『 奈良、札幌の受け入れ拒否 「受診しない妊婦にも責任」 
 - 出産費用未払い背景 -

 奈良県や札幌で、救急搬送された妊婦の受け入れを医療機関が相次いで断った問題で、拒否された患者全員が出産まで一度も産科を受診してなかったことから、産婦人科医の間で批判の声が上がっている。背景には札幌市内だけで年間一千万円を超す出産費用の未払いがあり、救急態勢の改善だけで問題は解決しない。

 「病院や役所ばかり責められるけど、妊娠六カ月まで医者に行かない妊婦がそもそも悪い」

 札幌市内の総合病院の産婦人科で働く四十代の男性医師は、奈良の女性の自己責任を問う。奈良の女性も、札幌で五回以上受け入れを断られた女性五人も、全員に産科の受診歴が無かった。

 「妊娠したかなと思ってから出産まで約二百八十日。その間、一度も受診しないというのは確信犯ですよ」。札幌市産婦人科医会の遠藤一行会長も語気を強めた。

 通常の患者は妊娠の兆候に気づいた時点で産科にかかる。容体が急変しても、119番通報すれば、かかりつけ医に運ばれる。国民健康保険なら一人三十五万円の出産育児一時金も支給される。

 遠藤医師が「確信犯」と嘆く患者の大半は国保の保険料が未納、または無保険者という。保険料未納なら、失業や災害など特別な事情がない限り一時金は差し止められる。保険を使えないので妊娠しても産科にかからず、陣痛が始まってから119番通報する。

 「救急車に乗れば必ずどこかの病院に行けますから。無事産んだら、退院する段になってお金がない、と。ひどい場合は子供を置いて失踪(しっそう)する。病院はやってられませんよ」。遠藤医師は嘆く。

 同医会の調査によると、二○○六年度に、救急指定を受けた札幌市内の十四医療機関だけで、出産費用の未払いは二十六件、総額一千万円を超す。同医会理事で市立札幌病院の晴山仁志産婦人科部長は「予想より多い数字」と驚いた。

 医療機関からみると、かかりつけ医がおらず、救急搬送される妊婦は、未熟児などの危険性が不明でリスクが高い上、出産費不払いになる可能性も高く、受け入れを断る病院が出てくる。

 ただ、産科にかからない妊婦を責めるだけでは、子どもの生命は守れない。胆振管内で産婦人科を開業する六十代の男性医師は「産科に行かない妊婦にはそれぞれ事情がある。救急態勢以外に、母親側の背景を検討して対策を講じないと、問題は繰り返される」と訴えている。』

 かかりつけ医がおらず、救急搬送される妊婦さんの多くが,出産がうまくいったら未払いで退院,もしくは子供を置いて失踪.もし未熟児などでトラブルが起きたら治療費は払わないままで訴訟に持ち込むなんていうんだったら『救急車で来院される初診の妊婦さん』自体がハイリスクなわけですね.

 そう言えば,飲酒後に意識障害で救急搬送されてきて,意識が戻ると『救急車を呼んだ憶えはない.』と文句を言い,翌朝食後に外出したまま行方不明の未払い患者さんは今頃どうしているのだろうか.万が一また救急搬送されてきたら,今度はなんて言うんだろうなあ.
『妊婦搬送拒否:札幌でも5件発生 「10代女性、11回」も----06年まとめ

 奈良県橿原(かしはら)市の妊婦(38)が救急搬送された同県や大阪府内の病院に受け入れを断られ死産した問題で、札幌市でも06年に搬送中の妊婦や女性の受け入れを病院が拒否した事例が5件あったことが分かった。流産や死産につながった例はなかったが、この中には11回拒否された妊婦もいた。

 市消防局によると、5件の妊婦らは腹痛や出血を訴え、119番通報した。いずれも産婦人科の受診歴がなく、かかりつけの医師がいなかった。

 11回拒否されたのは10代の妊婦。昨年2月、腹痛を訴え、救急隊員が病院に電話で受け入れを打診したのに対し、「医師がいない」「患者の処置中」「ベッドの空きがない」などの理由で断られた。最終的に市内の総合病院に搬送されたが、通報から到着まで平均所要時間の3倍以上の1時間半を要した。

 病院側が受け入れを拒否する理由について、札幌医科大付属病院の斎藤豪教授(産科・周産期科)は「自分の患者でも未熟児に対応できる施設は少ない。妊娠何週目かも分からずに受け入れ、未熟児に対応できなくなるリスクを避けるためではないか。受け入れても対応できなければ、対応できる高次病院を探すことになってしまう」と話した。』

 マスコミの言い分では搬送拒否はあってはならないことのような印象を受けるし,多くの人は病院が救急患者を受け入れないなんてことは許されないことのように思っているのかもしれない.しかし,正当な理由で搬送を受け入れないケースは日常的に起こりうることを理解してもらいたいものだ.

 その正当な理由としては以下の状態が考えられる.
1.病院のベッドが満床で入院が受け入れられない場合.
2.他の患者を治療中で搬入されても対応できる医師がいない場合.
3.救急隊の情報から自分のところでは対応不能と考えられる場合.

 1.と2.についてはだれも異論はないだろうが,3.の場合については救急隊の情報の精度と医師の判断基準によっては場合により対応が異なる状況が生じると思われる.

 産科の場合には,かかりつけの医師がいないということは未熟児だった場合に対応できなくなるリスクがあるということなのだろう.自分のところで受け入れても,対応できなければ,対応できる高次病院を探すことになる.その時になって受け入れ先が見つからなかったりしたらどこかの病院の二の舞になるから受け入れを拒否するということになるのだろう.

 実は,脳神経外科医が交通事故による頭部外傷患者を受けても,外科や整形外科に転送が必要になることもあるし,救急隊の言う軽い頭痛がクモ膜下出血だったのにベッドが満床だったら脳神経外科がある他の病院まで搬送するハメになったりすることもあるのである.自分が数時間で手術できる患者さんをいつ再破裂するかヒヤヒヤしながら救急車に乗って夜中に走るくらい心臓に悪いことはない.

 たとえリスクを覚悟して患者を受け入れて最善を尽くしたとしても,すみやかに処置したり,より高次の救急病院へ搬送できるとは限らないのが救急医療の現場なのだが,先日の福島の事件の裁判での検察官の発言,そして身勝手な患者やその家族の発言をマスコミの偏った報道で毎日のように聞かされれば,自分の身は自分で守ろうと考える医師や病院が増えるのも仕方がないことで一方的に非難されるようなことではないだろう.
 
