『妻の死 無駄にしないで 死亡妊婦の夫会見 

 脳内出血を起こした東京都内の妊婦(36)が都立墨東病院をはじめ計八カ所の医療機関に受け入れを断られ、三日後に死亡した問題で、妊婦の会社員の夫(36)=都内在住=が二十七日、東京・霞が関の厚生労働省で記者会見し「妻が死をもって浮き彫りにしてくれた問題を、都や国などが力を合わせて改善してほしい。妻の死を無駄にしないでほしい」などと、時折、涙を浮かべながら産科をめぐる救急医療の改善を訴えた。

 現在の心境について「生と死が同時に起こって混乱している。最も悲しいのは子供の顔を見るのを楽しみにしていた母親が、子供の顔を見ることができず、子供も母親の顔が分からずに、二人が会えなくなってしまったこと」と語った。
 夫は、かかりつけ医が連絡を取った病院から次々と受け入れを拒否されるのを隣で聞きながら「なぜこんな文明や医療が発展した都会で、こんなに死にそうに痛がっている人を誰も助けてくれないんだろうというやりきれない気持ちでいっぱいになった」という。

 最終的に妊婦を受け入れた墨東病院側が「脳内出血という認識はなかった」とした点をめぐり、夫は「かかりつけ医は頭痛が尋常じゃないと伝えていた」としながらも「私は誰も責める気はない。墨東病院の当直医の方が傷ついて、病院を辞めて産科医が減ったら意味がない。産科医としての人生をまっとうし、絶対に辞めないでほしい」と訴えた。』

 東京大学附属病院が加わって8カ所の医療機関ということになった.医師の逃散の全ての原因は研修医制度と救急医療を当直医の善意に任せきりにしてきた厚生労働省にあると思うのだが,舛添厚生労働大臣にはその自覚があるのだろうか,お膝元の都内で起こった問題だけに墨東病院に視察に行ったり,厚労省に報告が2週間以上もこなかったことに憤っているようだが,奈良や福島の事件のことは知らなかったとでも言うのだろうか,それとも地方での事件だから特別な対応は必要ないとでも考えていたのだろうか.

 残念ながら夫のコメントも「「なぜこんな文明や医療が発展した都会で...」と都会だから助かって当然と考えているようにも聞こえるから,所詮,現場の医師の気持ちなどわかってもらえないということだろう.都会だろうが田舎だろうが救急患者の搬入を受け入れる医師は誰だって自分にできることなら患者を助けたいと思っているに決まっているのだ.だが,そう思っても,それが簡単には出来ない状況になっているからこそ搬入を断ることになったり,救急医療から撤退する病院が増えるのだろう.この一言は地方都市で救急をやっている医師のモチベーションを低下させるに十分だし,たとえ都市の大病院でも入院できなければ無いも同然ということである.

 厚生労働省も医師不足を認めざるを得なくなったくらいだから,原因を医師不足にするのは簡単でわかりやすい話だが,もっと問題なのは救急医療に携わる医師のモチベーションの低下だろう.墨東病院側が受け入れ拒否の理由を,「脳内出血という認識はなかった」というのもおかしな話で,総合周産期母子医療センターとして受け入れ可能な体制だったかどうかが問われるべきで,当直の研修医が脳出血を疑っていたかどうかなんていうのは本質的な問題ではないだろう.

 都から総合周産期母子医療センターの認定を受けている全9施設のうち墨東病院のみが問題発生後も土日1人当直体制を続行せざるを得ず,問題発覚後も問題発生時の当直医と同じ研修年数の別の研修医が当直しているそうだが,ちょっと信じられない話である.病院側の診療体制によって起きた問題を,当直の研修医の判断の問題にすり替えてマスコミの餌食にしてしまうような病院で今後も研修を続ける研修医はいったいどう思っているのだろうか.こんな目にあってもまだ,産科医として救急をやっていく勇気が残っているなら話を聞いてみたいものである.

 
『脳出血「対応できぬ」7医療機関が拒否、妊婦死亡

 脳出血を起こして緊急搬送先を探していた東京都内の妊婦(36)が、七つの医療機関から受け入れを断られ、出産後に死亡していたことが22日、わかった。

 いったん受け入れを断り、最終的に対応した都立墨東病院(墨田区江東橋)は、緊急対応が必要な妊婦を受け入れる病院として都の指定を受けていた。都は詳しい経緯を調べている。

 都などによると、今月4日午後6時45分ごろ、江東区に住む出産間近の妊婦が頭痛や吐き気などを訴え、同区内のかかりつけの産婦人科医院に運ばれた。医師は、墨東病院に電話で受け入れを要請したが、同院は「当直医が1人しかいないので対応できない」と断った。医師は引き続き、電話で緊急対応が可能な病院を探したが、「空きベッドがない」などの理由で、同院を含め計7病院に受け入れを断られた。

 医師は約1時間後、再び墨東病院に要請。同院は別の医師を自宅から呼び出して対応し、同9時30分ごろから帝王切開で出産、同10時ごろから脳出血の手術をしたが、妊婦は3日後に死亡した。赤ちゃんは無事だった。

 墨東病院は、母体、胎児、新生児の集中治療に対応できる「総合周産期母子医療センター」として1999年6月に都が指定。

 同センターに関する都の基準では、「産科医を24時間体制で2人以上確保することが望ましい」とされている。しかし、同病院では、産婦人科の常勤医が2004年に定員の9人を割ってから、慢性的に不足しており、現在は、4人にまで減っていた。

 そんな中、当直も担当していた非常勤産科医が6月末で辞め、7月以降は土日、祝日の当直医を1人に縮小しており、妊婦が搬送された4日は土曜日だった。

 都の室井豊・救急災害医療課長は「搬送までの時間と死亡との因果関係は不明だが、もう少し早ければ、命が助かった可能性も否定できない。産科の医療体制が脆弱(ぜいじゃく)だった点は問題で、早急に対策を取りたい」として、受け入れを断った他の病院についても、当時の当直体制など、詳しい事情を聞いている。』

 24時間態勢で緊急対応が必要な妊婦を受け入れるとしている病院が別の医師を自宅から呼び出して対応しなければならないなんていうのはおかしな話だ.そんな病院が24時間救急をやっていることが問題で,救急搬送の受け入れを制限せざるを得なかったのは東京都の福祉行政の責任だろう.

 とは言っても,産科医が4人しかいなくなったのも補充がきかなくなったのも研修医制度や福島や奈良の訴訟事件などの影響による医師の逃散の結果なのだろうから,東京都内とは言えどもブランド病院との格差がこういうところで顕在化しただけなのだろう.

 一人で当直していた医師にすれば,頑張って受け入れて死亡して訴訟を起こされるリスクと,受け入れを頑なに拒否して救急車内で死亡して問題になるリスクとの究極の選択から受け入れの方を選択して応援の医師を呼んだのではないだろうか.それでも,結果として受け入れが1時間遅れ,脳出血の手術の3日後に死亡すればこうしてマスコミのネタになってしまうのである.

 聞いた話だが,小児救急でも同じようなことが起きているようで,人手不足で過労気味になると耐えられなくなった若い医師から辞めていくので,最後には残された責任感ある部長医師の負担が増えているようである.こうなると自分が過労死するか患者が死んで訴えられるのを待っているようなものである.本来,救急医療というのは救急病院にしてみれば日常業務であって,緊急事態ではないはずなのに脳出血の妊婦さん一人でこの騒ぎというのは異常ではないだろうか.

 医師が少ないからといって当直医が救急医も兼ねるという伝統的な労働基準法違反も一向に改善される気配がないのも,定員割れした病院が救急指定になっているのも元はと言えば厚生労働省のせいなのだが,医師の待遇を改善する気などまったくないだけでなく,未だに本音は医療費削減で,さらに隙あらば医師を強制配置しようなどと考えている輩に医療現場の環境改善を期待するのは無理だろう.

 マスコミは簡単に記事になる医者たたきや病院たたきで終わらずに,医師が救急医療から逃げ出そうとしている本当の理由を探してみる気はないのだろうか.
 急に寒くなってきた割に脳卒中で救急搬入になるのが少ないのはいいことなんだろうが,代わりに低血糖発作で救急搬入される患者さんが目につく.意識障害だけでなく瞳孔異常や片麻痺があったりすると救急隊員には脳卒中との鑑別が難しいのはわかるが,中には意識障害の鑑別診断ができない内科医からの依頼まであって救急外来で寒い思いをするのである.

