『--痴呆症薬服用後1人死亡 エーザイの「アリセプト」--

 アルツハイマー型痴呆症の薬としては国内で唯一承認されているアリセプト(成分名塩酸ドネペジル)を服用後、8人が筋肉痛や急性腎不全が出る横紋筋融解症を起こし、うち1人が死亡したことが、厚生労働省のまとめで分かった。

 厚労省は、同症が出たときは投与を中止し適切な処置を取ることを添付文書に追記するよう、製造・販売元のエーザイに通知。23日発行の「医薬品・医療機器等安全性情報」で注意を呼び掛けた。

 死亡したのは70代男性。昨年、アリセプト服薬開始後に歩行困難になるなどして投与を中止したが、腎不全を起こし、中止の約50日後に多臓器不全で死亡した。

 他の6人は回復、1人は経過観察中という。

 アリセプトは1999年11月から発売され、2004年度の推定使用患者は約30万人。』

 ほとんど効果があるような気がしないのに血管性痴呆と思われる患者さんにまで投与されているのが気になっていたアリセプトであるが,こういう副作用が報告されると投与も少しは適正になるのだろうか.

 そのむかし先輩の医師たちがまだ駆け出しの私に言った言葉でその後ずっと引っかかっていることがある.それは「やらないよりはやった方がましだろう.」というのと「やっても悪いことはないのだから」という2つの言葉だ.だが医療の現場では良かれと思ってやっても効果がないどころか副作用で死亡することは誰しも経験しているはずである.

 ところが痴呆症(認知症という言葉は科学的に適切とは思えないので敢えて使わないが..)の治療となると決め手がないのでとりあえずアリセプトを投与してみるなどという安易な使われ方がされているのではないだろうか.

 今まではあまり大きな副作用が報告されていなかったので投与しても悪いことがないなら投与したほうがいいような気がしていたのかも知れないが,今後は投与しても効果がないどころか有害なこともあるという認識で処方するかしないかを決定する必要があるのだろう.

 MRIでアルツハイマー病が診断できるようになれば適応はいまよりも狭くなりより適正な使用が期待されるのであろう.だが,本当のところ私があまりこの薬を使いたくないのは値段の割りに効果が低い(無い?)と言うのが一番の理由である.
『--臨床研修制度の見直し要望 医学部長病院長会議--

 2004年度から始まった医師の臨床研修制度の影響で、大学での人材不足やへき地の医師不足が起きているとして、全国の大学でつくる「全国医学部長病院長会議」(吉村博邦(よしむら・ひろくに)会長)は17日、厚生労働省や文部科学省に対し、研修制度の見直しなどを要望した。

 また、全国自治体病院協議会も同日、厚労省などに医師不足や偏在の解消を要望した。同会議によると、臨床研修医の大学病院への在籍率は、03年度の72・6%から05年度の49・2%と大幅に低下した。研修できる医療機関の基準が大幅に緩和され、特に大都市の病院に研修医が集中。地方の大学病院離れが深刻化した結果、大学病院から中堅クラスの医師をへき地へ派遣できなくなった。

 同会議は(1)研修医を適切に配置する仕組みをつくるなど、臨床研修制度を見直す(2)卒業以前の学生も実習で一定の医療行為ができるよう、環境を整える(3)卒業前後で国の指導が文科省と厚労省に分かれているが、一貫した医師教育を推進できる行政システムを望む-ことなどを要望した。

 吉村会長らは「研修修了後も地域や大学に医師が戻らなければ、地域医療は壊滅し、日本の医療の研究力も落ちる」と語った。

 研修医はこれまで、十分な研修プログラムもなく、大学病院で安価な労働力として使われていると批判があった。昨年度から始まった制度では、幅広い分野で基礎的な診療能力を身に付けることに主眼が置かれた。』

 残念ながら大都市の病院に研修医が集中したことが多くの地方で働く臨床医の気持ちを代弁していると思わざるを得ない.もちろん研修医が同じ研修を受けるならネームバリューのある大都市の病院でという気持ちからで彼らが研修後に地方医療に目覚める可能性はあるだろう.だが,地方で働く医師にもどうせ働くなら症例数も情報も多い大都市の病院でという気持ちがあってもなんの不思議もないだろう.

