『心身合併症:救急1日4カ所確保へ 東京都11年度から

 身体疾患を発症した精神障害者の救急搬送が難航している問題で、東京都は11年度から、心と体の合併症の救急患者を受け入れる病院を1日4カ所確保する事業を始める。都内では「心身合併症」患者の救急搬送困難例が1日平均5件起きており、受け入れ態勢の充実が必要と判断した。厚生労働省によると、こうした患者の受け入れ拠点を本格的に設ける事業は全国で都が初めてという。

 都によると、心身合併症患者の受け入れが難航している背景には、精神科医がいない救急病院が多く、心と体の両方を治療できる体制が整っていないことがある。今回の事業で救急病院への精神科医の確保を促す。

 都は心身合併症を含めた搬送困難例を解消するため、病院間で受け入れを調整する「東京ルール」を昨年8月からスタートさせた。しかし、救急隊が受け入れ先の2次救急医療機関を見つけるまで20分以上かかるか、5カ所以上断られた「選定困難事案」の中で、精神疾患か薬物中毒(大半は過量服薬による自殺未遂)は今年10月まで計1766件に上り、全体の12%を占めた。

 ルールが適用されて、いったん医療機関に搬送されて応急処置を受けても、その後に身体疾患を専門的に治療する病院が見つからないケースも多い。東京消防庁の担当者は「精神症状が落ち着いていても、精神の患者というだけで病院に敬遠されることが相次いでいる」と説明する。

 都が始める事業は、心身合併症の救急患者を受け入れる医療機関を指定して補助金を出す。具体的には、内科や外科などの一般診療科がある病院1カ所を「拠点病院」に指定。常勤の精神科医を1年を通じて配置し、毎日1床以上を確保して搬送困難者2人を受け入れる。さらに原則1日1人を受け入れる「支援病院」を都内に毎日3カ所用意する。支援病院は輪番制も検討する。

 厚労省も同様の受け皿を整備する事業の後押しを始めた。これまでは救急の心身合併症患者を精神科病院が受け入れた場合、国の補助対象にしてきた。しかし、今年4月から主な補助対象を内科や外科などの身体疾患も診られる総合病院に変更。すでに静岡県と香川県がこの補助金を使って受け皿の確保を進めており、都も利用する見込み。』

『救急搬送:統合失調症患者、腸閉塞に 受け入れ先なく死亡 救急隊、13病院に要請

 ◇東久留米で昨年2月

 東京都東久留米市で昨年2月、体調不良を訴えた統合失調症の男性(当時44歳)が救急搬送されずに腸閉塞(へいそく)で死亡した。救急隊は2時間半にわたり受け入れ先を探したが、13病院に受け入れられず搬送を断念した。「精神科などの専門医がいない」「病床がない」などが病院側の理由だった。高齢化や自殺未遂で精神障害者が身体疾患にかかるケースが増えているが、両方の症状を診られる病院が少ないため搬送が難航している。精神と身体の合併症患者を受け入れる体制の不備が浮かび上がった。

 ◇心身合併症、減る受け皿

 男性の家族が情報公開請求して開示された東京消防庁の記録や家族の証言によると、男性が死亡するまで次のような経緯をたどった。

 昨年2月14日(土)20・00すぎ 男性が母親に「具合が悪いから医者に連れていってくれる?」と訴える。病院は医師などの配置が手薄な休日・夜間体制

 21・55 母親が119番通報

 22・00ごろ 東久留米市消防本部(現在は東京消防庁に編入)の救急車が自宅に到着

 22・40 母親の呼びかけに応答なし。救急隊員はすぐに生命にかかわる重症ではないが、意識障害があるとみて2次救急医療機関への搬送が必要と判断。自宅前に救急車を止めたまま内科や脳外科がある救急病院に対し、両親から聞いた本人の病歴を伝えた上で、受け入れを要請する電話をかけ始める

 翌15日(日)1・10 13カ所目の病院に受け入れを断られ、搬送を断念。救急隊は容体に変化がないとして3次救急医療機関には受け入れ要請せず、男性を自宅へ運び入れる

 9・00ごろ 母親が同じ消防本部に「病院を探してほしい」と連絡し、消防も探したが見つからない。その後、父親が男性の通院先の精神科病院へ行き、治療を頼んだが「休日で対応できない」と断られる。両親はほかに2カ所の病院に電話で受け入れを依頼したが、これも断られる

 14・00 男性の心臓が動いていないことに気づいた両親が119番通報したが、すでに死亡。大学病院での解剖の結果、死因は腸閉塞と判明

 東京消防庁の記録によると、救急隊員が受け入れ要請した13病院の内訳は▽総合病院5▽大学病院4▽精神科病院3▽都立病院1。断った理由は▽「専門外」(精神科などの専門医がいない)5▽理由が不明確な「受け付けられず」4▽「満床」4――だった。

 このうち要請記録が残っていた2病院が取材に応じ、当時の状況を説明した。

 多摩地区の精神科病院は救急隊が連絡した患者の容体から「脳などの疾患が疑われる」と判断。検査設備や医療機器がないため受け入れを断り、検査ができる他の病院へ運ぶよう頼んだという。

 多摩地区の大学病院は救急隊から連絡があった時、すでに他の救急患者の治療をしていた。「対応できるベッドが空いていなかった」という。

 このほか複数の病院が今回のケースではなく、一般的な事情を説明した。総合病院や大学病院によると▽休日や夜間はスタッフが少なく、治療後も目が離せない精神疾患に対応するのは困難▽当直医が精神障害者の診療で苦労した経験がある――などの理由で受け入れられないという。

 ◇総合・大学病院の精神科病床、報酬低く撤退相次ぐ

 精神疾患患者も含めた搬送困難例を解消するため、東京都は昨年8月末、救急隊が受け入れ先の2次救急医療機関を見つけるまで20分以上かかるか、5カ所以上断られた場合を「選定困難事案」とし、地域ごとに指定した病院が患者の受け入れを調整したり、自ら受け入れに努める「東京ルール」を導入した。

 都によると「選定困難」に該当したのは今年10月末までの1年2カ月間で1万4105件に上り、うち精神疾患や薬物中毒が理由になったケースは1766件で全体の1割を超えた。

 東京消防庁の担当者は「東京ルールで改善された面もあるが、合併症になった精神障害者の搬送が最も難しい状況は変わっていない」と話す。精神疾患患者の多くは暴れたりせず、救急隊は総合病院や大学病院でも受け入れが可能とみている。

 一方、総合病院と大学病院の精神科病床は一般診療科より診療報酬が低く病院経営を圧迫するため、全国で年々削減されている。02年に2万1732床(272施設)あったのが07年には1万9103床(248施設)と12%減った。』


 世相を反映しているのか,最近は救急車で運ばれてくる患者さんに精神疾患で通院しているような人の割合が増えたような気がする.パニック障害の人が過換気症候群で運ばれてくるもぜんぜん珍しくなくなったし,統合失調症の人が脳卒中や急性薬物中毒で運ばれてくるのも年に1回や2回ではなくなった.

 脳神経外科医として自分で治療ができるものを治すのは当然のことだが,現実問題として困るのは低血糖発作や薬物中毒の場合,回復する過程で本来の統合失調症の症状が出てきてしまうことである.最悪の場合,スタッフや同室の患者さんに危害が及ぶこともあるので精神科に送ることができない夜間には困った事態になるのである.

 稀ではあるが,そういう患者さんが同室患者をナイフで刺して殺してしまったり,首を絞めて低酸素脳症で遷延性意識障害になった患者さんも知っている.だから,そういった事態に対応できないと思ったら精神疾患を持った患者さんがたとえ他の病気になっても搬入をお断りするという医師の考えは十分理解できるのだ.

 脳外科医ならいざとなれば鎮静剤を持続静注するという荒技も使えるから,最悪の場合は当直の一晩だけなんとか乗り切って翌日精神科のある病院に転送するということもできるが,どこの科の医師でもできることではないのだから,心と体の合併症の救急患者を受け入れる病院を確保しておくほうがいいに決っているだろう.

 でも,本当の問題は総合病院や大学病院の精神科病床の診療報酬が一般診療科より低いということであって,これが病院経営を圧迫するため全国の公的病院で精神科病床が年々削減されているということだろう.こういう事態になることはもう10年以上前からわかっていたことだろうが,要は精神科に長期入院している患者さんを病院から追い出して医療費を削減するのが厚労省の目的だったということだ.

 従ってもうひとつの問題は,厚労省も主な補助対象を内科や外科などの身体疾患も診られる総合病院に変更したとあるが,すでに地方では公的総合病院から精神科が撤退してしまっているのに今更こんなことをやっても助けにならないということだ.毎度のことだが,厚労省は自分で着けた火を自分で消せないのだからマッチポンプより始末が悪い.
『産科医の当直を「労働時間」認定 大阪高裁も、奈良病院訴訟

 病院の当直勤務は割増賃金が支払われる「時間外労働」に当たる、として、県立奈良病院の産科医2人が県に対象額の支払いを求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は16日、計約1500万円の支払いを命じた一審奈良地裁判決と同様に「当直は労働時間」と認定。双方の控訴を棄却した。

 判決理由で紙浦健二裁判長は「入院患者の正常分娩や手術を含む異常分娩への対処など、当直医に要請されるのは通常業務そのもので、労働基準法上の労働時間と言うべきだ。勤務時間全部について割増賃金を支払う義務がある」と指摘した。

 一方、応援要請に備えて自宅などで待機する「宅直勤務」については「医師らの自主的な取り組みで業務命令に基づくものとは認められず、労働時間には当たらない」と判断した。

 判決によると、奈良病院の産婦人科には医師5人がおり、夜間や休日の当直勤務は1人が担当。産科医2人は2004~05年に各約210回、当直勤務に就いた。分娩に立ち会うことも多く、十分な睡眠時間が取りづらい勤務環境だったが、一回につき2万円の手当が支給されるだけで、時間外労働の割増賃金は支払われなかった。』


「当直医に要請されるのは通常業務そのもので、労働基準法上の労働時間と言うべきだ。」と言えば私の当直もまったく同じである.救急当番でなくても時間外に来る患者は通常の外来と同じに診察するし,救急車からの要請があればベッドがある限りは受け入れる.もちろん当直であるから入院患者さんの急変にも対応する.