 ネットで検索しても意識障害の鑑別で最初に必ずやるべきことの一つに血糖値のチェックと書いてある.血糖値の測定は僅かな血液で簡単に検査できるものなのになぜか救急隊員はやらないことになっているようだが,低血糖発作は内科で診れるものなので脳卒中との鑑別くらい救急車の中でやってもらえないものだろうかと思うのだ.

 低血糖発作は初期であれば診断も治療も簡単にできるのに,割とよく見落とされるのだろうか.時間が経つ程に意識障害の回復が難しくなり,場合によっては致死的になるので搬送時に診断できるならそのほうがより望ましいのではないだろうか.そして,診断がついたらブドウ糖液くらいは救急車内で静脈内投与してもよいことにするべきではないだろうか.

 救急隊員は軽症患者にはタクシー扱いされながらも本当に一生懸命働いていると思うが,救急患者のより適切な搬送を行うためにはもう一歩踏み込んだ知識や技能を身につけてもらう必要があるだろう.また,そうなることによって救急担当医との信頼関係も増して病院の受け入れもより好意的になるのではないだろうか.意識障害や麻痺があったらとりあえず脳神経外科に運ぶだけというのはもう止めた方がいいのにと思うのは私だけだろうか.
福島県立大野病院事件の福島地裁判決理由要旨

福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性患者が死亡した事件で、福島地裁が言い渡した無罪判決の理由の要旨は次の通り。

 【業務上過失致死】

 ●死因と行為との因果関係など

 鑑定などによると、患者の死因は失血死で、被告の胎盤剥離(はくり)行為と死亡の間には因果関係が認められる。癒着胎盤を無理に剥(は)がすことが、大量出血を引き起こし、母胎死亡の原因となり得ることは、被告が所持していたものを含めた医学書に記載されており、剥離を継続すれば患者の生命に危機が及ぶおそれがあったことを予見する可能性はあった。胎盤剥離を中止して子宮摘出手術などに移行した場合に予想される出血量は、胎盤剥離を継続した場合と比較すれば相当少ないということは可能だから、結果回避可能性があったと理解するのが相当だ。

 ●医学的準則と胎盤剥離中止義務について

 本件では、癒着胎盤の剥離を中止し、子宮摘出手術などに移行した具体的な臨床症例は検察官、被告側のいずれからも提示されず、法廷で証言した各医師も言及していない。

 証言した医師のうち、C医師のみが検察官の主張と同趣旨の見解を述べている。だが、同医師は腫瘍(しゅよう)が専門で癒着胎盤の治療経験に乏しいこと、鑑定や証言は自分の直接の臨床経験に基づくものではなく、主として医学書などの文献に頼ったものであることからすれば、鑑定結果と証言内容を癒着胎盤に関する標準的な医療措置と理解することは相当でない。

 他方、D医師、E医師の産科の臨床経験の豊富さ、専門知識の確かさは、その経歴のみならず、証言内容からもくみとることができ、少なくとも癒着胎盤に関する標準的な医療措置に関する証言は医療現場の実際をそのまま表現していると認められる。

 そうすると、本件ではD、E両医師の証言などから「剥離を開始した後は、出血をしていても胎盤剥離を完了させ、子宮の収縮を期待するとともに止血操作を行い、それでもコントロールできない大量出血をする場合には子宮を摘出する」ということが、臨床上の標準的な医療措置と理解するのが相当だ。

 検察官は癒着胎盤と認識した以上、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術などに移行することが医学的準則であり、被告には剥離を中止する義務があったと主張する。これは医学書の一部の見解に依拠したと評価することができるが、採用できない。

 医師に医療措置上の行為義務を負わせ、その義務に反した者には刑罰を科する基準となり得る医学的準則は、臨床に携わる医師がその場面に直面した場合、ほとんどの者がその基準に従った医療措置を講じているといえる程度の一般性、通有性がなければならない。なぜなら、このように理解しなければ、医療措置と一部の医学書に記載されている内容に齟齬(そご)があるような場合に、医師は容易、迅速に治療法の選択ができなくなり、医療現場に混乱をもたらすことになり、刑罰が科される基準が不明確となるからだ。

 この点について、検察官は一部の医学書やC医師の鑑定に依拠した準則を主張しているが、これが医師らに広く認識され、その準則に則した臨床例が多く存在するといった点に関する立証はされていない。

 また、医療行為が患者の生命や身体に対する危険性があることは自明だし、そもそも医療行為の結果を正確に予測することは困難だ。医療行為を中止する義務があるとするためには、検察官が、当該行為が危険があるということだけでなく、当該行為を中止しない場合の危険性を具体的に明らかにしたうえで、より適切な方法が他にあることを立証しなければならず、このような立証を具体的に行うためには少なくとも相当数の根拠となる臨床症例の提示が必要不可欠だといえる。

 しかし、検察官は主張を根拠づける臨床症例を何ら提示していない。被告が胎盤剥離を中止しなかった場合の具体的な危険性が証明されているとはいえない。

 本件では、検察官が主張するような内容が医学的準則だったと認めることはできないし、具体的な危険性などを根拠に、胎盤剥離を中止すべき義務があったと認めることもできず、被告が従うべき注意義務の証明がない。

 【医師法違反】

 本件患者の死亡という結果は、癒着胎盤という疾病を原因とする、過失なき診療行為をもってしても避けられなかった結果といわざるを得ないから、医師法にいう異状がある場合に該当するということはできない。その余について検討するまでもなく、医師法違反の罪は成立しない。』

 まだ,検察が控訴する可能性が残されているし,医療への介入がなくなる保証もないから明るい気持ちにはなれないが,福島地裁の鈴木裁判長の判断がきわめて常識的なものだったことには安心した.

 医療界だけでなく社会に与えた影響の大きさを考えると,癒着胎盤の治療経験に乏しい鑑定医の文献に頼った鑑定や証言を根拠に加藤医師を逮捕.起訴した検察の社会的な責任は極めて重いのではなかろうか.

 
『点滴後女性1人死亡 13人体調不良、感染症か 三重・伊賀の整形外科  

 三重県伊賀市の整形外科「谷本整形」で点滴などの治療を受けた患者14人が体調を崩し、うち女性1人が死亡したことが10日、県警などの調べで分かった。県警捜査1課と伊賀署が事件、事故の両面から捜査を始め、病院関係者から任意で事情を聴いている。女性の遺体を司法解剖して死因を調べる。患者が救急搬送された伊賀市の上野総合市民病院や県は、症状から感染症の可能性があるとしている。

 県警と県健康福祉部によると、いずれも谷本整形で5月23日から今月9日の間に、鎮痛剤「ノイロトロピン」とビタミン剤「メチコバール」などの点滴を受けた後、数時間のうちに発熱や嘔吐(おうと)などの症状を示し、具合が悪くなったという。白血球が急激に減少したり、高熱を出したケースもあった。

 死亡したのは伊賀市島ケ原の市川満智子(いちかわ・まちこ)さん(73)。9日に治療を終えた後、10日に自宅で死亡しているのを家族が見つけた。残りの13人は60代から80代の男女で、ほかの病院に入院したが、2人はすでに退院し、快方に向かっているという。

 最初に5月23日に谷本整形の患者3人が体調不良を訴えた。患者らが運ばれた上野総合市民病院が県に届け、発覚した。

 県によると、点滴液は鎮痛剤とビタミン剤を1アンプルずつ生理食塩水に混ぜて調合するタイプ。院長の処方に基づいて看護師が調合したとみられるが、濃度などを間違えることは考えにくいという。点滴の器具は使い捨てだった。

 県警は10日、谷本整形から提出された器具や薬剤などを分析。県も同日、診察の自粛を指導した。残っていた鎮痛剤などを調べるとともに、11日も引き続き同病院で関係者から事情を聴く。

 谷本整形はホームページによると、1994年、当時東京厚生年金病院整形外科医長だった谷本広道(たにもと・ひろみち)氏が父親の経営していた医院を引き継ぐ形で設立した整形外科専門病院。