『 奈良・妊婦搬送中流産:県立医大に余力 要請直後、2人受け入れ

 奈良県橿原市の妊婦(38)の胎児が救急搬送中に死亡した問題で、橿原消防署(中和広域消防組合)から最初に妊婦の受け入れを要請された県立医科大学付属病院(同市四条町)が、要請から約2時間のうちに、他の2人の妊婦を救急搬送で受け入れていたことが県の調べで分かった。病院に受け入れの余力がありながら、消防とのコミュニケーションの不備などで結果的にこの妊婦の受け入れができなかった。

 一方、大阪府警高槻署の調べで、この妊婦は妊娠24週(7カ月)で、胎児は胎内で死亡していたことが分かった。流産は22週未満で胎児が死亡する場合を指し、このケースは死産に相当する。

 県によると、28日夜の同病院の産婦人科当直医は2人。1人は帝王切開手術後の患者の経過観察でつきっきりとなっていた。受け入れは、もう1人の当直医が対応した。

 消防から死産した妊婦の受け入れ要請がきた1分前の29日午前2時54分に別の妊婦が来院。通常分娩(ぶんべん)の患者で、同医大をかかりつけにしていた。要請の連絡を病院の事務から受けた医師は「診察中のため後にしてほしい」と回答。事務員は「患者が入り、手術になるかもしれない」と消防に伝え、消防側は「断られた」と認識した。県の調査に、医師は「断るつもりではなかった」と話している。

 一方、午前3時32分。新たに同医大をかかりつけにしていた妊婦が、破水。産婦人科の病床は一つ空いていたため、入院した。さらに午前4時ごろ、近くの医院から、分娩後、大量出血した妊婦を搬送したいと要請があり、受け入れを決めた。

 この連絡の直後、橿原消防から2度目の要請があった。事務員が「別の医院からの電話を医師につないだところ」と答えると、電話が切れた。出血した妊婦は午前5時ごろ医大病院に到着。産科の病床が満床だったため、他の科で受け入れた。

 橿原消防からの3度目の要請は、同医大の救命救急センターに寄せられた。時刻は不明。センターの医師が症状を聞き取り、「全身状態が悪くない」と判断、2次医療機関で対応してほしいと断ったという。センターには一般病床で4床の空きがあった。

 結果的に、死産した妊婦は大阪府高槻市に搬送されることになり、その途中の午前5時9分、軽乗用車との接触事故に巻き込まれた。』

 あれほど問題になった奈良県に妊娠6ヶ月でかかりつけの病院のない妊婦さんがいまだにいるなんて正直言って驚きました.もっとも脳外科でも医師の常識では考えられないほどに大きく外れた患者さんが来ることは珍しくないので,産科ではそれほど驚くことではないのかもしれません.

 ところで,この記事を見ていると,県立医科大学付属病院に罪をなすりつけようとしているようにしか見えません.マスコミが世論を煽るのは当たり前のようですから今さら怒る気にもなれませんが,この事件で産科医療はさらなる変貌を余儀なくされるのではないかと心配になります.

 他の妊婦を受けているにもかかわらず余力があるなんて言われたら,バーゲン価格の当直料で働いている大学病院の医師たちはどう思うでしょうか.当直料が安いのは我慢できてもマスコミの暴言の標的になるのは我慢できないのではないでしょうか.患者を受け入れるか否かを現場の医師にまかせないのなら新たなルールを作り医師は免責にしてもらうしかないでしょう.

 この場合どのようなルールがいいのでしょうか.県立医科大学付属病院なら,1.かかりつけの妊婦さん,もしくは2.他院からの依頼がありかつ医師の手が2人分以上空いている場合,なんていうくらいじゃないと面倒みきれないような気がするのですがどうなんでしょうか.

 真面目に一生懸命やっても,結果がわるいと叩かれるという事態がこのまま医療の現場に蔓延すると,いずれ見えない力が働いて状態の悪い患者はどこも受け入れないという方向に進んで行くのではないでしょうか.
 
『 療養病床:転換で介護施設の定員枠撤廃 保険料上げ必至----厚労省方針

 高齢者向け長期医療施設である療養病床の削減を図るため厚生労働省は、第4期介護保険事業計画(09-11年度)で、療養病床から転換する介護施設について定員枠を設けない方針を決めた。現在、介護施設の定員は年度ごとに市町村がそれぞれ上限を設定しているが、これを取り払うことで療養病床から介護施設への転換を促すのが狙いだ。療養病床廃止に伴い行き場を失うお年寄りは、すべて介護施設で受け入れることになる。ただ、定員増により介護保険料の引き上げは避けられない見通しだ。

 厚労省が6月29日に都道府県に示した「地域ケア体制整備指針」によると、都道府県には「療養病床転換推進計画」(07-11年度)を策定し、療養病床削減に関する年度ごとの数値目標を示すよう要望。介護の必要サービス量についても見込み数を出すよう通知したが、介護施設については「必要定員総数は設定しない」とした。

 療養病床削減で病院を追われるお年寄りには、老人保健施設などの介護施設に移ってもらうのが厚労省の考えだ。同省は受け皿として、看護師配置を手厚くした医療機能強化型老人保健施設(仮称)も新設する。

 しかし、これまでの介護保険事業計画では、介護サービスにかかる給付費の膨張を防ぐため、市町村に介護施設の定員枠を設定させている。これが、療養病床から介護施設への転換を妨げる一因となっており、思うように転換が進んでこなかった。そこで、4期計画では定員枠を外して、転換を促進することにした。

 厚労省は、療養病床削減によって給付費を3000億円削減し、65歳以上の平均月額保険料(07年度4090円)を極力抑える考えだ。しかし、介護施設の定員増や、高コストの医療機能強化型老健施設の整備により、当初想定していた4期計画時の平均保険料(4400円)はアップせざるを得なくなるとみられる。』

 病床削減と医療費の抑制は厚労省の面子にかかわるので何がなんでも実行するということだろうし,本音は国庫にかかわる健康保険さえ抑制できれば,地方自治体の介護保険料が増額してもかまわないということだろう.コムスンの事件をみてもわかるように将来において国民はより低質なサービスへの負担増を強いられるということだ.

 国の責任や負担は最小にする一方で,地方の負担は増大してもかまわないというのが国政というものなのだろうか.社会保険庁がいいかげんな仕事ぶりであれだけ批判を受けても本体の厚労省の仕事のやり方は変えるつもりはないようだ.

 いずれ梯子がはずされるのが見えているのだからいまさら厚労省に従って病床転換する病院なんてあるとは思えない.どこまで厚労省が特例処置を拡大していくのか興味深いし,やればやるほど本音がより明らかにみえてくることだろう.

 そう言えば,2008年度の診療報酬改定では患者の看護の必要度に応じた数値基準を新たに導入し,看護の必要がないのに多くの看護師を抱えている場合には診療報酬を引き下げることになるようだ.必要もないのに厚遇で看護師を募集した病院はまたまた厚労省に梯子をはずされてしまった形になったわけである.

 もっとも,だからといって看護師不足で困っていた地方や中小の病院の看護師がすぐに増えるわけでもないだろうから,ころころ変わる厚労省の方針でまた現場が混乱しただけで,つきあったものが馬鹿をみたといういつもの結末なのである.どうせ無茶苦茶な方針しかだせないなら,社会保険庁の次はこんな厚労省も分割して民営化してしまったほうがいいのではないだろうか.
 
『腎移植で業者に約1000万円 比で邦人男性手術 臓器売買でないと主張

 業者の世話でフィリピンに渡り、提供者(ドナー)への謝礼を含む計約1000万円の費用を業者に支払って腎臓移植を受けたばかりの大阪府の自営業男性(44)が13日までに共同通信のインタビューに応じ、臓器売買ではないかとの問いに対し「ドナー支援団体にお金を入れたと考えており、売買には当たらない」と反論した。

 貧困層による臓器売却が後を絶たないフィリピンでは、政府が条件を整備して事実上臓器売買を合法化する新制度を検討中。そうした中、現地で移植を受けた日本人患者が、直後にメディアに実情を語るのは異例で、臓器売買をめぐり、あらためて議論が起きそうだ。

 男性は1年半前に慢性腎不全と診断され、仕事をしながら自宅で毎日腹膜透析をしていた。国内での移植を待てず、フィリピンでの移植支援などをうたう日本人業者に接触し、6月下旬に渡航。7月初めにマニラ近郊で片方の腎臓の移植を受けそのまま滞在している。