 しかるに今まで勤務した病院で当直時間内に来院した患者さんに通常業務と同じだけの診察や処置や緊急手術をしても当直料を上回る手当が支給された記憶はない.言うなれば医師の時間外勤務は当直料が上限ということだ.救急当番でなくとも救急患者が病院に運ばれていることは周知の事実なのに,厚生労働省は医師の給与が適切に支払われているかを監査したりはしないのである.

 おそらく他の業種についてもそうなんだろうが,労働条件を監督するのも,その監督が適切に行われているかを監査するのも同じ厚生労働省だからどうにでもなるのだろう.もっとも,労働に見合っただけの報酬をちゃんと払っていたら今の診療報酬では病院経営が成り立たなくなるだろうから公的病院の勤務医でもない限りこんな訴訟をすることはできないだろう.

 情報の豊富な最近の若い医師はこんな状況にはとっくに気がついているのだろうが,自分ではどうにもならないから我慢して働いているのだろう.当直の時間帯に一生懸命働いても医師も病院も報われないのだったら救急医療は今後ますます荒廃していくことだろう.

CPAの現実

2010年6月10日 医療の問題
『夕張市立診療所:自殺図った男性の救急受け入れ拒否 「外来に対応」

 夕張市は1日、市立診療所が先月、自殺を図り心肺停止状態になった市内の50代男性の救急受け入れを断っていたと発表した。昨年9月にも同様のケースがあり、市は同診療所の村上智彦医師から事情を聴いた。

 市の説明では、5月19日午前8時前、「首をつり、自殺を図った男性がいる」という119番通報があった。救急隊員が駆けつけると、男性は心配停止状態で、診療所に受け入れ要請したが、外来患者診療のため、対応不可能として断られたという。男性は市内の別の医療機関で死亡が確認されたという。

 村上医師は「首つりと聞いて検案(死亡確認)のケースと判断した。緊急性が低く、自分は外来もあったため、他の医療機関で対応してもらいたいと伝えた」と話している。

 同診療所は昨年9月27日夜、同様に首をつった状態で見つかった男子中学生の受け入れを断った。市と診療所は、二度と同じような事態が起きないようホットラインを設けるなどしている。藤倉肇市長は「誠に遺憾という思い。市立診療所の開設者として総括が必要だ」と話した。』

『夕張市立診療所:受け入れ拒否問題 医師「1人では困難」--市が聴取

 夕張市立診療所が5月に心肺停止状態の男性の受け入れを断った問題で、同市は8日、診療所を運営する医療法人「夕張希望の杜」(理事長・村上智彦医師)からの聴取結果を、市議会行政常任委員会に報告した。

 村上医師は拒否の理由について「1人態勢で心肺蘇生は困難」とし、今後の対応について「高次医療機関に運ぶべきだ」と答えたという。藤倉肇市長は「一刻一秒を争う心肺停止患者の受け入れは最も近い医療機関にお願いしている。(診療所と)今後も話し合いを続ける」と述べた。

 昨年9月、心肺停止状態の少年の受け入れを診療所が拒否したことから、その後、市と診療所との間で▽ホットラインの設置▽心肺停止患者を受け入れて初期対応する--などで申し合わせをしている。』

参考記事:
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3660

 実際のところ「1人態勢で心肺蘇生は困難」なのか,「検案(死亡確認)のケースと判断した」のかはわからないが,近くに他に病院がないのだったら外来は一時中断してでも受け入れるのが現実的な対応だと私は思う.

 だが,勘違いして欲しくないのは,首をつり自殺で心肺停止だったら結果は変わらなかっただろうが,外来が忙しいなんていう理由でそれを他に回すのはちょっと違うんじゃないかと私は思っているということだ.一人でできることだけやって,それで万が一蘇生したら,その時は診療所でその後の治療はできないだろうから他の病院に依頼すればいいのだ.

 参考記事の村上医師の言い分も理解できるが,夕張市が診療所でCPAの対応も希望している以上,自分が対応できないなら辞めればいいだけなのである.その結果,診療所に医師がいなくなってしまってもそれは夕張市の問題だろう.CPAに対応できるだけの人材もないのに形式的に受け入れたところで医療としての意味はあまりないだろう.

 CPAといっても最近は救命救急士は挿管もできるし救急車にはAEDだってあるのだから救命できるようなケースはそれで蘇生できるだろうし,それも不可能で心電図の波形がないようなものはたとえ病院に運ばれても大抵はどうにもならないだろう.型通りに心肺蘇生法を試みて駄目なら死亡確認するだけだ.医師がたくさんいれば助かるわけではない.

 だから,今回のケースも受け入れなかったことによって結果が変わったとは考えにくいが,市長が問題にしているのは救命可能だったかどうかではなく村上医師が市との申し合わせを無視したことだったのだろう.だとしたら,今後,夕張市が医師を募集する時には,はっきりとそのことを明示するべきだろう.それでも働きたい医師がいるなんて私には到底思えないのだが,今後この市立診療所はどうなるのだろうか.

 
 多量に飲酒して救急車で運ばれて来る人としては急性アルコール中毒なんていうのはきわめて稀なものだ.酔っぱらいが救急車で運ばれてくる一番の理由は外傷つまり怪我によるものである.

 私は脳外科医であるから頭部打撲が一番多いが,時には手足の骨折を診ることもあるし,たとえ手足に骨折があっても頭のほうに急性硬膜下血腫や脳挫傷があればそちらの方を優先するので入院してもらうことになる.

 頭骸骨にひびが入っただけだったり,頭皮が切れたりしただけでも酔っていて意識がはっきりしないと経過観察のために入院してもらうことになる.中には泥酔して名前も言わないので身元不明で入院する人もいる.

 その次に多いのが酒を飲んでいて意識を失ったという人だ,これには色々な原因があって,実は転んで頭をぶつけていて脳震盪だったというのから癲癇発作や心筋梗塞による心室性不整脈というのまであって,発症時の状況がよくわからないと入院してひと通りの検査が必要になり結構面倒なことになる.

 脳挫傷などでの意識障害から不穏状態になっているのなら仕方がないが,それとは別に病院に運ばれて来ても酔って暴れる人が結構いるので,夜中に起こされてその相手をさせらるのは非常に迷惑だ.こんな人が救急車をタクシー代わりに使い,急病の人と同じに診てもらえるのだから病院は酔っぱらいにとって天国みたいな所だろう.
『向精神薬:生活保護受給者の処方薬ネット転売 男追送検へ

 生活保護受給者に病気を装わせ、処方された向精神薬をインターネットで転売したとして、神奈川県警薬物銃器対策課は週内にも、同県横須賀市久比里、無職、大沢広一被告(41)=覚せい剤取締法違反などで起訴=を麻薬及び向精神薬取締法違反(営利目的譲渡、所持)などの疑いで横浜地検に追送検する方針を固めた。大沢被告が大阪市西成区あいりん地区の生活保護受給者から仕入れた向精神薬などを3年間で約200人に転売し、2000万円近く売り上げたとみて調べる。

 捜査関係者によると、大沢被告は09年11~12月、向精神薬約1000錠をインターネットで知り合った宇都宮市の男性会社員(37)ら5人に約12万円で販売した疑いがある。

 大沢被告の知人で別の覚せい剤事件で逮捕された大阪市港区の無職の男(53)が、暴力団関係者を通じてあいりん地区の生活保護受給者に向精神薬の入手を依頼。医療機関で「眠れない」などとウソの申告をさせていたという。安価で向精神薬を買い取り、大沢被告に卸していたとみられる。県警はこの男についても立件を視野に調べを進めている。

 生活保護法では、生活保護受給者は福祉事務所発行の医療券を使うと指定医療機関で投薬や手術などが無料になる。大阪市によると、西成区の生活保護受給者は10年2月時点で約2万7000人。08年度決算で生活保護費のほぼ半分が医療費に充てられていた。』

 生活保護受給者の一部の人だろうし,生活保護受給者にかぎらないのだろうが,いままでほとんど受診歴がないのに外来にやってきて睡眠導入剤や精神安定剤の処方を希望する人がいる.そういう人たちは大抵は薬の銘柄まで指定することが多い.病院慣れしていて口のきき方も横柄だから,なんとなく厭な感じを周囲に与えるので大体わかるものである.

 最近は市内の病院ではブラックリストみたいなものが流れていたりするので,それに載っていればすぐにわかるから問題なく追い返せるのだが,そうでない場合は怪しいとは思いながらもいくらかの薬を処方するのが普通だろう.あまりにしつこくて外来に支障が出ても困るので適当なところで納得する程度の薬を渡すしかないということもあるし,そもそも処方された薬を横流ししているかどうかを確認することは不可能に近いから処方を拒否する事もできないのだ.