▽ノイロトロピン

 ノイロトロピン 腰痛や肩関節周囲炎のほか、湿疹(しっしん)などの皮膚疾患やアレルギー性鼻炎などに用いられる薬。鎮痛、鎮静、抗アレルギーなどの作用がある。0・1-0・5%未満の確率で胃部不快感や嘔吐(おうと)などの副作用が起きるとされる。自律神経機能が低下している高齢者には、患者の状態を観察しながら慎重に投与する必要がある。

▽メチコバール

 メチコバール エーザイが販売するビタミン剤で、末梢(まっしょう)性神経障害に用いられる。5%未満の確率で食欲不振や嘔吐(おうと)、下痢、0・1%未満の確率で発疹(ほっしん)の副作用があるという。水銀やその化合物を取り扱う職業従事者への長期間の大量投与は避けることが望ましい。』

『「評判の良い医者で何が」 近所の住民、不安募らせる 
    
 「お年寄りに人気があって評判の良いお医者さんなのに...」。治療を受けた患者14人が体調を崩し、うち女性1人が死亡したことが10日、明らかになった三重県伊賀市上野車坂町の整形外科「谷本整形」。同病院内には三重県警の捜査員らが入り、近所の住民らは一様に不安げな表情を浮かべた。

 谷本整形では県警がロープの規制線を張り、近づけない状態。1階玄関の透明ガラスの向こうには「三重県警」と文字が入ったジャンパーを着た捜査員が、職員から事情を聴いたり、院内の写真を撮影。医師や職員らが慌ただしく行き交う中、段ボールなどを運び出した。11日未明、帰宅する谷本整形の職員とみられる十数人が一斉に院内から外に出てきたが、報道陣の問い掛けには一切応じずに無言で病院を後にした。

 近所の住民によると、谷本整形は地域の高齢者の予防医療などに力を入れ、院長は講演会を開いたこともあった。最新の医療機器や医療技術を取り入れ、多くの高齢者が連日、診察に列をなし予約がいっぱいの状態という。

 60代の主婦は「院長は明るい性格で、とても親切な方。病院の評判は良い。こんなことが起きて本当にびっくりしています」と話した。

 患者が搬送された上野総合市民病院(伊賀市四十九町)では10日深夜に病院長らが1階会議室で記者会見。多くの報道陣を前に険しい表情で質問に応じ、谷本整形の院長が「どうしてこうなったのか分からない」「原因を調べてください」と動揺した様子で話していたことを明らかにした。

 ほかの患者が運ばれた岡波総合病院(同市上野桑町)にも報道機関からの問い合わせが殺到したが、「詳しく分かる者がいないので...」と繰り返した。』

 外来患者さんがとても多くて,外来で点滴する患者さんもものすごく多いので待ち時間短縮のために点滴の作り置きをしていたら,その点滴が原因で敗血症にでもなったのだろうか.余った点滴を翌日にも使っていたというのだから,管理体制に問題があったと言われるのは当然の事だろう.

 「採血器具使い回し」の発覚も続いているなどこれだけ医療事故が問題になっている時代なのに院内感染対策の基本的な所に問題のある医療機関がこんなにあるとは信じられない話である.そして,院長のコメントが「知らなかった」とか「なぜこうなったのかわからない」というのだから本当に無知なのか故意だったのか聞いてるほうもわからなくなる.いずれにしてもマスコミの餌にされたわけだから危機管理能力が足りなかったのは事実だろう.

 ところで,マスコミで薬の名前が挙げられるとまたすぐこの薬のせいだと早とちりする人もいるだろうが,ノイロトロピンもメチコバールも非常によく使われる薬であるし,私は今までこれらによる副作用なんて経験した事がないので安全性については心配はしていない.もっとも,これらを注射して症状が著明に改善したということもないので,本当の効果についてはプラセボと同等くらいではないかと思っている.それでも,注射してみて患者さんの症状が良くなるなら別に文句はないのである.

 安全性は高くて,患者さんが注射をすれば良くなると言えば当然外来での注射の回数も増え,患者さんの言いなりに注射を続けて満足度が上がり「評判の良い医者」ということになって患者さんが増えるのは開業医的にはいいことだろうが,効率的に点滴するために作り置きして余ったら翌日も点滴をするというような状況だったとしたら,ひょっとして点滴の必要のない患者さんにも点滴をおすすめして感謝されてしまったりしたことはなかったのだろうかと思ってしまうのは私だけだろうか.
『病床削減で救急に影響 高齢者搬送でベッド満杯に

 高齢者らが長期入院する療養病床を大幅に削減する国の計画の影響で、現在厳しくなっている救急病院での患者の受け入れ状況がさらに悪化する懸念が出ている。

 療養病床が削減され、介護施設や在宅に移った場合、緊急時の対応ができずに高齢者が救急病院に運び込まれるケースが増える。このため受け入れベッド数が足りなくなる恐れがあるためだ。

 現在、介護型の療養病床の常勤医師数は入院患者100人に対し3人。これが、療養病床から転換先となる介護療養型老人保健施設になると1人になる。

 事実上、夜間は医師が常駐できず、症状が悪化した場合は、救急病院に搬送せざるを得ない。在宅での療養に移った人も同じ事態が起きる。

 受け入れ側の救急病院では、高齢患者の増加などでベッドに余裕がない状態。消防庁の調査によると、救急車で運ばれた人のうち、高齢者の割合は2006年時点で45%に上るなど年々、増えている。

 帝京大救命救急センター長の坂本哲也(さかもと・てつや)医師は「在宅や介護施設に移す政策が進み、体の弱い高齢者が救急に押し寄せている。症状が落ち着いても、もとの施設にも自宅にも戻れず、そのまま救急病院で診なければならない。このため高齢者でベッドが埋まり、新しい患者を受けられない状況だ」と説明する。

 日本療養病床協会の武久洋三(たけひさ・ようぞう)会長は「症状が悪化したときに対応できる療養病床が減れば、さらに搬送が増える。救急でしか診られない患者と、それ以外の患者を診る療養病床とで、役割分担するべきだ」と話している。』

 以前に救急外来への介護施設からのコンビニ受診が増えていると書いたが,今後はこれが増えていくのだろう.軽症なら点滴してお引き取り願いたいところだが,施設の付添の人は自分のところで経過をみるのも手間なので入院を希望されることも多い.その結果として満床になってしまい救急車の搬入ができなくなることもある.

 今や療養病床に入院できるのは経管栄養や気管切開のために医師や看護師がチューブやカニューレを定期的に交換する必要があるような介護施設では暮らせない人たちだけである.だから,介護施設から受診して入院する人たちは急性期病棟に入院することになるのだが,当然のこととして後期高齢者と呼ばれる人たちが多いので,風邪をこじらせた肺炎だけでも1ヶ月以上もリハビリテーションが必要になることも珍しくはないのである.

 数年前まで急性期病床に空きがないために救急搬入されたクモ膜下出血の患者さんに付き添って搬送するような事態になるとは思ってもみなかったが,これが今の救急の現実なのだろう.比較的軽症だが介護施設では対応できない患者さんが急性期病床にあふれ,本当に緊急を要する患者さんが入院できないというのはもうすでに起きていることである.

 こんなことも厚労省にとっては想定外だったのだろうが,今更気づいたとしても消えたベッドはもうどうにもならないのである.医師だけでなく病床も足りなくなったのだから,当然の結果として救急医療の崩壊はさらに進むことになるのだろう.
『くも膜下出血見逃し女性死亡 佐久病院医師を書類送検

 県厚生連佐久総合病院(佐久市臼田)で2004年10月、頭痛を訴え受診した佐久市岩村田、主婦小林美幸さん=当時(55)=がくも膜下出血で死亡し、夫の哲さん(59)が医療ミスがあったとして告訴していた問題で、南佐久署は13日、診察した同病院の○○医師を業務上過失致死の疑いで地検佐久支部に書類送検した。

 調べによると、○○医師はくも膜下出血の初期段階を疑い、適切な検査と治療をしなければならなかったのに怠った過失により、05年1月12日、同病院で小林さんを死亡させた疑い。同日、告訴状を受理し、捜査をしていた。○○医師は過失を認めているという。

 同署などによると、小林さんは04年10月23日、後頭部に急激な痛みを感じ、同病院の救急外来を受診。「肩凝りによる頭痛」と診断され帰宅したが、数時間後に意識不明になって同病院の集中治療室(ICU)に入院し、意識が戻らないまま死亡した。受診時に小林さんはくも膜下出血の恐れを伝えたが、○○医師はCT(コンピューター断層撮影)検査などをしなかったという。○○医師は研修2年目で、当日は土曜日だった。

 同病院の夏川周介院長は「結果的には判断ミスだった。今後の経過を見守りたい」としている。

 哲さんは「医師はくも膜下出血の症状をよく知らなかったようで憤りを感じる。病院側は示談を申し込んできたが断った。起訴されるか経過を見守りたい」と話した。』(注:書類送検の段階なので○○医師とさせていただきました.)