 男性が受けた説明では、支払った約1000万円(約8万2000ドル)のうち約2万ドルが日本人業者の取り分となり、約4万ドルが病院と医師に、約2万1000ドルがドナーの募集や支援をする団体に渡る。ドナーは団体から、現地の謝礼としては高額な約8000ドル(約98万円)を受け取るという。

 手術が終わって目覚めると「体調がすごく良かった」。すぐに起き上がり、翌日には歩き回れたという。

 ドナーは24歳の青年。「本当に感謝している。若いのに申し訳ないとも思う」と述懐した男性は、「日本・フィリピン両国がドナー支援制度を確立させ、お金がない人も手術を受けられるようにできればいい」と述べ「(提供者に謝礼を渡す行為を禁じた)時代に合わない日本の法律は変えた方がいい」と話した。

 日本人業者は「これは患者の立場に立ち、必要性のあるビジネスだ。仕事は通訳や移動の世話が中心で、ドナーはあっせんしていない」と述べ、日本の臓器移植法には違反しないと主張した。』

 フィリピンへ旅行する男性といえば,昔は売春が有名だったが最近は臓器売買もやってるようだ.それにしてもドナーに払われる金額が1割にも満たず,日本人業者とドナー支援団体の取り分が5割とはあきれた話だ.そして,帰国したら今度は健康保険を使って定期検査でも受けるつもりなのだろうか.お金のために健常な腎臓を差し出した青年が哀れである.

 「(提供者に謝礼を渡す行為を禁じた)時代に合わない日本の法律は変えた方がいい」と言ったそうだが,倫理の話は時代に合わないという意味だろうか.私には,『貧しい者は体を売れ』と言っているように聞こえるし,「これは患者の立場に立ち、必要性のあるビジネスだ。仕事は通訳や移動の世話が中心で、ドナーはあっせんしていない」という日本人業者の発言も,売春を斡旋している風俗業者と発想は何ら変わりないように思える.

 これが,患者の立場に立った医療だろうか.ドナーや日本で移植を待っている患者の立場はどうなるのだろうか.フィリピンで臓器移植を受けて帰国した患者の診療をすることはフィリピンの貧困層の安易な臓器売買を助長することになりはしないのだろうか.「美しい国,日本」では、フィリピンの貧困層がどうなろうと知ったことではないという声も聞こえてきそうである.

 この先,健康保険が崩壊して自由診療になったら,『金があれば命も買える』などと思ってる輩の診療はきっぱりとお断りさせていただきたい医師は私だけだろうか.
『 「医療機関の責任に転嫁」 妊婦死亡で町が争う姿勢

 奈良県大淀町立大淀病院で出産時に意識不明となり、約20の病院に転院を断られた後に死亡した高崎実香(たかさき・みか)さん=当時(32)=の夫晋輔(しんすけ)さん(25)らが大淀町と担当医に約8800万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が25日、大阪地裁(大島真一(おおしま・しんいち)裁判長)で開かれ、町側は争う姿勢を示した。

 町側代理人は「(遺族は)診療体制の問題点を特定の医師、医療機関の責任に転嫁しようとしており、到底許容できない」と主張。提訴を「正当な批判を超えたバッシング」と批判し「結果として病院は周産期医療から撤退、県南部は産科医療の崩壊に至っている」と述べた。

 遺族側の訴えについては「脳内出血は当初から大量で、処置にかかわらず救命し得なかった」と反論した。

 これに先立ち意見陳述した晋輔さんは、転院先の医師から「あまりに時間がたちすぎた」と伝えられたことを明かし、おえつしながら「もう少し早ければ助かったということ。それが頭から離れません」と訴えた。

 閉廷後、晋輔さんは記者会見し「病院側は(周産期医療を)続けようと何か努力したのか。逃げたとしか思えない」と反論した。

 訴状などによると、実香さんは昨年8月8日未明、分娩(ぶんべん)のため入院していた大淀病院で意識不明となり、約20の病院から受け入れを断られた後、転送先の医療機関で男児を出産したが、16日に死亡した。大淀病院の担当医は、晋輔さんらが脳内出血の可能性を指摘したのに適切な処置をしなかったという。』

 転院先の医師の「あまりに時間がたちすぎた」というのは,単に手遅れという意味だったのではないかとも考えられるが,前医の対応を非難するようなニュアンスがあったとしたらちょっと問題になるだろう.もし証人として出廷したらそのあたりを説明してもらいたいものだ.患者や家族が医師の話の一部だけを自分たちに都合のいいように解釈することはよくあることだろうから,転送先の医師が名医と呼ばれるためにはこういった誤解を招かないような話の仕方が大切ということなのだろう.

 一般的に脳出血は,発症してすぐに救急車で運ばれてきたような場合でもすでに救命も不可能なものもあることぐらい脳外科医なら当然知っているだろうから,もう少し早ければ助かったという意味だったとは思えない.頭部CTにしても状況が許せば撮ったほうがその時点での診断はできただろうが,脳内出血に対する適切な処置とはこの場合は開頭血腫除去しかなかっただろうし,結果的には脳外科も産科もある病院に転送されたわけだからそれが直接予後に影響したとも思えない.

 大淀病院の医師は,自分のところで対応不能と判断したから転院先を探したのであって,それ自体は非難されることでもない.速やかに転院先が見つからなかったのは地域の診療体制の問題であって病院や担当医の責任ではないだろう.

 しかし,地域の診療体制を問題にしたのでは損害賠償の請求先に困るし,やはり病院や担当医への怨恨があるのではないだろうか.この記事では転院先の医師の何気ない一言が家族の復讐心に火をつけたようにも読める.その代償が,個人的には8800万円なのかもしれないが,この事件が産科医療全体に及ぼした影響を考えると社会的な損失は一体いくらに相当するのだろうか.そして,それは誰の責任になるのだろうか.

 「口は災いの元」と言うが,こんなことで訴えられるとは,明日は我が身かと思うとまったく恐ろしい話である.
『 特養、医療法人にも解禁 新型の老健施設創設 療養病床転換を促進

 厚生労働省は19日、慢性期の高齢患者が長期入院する療養病床を介護施設に転換させるための促進策をまとめた。これまで自治体や社会福祉法人などに限られていた特別養護老人ホームの設置、運営を来年から医療法人にも認めるほか、医療機能を強化した新しいタイプの老人保健施設を創設することなどが柱。20日に開く有識者検討委員会で正式決定する。

 厚労省は医療費削減のため、2005年10月時点で38万床ある療養病床を12年度末までに15万床に減らすのが目標。医療機関の選択肢を増やすことで介護施設への転換を促し、療養病床削減を図る。

 現在は医療法人が特養ホームを設置するには、別に社会福祉法人をつくる必要があるが、医療法人が直接、特養ホームを運営することを認める。来年の通常国会に老人福祉法の改正案を提出する方針だ。

 また、現行の老健施設はリハビリなどで在宅復帰を支援する性格で、療養病床から転換した老健施設は、医療ニーズの高い入所者が多くなるため、医療機能を強化。夜間看護や終末期のみとりに対応する新型の老健施設とし、介護報酬も加算する。

 医療機関や老健施設などが付属で設ける小規模の「サテライト施設」についても、人員や設備を有効活用できるように来年から規制を緩和。

 現在は老健施設の本体1カ所にサテライト1カ所しか認めないなどの規制がある。今後は例えば病院がサテライトとして特養ホームや老健施設、有料老人ホームなど複数の施設を持つことを認める。

 このほか、自治体は3年ごとにつくる事業計画で介護施設の定員枠などを定めているが、療養病床から介護施設に転換するケースについては、09年度から3年間、定員規制の枠外とし、転換を促す。』

 中医協・慢性期分科会の06年度調査の結果,医療区分1は実際のコストの半分の値付けになっていることが報告された.このため病院から医療の必要性の低い区分1に該当する患者は介護施設へ移るのを余儀なくされている.しかし,コムスンの事件でわかったことは,医療区分1ほどではないにせよ介護施設もまともにやったら採算割れするらしいということだ.