 希望する薬は悪用される恐れがあるので他の薬を処方しようとすると,それならいらないと怒り出したあげく病院や医師に対して悪態をついたりする者までいる始末だ.これは昼間の外来でも相当迷惑な話だが,夜間に救急車でやってくる者までいるのだから非常識きわまりない話である.世の中いろんな人がいるということは理解しているつもりなのだが,まだまだ下には下がいるということを時々痛感させられるのだから恐れ入るしかないのである.
『たん吸引、理学療法士や作業療法士にも解禁へ

 厚生労働省の「チーム医療の推進に関する検討会」(座長・永井良三東京大教授)は19日、医師、看護師のほかは認められていない患者のたん吸引について、リハビリテーションを担う理学療法士や言語聴覚士、作業療法士にも解禁すべきだという報告書をまとめた。同省は4月にも通知を出し合法化する。

 人工呼吸器の管理をする臨床工学技士も含めて四つの医療職が対象になる。同省の統計では、2008年10月1日現在、計約9万8千人が医療機関で働いている。

 呼吸や言葉の訓練や食事の練習などで、たんの吸引が必要な場合があるが、各資格を定めた現行法では、医療行為の明確な規定がない。臨床工学技士は、指針で「吸引の介助」のみが認められてきたが、ほかの資格では「できない」と解釈されていた。

 今回、合法化することで医療サービスの質が向上するだけでなく、人工呼吸器をつけて在宅で療養生活をする小児や高齢者の介護を支える戦力が増えることになる。

 報告書では、介護の現場で大きな課題になっているヘルパーら介護職員による、たんの吸引や、チューブ栄養などの医療行為についても、「早急に検討すべきだ」と明記された。

 さらに、従来よりも高度な医療行為ができる新しい看護職種「特定看護師」の試験的な導入についても認めた。同省では新年度から新たな有識者による検討を始め、試行を経て早ければ、3年をめどに法制化も検討する。

 人工呼吸器をつけたり呼吸機能が弱ったりしている患者は自分でたんを出せない。多い時は1時間に1回は吸引が必要になる。放置すれば窒息や誤嚥性(ごえんせい)肺炎などの危険もある。

 のどにたんの吸引のための管を入れるのは「医療行為」とみなされ、現在は原則として医師、看護師以外は、特例として患者の家族や一定の限られた条件下でしか認められていない。』

 理学療法士,言語聴覚士,作業療法士そして臨床工学技士もそうだが,レントゲン技師にも喀痰吸引を許可するべきだと思う.医療の現場ではリハビリテーション中だけでなくMRIなどの検査中にも喀痰の吸引が必要になることがよくあるからである.

 気管内挿管されていたり気管切開されている場合には喀痰吸引はそれほど難しいことではないから,生命の維持に一番大切な気道確保のための処置は当然みとめられるべきだろう.そう考えると,緊急時には誰でもやるべきであるABRなどと同等の救急処置ではないだろうか.

 一方で,挿管されていなかったり,気管切開されていない場合は吸引管をうまく気管に入れて喀痰吸引するには熟練を要するものであり,たとえ医師や看護師でもうまくできないことも珍しくはないから,理学療法士にできなければいけないというものでもないと思う.

 だから実際には許可されたからといって業務として必ずやらなければいけないというのではなく出来る範囲で対応するという程度でやってもらえばいいだろう.そうすることによってリハビリテーションや検査中にいちいち看護師を呼びに行く手間が省ければ業務が効率的になることだろう.

 特定看護師の件も賛否両論があったようだが,医師でなくても出来ることをパラメディカルが分担してやってくれれば私としては大助かりなのだが他の医師や看護師はどう思うのだろうか.
医師の心が折れたから医療が崩壊したのでは?
『ネットで医師暴走、医療被害者に暴言・中傷

 医療事故の被害者や支援者への個人攻撃、品位のない中傷、カルテの無断転載など、インターネット上で発信する医師たちの“暴走”が目立ち、遺族が精神的な二次被害を受ける例も相次いでいる。

 状況を憂慮した日本医師会(日医)の生命倫理懇談会(座長、高久史麿・日本医学会会長)は2月、こうしたネット上の加害行為を「専門職として不適切だ」と、強く戒める報告書をまとめた。

 ネット上の攻撃的発言は数年前から激しくなった。

 2006年に奈良県の妊婦が19病院に転院を断られた末、搬送先で死亡した問題では、カルテの内容が医師専用掲示板に勝手に書き込まれ、医師らの公開ブログにも転載された。警察が捜査を始めると、書いた医師が遺族に謝罪した。同じ掲示板に「脳出血を生じた母体も助かって当然、と思っている夫に妻を妊娠させる資格はない」と投稿した横浜市の医師は、侮辱罪で略式命令を受けた。

 同じ年に産婦人科医が逮捕された福島県立大野病院の出産事故(無罪確定)では、遺族の自宅を調べるよう呼びかける書き込みや、「2人目はだめだと言われていたのに産んだ」と亡くなった妊婦を非難する言葉が掲示板やブログに出た。

 この事故について冷静な検証を求める発言をした金沢大医学部の講師は、2ちゃんねる掲示板で「日本の全(すべ)ての医師の敵。日本中の医師からリンチを浴びながら生きて行くだろう。命を大事にしろよ」と脅迫され、医師専用掲示板では「こういう万年講師が掃きだめにいる」と書かれた。

 割りばしがのどに刺さって男児が死亡した事故では、診察した東京・杏林大病院の医師の無罪が08年に確定した後、「医療崩壊を招いた死神ファミリー」「被害者面して医師を恐喝、ついでに責任転嫁しようと騒いだ」などと両親を非難する書き込みが相次いだ。

 ほかにも、遺族らを「モンスター」「自称被害者のクレーマー」などと呼んだり、「責任をなすりつけた上で病院から金をせしめたいのかな」などと、おとしめる投稿は今も多い。

 誰でも書けるネット上の百科事典「ウィキペディア」では、市民団体の活動が、医療崩壊の原因の一つとして記述されている。

 奈良の遺族は「『産科医療を崩壊させた』という中傷も相次ぎ、深く傷ついた」、割りばし事故の母親は「発言することが恐ろしくなった」という。

 日医の懇談会は「高度情報化社会における生命倫理」の報告書で、ネット上の言動について「特に医療被害者、家族、医療機関の内部告発者、政策に携わる公務員、報道記者などへの個人攻撃は、医師の社会的信頼を損なう」と強調した。

 匿名の掲示板でも、違法性があれば投稿者の情報は開示され、刑事・民事の責任を問われる、と安易な書き込みに注意を喚起。「専門職である医師は実名での情報発信が望ましい」とし、医師専用の掲示板は原則実名の運営に改めるべきだとした。ウィキペディアの記事の一方的書き換えも「荒らし」の一種だと断じ、公人でない個人の記事を作るのも慎むべきだとした。

 報告の内容は、日医が定めた「医師の職業倫理指針」に盛り込まれる可能性もある。その場合、違反すると再教育の対象になりうる。』

 開業医の利益を守ることが大切な医師会のこの見解は,クレーマー患者の矛先が医師会へ向くのをかわすのには効果的かもしれないが,同時に,匿名性を否定することによって勤務医による医師会への批判も押さえ込もうという意図はないのだろうか.

 問題にされていると思われる医師専用掲示板の利用規約には,
『第1条(サービスについて)
Doctors Community(以下「掲示板」といいます)は、エムスリー株式会社(以下「弊社」といいます)が、「エムスリーサービス」の会員のうち日本の免許を有する医師および弊社が認める医師のみ(以下「会員」といいます)に提供するサービスのひとつです。

第3条(掲示板の内容に関する著作権の帰属・転載の禁止)
会員は、掲示板に投稿をする場合には、当該投稿に関する著作権(著作権法第27条および第28条に定める権利を含む)を弊社に譲渡したとみなされることに同意するものとします。

会員は、掲示板になされた投稿に関し、弊社の許諾を得ずに、掲示板外に転載し、または第三者に開示しないものとします。』

とあるので,この規約に違反するものがいなければ本来は会員以外の医師が知り得ないことであるし,たとえマスコミが知り得ても掲示板外に転載したり,第三者に開示できないはずなのに,その内容についてニュースになっているのはどういう訳なのだろうか.

 ユーザーが限定されている掲示板で何を発言しても,その掲示板の会員間の問題であって,会員資格のない者が外部でそれについて発言するのはおかしな話である.だから,この記事の中で医師専用掲示板に関する部分は削除されるべきだろう.

 市民団体の活動が,医療崩壊の原因の一つだったりする可能性は否定できないし,奈良の遺族が『産科医療を崩壊させた』とか,割りばし事故の両親が「医療崩壊を招いた死神ファミリー」「被害者面して医師を恐喝、ついでに責任転嫁しようと騒いだ」のが事実かどうかは知らないが,これらの事件に関してマスコミの書いた記事を読んで,心が折れた医師が現場を離れていくことが医療崩壊を招いていることは事実ではないだろうか.

 ネットの使い方にもルールやマナーがあるのは当然のことだが,私的な利用というのも当然あるわけで,利用自体が違法な手段によるのでなければ別に問題はないだろう.

 「医療被害者、家族、医療機関の内部告発者、政策に携わる公務員、報道記者などへの個人攻撃」が違法であれば,それは掲示板の内容を転載したり,個人を中傷する発言をした医師個人の問題で,だからといって「医師専用の掲示板は原則実名の運営に改めるべきだ」というのは論理に飛躍がありすぎるだろう.なぜなら「医療被害者、家族、医療機関の内部告発者、政策に携わる公務員、報道記者」と同様にたとえ「専門職である医師」であっても発言に対する個人攻撃や中傷からは身を守る必要性があるからである.

 医師だから何を言っても許されると思っている人がいないのと同様に,医師も他の職種の人と同様の権利を持っているのである.裁判で有罪となったわけでもないのに実名で報道され,医師として働けなくなった人たちに医師会やマスコミが一体何をしてくれたというのであろうか.自分の身を守るために自由な発言が出来ないというのは一種の言論弾圧にはならないのだろうか.