この記事は医師の掲示板でも先週かなり注目されたらしい.この件に関しては研修医が告訴されたということで2004年12月20日にもコメントしたのだけれども,それから書類送検までに3年以上もかかったのは何故なのだろうか.

病院院長も研修医本人も認めているというのなら思い当たる何らかのミスがあったのは間違いないのかも知れないが,結果的に死亡したから研修医のミスを認めるというのでは,今後の救急医療のためにもならないことだろう.

1.診断能力がまだ不十分な医師の誤診というのはいくらでも起こりうることであって,その責任が全て研修医個人にあるというのは問題にならないのだろうか.病院の救急体制や研修医の指導体制には問題がなかったのだろうか.

2.患者側も診断に不満があれば他の医師の意見を求めることは不可能だったのだろうか.脳神経外科や神経内科の専門医の診察を受けられる病院を受診することはできなかったのだろうか.

などの点についてはどうだったのかなどを知りたいのは私だけだろうか.
『ネットで横行、患者中傷 医療事故被害者が標的に 遺族ら実態把握や対策検討 悪質事例は刑事告訴も

 医療事故で亡くなった患者や家族らを中傷する内容の書き込みがインターネット上で横行しているとして、事故被害者の遺族らが18日までに、実態把握や防止策の検討に乗り出した。悪質な事例については、刑事告訴も辞さない方針だ。

 遺族らは「偏見に満ちた書き込みが、医師専用の掲示板や医師を名乗る人物によるブログに多い。悲しみの中で事故の再発防止を願う患者や遺族の思いを踏みにじる行為で、許し難い」と指摘。

 厚生労働省も情報を入手しており、悪質なケースで医師の関与が確認された場合は、医道審議会で行政処分を検討する。

 中傷を受けた遺族や支援する弁護士ら約20人は4月、大阪で対策協議会を開催。日弁連人権擁護委員の弁護士も出席した。会場では被害報告が続出し、今後も情報交換を続け、対応を検討することを確認した。

 メンバーの1人で高校教諭勝村久司(かつむら・ひさし)さん(46)=京都府=によると、中傷は「事故の責任は医師にはなく、悪いのは患者」といった趣旨が多い。2004年に福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性=当時(29)=が死亡した事故で、06年2月に産婦人科医(40)が逮捕された直後から目立ち始めたという。

 対策協議会が集めた資料によると、この事故をめぐっては今年1月、医師専用の掲示板に、被害者の家族を攻撃する書き込みがあった。

 この掲示板は医師を対象とした会員制。06年10月にも、奈良県内の病院で同年8月に起きた医療事故により死亡した妊婦=当時(32)=の夫への悪質な中傷が載った。県警は書き込んだ医師を特定。奈良区検が侮辱罪でこの医師を略式起訴し、昨年9月に奈良簡裁が科料9000円の略式命令を出した。

 掲示板の運営会社(東京)は「奈良の事件後、すべての書き込みをチェックし、不適切と判断したものを削除するなどの対策を取っている」としている。』

 福島県立大野病院産科医逮捕事件から学んだことをまとめてみよう.

1.本来,患者が事前に医師を選ぶことができる産科で家族との信頼関係の上で行ったはずの医療行為であっても,結果が悪ければ刑事告訴も辞さない家族がいること.

2.患者さんのために劣悪な労働環境に耐えて働いた実績があっても,警察やマスコミは医師に敬意を払ったりはしてくれないこと.

3.医師専用のはずの掲示板で医師仲間で不満をぶちまけても,それがマスコミを通じて一般社会に流布されてしまうこと.

4.患者が医師の悪口を言うことには寛大な社会も,医師が患者や家族の悪口を言うことは決して許さないであろうこと.

5.医師の高い倫理観や使命感などというものも,今や医師や患者の単なる理想に過ぎなくなり,現実には医療の現場も成果主義になったということ.

 あの事件以来,いつ自分が業務上過失致死で逮捕されるかと心配している医師も多いと思われるが,その不安や不満のはけ口となっている医師専用掲示板での発言に対しても刑事告訴も辞さない方針なのだとしたら,溜まったストレスはいったいどこへ向かうのだろうか.

 患者も医師もお互いの立場を理解してあげることが必要だと思うのだが,この調子ではそれも無理みたいな感じがする.それとも誰かが患者と医師の対立を煽って医療費抑制あるいは医療崩壊をすすめようとでもしているのだろうか.

 なんだかよくわからないが,とりあえず8月20日の判決を待つことにしよう.
『「軽度」外すと2兆円超減 介護保険給付で財務省試算

 財務省は13日の財政制度等審議会(財務相の諮問機関)に、介護保険制度の対象から要介護度が「軽度」の人を外すと、介護給付にかかる費用が年約2兆900億円減少するとの試算を提示した。国と地方の財政負担が減少し、1人当たりの保険料も年約1万5000円安くなる。

 介護保険をめぐっては、昨年末から厚生労働省の審議会が制度改正に向けた議論を始めた。財務省は保険対象者の絞り込みなどで財政負担を抑えたい考えだが、「軽度」の切り捨てに反発も出そうだ。

 介護保険の給付費は、税金と保険料で半分ずつ賄う。試算によると、ドイツと同様に「軽度」の介護が必要な人を対象外とすると、国庫負担を約6100億円、地方負担を約5800億円いずれも減らせる。

 節約できる保険料の総額は、65歳以上の高齢者が約4000億円、40歳以上65歳未満で約6500億円。

 「軽度」のうち掃除や調理などの生活援助しか利用していない人を対象から外した場合は、国と地方の負担が約300億円ずつ減り、保険料は1人当たり年約800円安くなるにとどまる。』

 大蔵省から厚労省保険局出向を経て財務省を退官した方が,「抑制策は限界に来ている。薬漬けなど削るところがないわけではない。しかし、削減したとしても、小児科や産科など手厚くすべき所もある。国際水準で日本の医療費の対GDP比は低く、増やしてもいいぐらいだ。これ以上やると、ただでさえ崩壊している医療がさらに壊れてしまう」,「財務省は財政再建至上主義だが、政治家などからも指摘が相次いでおり、そろそろ限界だという認識はあるのではないか」と言ったらしいが,このニュースをみるかぎりそんなことはなさそうだ.

 これからも医療や介護の環境は悪化の一途をたどるような気がするが,厚労省も財務省には頭が上がらないみたいだから,恨むんなら財務省を恨めということなのかもしれない.もっとも,まだ若くて健康な人たちは状況を把握することもできていないだろうから,気がついたときにはすでに手遅れになっていることだろう.

 
わかりにくいので自分なりに整理してみました.