 厚生労働省は手を変え品を替え,療養病床を介護施設に転換させようとしているが今どきこんな話に飛びつく医療機関があると思っているのだろうか.この医療費抑制策の嵐の中,療養病床への転換ですでに一度痛い目に遭わされた病院は厚労省に対する不信感で固まっているのである.最終的には健康保険制度の崩壊が待っているのかもしれないが,ほとんどの病院はじっと動かないで我慢しているほうがましだと思っているのではないだろうか.
『 <医師人口比>日本、20年に最下位へ OECD30カ国中

 人口1000人当たりの日本の医師数が、2020年には経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国中最下位に転落する恐れがあることが、近藤克則・日本福祉大教授(社会疫学)の試算で分かった。より下位の韓国など3カ国の増加率が日本を大きく上回るためだ。日本各地で深刻化する医師不足について、国は「医師の地域偏在が原因で、全体としては足りている」との姿勢だが、国際水準から懸け離れた医師数の少なさが浮かんだ。

 OECDによると、診療に従事する03年の日本の医師数(診療医師数)は人口1000人あたり2人。OECD平均の2.9人に遠く及ばず、加盟国中27位の少なさで、▽韓国1.6人▽メキシコ1.5人▽トルコ1.4人――の3カ国を上回っているにすぎない。

 一方、診療医師数の年平均増加率(90〜03年)はメキシコ3.2%、トルコ3.5%、韓国は5.5%に達する。日本は1.26%と大幅に低く、OECD各国中でも最低レベルにとどまる。各国とも医療の高度化や高齢化に対応して医師数を伸ばしているが、日本は「医師が過剰になる」として、養成数を抑制する政策を続けているためだ。

 近藤教授は、現状の増加率が続くと仮定し、人口1000人あたりの診療医師数の変化を試算した。09年に韓国に抜かれ、19年にメキシコ、20年にはトルコにも抜かれるとの結果になった。30年には韓国6.79人、メキシコ3.51人、トルコ3.54人になるが、日本は2.80人で、20年以上たっても現在のOECD平均にすら届かない。

 近藤教授は「OECDは『医療費を低く抑えると、医療の質の低下を招き、人材確保も困難になる』と指摘している。政府は医療費を抑えるため、医師数を抑え続けてきたが、もう限界だ。少ない医師数でやれるというなら、根拠や戦略を示すべきだ」と批判している。』

日本が『美しい国』なんていうのは中身の無い虚しい言葉遊びにすぎないだろう.厚生労働省の官僚の言うことなんか元来信じる気はなかったけれども.これだけはっきりした数字が出てきた以上,厚生労働省は医療費を削減しても医療の質が低下しないというはっきりした根拠を示すべきだろう.財務省のいいなりに医療費を削減するだけなら厚生労働省は国民の健康を犠牲にして自分たちの失政のツケを国民に払わせていると言われてもしょうがないだろう.

2020年というとずいぶんと先のことに感じるかもしれないが,医師が一人前になるには医学部入学から従来で最低10年以上,研修医制度のおかげで今後は12年以上はかかるだろうから,今からではもうすでに手遅れということだろう.厚生労働省のおかげで現状でも地域医療は完全崩壊寸前だし,医療の質の低下は確実に進行中で人材確保も非常に困難な状況である.

医療費を増やさずにこの状況を乗り切れる良い案が『美しい国』を唱える首相とその取り巻きの有識者にある(というか改善する気がない?)とは到底思えないのだが,医師数だけならOECD中最下位に転落しても精神論では一流国ということなのだろうか.生存権を脅かす国家のどこが一流なのかわからないが,まさか,それも憲法を改正して国家のためには生存権にも制限を加えることで解決するつもりなのだろうか?
『 殺人:呼吸器外し80代死亡 医師を容疑で書類送検----和歌山県立医大

 ◇家族に頼まれ

 和歌山県立医大付属病院紀北分院(和歌山県かつらぎ町妙寺)で昨年2月、50代の男性医師が、80代の女性患者の延命措置を中止するために人工呼吸器を外して死亡させたとして、同県警妙寺署が今年1月、医師を殺人容疑で和歌山地検に書類送検していたことが分かった。同署は、専門医の鑑定などから、呼吸器を外したことで死期を早めたことが殺人に当たると判断した。

 調べでは、男性医師は昨年2月28日、脳内出血で搬送されてきた県北部に住む女性患者に付けていた人工呼吸器を外し、死亡させた疑い。

 同病院によると、女性は前日に同分院で緊急手術を受けたが、経過が悪く28日未明に呼吸停止になり、手動で人工呼吸を開始した。家族から遠方にいる近親者が来るまで延命を求められ、医師は人工呼吸器を装着。同日夜に近親者が到着後、家族は医師に呼吸器を外してほしいと伝えた。医師はいったん断ったが家族の希望が強く、「脳死判定として呼吸器を外して自発呼吸を試すテストをしましょう」と説明し、個人の判断で呼吸器を停止させた。女性は間もなく死亡したが、同署はカルテの分析から、それで死期が早まったとみている。

 分院では、医師を口頭で注意したうえで調査委員会を設置。富山県の射水(いみず)市民病院で呼吸器外しが発覚したこともあり、3月28日、同署に届け出た。この医師は現在、県外の病院に勤務しているという。

 和歌山市の県立医大付属病院で記者会見した飯塚忠史・紀北分院副分院長は「調査委員会では明らかな犯罪性があるとはならなかったが、医療現場における判断は難しいので、警察の判断を仰ぐことにした」と話した。

 射水市民病院では昨年3月、5年間で末期患者7人が呼吸器を外して死亡したことが表面化。外科部長(当時)について、富山県警は殺人容疑での捜査を続けている。呼吸器外しを巡っては、北海道立羽幌病院で04年2月、当時90歳の男性患者が死亡、担当の女性医師が殺人容疑で書類送検(不起訴)されており、今回が2例目。

 ◇罪とは思わない----「安らかなみとり」の重要性を訴える「淀川キリスト教病院」(大阪市)の船戸正久医務部長の話

 重要なのは、患者の自己決定権。その意思をサポートするのが医師。米国では法的代理人の家族による決定も市民権を得ている。このケースが罪に問われるとは思わない。

 ◇家族にも違法性----福田雅章・山梨学院大教授(刑事法)の話

 患者の明示の意思がないのに、自らの行為で患者が死に至ると認識していれば殺人罪に問われる可能性がある。治療中止を求めた家族の行為にも違法性がある。自らの生命にかかわる決定は究極の自己決定権。事前に意思表示があれば、家族が代わって医師に求めても本人の「死ぬ権利」の行使で問題ない。』

「専門医の鑑定などから、呼吸器を外したことで死期を早めたことが殺人に当たると判断した」と冒頭にあるが,この記事を読んだ後で,私は,この患者さんの死期というのはいつと考えるのがいいのだろうかと考え込んでしまった.

この患者さんの死期に影響を与えたものとしては,少なくとも1.脳出血,2.手術,3.呼吸器装着,4.呼吸器停止という4つのイベントがあると思われる.手術をしても助からないような脳出血だったのなら,手術をしなかったら死期はいつだったと考えられるだろうか.そもそも手術をしても救命さえもできないような88歳の脳出血に手術適応があったかどうかも疑問だ.