 この記事のように判決で医師の過失はないとされた事件を引き合いに出しておきながら,いまだに可哀想なのは患者側で悪いのは医師側という立場のマスコミでは被害者意識を持ち続け医師に恨みを持つような一部のモンスター市民には受けるかもしれないが,まじめに働いている医師や地域の病院を信頼している良識ある市民には医療崩壊の片棒をかつぐものとして迷惑がられるだけではないだろうか.

 医療はあくまでも患者があってこそ成り立つものだし,多くの医師は患者の生命を救うという崇高な精神で働いていると思うが,患者から信頼されたり感謝されないだけでなく結果が気にくわなければ刑事訴訟までされるというのでは,産科や救急などの過酷な労働環境でモチベーションを維持することができなくなるのも当然だろう.

 医療ミスではないのに逆恨みする家族や,それに乗じて現場の医師の心を傷つけるような報道をするマスコミこそ“暴走”していると思えるのだがどうだろうか.
『奈良の妊婦死亡、遺族請求棄却 大阪地裁「担当医に過失なし」

 奈良県大淀町立大淀病院で出産時に意識不明となり、相次いで転院を断られた後に死亡した高崎実香さん=当時(32)=の夫晋輔さん(27)らが、町と担当医に約8800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁は1日、「担当医に過失はなかった」として遺族側の請求を棄却した。

 遺族側は「意識を失った時点で脳内出血を疑い、適切な処置をしていれば救命はできた」と主張していた。

 判決理由で大島真一裁判長は「脳の検査より転送を優先した担当医の判断に過失はない」と指摘、「症状の進行は急激で、担当医が最善の処置をしたとしても救命はできなかった」と判断した。

 判決によると、2006年8月8日未明、分娩のため入院していた大淀病院で意識不明になり、約20の病院から受け入れを断られた後、転送先の大阪府吹田市の病院で男児を出産したが、8日後に脳内出血で死亡した。』

『転院拒否で妊婦死亡、遺族の賠償請求を棄却

 奈良県大淀町立大淀病院で2006年8月、出産時に脳内出血で意識不明となった高崎実香さん(当時32歳)が相次いで転院受け入れを拒否された末、搬送先の病院で死亡した問題で、夫の晋輔さん(27歳)と長男、奏太ちゃん(3)が「主治医の判断ミスで転院が遅れた」として、町と主治医に計約8800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が1日、大阪地裁であった。

 大島真一裁判長(島村雅之裁判長代読)は「主治医に過失はなかった」などとして原告側の請求を棄却したが、「人の命の大切さをもう一度考え、救急医療や周産期医療の充実を求めたい」「産科医が一人しかいない『一人医長』問題への対策を期待する」などと異例の付言をした。

 判決によると、実香さんは06年8月8日午前0時過ぎ、同病院で分娩(ぶんべん)中に頭痛を訴えて意識を失い、午前1時40分頃にけいれんを起こした。主治医は午前1時50分から転院先を探し、実香さんは午前6時頃、大阪府吹田市の国立循環器病センターに搬送されたが、奏太ちゃんの出産後に死亡した。』

 判決そのものは妥当なものだが,このケースで救急医療や周産期医療,そして『一人医長』問題まで論ずるのはかなり無理があるし,いまだに「転院拒否で妊婦死亡」という見出しをつけているマスコミに至っては,この事件を一方的な視点から報道して医療崩壊を加速させたことに対する反省などまるで感じられない.「転院拒否」ではなく「受け入れ不能」というのが事実だろう.

 問題はこの判決が出ても主治医の受けた傷はそう簡単には癒えないということと,ましてや救急医療や周産期医療の現場に与えたダメージの回復は簡単ではないということだろう.たとえ被害者意識で固まってしまった家族を救うことができないとしても,このまま救急医療が崩壊していくのだけは食い止めないといけないだろう.

 テレビドラマでもやっていたが,主治医が患者や家族のためと思ってやった事でも,それを理解できずに文句を言うクレーマー家族がいることをこれほど明確に示して医師の心に刻み込んだ事件はないだろう.現場の医師は,どこにでもクレーマー家族が潜んでいて,それを煽るマスコミもいるということを意識しないといけなくなってしまったのだ.

 この事件以前は他の病院での受け入れ不能による救急車からの搬入依頼なんていうのは珍しい事だったのだが,最近はそれもあたり前になってきた.そうして救急患者が集中することにより,今度は自分の病院も満床で受け入れ不能になることが多くなってきた.最近,救急患者受け入れの広域連携事業なんていう話が聞かれるようになったのも救急患者を診ない病院が増えたためらしい.

 患者が医師に不信感を持ちながら持ちながら病院に来るなんていうのは馬鹿げた話だと思うのだが,こんな事が訴訟になるようでは救急当番なんてやってられないという病院が多いのだろう.

 

『「特定看護師」創設、モデル事業実施へ

 厚生労働省の「チーム医療の推進に関する検討会」(座長=永井良三・東大大学院医学研究科教授)は2月18日、第10回会合を開き、同省がこの日示した報告書の素案について協議した。素案では、看護師の業務範囲を拡大するため、現行法の医師の「包括的指示」のもと、侵襲性の高い特定の医療行為を担う「特定看護師(仮称)」を創設することが盛り込まれ、大筋で了承された。焦点となっていた「ナースプラクティショナー」については、特定看護師の評価を踏まえ、今後、資格化の是非を検討する。また、「フィジシャン・アシスタント」の導入に関しても、「引き続き検討することが望まれる」としている。同省では、来年度からモデル事業を実施する方針で、年度内に報告書を取りまとめた後、大分県立看護科学大など、先行して高度な看護師を養成している大学院を選定するため、その要件の作成に着手する。

 素案によると、特定看護師の要件は、▽看護師免許を保有▽看護師としての一定期間以上の実務経験(例えば5年以上)▽特定看護師の養成のため、新たに設立する第三者機関が認定した大学院の修士課程を修了▽修士課程修了後、第三者機関による知識・能力の確認及び評価―の4項目。認定については、必要とされる専門性に応じて一定の分野ごとに行い、臨床実践能力を確保する観点から、一定期間(例えば5年)ごとに認定を更新すべきとしている。
 養成課程を認定する際には、医師などの実務家教員や実習病院の確保、実践的なカリキュラムの策定といった指導体制の整備に加え、質と量の両面で充実した臨床実習が行える環境に留意すべきとしており、専門職大学院のような教育機関を想定している。モデル事業を検証し、特定看護師による医行為の安全性が評価された場合は、現行の保健師助産師看護師法を改正し、特定看護師の医行為を法律上で明確に位置付ける。
 一方、日本看護協会が認定する「認定看護師」については、現在の教育課程(6か月・600時間以上)を見直した上で、限定的な領域で特定看護師に位置付ける方向で検討すべきとしている。それにより、新たな職種の不足など、制度化に伴う現場の混乱を回避する。

 素案では、これまで法律上の「グレーゾーン」とされてきた業務内容のうち、特定看護師に期待される特定の医行為を例示した。特定の医行為は次の通り。

 ◆検査など ▽患者の重症度の評価や治療の効果判定などのための身体所見の把握や検査▽動脈血ガス測定のための採血など、侵襲性の高い検査の実施▽エコー、胸部単純エックス線撮影、CT、MRIなどの実施時期の判断、読影の補助など(エコーについては実施を含む)▽IVR時の造影剤の投与、カテーテル挿入時の介助、検査中・検査後の患者の管理など
 ◆処置 ▽人口呼吸器装着中の患者のウイニング、気管内挿管、抜管など▽創部ドレーンの抜去など▽深部に及ばない創部の切開、縫合などの創傷処置▽褥瘡の壊死組織のデブリードマンなど
 ◆患者の状態に応じた薬剤の選択・使用 ▽疼痛、発熱、脱水、便通異常、不眠などへの対症療法▽副作用出現時や症状改善時の薬剤変更・中止 』

 今までのところ上記医療行為を医師と同等のレベルで実施できそうな看護師にお目にかかったことはないから,現状を頭に思い浮かべて議論してはいけないのだろう.

 脳外科医にとっては気管内挿管やドレーンの抜去や創傷処置なんていうのは,研修医でもできる雑用みたいなものだからこれらをちゃんと責任を持って代行してくれる看護師さんがいれば研修医がいない多くの脳神経外科の病院は本当に助かることだろう.ついでに気管切開のカニューレ交換とIVHのカテーテル留置もやってくれるとありがたい.

 だが,このために新たに臨床実習をするということは指導する医師にとっては大変なことだろうし,特定の医療行為とはいえ侵襲性の高い処置にはリスクがつきものであるから,事故が起きた際に責任が医師にも及ぶのであれば自分でやったほうがいいという医師も多いことだろう.

 とは言え,診断を下し,治療方針を決定し,手術をしたら,あとは特定看護師さんが責任を持って身体所見の把握や検査,術後の処置や呼吸管理,そして患者の状態に応じた薬剤まで使用してくれるというのだったら私にはとても都合のいい話のように思えるのだが,はたしてどの程度ものになるのだろうか.あまり期待はせずに待つことにしよう.
外傷性低髄液圧症候群 - その後の状況
 今回の学会は色々な意味で今までとは雰囲気がちょっと違った感じで興味深かったのだが,第3日目A会場の午前の部を全て費やして開催された - 特別企画3 関連学会Update いま何がホットか - というセッションは短時間で脳神経外科とその周囲の問題の現状が理解できる大変優れた企画だった.

 10の関連学会の中で日本神経外傷学会からの報告に「外傷性低髄液圧症候群」についての研究の進捗状況が発表されていた.我が国の症例を海外と比較すると,「症例数が海外の15倍以上.交通事故が原因である比率が高い.漏出の大部分が腰仙部.起立性頭痛の頻度が低い.Gd硬膜増強の頻度が低い.転帰が不良.」などの特異性があり,我が国で外傷性低髄液圧症候群と診断されている病態には神経症・うつ状態,慢性疲労症候群,頚椎捻挫・外傷性頚部症候群,緊張性頭痛・その他の頭痛,などが混在しているらしいことが述べられていた.