『後期高齢者医療制度の問題点

1.公的保険給付範囲を削減・縮小する。

2.都道府県が「医療費適正化計画」を策定し、数値目標の達成が困難な都道府県に対しては、厚生労働大臣の指示で、ペナルティを課す。ここでの「医療費適正化」とは、都道府県を国の出先機関とし、「いかに患者に保険医療を使わせないか」を競争させること。

3.今は負担ゼロの人に新たに保険料負担が発生する。

 a.政府が示している平均的厚生老齢年金受給者の場合の保険料は、月額6,200円で、年間74,400円の負担増となり、2ヵ月ごとに介護保険料と合わせて2万円以上が年金から天引きされる(月額15,000円以上の年金受給者の、老齢年金、遺族年金、障害年金から天引き)。

 b.扶養家族となっていたために、保険料負担がゼロだった人(厚生労働省の推計では約200万人)には、激変緩和措置として2年間は半額になる措置が取られることになっていますが、新たな負担増であることは変わらない。

 c.サラリーマンとして働いている人が75歳になれば、その扶養家族は新たに国民健康保険に加入しなければならず、国民健康保険料がそのまま負担増になる。

4.現行制度にない厳しい資格証明書の発行

 a.保険料を「年金天引き」ではなく「現金で納める」人(政府の試算では2割と見込まれている)にとっては、保険料を滞納すれば「保険証」から「資格証明書」に切り替えられ、「保険証」を取り上げられられる。

 b.さらに、特別な事情なしに納付期限から1年6ヶ月間保険料を滞納すれば、
保険給付の一時差し止めの制裁措置もある。

5.給付を切り詰める『差別医療』の導入

 a.医療機関に支払われる診療報酬は、他の医療保険と別建ての「包括定額制」とし、「後期高齢者の心身の特性に相応しい診療報酬体系」を名目に、診療報酬を引き下げ、受けられる医療に制限を設ける方向を打ち出している。 

 b.厚生労働省から示されているのは、主な疾患や治療方法ごとに、通院と入院とも包括定額制(例えば、高血圧症の外来での管理は検査、注射、投薬などをすべて含めて一カ月○○○円限りと決めてしまう方法)の診療報酬を導入する。

6.後期高齢者を対象とした「かかりつけ医」の報酬体系を導入し、「登録された後期高齢者の人数に応じた定額払い報酬」とし、「医療機関に対するフリーアクセス(『いつでも、誰でも、どこへでも』)の中の『どこへでも』をある程度制限」することを提言しており、後期高齢者に対する医療内容の劣悪化と医療差別を招く恐れがある。

7.後期高齢者が増え、また医療給付費が増えれば、「保険料値上げ」か「医療給付内容の劣悪化」か、というどちらをとっても高齢者は「痛み」しか選択できない、あるいはその両方を促進する保険料自動引き上げの仕組みになっている。

 a.2年ごとに保険料の見直しが義務付けられ、各広域連合の医療給付費の総額をベースにして、その10%は保険料を財源にする仕組みとなっている。

 b.さらに後期高齢者の人数が増えるのに応じてこの負担割合も引き上げる。

7.保険料は、「後期高齢者医療広域連合」の条例で決めていくが、関係市町の負担金、事業収入、国及び県の支出金、後期高齢者交付金からなる運営財源はあるものの、一般財源を持たない「広域連合」では、独自の保険料減免などの措置が困難になる。

8.広域連合議員の定数は制限されており、半数以上の市町から議員を出すことができない。しかも、その議員は「各市町の長及び議会の議員」のうちから選ばれることとなっており、当事者である後期高齢者の意見を、直接的に反映できる仕組みが不十分。

9.住民との関係が遠くなる一方、国には「助言」の名をかりた介入や、「財政調整交付金」を使った誘導など大きな指導権限を与えており、広域連合が国のいいなりの“保険料取立て・給付抑制”の出先機関になる恐れがある。』

 要約すると高齢者の公的保険給付範囲を削減・縮小する一方で,自己負担を増加させ「かかりつけ医」以外への受診機会を抑制し,さらに国による老人医療への介入を増大させ地方の医療崩壊を促進するシステムのようだ.これで長寿医療制度とはまったくふざけた不適切な表現である.私ならこれを「国立姥捨山制度」と命名したいところだ.

 まず,月々の保険料が6200円というのが気にくわない.「かかりつけ医」の報酬算定が月1回で6000円だというのに,何故,それを上回る保険料を75歳以上の人が払わなければならないのであろうか.これは,明らかに不当な差別だろうし,新制度に便乗した保険料の上乗せではないだろうか.

 それに,「かかりつけ医」以外での受診は従来通りに出来高払いというのも矛盾した話である.これは,慢性疾患があって「かかりつけ医」のある患者さんが,「かかりつけ医」にかかった場合の料金と「かかりつけ医」以外にかかった場合の料金が違うということもあるし,そもそも慢性疾患がなくて普段は病院に通院していない人の場合は,出来高でいままで通りの料金であるにもかかわらず,場合によっては自動的に毎月6200円を上乗せされているようなことになるのである.

 いずれにしても,新制度は増大する高齢者の医療費を圧縮するのが真の目的なのだから,診療側からみて「かかりつけ医」になっていい事など何もあるはずがない,だから,医師会によっては「かかりつけ医」になることを拒否するように会員にすすめるようなところが出てくるのである.患者さんにとっても「かかりつけ医」ができたから安心できるわけもないだろう.なにしろ厚生労働省の言う「かかりつけ医」とは月々6000円以内で診療してくれる医師という以外の何者でもないのだから.

 新制度は患者のためでも医師のためでもないということがわかっていただけたであろうか.誰のための制度かということはもう考えなくてもわかるだろう.財政破綻のツケをこれから増えるであろう高齢者自身,そして将来的には私たちに背負わせるのと,地方自治体の医療行政への影響力を弱め,厚労省の介入をさらに強めるための布石にすぎないと私は思うのだがどうだろうか.
 
『国立がんセンター:千葉でも麻酔医退職 4人が1人に

 国立がんセンター中央病院で麻酔医が不足している問題で、同センターのもう一つの拠点である東病院(千葉県柏市、江角浩安院長、病床数425)でも、4〜5年前まで4人いた常勤の麻酔医が相次いで退職し、4月からは1人になったことが分かった。東病院では非常勤の麻酔医を増やすなどして、対応に苦慮している。

 江角院長によると、4人の常勤麻酔医のうち2人が、ここ数年で退職。今年3月末にはさらに1人が辞めた。退職の理由は大学や他病院での勉強、出産などさまざまだった。全国10カ所以上の大学に派遣を依頼するなどしてきたが、欠員分を補充できなかったという。苦肉の策として、1月末時点で1人だった非常勤の麻酔医を4人に増やした。

 東病院で全身麻酔を要する外科手術は1日当たり約10件、年間約2400件ある。患者への影響を避けるため、この手術件数は維持するが、1人しかいない常勤麻酔医の負担が大幅に増しており、今後も新たな確保の努力を続けるという。

 麻酔医不足の一因として江角院長や関係者は、特定の医療機関に属さない「フリーランス」の麻酔医が急増していることを挙げる。フリーランスの麻酔医は病院と個別に契約を結び、契約額によっては少ない勤務時間でより高い報酬を得ることが可能になる。

 江角院長は「常勤医師の確保は病院の死活問題で、少なくともあと3、4人は確保したい。だが、常勤よりフリーランスでいる方が働きやすい状況ができてしまった」と困惑する。』

契約社員よりも正社員の方が待遇が悪ければ,こうなるのも無理はないだろう.国立がんセンターの待遇を改善しないことには,たとえ医師数が増えても元にはもどらないだろうが,それ以前に同様の事が全国のがんセンターで起きてしまうのではないだろうか.いっそのこと国立病院の医師は国家公務員を辞めて自由契約にしてもらうほうが医師のためにも患者のためにもいいのかもしれない.
『全国老人保健施設協会 「考えていたよりはるかに低額」 療養型老健の報酬で川合会長

 全国老人保健施設協会の川合秀治会長は4日の記者懇談会で、療養病床再編で創設する「介護療養型老人保健施設」の施設サービス費の単位数について、「自分たちが考えていたよりはるかに低額。療養型老健の評価を基本とするなら、次期改定に向けた活動は厳しいものになる」と述べ、2009年度改定での既存老健の評価に懸念を示した。

 全老健は同日、患者の平均要介護度4-5の介護療養型医療施設が療養型老健に転換した場合の報酬額の試算結果を発表した。それによると、療養型老健に転換した場合、介護職員配置4対1の施設は1人当たり月額約7万円、同6対1の施設は約3万4000円の減収になると説明。また、「60床、介護職員配置6対1、半数の入所者が要介護4」の場合、転換によって年間約5037万円(約18%)の減収と試算した。
  川合会長は、こうした試算に加え、既存老健と療養型老健の要介護3-5(多床室)の差が56単位にとどまることに触れ、「介護職員の待遇改善を考えると、介護療養型老健の単位数はあまりに低すぎる」と指摘。「老健全体のかさ上げという点から見て、相当厳しいと言わざるを得ない」と苦言を呈した。
  また、療養型老健のターミナルケア加算に対し、「240単位では低い」とする一方で、「既存老健では約3割が看取りを行っている。これが評価されないのは問題がある」と指摘。夜間の看護配置についても、約8割の老健が行っているとした上で、「これでは療養型老健と既存老健がダブルスタンダードとなる」と危機感を示した。』

介護職員の待遇改善が以前から言われているが,一向に改善する気配はない.
もっとも,今回も療養病床再編で創設する「介護療養型老人保健施設」と言うのは,厚生労働省が以前より主張してきた医師と病院の数を減らせば医療費が減るという考え方に基づいたものであるから,介護職員の待遇改善なんか関係ないのだろう.
むしろ「介護療養型老人保健施設」というのは極めてベッド単価を低くした病院の療養病床と考えた方がわかりやすい.ターミナルケア加算にしても病院からみればほとんど意味がない程度だろう,これで療養病床を「介護療養型老人保健施設」に転換する病院があると思っているのだろうか.