28日未明に呼吸停止になったのは脳ヘルニアにより脳幹機能が失われ脳死状態になったからと考えられるが,ここで人工呼吸器を装着しなければこの時点が本来の死期であったのではないだろうか.それを家族の希望で延命したために死期が先送りされ,今度は再び家族の希望で人工呼吸器を外し死期を早めたことが警察によって殺人に当たると判断されたというわけだ.

きっとできるかぎり家族の希望にそって治療をすすめたつもりだったのだろうが,これが正しい医療のあり方なのだろうか.よく言うところの最善の治療を尽くすというのはできることを何でもやるという意味ではないのではないだろうか.いくら本人の意思確認ができないとはいえ,医者や家族の都合で最期の時を自由に変えることが本人の意思に沿うとはとても思えないのだがどうだろうか.

ニュースでもブログでも医師の呼吸器外しという点にばかり焦点が当てられているようだが,脳外科医としては術後1日で脳死になるような手術をした点に非常に疑問を感じた.結果的に救命さえもできなかったというのでは少なくとも手術適応の判断に問題があったのではないかと言われても仕方がないだろう.それとも何か大学病院ならではの事情でもあったのだろうか.尊厳死という視点で考えると,最初から「もう手遅れです.救命の見込みはありません.」と言えば,この88歳の女性は静かに家族に看取られていたのではないだろうか.

家族の気に入らなければすぐに訴訟にされる最近の風潮からは,家族の希望に従って延命治療を続けたまでは仕方がなかったかもしれないが,次に家族の希望に従って脳死判定と言いながら呼吸器を再装着しなかったというのはすでに医師個人の裁量の範囲を超えていたのではないかと私は思うのだがどうだろうか.
『 NHK命令放送違憲訴訟で、受信契約者と国など全面対決

 菅総務相が昨秋、NHKに北朝鮮の拉致問題を国際放送で扱うよう命令した問題をめぐり、根拠となった放送法33条は「報道の自由」を保障した憲法に反するとして、全国の受信契約者らが国とNHKを相手に、命令の違憲確認などを求めた訴訟の第1回口頭弁論が23日、大阪地裁(西川知一郎裁判長)であった。国は答弁書で、「受信契約者に放送内容を左右する権利はない」と主張。NHKも原告らに訴える資格はないとして請求の却下を求め、全面的に争う姿勢を示した。

 原告は、受信契約者らでつくる市民団体「NHK市民の会」(事務局・大阪市)のメンバー36人。この日の弁論では、メンバーの一人で大阪市在住の藤永延代さんが「権力の命令による放送は公正中立ではありえない。NHKは命令に従ってはならない」と意見を述べた。 』

国もNHKもそう言うのだったら,一般市民にできるささやかな抵抗はNHK受信契約の解除しかないだろう.NHKなど分割して国営放送と有料教育放送にしてしまった方がすっきりすると思うのだがどうだろうか.

NHK受信契約の解約については以下を参考にされてはどうでしょうか.
http://friendly.blog30.fc2.com/
『 委員から疑問の声 厚労省のがん対策原案に

 がん患者や専門家らでつくる厚生労働省のがん対策推進協議会の会合が18日夜開かれ、国が新たに策定するがん対策の基本計画の同省原案を議論した。協議会が数値目標として掲げることを合意していた「喫煙率半減」が原案に盛り込まれていないことに、委員から疑問の声が上がった。

 喫煙率をめぐる数値目標にはたばこ業界の反発が根強い上、計画策定には閣議決定が必要。このため同省が、たばこ事業を所管する財務省などに配慮した結果ではないかとの見方が出ている。

 この日の会合では広橋説雄(ひろはし・せつお)国立がんセンター総長が「大変残念だ。せめて喫煙率低減を書けないか。禁煙を促す方策を盛り込むべきだ」と主張するなど、多くの委員から、より踏み込んだたばこ対策を計画に盛り込むべきだとの声が相次いだ。

 原案はがん死亡率の低減などの全体目標を掲げた上で、苦痛を和らげる緩和ケアの充実や、がん検診の受診率向上などを盛り込んだ。

 協議会は今月30日にも開かれ、計画について詰めの議論をする。』

メタボリックシンドロームより喫煙のほうが死亡リスクが高いというのに,喫煙率の数値目標を定めないなんて理屈に合わない.やはり厚生労働省の官僚たちは国民の健康に責任を負う気など毛頭無くて,財務省やたばこ業界のほうを向いて仕事をしているのだろう.自分たちの出世と天下りにしか興味がなければ医療が崩壊しようがどうせ知ったことではないわけだ.

国民に適切な医療を提供しない厚生労働省ならもういらないと思うのは私だけだろうか.

矛盾

2007年5月19日 医療の問題
『 転換後も24時間体制で看病 療養病床、新型老健施設に 患者や家族の不安和らげ

 厚生労働省は18日、慢性期の高齢患者が長期入院する療養病床を持つ医療機関が老人保健施設に転換しても、夜間の看護職員配置などで24時間看病体制を維持することを決めた。転換病床は、これまでとは別の新しい型の老健施設となる。

 同日の有識者らによる検討委員会で提示した。

 厚労省は医療費抑制のため、療養病床を大幅に削減する方針。老健施設となっても十分な医療体制を確保することで、療養病床の患者やその家族の不安を和らげ、転換を促したい考えだ。

 厚労省は療養病床から転換した老健施設では、夜間に症状が悪化し医師や看護師の対応が必要となる入所者が、60床当たり3日間で1.9人出ると推計。

 既存の老健施設は自宅復帰を支援する性格のため、医師、看護職員とも夜間の配置は義務付けられていないが、療養病床から転換した施設では、看護職員の夜間配置が必要と判断した。医師についても夜間の呼び出しに応じられるよう求める。

 また最期をみとる必要がある入所者も60床当たり1カ月で1.4人と推計されることから、昇圧剤の投与など高度な医療を提供する体制を確保する。

 厚労省は、2005年10月時点で38万床ある療養病床を2012年度末までに15万床に減らす目標を掲げており、各都道府県が秋までに具体的な計画を定めることになっている。』

「療養病床を持つ医療機関が老人保健施設に転換しても、夜間の看護職員配置などで24時間看病体制を維持?」,「医師についても夜間の呼び出しに応じられるよう求める?」「昇圧剤の投与など高度な医療を提供する体制を確保?」だって???

厚生労働省のやり方はもともと日和見主義で無責任かつ無計画で非効率的だったと思うが,やることがここまで矛盾してくるとまったくつき合いきれないと思うのは私だけだろうか.

こんなことなら最初から療養病床の看護職員配置基準を緩和し定額の診療報酬を下げて介護保険の併用による支払いを認めるだけでよかったのではないだろうか.医師だってもともと病院では当直しているのだから,医師不在の介護保険業者の施設や既存の老健に入所するよりずっと対応がいいに決まっているのだ.

こんなやり方で健康保険料から支払われる医療費を減らしても,国民の負担はむしろ増えるのである.その理由は,一つはこういった療養病床廃止に伴う医療の非効率化であり,もう一つは,医療機関では定額だった療養費が,介護保険では業者への出来高払いになっていることである.悪質な業者の存在理由もそこにある.

医療と介護のプロが24時間態勢で働く病院で,たくさんの人を効率的な人員配置で集約的に介護するほうが,国民一人当たりのコストは低いに決まっているのに,「なぜ厚生労働省はそれを介護保険業者に委託するようなことをしたのか」をもう一度よく考えてみる必要があるだろう.