 会場から健康保険診療についての質問があったが,病態がはっきりしていないものに健康保険を適用することは厚労省が認めないとのことだった.現在は,病態をはっきりさせるべく調査を進めている最中とのことで,本邦の外傷性低髄液圧症候群も典型例は欧米並に少ない?らしいとの話で終わったが結論はまだ出ていないようだ.

 交通事故の際に治療費の問題で「事故による外傷性低髄液圧症候群」かどうかが裁判で争われているニュースが以前にあったが,ネットで少し調べてみたところでは最近はいわゆる典型例以外は裁判官も認めなくなってきているようで,今回の学会で報告されたように典型例のみを「外傷性低髄液圧症候群」と診断する方向で社会的なコンセンサスが得られるようになるのかもしれない.

 本日の脳神経外科学会のシンポジウム1のタイトルだが,こんなことが学会のシンポジウムになるほど事態は深刻になってきているということなのだろう.学会のアンケートでは専門医の平均労働時間は現状では64.4時間だそうだが,厚生労働省が言うところの40時間労働で同じ業務をこなすには64.4×4430÷40=7132(人)が必要で,7132-4430=2702(人)不足ということになるそうだ.

 確かに現在の1.5倍の人数がいれば専門医は定時に帰宅できるようになるかもしれないが,そもそも脳外科医が今後増えるなんてことは期待できないし,高齢化に伴い患者が増加する一方で脳外科医は退職者が増えるわけだから,今と同じ業務を続けることはいずれ不可能になることだろう.人口動態からは2030年が患者数のピークになるそうだ.

 問題はこれをどう解決するかということだが,脳卒中患者を神経内科と脳外科にうまくふり分けたり,事務職や看護師などのパラメディカルスタッフを増員して脳外科医の仕事量を減らすということが考えられているようである.では,脳外科医を増やすにはどうすればいいのかというのもあるが,ドクターズフィーの導入は現実的ではなさそうだった.

 以前に医師を地方に計画配置すればいいと言っていた読売新聞の記者が今回は心臓外科関連学会の施設集約の例を引き合いに色々言っていたが,脳外科の現場のことがわかっているとは思われなかったし,わからない故に脳神経外科学会に今後の対策を説明するように求めているようだったが,施設を集約しても脳外科医の仕事量が減るわけでもないし,ひたすら安い医療費で世界最高レベルの医療を希望する国民に説明しても得られるものはなさそうで,発言が確かに患者目線だということが理解できただけだった.

 現場で救急患者を診ている脳外科医として言いたいことは色々あるが,特に有効な解決法も思い浮かばない私としては力尽きるまであるいは絶滅するまで脳外科医を続けるしかないが,2030年までは働いているに違いない.しかし,これから労働条件がまだ悪化するのかと思うとどうやって本当に脳外科医として必要な仕事以外から逃れるかを考えないと脳外科医としてやっていけなくなるような気がしてきた.
『新型インフル、49歳男性死亡

 北九州市は1日、新型インフルエンザに感染した同市八幡東区の男性(49)が死亡したと発表した。男性には基礎疾患がなく、直接の死因は多臓器不全だった。インフルエンザの治療薬は投与されていなかったという。厚生労働省によると、新型への感染が確認されたか、疑われた患者の死亡は全国で20人目。

 市によると、男性は9月中旬から呼吸が苦しいなどの不調があり、同月21日、発熱で出張先の福岡県外の医療機関を受診。39度7分の熱で肺炎を発症していた。インフルエンザの簡易検査では陰性だった。入院を断って北九州市に戻り、22日未明に市内で受診した際には肝・腎機能障害を併発していた。集中治療室で治療を受けたが30日朝、死亡したという。遺伝子検査で翌1日に、新型インフルエンザの陽性が確認された。

 北九州で診察した医師は簡易検査で陰性だったと聞き、腎障害など発熱以外の症状もあったため、インフルエンザとは考えず、再度の検査やタミフルなど治療薬の投与はしなかったという。遺伝子検査の検体は25日に採取したが、「遺伝子変異がないかを確認するためで、緊急性はない」と伝えていたため、結果が出たのは6日後だったという。』

『新型インフル感染40歳代女性が死亡

 堺市は6日、新型インフルエンザに感染した市内の40歳代の女性が4日午後に死亡したと発表した。新型インフルに感染した、または感染が疑われる患者の死亡は全国で21人目。直接の死因は、致死性が強い劇症型A群溶連菌感染症による多臓器不全で、新型インフル感染との関係は不明という。女性には高血圧症の基礎疾患があった。

 市によると、9月29日からのどの痛みやせき、発熱などの症状があり、今月2日に入院。3日からタミフルを服用していた。インフルの簡易検査で3度、陰性だったが、死後の遺伝子検査で新型インフルの感染が確認された。』

『新型インフルエンザ重症例で目立つ発症初期の「簡易検査A型陰性」

 これまで確認された新型インフルエンザ感染者の死亡例の経緯をみると、発症初期に「簡易検査でA型陰性」だった事例が5例ほど確認できた。

 1例目の50代男性(心筋梗塞の既往、慢性腎不全で透析)の場合、8月9日に咽頭通や咳の症状があり、10日に受診したが、その時点で37℃台で、簡易検査ではA型陰性だった。12日に簡易検査でA型陽性となり、タミフルによる治療を受けていた。

 2例目の70代男性(肺気腫、糖尿病、高血圧の基礎疾患。糖尿病による腎不全で週に3日、腎透析)の場合は、8月16日に38℃の発熱、倦怠感、軽い咳、息苦しさがあった。17日午前に市内の医療機関を受診した際、迅速診断キットの結果はA型陰性だった。そこでは「肺炎疑い」と診断されたが、状態不良のため、精査目的で市内の病院を紹介された。

 その後、同日午後に、紹介先の病院へ入院。急性気管支炎による肺気腫の悪化と診断された。発熱、呼吸困難、全身倦怠感の症状があり、再度、迅速診断キットを実施したところ、A型陽性となったため、タミフルを投与し、抗生剤を点滴された。

 4例目の新型インフルエンザ疑い例(70代女性)の場合は、8月24日に38.5℃の発熱。しかし、簡易検査ではA型もB型も陰性だった。この時点で胸部X線検査を実施したが、肺炎の所見はなかった。25日に呼吸困難、40.4℃の発熱があり、この段階で簡易検査でA型陽性となった。酸素吸入に入るが同日午前10時23分に死亡した。

 5例目の30代男性(慢性心不全 糖尿病 気管支喘息 アトピー性皮膚炎)の場合は、8月20日に咳、水様性下痢、食欲低下があった。8月23日に発熱(37.9℃)があり、市内医療機関受診。症状が改善しなかったため、25日に自宅近くのかかりつけの医療機関を受診。市内医療機関を紹介され、再度、同医療機関を受診したところ、慢性心不全と肺炎のため入院となった。この時点で、インフルエンザ迅速簡易検査ではA型陰性だった。

 26日朝に状態が悪化したため、人工呼吸器を装着しICUで治療が開始された。この時点でも、インフルエンザ迅速簡易検査ではA型陰性だった。

 6例目の60代女性(消化器がん術後)の場合も、27日に発熱(38℃)、咽頭痛、咳、鼻汁があった。28日に近医を受診、そこでは迅速診断でA型もB型も「陰性」だった。入院し人工呼吸器の装着となったが、29日未明に死亡した。なお、28日にPCR検査により、新型インフルエンザ陽性を確認している。

 このほか死亡には至っていない重症例においても、たとえば沖縄県で確認された重症化例の中には、病初期における簡易キット検査でA型陰性と判定され、その後の検査でA型陽性に転じた例が報告されている。このため、沖縄県は重症例の発生に伴い、医療機関に対して、インフルエンザ症状のある患者で新型インフルエンザが疑われる場合は、簡易検査の結果にかかわらず、抗インフルエンザ薬による治療を検討するよう求めた。また、状況によっては再検査の必要性についても留意するよう求めていもいる。

 日本臨床内科医会のインフルエンザ研究班のメンバーである原土井病院臨床研究部部長の池松秀之氏は、特にハイリスク群と言われる人では、「発症初期にインフルエンザ診断を簡易検査に頼るのは危険だ」とし、「症状優先」で取り組むべきと指摘している。』

『Q 新型インフルエンザの特徴は?

 A 季節性インフルエンザと同様、突然の熱やせき、鼻水、関節痛などの症状が出ます。海外のデータでは症状が重くならない弱毒性で、熱がほとんどない患者もいます。早期発見し、タミフルやリレンザなどで治療すれば、重症化は避けられます。

しかし、タミフルやリレンザは、発症してから48時間以内に服用しないと、効果を発揮しませんので、発熱などの症状がでましたら、すぐに発熱相談*に電話し、指示を仰ぎ診察を受けてください。(*注:現在は発熱相談に電話の必要性はないようです.受診予定の病院に電話して相談したほうがいいかもしれません.)

今の新型インフルエンザの特徴として分かってきているのは、下痢や腹痛などの症状が多く、必ずしも高熱がでるわけではない場合もあるそうです。なので、下痢や腹痛がある場合、熱がなくても新型インフルエンザを疑ったほうがいいかもしれません。

そして、慢性疾患を抱える患者さんや、妊婦の方、糖尿病の人はその症状が重症化する恐れがありますので、細心の注意が必要です。』

 シルバーウィークの影響で病院の受診者数が減ってるとはいえ,私の周囲でもスタッフに陽性者がすでに出ているし,娘の小学校でもついに学級閉鎖が始まっているから流行しているということなのだろう.相変わらず内科の外来には簡易検査を求めて受診する人が多いようである.