厚生労働省がいかに医療現場を無視したことをやっているかを示すいい例がまた一つ増えただけだし,家族に寝たきりの老人がいない一般の人にはきっと何のことだかわからないだろうから驚くに価しないのかもしれない.しかし,そうしている間に老人医療の終末期はとんでもなくおかしな事になってきているのだが,この先いったいどうなっていくのだろうか.

介護施設からのコンビニ受診や要介護老人の置き去り,そして施設入所者の放置なんていうのが頻発しているのにニュースにもならない世の中なんてどうかしていると思うのは私だけだろうか.
『診療科の偏在、是正必要 福田首相

 福田康夫首相は4日の参院予算委員会で、医師不足問題について「諸外国の中でも医師の数が少ないのは一目瞭然(りょうぜん)だ。医師が(医師不足が深刻なところではない)他の診療科に行ってしまう状況があり、是正しなければいけない」と述べ、診療科ごとの偏在を是正する必要があるとの認識を示した。』

 今頃になって医師不足に気づくようでは,「諸外国の中でも医療費が少ないのは一目瞭然(りょうぜん)だ。国家予算が(不足が深刻なところではない)道路やダムなど公共投資に行ってしまう状況があり、是正しなければいけない。」ということを認識できるようになるまでには医療は完全に崩壊していることだろう.
『再診料下げに応援なし 産科診療所や選挙に配慮

 厚生労働省が目指した開業医(診療所)の再診料引き下げが見送られたのは、産科や小児科などを含め診療所全体に対し、一律に影響が出るという指摘のほか、開業医を中心とする日本医師会と選挙で敵対しては不利になるという与党議員心理が働いたことなどがある。

 衆院解散・総選挙に備え、与党は日医を敵に回せば集票が減るなど選挙を戦えないという立場から、与党への働き掛けを強めた日医と歩調を合わせた。この結果「厚労省の応援団は皆無だった」(厚労省幹部)という。

 このほか、軟こうや湿布の張り付けなど軽い処置の初・再診料の定額化が決まり、これが実質的に再診料20円程度の引き下げに相当。さらに日医が、今回の診療報酬改定で"闘いの象徴"としていた再診料の引き下げを阻止するため、当初は反対していた再診料の上乗せ部分である外来管理加算の引き下げを認めたため、厚労省は旗を降ろさざるを得なかった。

 一方、病院の再診料引き上げについては、支払い側である健康保険組合連合会に対する配慮だ。「開業医の再診料下げが困難なら病院への再診料引き上げで格差が少し埋まり説明もつく。病院への再診料のアップは財源的にも大したことがない」(同幹部)ことから、急きょ決まった』

『開業医再診料維持 格差是正効果は疑問 中医協案、抜け道多く

 08年度診療報酬改定の焦点となっていた開業医と勤務医の格差是正策は、開業医の再診料減額を見送る代わりに、「外来管理加算」を縮小する案などで決着した。厚生労働省は「名を捨て実を取った」と言う。しかし、一般に「勤務医より裕福」とされる開業医から勤務医への所得移転がどこまで実現するのかは、疑問が残る。(2面参照)

 厚労省は、夜間や休日に診療する開業医の報酬を手厚くする一方で、再診料は引き下げ、時間外診療をしない開業医を淘汰(とうた)する考えだった。不足が著しい勤務医が安易に開業に走ることに歯止めをかける狙いもあった。しかし、開業医の影響が強い日本医師会(日医)は猛反発した。

 日医は「何でも反対」でなく、身を切らせて骨を断つ作戦に出て成功した。医師の技術料の増額改定分(1000億円強)を、早くから「全額勤務医対策に回してもよい」と提案。軽度の治療に対する報酬廃止案も受け入れた。その代わり再診料については「基本給にあたる」(幹部)として、与党も味方につけて譲らない構えを崩さなかった。

 厚労省によると、今回の代替案でも、再診料引き下げによって開業医(約9万カ所)から賄う想定だった四百数十億円の財源を確保できるという。しかし外来管理加算適用を「5分以上相談に乗った場合」に限るなどという案には抜け道も多い。再診料の減額と同じ効果が出るか、疑わしい案と言えそうだ。

 約1500億円の勤務医対策費により、300床の病院で年間5000万円の収入増になるという。ただこれは、机上の計算に過ぎない。想定した費用が賄えなければ、今回の妥協に批判が集まるのは避けられない。』

開業医(診療所)の再診料引き下げが見送られたと報じられたが,どうせこんなことだろうと思っていたらやっぱりそうだったのかという感じで毎度のことながらあきれる話だ.

もっとも再診料引き下げが現実になったとしたらクリニックの先生たちは困るだろうが,病院勤務医はそれで給料が上がるわけでもないし,医師数が急に増えるわけでもないから別に嬉しくもなんともないだろう.

結果的に1500億円の勤務医対策費などは病院にとって多少の経営改善にはなるかもしれないが,所詮,焼け石に水である.勤務医にとっては良い影響など何もないことだろう.いつものことながらなんとも虚しい結末である.

現場の医師のことなど考えず机上の空論で医療に介入し続けてきた厚生労働省に勤務医の気持ちなど理解できるはずもないから,期待などしていないが,もし本当に格差を是正するのだったら,まず労働時間の適正化から手をつけてもらえないだろうか.特に病院当直業務と救急外来での時間外勤務の区別などは厳密に指導してもらいたいものだ.

これなら余分な医療費はかからないし,厚生労働省は現在も医師が余っていると言い続けているのだからそれぐらいのことは当然出来るのではないだろうか.もっとも,勤務医の数が足りていなければ救急患者の受け入れはさらに困難を増すだろうが,それこそが行政による真の医療改革というものではないだろうか.
『副作用、合併症で医学論文急減 医療事故調査委の発足見通し、医師ら処分恐れ萎縮?

 治療の副作用や合併症に関する医学論文の数が昨年後半から急激に減少したことが、東京大医科学研究所の上(かみ)昌広客員准教授(医療ガバナンス論)らのグループの調査で分かった。このうち、診療中に起きた個別の事例を取り上げた「症例報告」はゼロに近づいた。グループは、厚生労働省が検討する医療事故調査委員会の発足後、行政処分や刑事責任の追及につながることを医師が恐れて萎縮(いしゅく)し、発表を控えたためと推測している。

 グループは国内の医学論文のデータベースを使い、06年1月-07年10月に出された副作用や合併症に関する論文を探し、総論文数に対する割合を調べた。

 毎月、1万-4万件前後の医学論文が発表され、一昨年から昨年前半までは合併症の論文が13-17%あった。しかし、昨夏ごろから急減し、10月には約2%になった。副作用の論文も以前は4-6%あったが、昨年10月には約2%に減った。

 特に、副作用の症例報告は、以前は1%前後あったが、昨年10月にはゼロになった。合併症の症例報告も、以前は5-9%あったが、昨年10月には0・1%しかなかった。

 厚労省は昨年10月、診療中の予期せぬ死亡事故の原因を究明するために創設する医療事故調査委員会の第2次試案を公表した。死亡事故届け出を医療機関に義務付け、調査報告書は行政処分や刑事責任追及にも活用する場合もあることを盛り込んだ。10年度をめどに発足を目指している。

 上客員准教授は「医学が発展せず、国民の被害は大きい。リスクの高い診療科からの医師離れも促す。調査報告書は行政処分や刑事責任追及に使われないようにすべきだ」と訴えている。』