 大学病院と自治体病院の思惑はまったく異なるが本音は自分のところの医師確保である.大学病院こそが医療レベルが高いなどという神話はすでに研修医の間では崩壊しているし,自治体病院は研修体制以前に経済的に崩壊しかかっているところが多いということも今どきの研修医はお見通しなのだろう.これもインターネットのおかげ(弊害?)か.

 結局のところ研修医制度は医師の流動化をもたらしただけのようである.結果として医局制度が崩壊し地方医療が崩壊したとすればその代償としては果たして高かったのか安かったのか.少なくとも地方の医療コストは上昇しないわけにはいかないだろう.大学病院も人材不足がさらに進んで現在のレベルの維持も困難になるのだろうか.先のことはわからないが,いずれにしてもこれらが元にもどることはないような気がする臨床医は私だけだろうか.
『--医師として生きる 独自リハビリ、教壇に--

 「医師であり続ける」。佐藤正純(さとう・まさずみ)さん(47)=東京都=の思いだ。臨床はあきらめたが指導はできる-。横浜市大病院の脳外科医で37歳だった1996年2月、初めて滑ったスノーボードで転倒した。医局の北海道旅行。頭を強く打ち意識不明の重体に陥った。

 1カ月たつころ、いつも身に着けていたポケットベルを看護師が鳴らし、呼びかけてみた。「先生、急患です」。「はい」。目を開き、意識を取り戻した。手術の執刀のほか、研修医や救急救命士の教育に当たったころには「鬼軍曹」と言われるほど、仕事がすべてだった。

 眼球に届いた映像を確認する大脳の一部が損傷し、目の前の人影もぼんやりとしか見えない。記憶と認知の障害も自覚するようになった。「将来、どうなるのだろうか」。5月3日が憲法記念日だと思い出せない。太陽が昇るのも「西」だった。

 社会復帰を目指し、病院でのリハビリに続いて独自の取り組みを続けることにした。記憶力や失った知識を取り戻そうと点字図書館のテープをいくつも聴き、文章を読み上げるソフトが付いたパソコンを使いキー操作を練習した。

 「障害が残り退院したかつての患者を思い起こすと、途中で投げ出すわけにいかなかった」。歩行訓練も恐怖感はあったが、趣味の鉄道に代わり楽しくなった。

 ようやく1人でJR山手線に乗った時、思わず涙が出た。経路は高校時代の通学と同じだった。しかし将来が見えてこない。「努力は報われないのか、家族にも社会にも迷惑を掛けなければならないのか」

 苦しむようになったころ、医局から話があり、2002年から横浜市の医療福祉の専門学校で非常勤講師として働き始めた。医師と患者の2つの立場。「若い人たちに臨床医学や医の倫理などを教えることはうれしいし、生きがいです」』

 スノーボードで急性硬膜下血腫になった脳外科医の話は脳低体温療法の話と関連して知っている脳外科医も多いだろう.私もこの脳外科医の話を聞いたときは人ごととは思えなかった.想像を絶する苦労の中から社会復帰する姿はきっと周りの人に感動を与えたことだろう.医局旅行中の事故だったからなのかもしれないが,医局が社会復帰の機会を与えてくれたというのも今時の医局にしては素晴らしい話である.頑張って医療従事者を目指す若者を指導し続けてほしい.

 ところで,医療従事者が脳卒中で倒れて後遺症で苦しむことも珍しくはない世の中であるが,病院でこれらの後遺症などで身体障害をもった人が働いている姿をほとんど見たことがないのだがなぜだろうか.確かに肉体労働が多く身体的ハンディキャップがあってはできない仕事が多いのは事実である.だが健常者にはわからない患者の苦しみというのもあるはずであり,そういう苦しみを身をもって理解している医療従事者が患者さんの傍らで元気に働いていれば十分存在価値があるのではないだろうか.