 私自身も高熱などの症状がなければ簡易検査でさえ受けようなどとは思わないが,下痢や腹痛だけで熱がない場合もあるなんて言われるともうどうしてよいかわからない.感染していて入院中でも簡易検査では陰性なのが21%もあるというデータもあるそうだし,ハイリスク群で簡易検査陰性の場合は治療開始が遅れて重症化することが多いようだ.

 結局のところ簡易検査に頼らず症状優先で治療するというのであれば,簡易検査はタミフルなどの治療薬を投与するかどうかを決める目安になるだけということになるのだろうか.ハイリスク患者であれば症状だけで治療薬を投与するべきだろうが,特に既往歴が無く簡易検査陰性であれば48時間以上経過して重症化してしまってからでは治療薬も効果がないわけで,臓器障害への対症療法しかないのだろう.

 こうなると頼りはやはりワクチンだが,いまだに具体的な接種予定についての連絡がない.やっぱり間に合わないような気がするのだがどうなることやら...

『 新型インフル「陰性証明」求め無用受診殺到

 新型インフルエンザの流行が広がる中、「感染していない」証明のために簡易検査を求める人の受診が相次ぎ、医療現場で混乱を招いている。

 幼稚園や保育園、学校、会社などが、感染の拡大を恐れ、検査を受けるよう求めるためとみられるが、医師らは「少しの発熱で受診して、医療機関で逆に感染したり、重症者の治療が遅れたりする危険もある」として、無用な検査受診をしないよう訴えている。


 東京・文京区の森こどもクリニック。新型インフルエンザが増え始めた夏ごろから、「微熱程度でも、幼稚園に行くのには、検査で陰性の証明が必要と言われた」「子どもの発熱がインフルエンザでないという検査結果がないと、夫が出社できない」などの理由で受診する例が増えた。

 インフルエンザは高熱やせきなどが特徴だが、症状から明らかに違う人もいる。森蘭子院長は「検査は不要と説明して理解いただくのに時間がかかり他の患者の待ち時間も長くなる」とため息をつく。さいたま市で先月開かれた日本外来小児科学会でも、全国の医師から同様の声が上がった。

 同区教育委員会は「季節性インフルエンザなどでも治癒証明書は求めているが、検査結果を必要とはしていない」と話す。文部科学省でも「出席停止などは校長の判断だが、検査は指導していない」としている。

 大阪府門真市のばば小児科でも9月に入り、「幼稚園のクラスで感染者が出て、園から検査を求められている」「家族が感染したので、子どもにうつっていないか、保育園に証明を出さなければならない」などの受診が増え、これまでに約30人を検査したという。だが、「簡易検査キットが不足し始めている。出荷を制限せざるを得ないかもしれない」と、検査機器業者に聞かされ、症状がない人の検査は行わないことを決めた。

 沖縄県では、検査などを求める受診者の増加が医師の負担につながるとして、先月中旬、「完治証明書などは必要ありません」との県知事メッセージを発表。症状のない人の受診を控えるよう求めている。

 そもそも、簡易検査で陰性だからといって、「感染していない」ことの証明にはならない。米疾病対策センター(CDC)によると、感染していても陽性となる確率は10-70%。感染当初は検査しても陰性に出ることも多い。

 日本小児科学会長の横田俊平・横浜市立大小児科教授は「このままでは検査キットが足りなくなり、ピーク時に重症の患者の検査に使えなくなる危険もある。必要のない検査は控えてほしい」と呼びかけている。』


 まったく馬鹿げた話だが,医師の証明書があれば感染しないとでも思っているのだろうか.そもそも検査が必要かどうかは医師が判断することで希望に従ってするものではないだろう.意味のない検査をして流行時に検査ができなくなってもいいのなら別にかまわないが,その時になって気がついても困るのは自分たちだということは知らないらしい.

 癌や心臓病や脳卒中に比べればはるかに死亡率の低く,ほとんど季節性インフルエンザと差がないものに何を大騒ぎしているのだろうか.情報が正確に伝わらないから正常な判断ができないのだろうが,無知ゆえに過剰に反応してしまう人たちにも問題があるのだろう.

 先日,我が家にも小学校から印刷物が届き,「熱があったり,風邪のような症状がある場合は病院にかかってください.」みたいなことが書いてあったが,これでは普通の風邪との違いはないわけで,なんでもいいから気になったら病院へ行くように勧めているのと同じように思えた.

 もっとも,モンスターペアレントのことも考えたらこんな表現しか出来ないのかもしれないが,結局は親の判断にまかせるしかないわけで,なんとなく心配だから受診し,検査が陰性で安心するという短絡的な思考がまん延することになっているのではないだろうか.

 わが国の健康保険は無駄な診療ができるほどの保険料があるわけではないし,医師の数だって十分なわけではないのでコンビニ受診どころか無用受診なんてする余裕はないはずだが,そんなことを言ってもわからない人たちに対しては,いずれ超過サービス分にたいして相応の自己負担をしてもらうようにしてもわなければならなくなるのではないだろうか.
 


『精神疾患、血液で判定 たんぱく質濃度指標に 大阪市大准教授らが確立

 大阪市大大学院医学研究科の関山敦生・客員准教授(43)=心身医学、分子病態学=が兵庫医科大と共同で、うつ病や統合失調症などの精神疾患を判定できる血液中の分子を発見、血液検査に基づく判定法を確立した。問診や行動観察が主流だった精神科診療で、客観的な数値指標を診断に取り入れることができる。また疾患の判定だけではなくストレスの強度や回復程度もわかるという。関山准教授は27日午後、京都市の立命館大学で開かれる日本心理学会で発表する。

 関山准教授によると、ストレスや感染などを受けて、生成・分泌されるたんぱく質「サイトカイン」の血中濃度データの差異を積み上げて分析。データをパターン化することで、心身の変調やうつ病、統合失調症などを判定できることが分かった。

 精神疾患の約8割を占めるうつ病や統合失調症について3000人近くのデータから疾患の判定式を作成。別の400人の診断に用いた結果、うつ病の正診率は95%、統合失調症は96%に達した。

 精神疾患の判定だけではなく、健常者に対するストレスの強度、疲労からの回復スピードも数値化した。80人の男女を対象に、計算作業で精神的ストレス、エアロバイクなどで身体的ストレスを加える実験を実施。いずれのストレスを受けたか100%判別することに成功し、ストレスの強度を数値で評価できる方法も見つけ出したという。

 精神疾患とともに、サイトカインと関係の深い糖尿病、骨粗しょう症などについて、早期発見を含めて診断できるように研究を進めたいとしている。関山准教授は「心身の健康管理のためのツールに成りうるのではないか」と話している。』

 この研究はストレスを定量化できるという点で画期的な手法だと思う.画像診断ではっきりした異常がないのに色々な症状がある精神科領域の患者さんには神経疾患との鑑別診断や病状説明で苦労するものだが,心身の変調やうつ病、統合失調症などを定量的に判定できれば自信を持って精神科へ紹介できるようになるだろう.また,外来で安定剤の類を何種類も投与されている患者さんについても,本当に精神疾患なのか安定剤中毒なのかを鑑別できるだろう.

 最近,覚醒剤中毒の芸能人やアルコール依存で飲酒運転をしたらしい警察官がニュースになっているが,ある意味でこういった人たちも精神を病んでいるのだろうからこのサイトカインを測定する方法で判定してみたらいいのではないだろうか.悪いとわかっていることを敢えてやる人たちなのだから,きっと異常がみつかることだろう.ついでに,いつまでも煙草がやめられない人に禁煙外来で検査してあげるのもいいかもしれない.

 もっとも,もし検査で異常がなかったら悪いとわかっている事を平気でやる人ということになり本人たちにとっては非常に都合が悪いかもしれないが...

 
 
『新型インフル:麻酔科学会を延期 医師の感染を懸念

 日本麻酔科学会(神戸市、会員約1万800人)は18日、神戸市で22~24日に開催予定の学術集会を8月に延期すると発表した。麻酔科医に新型インフルエンザ感染が広がると、麻酔が必要な外科手術ができなくなることを懸念した。集会は年1回開き、全国の麻酔科医の8割、約8000人が参加する。』

 麻酔科学会の開催予定の1週間前に脳神経外科コングレスが大阪で開催されたが,ちょうど帰ってくるころに感染者が増えたのがちょっと心配だった.もし,学会に参加した脳外科医が感染していたら大変なことになるだろうが,大丈夫だっただろうか.

 各種のイベントや高校の修学旅行までもが影響を受けているようだが,感染者に接触しないことが一番確実な予防法だろうから仕方ないだろう.もっとも,たとえ延期したところで8月だったら絶対安全ということもないだろうから,こういう時にはネットで学会をやってしまうのがいいのではないだろうか.

 10月には東京で日本脳神経外科学会総会が開催されるのだが,その頃には東京で流行しているなんてことになっていなければいいのだが...

『強制わいせつ容疑で医師逮捕=検査で女性患者に−「故意でない」と否認

 女性患者にわいせつな行為をしたとして、警視庁捜査一課と目白署は7日までに、強制わいせつの疑いで、東京都板橋区小豆沢、外科医師○○○○容疑者(53)を逮捕した。同課によると、○○容疑者は行為を認めたが、「故意ではなく、手元が狂った」として否認している。
 逮捕容疑は2004年5月28日午後、勤務していた豊島区内の病院で、大腸の内視鏡検査を受けに来た都内在住の30代女性に対し、内視鏡を使い、わいせつな行為をした疑い。
 同課によると、女性が行為に気付き、同容疑者に指摘したところ、故意を否定したという。』(実際には実名で報道されています.)

 実は私もこれをネットで「外科医を強制わいせつ容疑で逮捕 」という見出しで見かけた時は外科医にも変なのがいるなと思った程度で内容は読まなかったのだが,その後,何回も見かけるのでちょっと興味を持ったのである.