最近,市中肺炎で介護保険施設や老健から入院してくる患者が目につくようになっているのも決して偶然などではないだろう.以前より全身状態の悪い人が療養病床を退院させられ入所するということ加え,コスト的な制約から以前より施設での栄養管理も含めたケアの質が全体的に落ちてきているのではないだろうか.かつて療養病床では長生きできた人が,施設や自宅で寿命を縮めるということが現実になっているとしたら厚生労働省のやっていることはまさに『姥捨て山』である.

戦後の日本を支えてきた人たちをさっさと葬り去るようなこの国の一体どこが「美しい」のだろうか.

http://diarynote.jp/d/41284/20060221.html
このまま医療効率化計画が進むときっとわが国の医療は,

1.法律による医師不足対策は失敗し,財政が危機的な公立病院は崩壊して地方と都市の格差がさらに広がる.
2.入院医療費の「定額制」により,患者の病態にかかわらず,コンビニ同様にコスト重視で画一化した治療しか受けられない.
3.医療費削減のための無理なジェネリック医薬品の投入により患者の安全性の選択の自由が奪われる.
4.医師はさらに自分の身の安全とコストを気にしなければならなくなり,患者のことなど考える余裕もなくなる.
5.国民は年金だけでなく健康保険でも自分の支払った分に見合った効率的で最適な医療を受けることはできなくなる.

なんてことになるのではないだろうかと心配しているのは私だけだろうか.
『 タミフル以外でも異常行動 リレンザなどで計16人

 厚生労働省は14日、タミフル以外のインフルエンザ治療薬である「リレンザ」と「アマンタジン」でも、計16人について服用後に異常行動が報告されていたことを明らかにした。うち13人は未成年。

 内訳はリレンザが2000年の販売開始から今年4月27日までに10人。アマンタジンは効能にインフルエンザ治療が追加された1998年以降で6人(うち1人はタミフルを併用)。

 同省はタミフルとこれらの薬の副作用を比較しながら、異常行動との関係を調べる。』

『 グラクソ・スミスクライン リレンザ 来季の輸入量は数倍-十数倍規模に 医療機関に事前注文を要請

 グラクソ・スミスクラインの中山夏樹取締役営業本部長は本紙の取材に応じ、来季(2007-08年)のインフルエンザシーズンに「リレンザ」(一般名=ザナミビル水和物)の国内輸入量を数百万人分に増やす考えを明らかにした。流行規模によって市場規模も変わるため、現時点では最終的に何人分のリレンザを輸入するかは決めていない。同剤は専用ディスクへラーを用いて吸入するため、通常の薬剤より製造に時間がかかる。なるべく早期に来季用の注文を受けておき、夏以降、数度に分けて輸入する方針だ。

 05-06年の国内抗インフルエンザウイルス薬処方量は約800万人分だが、市場シェアの大部分は「タミフル」が占めており、リレンザのシェアは1.4%程度にすぎない。リレンザの今季(06-07年シーズン)の出荷量は約40万人分。流行期前に30万人分を輸入したほか、前季の在庫残りとして10万人分があった。
  だが、タミフルの副作用報道が相次ぎ、厚生労働省も10歳代患者に対する使用制限措置をとった。また安易に薬剤が使用され過ぎていることや、耐性菌問題なども指摘されるようになっている。これに対して吸入剤のリレンザは、気道の奥で局所的に作用するため、全身への移行性が低く、安全性が高いと考えられており、医療ニーズが急速に高まっている。さらに海外のリレンザ製造ライン拡張工事も完成に近づき、来季用の増産も見通せるようになった。これらの状況を総合的に考慮した結果、従来の輸入量では到底足りないと判断。来季の輸入量を今季の数倍-十数倍規模に増やすことにした。
  同社は、全MRが医療機関の問い合わせに対応できるよう、体制を整えておく方針。「製造期間を考慮し、なるべく早期に注文をいただき、将来にわたって安定供給できるようにしたい」としている。

4月末に15万人分を追加輸入、供給を再開

 またグラクソ・スミスクラインは4月末から、リレンザの供給を再開した。競合品タミフルに対する副作用報道や、10歳代患者への使用制限措置が講じられた影響で、リレンザの発注が相次ぎ、3月下旬には品切れ状態になっていた。インフルエンザは夏季にも発生するため、同社は4月末に15万人分の緊急輸入を実施。大型連休を挟み、医療機関への出荷を開始している。』

『 服用せず異常行動も11人 2人はリレンザ使用

 厚生労働省は25日、タミフルを服用しないで異常行動などがみられた計11人の事例を新たに公表した。うち2人は、タミフルとは別のインフルエンザ治療薬リレンザを使用していた。

 厚労省は今月4日、11人のタミフルなしの異常行動事例を公表しており、これで計22人となった。

 今回の11人は今月3-17日にかけて医療機関から厚労省に報告された。10代が9人で最も多く、10歳未満と70代が1人ずつ。大半はインフルエンザと診断されており、自宅の窓から飛び降りたり、飛び降りようとするなどの異常行動を取っていた。骨折した人もいたが死亡例はない。

 吸入薬であるリレンザを使用した2人は10代男性と10代女性。幻覚症状などが報告された。厚労省安全対策課は「現時点では因果関係はないとみている」としている』

 タミフルに比べてリレンザは消費量が格段に少ないので,副作用が問題になっていなかっただけではないだろうか.しかし,これをみると製薬会社の「吸入剤だからより安全」とか,厚労省の「因果関係はない」なんて言葉をまた信じてしまう患者や家族そして医師はきっと多いと思われているのだろう.

 インフルエンザの重症化するリスクが少ない患者には投薬しないのが基本だろうが,結局は患者の言いなりに薬を出してしまうことになるのかもしれない.なんといっても患者様のご希望どおりの医療が要求される世の中だから.果たしてリレンザにもタミフルと同様の副作用があるのかないのかは興味があるところではあるが,いずれにしても,結果はきっと来シーズンになればわかるのだろう.
『 パナマで100人死亡か 有毒の中国製原料の混入で

 パナマで販売されたせき止め薬に中国製の有毒な原料が含まれ、服用した少なくとも100人が死亡していたと、米紙ニューヨーク・タイムズなどが9日までに伝えた。米国では中国産の原料を使ったペットフードを食べた猫や犬が死んでおり、中国産食品や原材料への不安が高まっている。昨年秋、パナマで原因不明の死亡例が相次ぎ、せき止め薬に使われた有毒な化学物質が原因と判明。』

 こういうニュースを見てわが国の医薬品の原料は大丈夫かと心配になるのは私だけだろうか.特に,価格の異常に安いジェネリック医薬品に使われている原料なんかはどうなのだろう.もし中国製の化学物質が入っていたりしたら厭だなあ.
『 救急救命士が医療事故 気管チューブを食道に

 名古屋市は7日、救急隊が心肺停止状態の患者を搬送する際、救急救命士の男性(37)が人工的に呼吸させるため気管に入れるチューブを過って食道に入れる事故を起こした、と発表した。患者は搬送先の病院で死亡が確認されたが、事故との因果関係は「調査中」としている。救急救命士による気管チューブを使った医療行為は04年7月から認められたが、総務省消防庁は「こうした事例は聞いたことがない」としている。

 市消防局によると、死亡したのは同市瑞穂区の女性(68)。1日午前0時すぎ、家族から「息ができず苦しんでいる」と119番通報を受け、瑞穂消防署の救急隊が駆けつけたが、数分後に心肺停止状態に陥った。隊員3人のうち救急救命士の資格を持つ1人が、医師に携帯電話で指示を受けながら、女性に気管チューブを挿入するなどして蘇生を図ったが、搬送先の同市立大学病院で午前1時15分、心筋梗塞(こうそく)による死亡が確認された。医師が気管チューブを取り外す際、過って挿入していたことがわかったという。この救急救命士が気管チューブの挿入を行うのは2回目だった。女性は心筋梗塞の持病があったという。

 市は近く、医師や弁護士らによる第三者機関を設け、原因究明と再発防止を検討する。女性の家族には葬儀を終えた3日午後2時ごろ、医療事故について説明。遺体の解剖は行われていないという。 』

 経験豊富な麻酔科医でも挿管困難なケースがあるのだから,たとえ救命センターなどで十分な研修を受けていたとしても,経験の少ない救急救命士が気管チューブの挿入など出来なくても別に不思議でもなんでもないことだ.だから,この種の事故は再発をゼロにすることはおそらく不可能で,今後も同様のことが起きるだろう.

