起こした時は人工呼吸器を取り外すことを考えて欲しい」と提案。カルテには「了解」と記した。患者は女性医師が不在中に急死し、延命措置の停止は行われなかったという。佐古院長は取材に「脳死状態だったか確認はできず、もし呼吸器が外されていれば、法的に問題になりうるケースだったと思う」と話している。』

 脳死の定義を知らなかったのだろうか.とても信じられない事件である.たとえ延命のための処置であったとしても脳死判定を行わないで人工呼吸器をはずすことなど考えられないし,もし行えば違法行為である.脳死状態であれば1週間以内には確実に心停止し死に至るから90歳の患者の延命処置の中止をしてまでも死期を早める意味はどこにあったのか理解に苦しむ.

 まったくの無知なのかよほど医師としての常識に欠けるとしかいいようがなく同情の余地はない.同然のこととして業務上過失致死もしくは殺人罪に問われるのであろう.こんな医師が他には存在しないことを願うのみである.
『 神奈川県相模原市の北里大学病院(藤井清孝院長)で、20代の研修医が通常の使用量を大幅に上回る不整脈治療剤を70代の女性患者に投与し、患者が死亡していたことが7日、分かった。同病院などによると、男性研修医(25)が4月6日の当直時間の午後11時ごろ、がんで入院していた女性患者(76)の不整脈を看護師から知らされ、不整脈治療剤「リドカイン」を静脈注射した。その後、女性の容体が急変し、数時間後に急性リドカイン中毒で死亡した。リドカインの濃度には2%と10%の2種類があり、10%のものを2%の量で誤って使ったという。
同病院は事故を同県警相模原署に報告。同署は研修医らから業務上過失致死容疑で事情を聴いており、研修医は「処方する量を間違えてしまった」とミスを認めているという。』

『 北里大病院(神奈川県相模原市)で先月、過剰投薬により女性患者が中毒死した事故で、同病院は8日、記者会見し、担当医が指示した量の20倍で高濃度の薬剤を男性研修医(25)が注射していたことを明らかにした。藤井清孝院長は「チェック機能が働かなかった。あってはならないミスだった」と陳謝した。病院によると、4月6日午後11時ごろ、がんの治療で入院中の70代の女性に不整脈が起き、担当医が治療剤「リドカイン」50ミリグラムの静脈注射を口頭で指示。しかし研修医は静脈注射用がないと思い込んだため、より高濃度の点滴用アンプルを使い1000ミリグラムを注射した。直前に看護師が点滴用と気付き「(点滴用の)原液でいいか」と聞いたが、研修医は「いい」と答えていたという。患者は注射から約1時間40分後に死亡し、相模原署が業務上過失致死容疑で捜査している。』

さらに別の投薬ミスのニュース

『 腫瘍(しゅよう)性疾患の治療で秋田大病院(秋田市)に入院していた秋田県の10代の女性が昨年9月、抗がん剤を2倍投与され、急性心不全で死亡していたことが30日、分かった。同病院によると、主治医が誤って、抗がん剤「エンドキサン」を2日間にわたり1日1回2・9グラムずつ投与するところを、1日2回投与。女性は心筋炎などの副作用を起こして投与から5日後に死亡した。主治医が薬剤の投与スケジュール表を書き誤ったのが原因とみられ、病院は「1日1回の投与ならば副作用が起こりにくかった可能性はある」としている。病院は当初、死因を化学療法による合併症としていたが、4月下旬に家族から「研究的な治療だったのではないか」などと調査するよう要請があり、記録などを見直したところ、抗がん剤の2倍投与が判明した。主治医は現在、診療を自粛しており、病院は「何らかの処分が必要」としている。病院は医療ミスで女性が死亡した可能性が高いとして、30日までに文科省などに報告した。』

1例目の事故の原因は自分が使用する薬剤の安全域というものを理解していないという研修医の無知からくるもので救いようがない.こんなこともわかっていない医師は即刻免許停止にすべきであろう.こんな医者がいては私も恐ろしくてとても病院にかかれない.