『大野病院医療事故:「責任を取ってほしい」 遺族3人が意見陳述--地裁公判 /福島

 県立大野病院で04年、帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(40)の第12回公判が25日、福島地裁(鈴木信行裁判長)であり、遺族3人が意見陳述。女性の夫(34)は「言い訳や責任転嫁せず、何をミスしたかを真正面から受け止め、責任を取ってほしい」と加藤被告に訴えた。

 夫は意見陳述で、今回の出産を「天国から地獄だった」と振り返った。術後の説明が「納得できる内容ではなかった」とし、「なぜ妻が死んだのか疑問に思う。自分の行動・言動に責任を持つのは大人の人間として当然のことだ」と話した。

 女性の父親(57)は「加藤先生の行為は許せない」と語り、女性の弟(31)は「明るく元気な姉に会いたい」と無念さをにじませた。加藤被告は、終始うつむき加減だった。

 また地裁は、弁護側が任意性を争っていた捜査段階の供述調書20通や、加藤被告の処置を妥当とした弁護側依頼の周産期医療専門家3人の鑑定意見書などを証拠採用した。この日で証拠調べが終わり、3月21日に検察側の論告求刑、5月16日に弁護側が最終弁論し、結審する予定。判決は夏ごろになる見通し。』

医学的な問題があるかどうかにかかわらず,患者さんが亡くなると医療事故として報道され,刑事責任を追及され,揚げ句に家族に恨まれ土下座までさせられるのでは手術して死亡する可能性のある患者さんはお断りするという風潮が強まるのは避けられないということだろう.

そして,医療事故調査委員会の発足でその流れは決定的になってしまうのではないかと多くの医師が考えているらしい.この調子では産科だけでなく外科系全般さらには内科救急にも悪影響が及ぶことは避けられないのではないだろうか.

医療事故調査委員会がどのようなものになるのかも心配であるが,私としてはまず加藤先生の裁判の判決に注目したいと思う.学会までを巻き込んだこの裁判で万が一にでも有罪にでもなろうことなら医療現場に与える影響は深刻なものになることは間違いないだろう.

もっとも,この裁判に危機感を持っているのは訴訟リスクを感じながら働いている現場の医師だけで,その影響が自分や自分の家族にふりかかると本気で思っている国民はほとんどいないのだろうから医療崩壊は今後も減速することはないだろう.
『HIV陽性、102人に 献血時の検査で日赤集計

2007年に献血した人のうち、エイズウイルス(HIV)抗体検査で陽性となった人は102人に上り、初めて100人を超えたことが23日、日赤の集計(速報値)で分かった。献血者10万人当たりの陽性者も2.065人と過去最多だった。

同日開かれた厚生労働省血液事業部会運営委員会に報告された。

通常の抗体検査では陰性だったが、日赤の高感度ウイルス検査で陽性と判明したケースが6人含まれていた。

厚労省はHIV検査目的で献血する人が増えているとみて「HIVの検査結果は原則として献血者本人には通知しない。検査目的の献血は控えてほしい」(血液対策課)と呼び掛けている。

集計によると、07年の献血者は計493万9548人と過去最少を更新。一方、HIV抗体検査で陽性となったのは06年の87人から15人増の102人で、過去最多だった04年の92人を上回った。

都道府県別では大阪が最多の26人で、次いで東京が17人、千葉が6人だった。

献血時のHIV検査は1986年から実施。感染防止が目的のため結果は本人に通知していないが、通知を受けられると誤解した人の検査目的の献血が数年前から問題となっている。』

HIV検査目的で献血するのは当然のことながら身に覚えがあるからなのだろうが,それにより不幸にも検査すり抜けによる感染例もいずれ報告されることだろう.他のSTDと同様にAIDSも蔓延するときがやってくるに違いない.

間違いを犯す人たちは,その時は自分だけは大丈夫だと思い込めるのだろうが,やはり人間だから後で不安にでもなるのだろうか.仮にその人が感染していなかったとしても同じことを考える他の人が感染していれば献血による感染は広がると考えないのだろうか.

いや,むしろ間違いを犯すような人だからこそ自分のことしか考えないのだろう.だから,軽症患者であふれた救急病院が本当の救急患者の受け入れができないなんてことになったりするのだろう.彼らは,自分が本当の救急患者にならなければ救急病院の存在意義なんてきっとわからないに違いない.もっとも気づいたときには搬送先が見つからず手遅れということになるかもしれないが.

コンビニ患者がやって来ると,一応は応召義務があるから結局は診なければならないし,厭な顔してあとで苦情を言われるのもつまらないから,愛想良く対応する勤務医がほとんどだろう.しかし,自称であれ本当であれ救急患者対応中とか軽症患者ばかりでも病院が満床だったりすれば救急車はきっぱりとお断りする救急病院はこれからも増えていくのではないだろうか.

医療費削減,医者たたき,医療事故の刑事訴訟などの社会的な問題だけでなく,患者個人やその家族も自制を欠いた理不尽な要求を続ければどういう結果になるのかということを考えるべき時が来ているのではないかと思うのだがどうだろうか.
 
今年の目標なんてものは特にないけれど,一年のはじまりだから私がその行方を注目したい医療現場の問題を列挙してみよう.

1.救急医療について

救急患者の受け入れが不能になっている本当の原因は何か
救急車をタクシーがわりにする不心得者たちはどうするか
夜間救急外来に受診する急病でもない人たちの扱いをどうするか

2.医師不足

国公立病院からの医師の引き上げや立ち去りは止むのか
小児科,産婦人科の医師数は今後増加するのか
上記に関連して僻地医療の崩壊は今後も続くのだろうか
脳神経外科専門医の数は今後どうなるのか

3.日常診療,当直など

今回の診療報酬の改定で医療崩壊は減速するか
勤務医の労働環境は今後改善されるのか
主治医制が導入されれば病院の当直医の仕事は減るのか

思いつくままに書いてみましたが,まだまだ医療業界は真冬で今年も病院の窓から見えるものは猛吹雪ばかりになりそうな気がします.

「日本の医療を良くするために,今医師は何をするべきか」という対談で養老孟司先生が興味深い意見を述べられていました.
興味のある方は以下をどうぞ.(注:残念ながら医師限定サイトです.)
http://www.m3.com/tools/Healthpolicy/chapter3/index.html
厚労省による病床削減の犠牲者?
『30病院に拒まれ死亡 大阪の89歳 到着まで2時間

 大阪府富田林市で25日未明、下痢や嘔吐(おうと)など体調不良を訴えて救急搬送された同市内の女性(89)が、府内の計30病院に受け入れを拒否された末、約2時間後に搬送された病院で心肺停止状態となり、翌日夕、死亡していたことがわかった。受け入れを拒んだ病院の多くは「別の患者を処置中で対応できなかった」などと説明している。

 富田林市消防本部などによると、25日午前4時49分、女性の家族が119番通報し、8分後に救急車が自宅に到着。救急救命士が酸素投与などの処置をしながら、同消防本部の通信指令室とともに搬送先を探した。堺市や八尾市、大阪市平野区など周辺9市の市民病院や大学病院などを含む30病院に計35回受け入れを要請したが、いずれも拒否されたという。

 救急車はこの間、富田林市内の国道で待機。女性は車内でも意識があり、最終的に隣接する河内長野市の国立病院機構大阪南医療センターに受け入れが決まったが、その搬送中に体調が急変。同センターに到着した午前6時40分、心肺停止状態に陥った。その後、呼吸が再開するなど、いったん持ち直したが、翌26日夕、出血性ショックで死亡。同消防本部の説明では、女性には高血圧の持病があったが、死因との関係は不明という。

 受け入れを拒否した病院側は「集中治療室に別の重症患者がいて対応できなかった」「ベッドに余裕がなかった」などと理由を説明している。中には、「一度診察したことのある患者しか診ない」と拒否した病院もあったという。同センターも一度は「処置中」を理由に受け入れを断っていた。

 富田林市では23日にも、救急搬送された女性(67)が計14病院に受け入れを拒否されている。同消防本部の溝川秀敏次長は「医師不足と言われる中で日々、対応に苦慮している。救急隊が懸命に処置しながら亡くなったのは残念。医師会などとの連携を強化していきたい」と話している。

 亡くなった女性の家族は28日、「医療体制のあり方を変えてもらわないといけない」と語った。』

医師不足はもう誰もが知ることとなったと思うが,救急病院のベッド数が不足していることはあまり知られていないのではないだろうか.全国規模のデータを見たことはないが,救急病院と言われるところの多くで救急患者を受け入れるための病床が不足しているのではないかと思う.