 ネットでの医師の反応は概ね内視鏡検査の偶発症としてありうる,もしくは自分も経験したという意見が多いようだが,非医師と思われる人々のネットでの意見は9割以上が「手元が狂うわけない.故意に決まっている」という調子だった.

 マスコミは警察から流された情報なのでそのまま実名報道していて構わないという判断なのかも知れないが,これが裁判で無罪になったらマスコミはどう責任を取ってくれるのだろうか.大腸の内視鏡検査なんて全国で日常的に行われているのだから,この影響は単に個人への風評被害にとどまらないということがマスコミには理解できないか,あるいはそんなことには無関心なのだろう.

 海外渡航歴がなく、新型インフルエンザ感染の可能性の低い発熱患者が、医療機関から診察を拒否されるケースが相次いでいることが問題になっているようだが,受診した患者が万が一新型インフルエンザでそれで病院がマスコミの餌食にされてしまうことが病院にとっては一番恐ろしいことではないだろうか.

 厚労省からの通達が届いたが,それを読んでも「相談センターが『疑いなし』とした患者の診療を拒否しないように」と書かれているだけで,電話で嘘の申告をした患者がコンビニ受診して病院がトラブルに巻き込まれてもどうせ何もしてくれないだろう.

 第一,新型インフルエンザでないのなら38度以下の微熱や風邪症状だけで急いで病院を受診する必要なんてないはずであるし,重症で緊急性を要する程なら感染症対策病院でもなければちゃんとした隔離もできないのである.

 話が横道にそれてしまったが,大野病院事件のおかげで産婦人科医の意識は大きく変化したし,私も少なからず手術の訴訟リスクについて考えさせられる結果になったが,患者とその家族やマスコミに対する警戒心は大きくなったことは間違いない.

 なぜ,この事件では5年も経って今年になってから警察に相談に行ったのかがよくわからないが,身に覚えがないのなら病院からコメントを出すべきだろうし,こういった偶発症について内視鏡学会ももっと一般に知ってもらうような努力をするべきではないだろうか.

 大野病院事件からも学べないマスコミにはとっくに愛想が尽きているが,いくら素人とは言え無責任なマスコミに釣られたかのように一方的に医師を非難するようなコメントを書くのはどうだろうか.事実はどうであれ,医師だって人間だということを忘れるべきではないと私は思うのだがどうだろうか.


『日経社説 レセプト完全電子化を後退させるな 3月9日

 経済社会の様々な場面でIT(情報技術)が革新し、くらしが便利になっている。だがIT化が遅れている分野もまだある。代表は医療だ。

 医療機関が患者を治療したり薬を処方したりしたときに健康保険組合などに出す診療報酬の明細書(レセプト)も、IT化はさほど進んでいない。2008年12月診療分の電子請求の割合をみると、病院は57%だが診療所は4%にすぎない。歯科の請求にいたっては、いまだにすべて紙のレセプトに頼っている。

 政府は11年度から完全に電子化すると閣議決定済みだ。ところがこの公約をほごにして「完全電子化」を「原則電子化」に変え、3月中に閣議決定し直すよう求める声が自民党内に急速に広がりつつある。

 同党の支持基盤である日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の反対運動を受けた動きだ。その理由として、専用のコンピューターシステムを導入するための投資負担が重い、高齢の医師が経営する過疎地の診療所は電子請求の作業に十分に対応できない、などをあげている。

 しかし、これらは電子化を忌避するための言い訳ではないか。診療所のシステム投資には税制上の支援策や厚生労働省の独立行政法人による低利融資がある。診療報酬政策でも電子化への加算制度を設けた。コンピューター操作に難がある高齢医師などを対象に、地域の医師会が請求を代行する仕組みも準備中だ。

 完全電子化は必ず成し遂げるべき医療制度改革の柱である。請求事務の効率化や人件費の圧縮を通じ、国民医療費の増大を抑えるのに役立つからだ。電子請求があまねく行き渡れば、病気の種類ごとに治療方法を標準化する作業にも弾みがつく。

 さらに医療機関が診療報酬を請求する過程が健保組合や患者本人にガラス張りになり、過大請求や不正請求があった場合は即座に見抜けるようになる。一部の医療関係者に根強い反対論の根っこに、ガラス張り請求への抵抗があるのだろうか。

 医療政策に影響力を持つ自民党議員のなかには、電子化を強いれば閉院を余儀なくされる診療所が出てくるので地域医療が崩壊するという声がある。小泉構造改革の負の側面だとレッテルを張り、世論の共感を得ようという思惑も見え隠れする。

 その背景には、次の衆院選で電子化への反対を掲げて医師会などの票を取り込もうとする一部の野党の戦術があるようだ。与野党の間に患者や国民の立場より圧力団体の利益優先を競う風潮があるとすれば、憂うべき事態である。』

 このIT化で制度上のメリットを受けるのは社会保険庁ひいては厚生労働省なんだろうが,直接的なメリットはPCとソフトのメーカーつまり産業界,そして,データ収集が容易になる保険業界といったところだろうか.

 では,医療機関側のメリットは何だろうかと考えてみるが,これが思いつかないのである.むしろ,導入時に始まるコスト増大や返戻時などの手間が増えてチェックに時間がかかるようになるのだろう.請求事務の効率化や人件費の圧縮なんて妄想にすぎない.

 患者側にメリットはあるかと考えても,実際のところはおそらく無いのだろう.病気の種類ごとに治療方法を標準化する作業なんて言っているが,実際は病名が同じなら治療費を一律に最低料金にすると言っているようなもので,病状に応じた治療という選択枝を奪うことにほかならない.

 患者側にとってのメリットが過大請求や不正請求があった場合は即座に見抜けるだけだとしたら,その代償に失うものを考えてみたほうがいいだろう.新たに発生するコストや手間の増加を嫌った診療所の閉院による医療の地域格差の拡大,医療費の標準化による治療内容の画一化と医療費抑制による医療レベルの低下である.

 かつて厚生労働省の考えた施策で実効性があった医療改革なんて私の記憶にないし,始めるときにはいいように聞こえても実際にやると失策で,しかも被害を被るのはいつも医療側と患者側だけなのであるから信用されないのは当り前である.介護保険制度しかり医師研修制度しかりである.

 現状では問題があるにせよ,いずれIT化されるべきであることも理解できるが,やり方が拙速なのは問題である.医療の現場は常に理屈では計れない人間というものを扱っているから,IT化すれば現在の医療の問題が解決できると思っている医師は少数派だろうし,急いで導入した拙劣なシステムによる失敗を許容できるような力はもう医療機関側には残っていないだろう.

 患者や国民の立場より圧力団体の利益優先を競う風潮と書いているが,語るに落ちるとはこのことで,医療の現場を知らずに現場の声を無視するばかりか医療不信を煽るような書き方をしてまでシステム導入を急ぎたがるのは,日経が患者や国民の立場より企業の利益を優先しているからに他ならないからだと思うのだがどうだろうか.

 


 
『市販薬:かぜ薬などネット販売禁止 施行規則を改正、6月から

 厚生労働省は6日、一般用医薬品(市販薬)のうち副作用の危険性が高い医薬品について、インターネットを含む通信販売を禁止することを決めた。同日付の省令で、薬事法の施行規則を改正した。改正薬事法が施行される6月1日以降、市販のかぜ薬などは店舗での対面販売しか認められなくなる。ただし、販売容認を求める声も強いことから、有識者による検討会を設け、今後の省令改正を含めて改めて議論することになった。

 この問題を巡ってはネット業界や内閣府の規制改革会議が「消費者の利便性を損なう」と規制に強く反発。一方、薬害被害者団体などはネットで薬を大量購入した自殺未遂例があることなどから厳格な対応を求めている。

 舛添要一厚労相は閣議後会見で「薬局や店舗に行くのが困難な方への対応策、ネットなどを通した販売のあり方について、検討会で幅広い議論をしてもらう。結論をいつまでに出すかは決めていない」と述べた。検討会は今月中-下旬に初会合を開く。

 新たな施行規則では6月から危険度に応じて1-3類に区分される市販薬のうち、主なかぜ薬や頭痛薬、胃腸薬などが入る1類と2類の通信販売を禁止。ビタミン剤や消化剤などの3類は都道府県に届け出れば通信販売が可能だ。

 業界団体の推計では、市販薬の通信販売の売り上げは年間約260億円、うち約60億円がネット注文。1、2類はネットで扱う医薬品の約3分の2を占めるという。

 改正薬事法ではこのほか、薬剤師のほかに「登録販売者」の資格が新設され、登録販売者がいればコンビニなどでも2、3類の販売ができるようになる。』

 ネットで薬を大量購入して自殺するような人は,たとえネットで購入できなくてもやるだろうし,薬局で薬剤師が副作用を説明したところで副作用の発現率が下がるわけでもないだろう.誤った使い方や副作用についての説明をちゃんと読んでから服用するようにネットで告知したってリスクは変わらない.

 そもそも,一般人が薬局で購入できる薬は普通に使用する限りでは十分に安全なものでなければならないわけで,常識に反する使用を前提とするなら薬はすべて医師の診察に基づく処方箋が必要というような話になってしまうだろう.そして,医師が説明し適切に使用されてもやはり副作用の発現率が下がるわけでもない.

 だから,この問題を購入者側の不正使用や副作用という視点で議論するのはあまり意味がないことのように思われる.厚生労働省の官僚の本当のねらいはどこか他にあるような気がするのだが,この記事からは何も見えないところをみるとどこかで議論のすり替えがされたのではないだろうか.