2例目の事故は実際のところ投与量がわかっていなかったのか,投与方法の指示の誤りなのかこの記事ではあまりよくわからない.無知から起こったのか単純ミスなのか?まあ,どちらにしても抗がん剤投与の危険をあまり認識していないと言う点で救いようがない.

こんな医者が存在するのでは医師が信用されないのも無理はないと私でさえ思ってしまう.まことにお寒い現状である.医師志望の人が多いのは大歓迎なのだが,資質の高い人がなってくれないと今後も医療の質の低下は避けられないだろう.
なぜかはわからないが,何人かの医師志望の方が読んでくださっているようなので医師になるのに持っていたほうがよいと思われる事などを書いてみよう.(今夜の当直はひまなようなので.)

1番目は学力であろう.これをお金で補う方法もあるのかもしれないが,あまり望ましい方法ではない.私の高校で親が開業医の姉弟が当時それぞれ15百万の入学金で私立医大に入学したが同級生には大変ばかにされていた.救急部で一緒に働いた某私立医大出身の医師は何度教えても進歩がないので指導医にあきらめられていた.(でも性格はよかったな彼は.)自分で学ぶことができない者は結局ばかになる(ばかにされる?)しかないのだからやめておいたほうがいいだろう.

最初からきびしいと思うかもしれないが,同期で入学したものの約1割がなんらかの理由で卒業の時にはいなくなっていたのであるからせめて進級できる学力だけはあったほうがいいだろう.それに医師国家試験や専門医試験もかなり大変であったことを思い出した.

2番目に必要なものはセンスである.注射1本するにもセンスが必要である.うまい人はやはり最初から割と上手にやるもんである.練習して上手くなるのも可能であるが,センスのある者が練習するとやっぱりさらに上手くなるわけであるから外科系に進もうと思うならまず自分のセンスと相談したほうがいいだろう.

いい例が中心静脈ルートの確保であるが,鎖骨下穿刺でやると必ずと言っていいほど肺を落とす(気胸をつくってしまう)医師を私は知っている.医師や看護師なら思い当たると思うが,こういう医師はたぶん一生上手くはならないのであろう.別に鼠径から穿刺してもいいのになぜかこういう医師に限って鎖骨下穿刺をしたがるのもセンスの無さを物語っていると思う.

3番目には体力である.これが本当は1番大切とも言えるかもしれない.とにかく忙しいしストレスは多いし大変なのである.かくいう私も学生時代には試験の期間中以外は徹夜などしたくてもできない方だった.学生時代はクラブ活動で忙しかったがそれでも7時間くらいは寝ないと寝不足だった.

脳外科医になって意識的に少ない睡眠時間に適応するようになり現在は5時間睡眠である.12時間くらいの手術なら一人でもできると思っている.でも,最近は12時間も手術するとさすがに疲れを感じるようにはなった.とにかく医師には体力が必要だ.

4番目は書く気がしなくなったが,上記1〜3はどれも必要ではあるが十分ではない.医師に最も必要なものは高潔な精神とでもいうのか正しい判断力とでもいうのか思いやりとでもいうのか,とにかく患者の幸福について考え共感できる能力なのであろう.

医師国家試験に合格して研修を終えれば医師にはなれる.だが,今の世の中は医師であるだけでは尊敬されたりはしないのだ.技能は必要条件であるが,それをクリアしてからが医師の道の本当の始まりということに最近気がついた次第である.

医師志望の方々の参考になれば幸いです.
 『 昨年1月、インフルエンザ治療薬タミフル(一般名リン酸オセルタミビル)を処方され服用した2歳の女児が溶血性貧血を発症し、治療した大阪府の病院が「副作用が疑われる症例」として販売元の中外製薬を通じ厚生労働省に報告していたことが19日、分かった。中外製薬によると、国内での貧血の副作用報告は初めて。厚労省は「ほかに同種の報告はなく副作用とは断定できないが、今後も情報を収集していきたい」としている。