 群馬大病院では頸静脈へのIVHカテーテルの挿入で事故があったようだが,これも同じようなものだ.医療行為の中にはこのように死に直結する可能性をゼロにはできないものも多々あるわけで,そのリスクを犯してもやる価値があるかどうかを判断できる資格というのが医師免許の真価なのではないだろうか.

 結果だけから業務上過失致死というのは簡単だが,リスクを家族や本人が承知して行われたものはたとえ結果が悪くても過失にはあたらないと私は思うのだがどうだろうか.そして,救急車や救命救急部門ではリスクの説明をしている時間もないのだから利用する人は暗黙の了解ということにしてもらわないと,いずれは訴訟が怖くて助かるものも助けられなくなるのではないだろうか.

http://diarynote.jp/d/41284/20040324.html
『 全医学部で地域医療実習 体験重視、医師不足に対応 診療所や中小病院で 文科省がカリキュラム改定

 山間部や離島などで医師不足が深刻化する中、文部科学省は2日までに、医学生を各地域の診療所で実地訓練する「地域医療臨床実習」を、国公私立すべての大学医学部で実施するよう、医学教育の指針(モデル・コア・カリキュラム)を改定した。

 地域医療で特に重要とされるプライマリーケア(初期診療)や在宅医療などの体験を通じ、各地で求められる医師像を医学生に伝えるのが目的。卒業生が大都市部に集中するのを抑え、過疎地域での医師不足解消につなげる狙いもある。

 地域医療臨床実習は大学の付属病院などの大病院ではなく一般の診療所や中小規模の病院、保健所などで実施。初期診療や他の医療機関との連携、各地域での病気予防活動などを体験させる。実施期間や場所などは各大学が決める。

 風邪などのよくある病気や軽いけがに対応する医師としての総合的な能力は、診療科が細分された大病院の実習では身につきにくく、文科省の専門家会議も地域医療を学生段階から体験させる必要性を指摘していた。

 モデル・コア・カリキュラムは、医学生に教える最低限の教育内容を示す指針で、大学はそれぞれのカリキュラムに盛り込むことが求められている。

 厚生労働省が2004年度から義務化した免許取得後2年間の「臨床研修」では、内科、外科、救急・麻酔科、小児科、精神科、産婦人科の各分野に加え地域医療の研修も全員が受けることになっている。

 文科省は今回の改定について「より早くから地元の事情を肌で感じることで、各地域に人材が定着するよう促せるのでは」と期待している。』

 これは文部科学省が自分の管轄である大学医学部を使って僻地の医師不足の解消へ向けて努力しているというジェスチャーなんだろう.「各地で求められる医師像を医学生に伝えるのが目的」というが,僻地で働く医師たちがそんなことも知らずに働いていたとでも思っているのだろうか.

 医学生なら現場での苦労などまだわからないから,理想に燃えて将来地方で働いてくれるとでも考えているのだろうか.研修医が大学を離れ都市部の有名ブランド病院に集中したのをもう忘れたのだろうか.地域医療実習はかえって逆効果になるとは考えもしないのだろうか.

 もっとも文部科学省では僻地で働く医師たちの労働条件を改善することができるわけでもないし,診療報酬を決定することもできないから経済的な実効性は期待できない.当の厚生労働省ときたら医師が過労死しても働かせて,労働環境にお金をかける気はまったくないようだから医師の待遇は全国的にさらに悪化している.そのしわ寄せが僻地から顕在化しているだけだろうに,医学生に何が期待できるのだろうか.

 文部科学省が僻地の医師不足を本当に改善したいなら他に方法があるのではないだろうか.例えば大学職員の医師の採用基準や大学教授の審査基準に僻地医療への貢献度を取り入れるとか大学職員に派遣枠を設けるとかである.もっとも現在は大学に医師が集まらない時代になってきているから,そんなことをしたら研究業績のほうがおろそかになると心配になるかもしれない.文部科学省の評価は研究業績重視なのだから当然のことである.

 新しい研修医制度のおかげで,これからの医師は自由に自分の働く場を選べるようになった.厚生労働省は医局から医師を引きはがしたまでは良かったが,医師の配置を思うようにすることはできなかった.当面は開業医を診療報酬で縛り付けてしのぐつもりかもしれないが,それもどうなるかわからない.

 ころころ変わる医療行政につき合わされるのは心身ともに疲れるから,ベテラン医師も考えを改めたほうがいいのかもしれない.もう肩の力を抜いて,無理をせずに,無駄な抵抗はやめて,水のように低いところに流れていくというのも新しい医師の生き方かもしれない.

 
『 診療情報流出:19病院で転送断られた妊婦遺族が告訴へ

 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明になった高崎実香さん(当時32歳)=同県五條市=が、県内外の19病院で転送を断られた末に搬送先の病院で出産後に死亡した問題で、高崎さんの診療情報がインターネット上に流出していたことが分かった。遺族は被疑者不詳のまま町個人情報保護条例違反容疑で、5月にも県警に告訴する。
 流出したのは、高崎さんの看護記録や意識を失った時刻、医師と遺族のやりとりなど。ネット上の医師専用の掲示板に書き込まれ、多数のブログなどに転載された。この掲示板は登録者数10万人以上で、問題が報道された昨年10月から書き込みが始まった。
 遺族は「医師専用掲示板には患者の中傷があふれている。診療情報の流出は自分たちだけの問題ではないと思い、告訴に踏み切ることを決めた」と話している。』

『産科医療シンポ:被害者の視点忘れずに…大阪で開催

 被害者の視点を忘れずに産科医療について考えるシンポジウムが28日、大阪市内で開かれた。産婦人科病院「堀病院」(横浜市)と奈良県大淀町の町立大淀病院の医療事故の被害者遺族らが参加。産婦人科医不足の原因に被害者らによる訴訟の多さも理由とする声があることに、「被害者が裁判を起こすのは医師側があまりにも不誠実な場合だ」「医師もなぜ医療事故が起きたかを考え、再発防止に努力してほしい」と訴えた。
 堀病院の被害者遺族は「医師不足は問題だが、事故の被害とは別だ。医療側はまず事故の真相を究明してほしい」と語った。大淀病院の被害者遺族も「(事故が起きた理由など)真実を知りたい。そして二度とこんなことが起きてほしくない」と涙を流しながら話した。』

 m3.comで私も読んだが,他のコメントでは流出情報のソースは遺族が記者会見で公開したカルテのコピーだという話もあり,2006年10月22日の毎日新聞の記事には,『さらに、患者、遺族は「名前と写真が出ても構わない」とおっしゃいました。「新聞、テレビ取材が殺到しますよ」と、私たちが気遣うのも承知の上の勇気ある決断でした。』と奈良支局長の井上朗さんが書かれていたくらいだから,本当に真実を知りたいのなら情報を公開してより多くの医師の意見を聞くほうがいいのではないだろうか.