私のところでは,今年になり高齢者の救急搬送が増えてきているのだが,満床で搬入をお断りするケースもそれにつれて増えているような気がする.

高齢者が増えていることもあるのだろうし,高齢者は回復も遅いので入院期間が延びていることもあるだろうが,一番の問題点は救急患者を収容するためのベッド数が相対的に不足してきているのに増床できないということだろう.

この背景には厚生労働省が医師数を抑制し続けてきただけでなく,病院のベッド数を積極的に削減することで医療費の抑制を図ろうとしていることがあるのではないだろうか.

病院が満員つまりベッドが満床の状態では物理的に患者さんを受け入れることはできない.それならベッドを増やして入院させればいいように一般の人は思うかもしれないが,実は,病院のベッド数が社会保険庁に届け出た数を上回れば診療報酬が減額されるペナルティーがありそんな勝手なことはできないようになっているのである.

今回の診療報酬改定では救急医療や勤務医の環境改善などと調子のいい事を言っているが,現実にはこんなところで現場の足を引っ張り続けたりしているのである.地域の救急病院が地元の患者をすべて受け入れられない問題の裏にはこんな罠が仕掛けられているのである.

マスコミは医師や病院を悪者にしたいのでこんな記事しか書かないのかもしれないが,なぜこれほど多くの病院が満床で受け入れられないのか,本当の理由をもっとよく調べてから報道してもらいたいものだ.事実を報道するだけでなく真実を暴くのが報道機関の役目だと思うのだが,今どきのマスコミに期待するのが無理なのだろうか.

救急隊からの依頼を受けるのもストレスなのだが,それを断るのもまたストレスを感じることである.満床であるがゆえに脳外科医が自分で手術できる患者さんを隣町まで血圧をコントロールしながら搬送するなんてことが実際に起きているのだから,今の日本の医療政策は間違っていると断言してもいいと思うのだが,一般の人は自分が救急搬送を拒否されるまでこんなことになっているとは思いもしないことだろう.
『08年度診療報酬改定「率は不満も勤務医対策に期待」日医・唐澤会長が緊急会見

 日本医師会の唐澤祥人会長は18日に緊急会見を行い、全体で0.82%の引き下げとなった2008年度診療報酬改定に対し、「マイナス改定の流れを押しとどめることができなかったことは大変残念」とする一方、医科本体が0.42%の引き上げとなったことについては「決して十分とは言えないが、勤務医の疲弊、産科・小児科・救急医療の危機が少しでも救われることを期待したい」と勤務医環境などの改善に期待をにじませた。

 プラス改定を獲得した背景として、診療報酬の引き上げを目指して署名活動などを展開した自民党議員の尽力に加え、地域医師会の後押しも日医の大きな原動力になったとし、それぞれに感謝の言葉を述べた。
  日医は当初、医科の医療費ベースで5.7%のプラス改定を求めていた。最終的にプラス0.42%で決着したことについて唐澤会長は、「これまでずっとマイナス改定を経験してきたので、プラス改定でほっとしたという感じ。われわれが望む主張は、主張として行った。これで満足したということはない」と引き続き医療費の増額を求めていく考えを示した。
  勤務医や小児科・産科などへの対応では「少しでも余裕のある診療環境ができればいいと考えている」と述べた。改定率に基づき、今後は中医協で具体的な財源配分が議論されることを踏まえ、「医療を守るための議論の中で今後の方向をしっかり検討していきたい」と述べ、具体的な点数設定に日医の考えを反映させたいとした。
  また、今回の改定では「社会保障費の自然増2200億円の削減が非常に大きな障壁だった」と指摘。「骨太方針07」では、機械的に5年間均等に削減するわけではないことが明示されたにもかかわらず、2200億円削減は少しも緩められなかったとして、「医療崩壊の危機を認識していただいていないのではないかと落胆する思い」と嘆いた。
  その上で、来年度以降も引き続き歳出削減を強いられないよう、日医として関係方面への働き掛けを強めていく考えを示した。
  日医会員に対しては、「今回の結果がどのように受け止められるか、まだ分からない。さまざまな意見が寄せられると思うので、(それを踏まえ)今後の取り組み方や方向を出していきたい」とした。

財源付け替えでは地域医療は疲弊

 中医協で診療側と支払い側で意見が割れている診療所の初再診料の対応については、「これから一層、活動しなくてはいけない先生方に対し、削減する方向が正しいかどうか」と引き下げの考えに疑問を投げ掛けた上で、診療所から病院に財源を付け替えるだけではさらに地域医療を疲弊させると批判した。』

5.7%のプラス改定を求めていたのに,その一割にも満たない回答を評価せざるを得ないのは相手に対してではなく自分たちの努力を評価て欲しいということなのだろうか.もっとも厚生労働大臣さえも相手にしない官僚たちが医師会の言うことを聞かなくても別に不思議ではない.

それより本体0.38%増の財源が300億円と言うが,これはちょうど年金特別便にかかる費用と同じで,社会保険庁の不祥事のためにかかる費用はほとんどなんの議論もなく税金が投入されるのに,かたや医療費だと大騒ぎになるとはいったいどういうことなのだろうか.

それにこの程度で勤務医環境が改善されることなどあり得ない.勤務医の拘束時間や給与がたとえ1%改善されたって有り難がる医師はいないだろうし,実際にはどちらもまったく変わることはないだろう.夜中にコンビニ気分で受診する患者の相手までさせられている医療者にすれば,馬鹿にされたような気がしてますますやる気が失せていくことだろう.

迷信

2007年12月25日 医療の問題
迷信
『暗い所で本「目悪くなる」 医学的根拠ない、と米チーム

 「暗いところで本を読むと目が悪くなる」「毛をかみそりでそると濃くなる」など、米国で一般によく信じられている体に関する言い伝えについて、医学的な裏付けがないばかりか、誤りのものもあるとする研究を米インディアナ大のチームがまとめた。22日発行の英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」クリスマス特別号に論文が掲載された。

体に関する言い伝えと医学的な妥当性(米インディアナ大チームによる)

 米国で医療関係者にも信じている人がいるという言い伝えを七つ選び、文献データベースやインターネットの検索で医学的な裏付けを示す研究があるかどうかを調べた。

 その結果、七つとも医学的な裏付けは見つからず、80年近く前の研究ですでに否定されているものもあったという。

 論文は結びで「このような言い伝えを信じるだけなら実害はないが、根拠のない治療法を勧めることは実害をもたらす可能性がある」と、科学的根拠に基づく医療の重要さを指摘している。

 携帯電話の医療機器への影響について、日本の総務省は06年、実験の上で「心臓ペースメーカーからは22センチ程度以上離す」などとした現行指針が妥当と結論している。』

こういう迷信じみた話を信じる人は意外と多いような気がするのだが,医師の中にもこれに類する事を臨床の現場で患者さんにすすめたり自分でやっていたりする人がいるのだから困ったものだ.

大先輩の先生方はもうしょうがないので放っておくとして,若い先生にどうしてそんなことをするのかと聞いても実はどこかの先輩に教えてもらったからとか,何となくそういうものだと思ってという具合にあまり考えないでやっていることが多い.

意味のないことをやれば時間や資源の無駄だし,場合によっては有害なことさえあるのだから,自分のやっていることの必然性というものを常に考えながら仕事をする習慣を身につけたほうがいいだろう.

だが,頭では理解できても一度身についた行動パターンはなかなか変えられないもののようだ.やはり最初に教えてくれた人の影響は大きいようで,いい師にめぐり遭えた人は幸せかもしれないが,ものまねをしているだけでは師を超えることはできないし,反面教師からはダメなことを気づかされることは多くとも,良い方法を学ぶ事はできないだろう.

つまり,「迷信にとらわれない」ということは,言い換えれば,他人の言うことを妄信したり,現状に満足したりせずに,「自分で真理を追究する」ということに他ならないのではないだろうか.

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