 この女児は発熱のため当初インフルエンザを疑われ、昨年1月19日に大阪府内の医療機関でタミフルを処方された。帰宅後2回服用し熱は下がったが、顔色が悪く元気がなかったため翌日別の病院を受診し入院した。女児は赤血球数やヘモグロビン値が著しく低下、赤血球が壊れ血液中で不足する溶血性貧血と診断された。インフルエンザは検査で否定されたが、何らかの感染症にかかっていた可能性はあるという。ほかに服用した薬はなく、女児のリンパ球を使った薬剤への反応をみる試験の結果などから、タミフルの副作用が疑われた。女児は輸血を受け回復した。

 中外製薬によると、海外では、透析患者がタミフルを過剰服用したケースなど貧血の副作用報告が2例ある。同社は今回の症例について「感染症自体が貧血の原因となった可能性があるが、副作用の疑いも否定できない」としている。タミフルはカプセルのほか小児用のドライシロップが販売され、医療現場で広く使われている。海外の動物実験で脳から高濃度で検出されたため、脳の防御機能が未熟な1歳未満の赤ちゃんには投与しないよう中外製薬が呼び掛けている。』

 どんな薬にも副作用があり,それはいつ誰に起こるかは予測不能だ.タミフルに副作用があっても驚く話ではないが,問題は-インフルエンザは検査で否定された-ということだろう.では,なぜタミフルを投与したのだろうか?やはり安易に投与が行われたのではないだろうか.こんなことが内科や小児科ではよく行われているのだろうか.
 タミフルの乱用を避けるためにやはりガイドラインが必要という話が出てきそうだ.医学の知識もないのにタミフルをよこせという患者や家族にどうやって理解してもらうのだろうか.そしてそれはいったい誰の仕事になのだろうか.ちゃんと説明しても理解できない人たちにはどう対処すればよいのか誰か教えてくれないだろうか.
『医療機関で診断に使うエックス線CTによる国民1人当たりの被ばく線量が約10年で約3倍になったことが、放射線医学総合研究所(千葉市)の調査で分かり、14日までに専門誌に発表した。
 日本のがん患者の3・2%は診断のために浴びた放射線が原因とする英国の研究チームの指摘もあり、日本医学放射線学会は適正な検査に向けた指針作りに乗り出した。
 国内には、2000年時点で約1万の医療機関にCT装置があり、台数は約1万1000台に上る。同研究所は同年、約1000機関を対象にCTの使用実態をアンケート。722機関の回答を基に全国の状況を推計した。
 その結果、1年間の検査件数は全国で約3700万件に上るとみられた。CTによる被ばくの国民全体への影響を見積もるため、国民1人当たりの被ばく線量を計算したところ年間2.3ミリシーベルトになった。これは世界平均の自然放射線による被ばくにほぼ匹敵する線量だった。
 1989年に行われた同様の調査では、国民1人当たりの被ばく量は0.8ミリシーベルトだった。2000年までに、CT装置の台数は約2倍、検査件数と被ばく線量は約3倍になっていた。
 CT装置の台数、検査件数とも世界の約半分を日本が占めているのが現状という。同学会は、必要な検査は行うべきだが、被ばくを減らす方が望ましいとして当面、子どもを対象にした検査の指針作りを進める。』

 子どもを対象にした検査の指針作りというのは特に重要で,脳外科領域ではちょっとした頭部打撲で小児に頭部CT検査を行う医師は多い.ほとんどは経過観察のみでよいのだが,外来で検査はしないで様子をみましょうと説明しても納得しない親がいるのも事実である.医師や放射線技師向けの指針を作るだけでなく親たちにもわかりやすい内容でパンフレットでもつくってもらえると安心してもらえるのではなかろうか.

 インフルエンザ疑いでのタミフル乱用やなんでもすぐ点滴して親を黙らせる小児科医がいい例だと思うが,親がうるさいので親の要求に合わせるような医療をやっている医師が多数派のような日本の小児医療の現状は早急に改善しなければ質のいい小児科医が増えることはないだろうし,タミフルもらって点滴もしてもらってありがたがっているおめでたい親が増えるようでは心身ともに健康な子供は育たないだろう.

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