 裁判で遺族の側に不利になりそうな情報が勝手に医師の間に広まっては困るというのなら理解できないこともないが,もしそういう姿勢なら多くの医師に不信感とやりきれない気持ちだけが残り,患者を受け入れない病院が増えるだけで再発予防にはならないと思うのは私だけだろうか.
 
この件の詳細を知りたい方のためにリンク先を追記させていただきました.
http://kenkoubyoukinashi.blog36.fc2.com/blog-date-20070501.html


 
『 抗てんかん薬のジェネリック薬への切り換えは医師と患者の同意なくしてありえない、とAANが表明

 抗てんかん薬(AED)のジェネリック薬への切り換えは、治療する医師と患者の双方がきちんとした知識を備え同意をしていなければやってはならないという立場表明を、米国神経学会(AAN)が発表した。

『Neurology』4月17日号に掲載されたこの論文が扱った問題は、医療費削減の掛け声のもとにAEDをジェネリック薬に切り換えると、てんかん患者に抑制不能な発作のリスクを過度にもたらすのかどうかという、長い間未解決だった問題である。

AANの立場表明によれば、米国食品医薬品局(FDA)は先発薬とジェネリック薬との間に大きな違いがあることを許している。

しかしてんかん患者によっては、抗痙攣薬の成分の違いがわずかであっても、結果に大きな違いが出る可能性がある。

全てか無の現象

「てんかんはその他の疾患とは別物だ。発作が起きているかどうか、副作用が起きているかどうかが治療の成果を示す目安である。高血圧のような疾患では、薬剤の用量を変えた時には血圧を測定すれば、それが奏効しているかどうかを判定できる。しかし、てんかんでは全か無の現象になる。すなわち、発作が起きるか、完全に無くなるかである」と、AAN立場表明の著者の一人であるウェイン州立大学(ミシガン州デトロイト)のGregory Barkley, MDがMedscapeに対して語った。

「神経疾患を持つ人の生活、特にてんかん患者の生活を全般に向上させることを目的にした組織であるAANは、(ジェネリック抗てんかん薬に)切り換えられたために、それもしばしば本人が知らないで切り換えられたために問題が起きたことが判っている患者の側に立った発言をすることが重要だと考えている」。

Barkley博士はさらに、ジェネリック抗痙攣薬に切り換えた結果として、抑制不能な発作や有害事象が悪化する可能性があるとも指摘した。

「抑制不能な発作が起きるようになると、その患者は運転免許証や職を失ったり、自分自身や他者を傷つけたりする場合が考えられる。このことと、ジェネリック抗痙攣薬に切り換えることで節約できると考えられる経費とを比較検討しなければならない」。

有害事象の報告は過小?

関連する解説記事においてロチェスター大学医科歯科学部(ニューヨーク)のMichel Berg, MDが、ジェネリック薬と先発薬の同等性の問題についてFDAが説明してこなかった理由のひとつとして、FDAの任意の薬剤報告システムであるMedWatchに医師がそうした事象を報告していないことを挙げている。

Berg博士によれば、ジェネリックAEDは先発薬に必ずしも同等ではないと医師と患者の大部分が感じていることが、複数の調査で判明している。しかしそのことはMedWatchの症例報告には反映されていない。その理由の1つとして、MedWatchシステムに対する認識が医師に欠けていることを同博士は挙げている。

Barkley博士は、この種の事象の報告が過小であることの理由としてさらにもう一つ、患者がジェネリック薬に切り換えたことを医師が単に気づいていないという事例が多くあることを挙げている。

「錠剤の見た目が異なっていることや(ジェネリック薬に)切り換えたことを患者が医師に特に告げないうちは、医師は抑制不能な発作や副作用増加の原因を先発薬としてしまう」と同博士は述べる。

医師と患者の同意なしでジェネリック代替薬に切り換えることに反対する立場に加えて、AANは新世代の抗痙攣薬の使用を支持することを表明している。これら新世代薬は一般的に、有害事象の特性についてはずっと好ましいが高価である傾向がある。

「医師は、より安価な代替薬で患者が効果的に治療できるかを見極めるあらゆる努力をしなければならないとAANは考えている。しかし、治療方針の決定は処方する医師の裁量に任されなければならず、保険適用の有無で決められてはならない」と著者らは記している。

Barkley博士によれば、この種の薬剤は高価なので、保険業者の中には医師がこの種の薬剤を処方するのを防ぐために、面倒な精査を強いたり承認を遅らせたりすることで障害を設けようとする業者もいる。

そのため、AANの立場表明では、公的・私的処方集による事前承認の要求にも反対している。
Neurology. 2007;68:1249-1250 , 1245-1246.』

 わが国の厚生労働省も医療費削減の掛け声のもとにジェネリック薬への切り換えを奨励しているが,この記事をみると少なくとも抗てんかん薬については考える必要がありそうだ.だが,たとえリスクを説明するにしても実際にどの程度のリスクなのかがよくわからない.それに,すでに院内の採用薬がジェネリックしかないものについては選択肢がなくなっているのが現実である.

 細かいことを言えばジェネリック医薬品は主成分以外は先発薬と必ずしも同等であることを保証されていないわけだから,ジェネリックへの変更によって問題が起きる可能性は抗てんかん薬に限らないはずだが,厚生労働省はそんなことはひと言も言わずにジェネリック医薬品優先使用のための処方せん様式変更に動いている.そういうことを国民に説明する責任はジェネリックへの切り替えを奨励する厚生労働省にはないのだろうか.

 いつもの如く,もしジェネリック医薬品で何か問題が起きれば,その責任は製薬会社と処方した医師に転嫁して終わりにするつもりなのではないだろうか.もしそうだとしたら,明日からはジェネリック医薬品の説明を少し変える必要があるかもしれない.『有効成分の主なものは同じで,先発品と類似の効果が期待でき,薬価も安く医療費削減に役立つが,その代わり新たな有害事象の起きるリスクがあるかも知れません.』なんて説明じゃ納得してもらえないだろうか.
『 医師の移住促進を目指す 深刻な不足打開で道知事

 北海道の高橋はるみ知事は12日の記者会見で、道内の深刻な医師不足の状況を打開するため、全国からの医師の移住促進に取り組む考えを示した。

 北海道はこれまで、道外の団塊世代の移住促進に取り組んでいる。

 知事は「北海道は多くの日本人があこがれる場所で、医師でも同じ考えの人はいると思う。試しに滞在してもらい、可能なら診療活動をしてもらうといったこともある」と述べた。』

 ただでさえ医師不足なのだから,道外の団塊世代の方々が移り住む地域だけでも移住してきた医師に診てもらえればいいという意味でしょうか.もっとも,移住して楽園のようなところがあるんだったら,道内からも医師が移住するんじゃないかと思います.

 それでも,北海道の地方医療で長年苦労した医師はもう二度と地方に移住しようなんて思わないでしょう.診療報酬は厚生労働省が決めているわけだし,道の財政だって不良なわけだから,具体的に何かができるとも思えません.

 結局,何も効果的な施策もできないのに誰も来ないのを医師のせいにするのはやめて欲しいと思うのは私だけでしょうか.

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