 もっとも,私はインターネットで薬を通販することに賛成なわけではない.市販薬なんて米国のようにドラッグストアで買えばいいと思ってはいるのだが,実際には外来で服薬指導をしても守れない人はたくさんいるのが現実である.こういう人たちに基準を合わせるなら,通販なんて無理な話だろう.

 むしろ,薬剤師の業務をもっと拡大して処方箋のためだけに病院に再診する人たちの問診と処方までやってもらうのがいいだろう.そして,副作用発現の場合も含めて医師の判断や処方の変更あるいは検査が必要な場合には診察を受けてもらえばいい.そうすれば,外来の待ち時間も診察料もかなり節約できるはずである.医師は,本当に必要な患者さんには時間をかけて診察や検査をしてそれに見合った技術料をもらえばいいだろう.

 救急医療も現状はおかしな話が多すぎる.救急外来にコンビニ受診するような人の立場で考えると,時間外なのに薬局で薬を買うよりも安い値段で医師に診てもらい,薬がもらえて,点滴までしてもらえるなら病院のほうがいいのは当たり前だろう.救急医療の崩壊を防ぎたいなら,救急外来が病院として採算がとれるまで診察料を上げて,医師に十分な報酬が払われるようにするべきだろう.

 
『臨床研修1年に短縮を提示 2010年度の導入目指す 医師不足で厚労、文科両省

 医師不足の一因とも指摘されている医師の臨床研修制度について、厚生労働省と文部科学省は18日までに、現行2年の研修期間を実質1年に短縮するなど現場で働く医師を確保する見直し案をまとめ、厚労・文科合同の専門家検討会に提示した。検討会はこうした方向で議論し、年度内にも結論を出す。早ければ2010年度からの導入を目指す。

 現行では、医師免許取得後2年間で7つの診療科の研修が必須だが、見直し案では、1年で内科や救急などの基本となる診療科の研修を終了、後半1年は将来専門とする診療科に特化させ、現場で診療も担わせる。

 また、診療科ごとの偏在を招かないよう、小児科や産科など医師不足が著しい科でも一定の研修医を確保できるよう対応を検討する。地域偏在解消については、募集定員に地域ごとの上限を設けたり、地域医療の研修を一定期間必須にすることを盛り込んだ。

 現行の臨床研修制度は04年度に導入。それまで出身大学での研修が通例だったが、導入後は研修先を選べるようになったため、症例の多い都市部の民間病院に希望が集中。研修医を確保しにくくなった大学病院が、派遣していた医師を地方の自治体病院から引き揚げる動きが相次ぎ、地方の医師不足の要因とされた。』

 要するに現場の人手不足を臨床研修を短縮して1年分繰り上げた研修医で補おうということなのだろうか.もしそうだとしても効果は1年分しか無いし,臨床研修を終えた新人医師が地域医療に向かうとも思えない.

 どこかのアンケートで医学部6年生の7割が「7割,条件が合えば勤務OK」なんて言ったそうだが,研修医になって就職活動をしてみれば条件が合う僻地なんてほとんど皆無だという現実に気づくに違いないのだ.

 少なくとも先進国では最低レベルの医療費で最低の労働環境で働いている勤務医の環境を変える事なく,研修制度を机上で書き換えたところで現実が変わる事なんてあり得ないと思うのだがどうだろうか.苦しんでいる患者さんを助けたくない医師はいないと思うが,研修を終えたばかりで大した実力もないのに僻地へ行ったところで下手をすると患者や家族に罵倒されるのがオチというのが現実ではないだろうか.

 自治体病院協議会会長が医師の地方勤務義務付けが必要とか発言して,協議会は既に自民党にこの考えを要望しているそうだが,こんなことができると考える事自体に自治体病院の体質的な問題点が透けて見えるのは私だけだろうか.医師は地方の政治家や自治体病院長が住民を喜ばすための道具ではないのだ.医師に来て欲しいのなら,まずこういう他人まかせの甘えた考え方を排して医師が気持ちよく働けるように自治体病院の改革を進めるべきだろう.

 卒後研修を大学の医局以外で受けた研修医の就職先がどのようになるのか興味はあるが,少なくとも脳神経外科に人気がでることなんてないだろうから研修制度がどうなったところで仕事にはほとんど影響はないことだろう.こんなに簡単に研修制度が変わるようだと,これから医師を目指す人たちにとっては先がますます不透明になって大変だろうが,現場の医師にとってもそれは同じ事で毎度のことだが厚生労働省のやり方をただ首を傾げて見ていることしかできないのである.
『社説:周産期センター 産科医不足解消は緊急課題だ

 24時間態勢でリスクの高い妊婦と新生児のトラブルに対応する「総合周産期母子医療センター」で、産科医不足の現実が明らかになった。東京都内の妊婦が八つの病院に受け入れを断られ脳出血で死亡した問題を受け、厚生労働省が全国75カ所の同センターに緊急調査を行って分かった。

 常勤産科医が6人以下だったのは都立墨東病院をはじめ15施設あった。厚労省は当直体制を回すには10人の常勤医が必要とみており、今回と同じことが多くの周産期センターで起きてもおかしくない実態が浮き彫りになった。

 緊急調査から産科医不足の厳しい現実がみえてくる。同センターは妊婦や新生児の救急医療に対応するために設置されたはずだ。しかし実際には「最後のとりで」となっていなかった。これでは、安心して子どもを産むことができない。

 周産期センターは、国が96年から全国で整備を始めたものだ。だが、調査の結果をみると、制度を作って補助金を出すだけで、施設の運営や医師不足の実態について点検をしてこなかったのではないかと指摘せざるを得ない。国だけではなく、都道府県にも責任はある。地域医療に対する責任をもっているのだから、周産期センターの診療体制を確保し、地域の医療機関とも十分な連携を取り、産科救急患者を確実に受け入れる態勢を整備すべきだ。

 産科救急が危機的な状況に陥っている大きな理由は産科医不足だ。医師の全体数は毎年約4000人増えているが、産婦人科・産科医は98年から06年までに1割減少している。過酷な勤務や医療事故による訴訟リスクなどが背景にあり、結婚や子育てなどで一時的に離職する女性医師も多い。

 厚労省は医学部定員を増やす方針を決めているが、短期間で医師養成はできない。そこで緊急的な対応策を作って、早急に医師不足を解消する必要がある。具体的な案を挙げてみたい。

 まずは女性産科医に復職してもらうための労働条件や環境の整備だ。短時間勤務の導入や病院内に保育所を作ることも必要だ。地域の医師会などとの連携を強化し緊急時には臨機応変に医師派遣を行う仕組み作りを急いでほしい。土日曜、祝日の当直は2人以上が望ましいとされており、これは緊急に手当てすべきだ。

 患者の家族やかかりつけ医と周産期センターなど救急病院との情報、連絡体制の再構築も必要だ。大阪府が昨年秋に設置した搬送先の調整に当たるコーディネーターもひとつの手段だ。患者の情報を的確に病院に伝え、受け入れ拒否を起こさないための有効な手だてとなろう。

 「妻が死をもって浮き彫りにした問題を、力を合わせて改善してほしい」。墨東病院で死亡した妊婦の夫が記者会見でこう訴えた。重く受け止めたい。』


 産科医不足に焦点を当てたのはいいが,何処かの医師掲示板でも見てきたのだろうか,わざわざ具体的な案を挙げているのが傑作だ.読んでいて疑問に感じた点が多かったので書いてみよう.

 まず,女性産科医の復職のための労働条件や環境の整備とあるが,労働条件や環境の整備は女性医師を含む全ての勤務医に必要なことである.最も劣悪な環境に置かれているのが国公立病院の女性産科医だと言いたいのならそうかもしれないが,当直の代休は当然として,男性医師にも短時間勤務の導入や育児休暇を与えるくらいでないといけないのではないだろうか.赤字の国公立病院では事務職の給与を民間並みに引き下げてでも医師の給与を民間並に上げなければ集まるのは研修医くらいだろう.

 地域の医師会などとの連携を強化し緊急時には臨機応変に医師派遣を行うなんていうのは,どこかに医師を待機させておくということなのだろうか,それとも土日曜,祝日は開業医がオンコールで駆けつけるということなのだろうか,どっちにしても無償奉仕させるつもりなのだとしたら不可能な話だろう.患者は24時間受診してコンビニ並みのサービスを要求するのに,代休もなしに土日曜,祝日の当直を誰かに負担させるなんていう考え方は医療界全体としてもう止めるべき時期に来ているのではないだろうか.

 大阪府のコーディネーターというのはうまく機能しているのだろうか.だが,たとえコーディネーターがいたとしても医師の手が足りない場合やベッドが満床状態では物理的に受け入れが不可能だろう.今回のケースでは,コーディネーターがいればもっと早く病院に到着できたのだろうかという点から検証するべきだろう.

 勤務医の労働条件や環境の改善を指導する立場の厚生労働省が,まじめに取り組まないから当直で救急患者も診なければならない医師は心身ともに疲弊するのだ.

 事務職員が多すぎて人件費がかかりすぎ,そのしわ寄せで現場で働いている人の給与が低いのだとしたら働きたい人はいるだろうか.当直なのに昼間より難易度の高い仕事をやらされたあげく,当直の方が日勤より時給が低いとしたら当直で働きたい人はいるだろうか.こう言えば勤務医の労働環境がわかってもらえるだろうか.

 奈良の事件ではマスコミと家族の発言,福島の事件は病院と市の対応のまずさが原因になり産科救急の崩壊を加速させたように思う.今回は夫のコメントが注目を集めたが,マスコミは相変わらずわけもわからず騒いでいるだけで,肝心の厚労省は調査はしても本質的な問題が自分のところにあることは認めないだろうから根本的に改善されるはずもない.このマスコミのように机上の空論を並べ立て,表面的な解決策を並べても結局のところ何も変わらないのではないだろうか.

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