 病院で患者を看る人は健常でないといけないという考えがどこかにあるのであろうか.またしても社会保険庁の決めた規則なのだろうか.本当の理由は今の私にはわからないのだが,病院というところはそういう意味でもいまだに閉鎖的な職場なのかもしれない.
『--患者放置の医師に禁固1年 薬剤間違え注射で京都地裁--

 京都府宇治市の宇治川病院で2001年、同府城陽市の加藤美嘉(かとう・みか)さん(11)がじんましんの治療中に薬剤を間違えて注射され、寝たきり状態になった事件で、業務上過失傷害の罪に問われた医師堀道輝(ほり・みちてる)被告(72)に対し京都地裁は13日、禁固1年(求刑禁固1年6月)の判決を言い渡した。

 氷室真(ひむろ・まこと)裁判長は判決理由で「被告のあいまいな指示が薬剤の取り違えを誘発した面も否定できない」と指摘。「適切な救急蘇生(そせい)措置をせず無為に時間を浪費し、医師として基本的な注意義務を怠った」と述べた。

 判決によると、01年1月15日、元准看護師の南千代子(みなみ・ちよこ)被告(64)=1審禁固10月、控訴=が、治療薬の塩化カルシウム液と間違えて塩化カリウム液を美嘉さんに注射し、心停止状態に陥らせた。堀被告は蘇生措置をしないまま美嘉さんを約20分間放置し、低酸素脳症による全身まひなどの傷害を負わせた。』

 レスタミンカルシウムと塩化カルシウムを医師が間違えて,さらに看護師がそれを塩化カリウムと間違えて静脈注射し当時6歳の女の子が寝たきりになったということらしい.親の気持ちを考えるとあまりに悲しく残酷な結末である.

 現在では心肺蘇生は研修医の必修科目かもしれないが,72歳の医師と64歳の看護師が2人でCPRをやっている姿は私にはちょっと想像できない.もっと言わせてもらえば診療科によってはそんなこと1回もやったことがなくても立派に医師として通用しているわけである.

 今回は蕁麻疹ということだったが,では皮膚科の医師だったら看護師がまちがえて塩化カリウムを静脈注射したことにすぐ気づいて患者を救えたのであろうか.正直言ってこんな事態になったら私でも救命できるかどうか確信は持てない.普段からこんなミスを想定していることなどあり得ない.看護師の誤薬に毎回注意をはらえと言われたら実際のところまったく仕事にならないだろう.

 だが,蕁麻疹で病院にかかった子供が寝たきりになってしまうという現実はあまりに悲惨である.事故を起した医師や看護師を罰するのは簡単だが,これだけでは何の予防にもならないことは明らかだ.夜間の救急外来でよくありそうなちょっとした静脈注射でこうした事故が起こるのである.子供がちょっと熱を出したくらいで病院にかかり注射や点滴を要求する親はこういうリスクを理解しているのであろうか.

 
A.『--カテーテル交換後患者死亡 山口大病院、医療事故か--

 山口大病院(山口県宇部市)は13日、入院中の80代の女性患者が静脈カテーテルを交換し血液透析を受けた後、死亡したと発表した。同大は同日までに宇部署に届け、遺族に謝罪したという。

 同大は遺体を解剖、医療事故調査委員会を開いたが死因は特定できなかったといい、今後、第三者を含む調査委員会を開き、原因を究明するとしている。

 同大によると、女性は3年前から腎不全のため透析を始め、今年4月から同病院に入院。今月8日に右鎖骨下静脈のカテーテルを交換し透析を始めると容体が悪化、心臓と外側の膜のすき間に液がたまり、救命治療をしたが死亡したという。

 山口県医務課は「調査の状況を見守りたい」としている。』

B.『--医療ミスで医師を書類送検 点滴用カテーテルを誤挿入--
 三重県警津署は7日、点滴の際にカテーテルの操作を誤って患者を死亡させたとして、業務上過失致死の疑いで三重大病院(津市)の山際健太郎(やまぎわ・けんたろう)医師(44)=津市大谷町=を書類送検した。

 調べでは、山際医師は2003年6月、女性患者=津市、当時(45)=の血管に点滴用カテーテルを挿入した際、誤って心臓内まで差し込み死亡させた疑い。

 流れ込んだ点滴液で女性の心臓の機能が低下し、低酸素脳症となった。

 山際医師はカテーテル挿入後も、エックス線などで先端位置を確認する作業を怠っていた。

 女性は生体肝移植手術を受け、入院中だった。

 三重大病院は同日、「再発防止に努めたい」とのコメントを出した。』

 これらは鎖骨下静脈穿刺による中心静脈カテーテル法の合併症でカテーテルが心嚢(心臓とそれを包んでいる外膜の間の空間)に迷入することによって起きる合併症である.放置して輸液を続けると心タンポナーデという状態になり死亡する.

 これはカテーテルの先端位置を確認しておけば避けられる事故であるので確認していないと過失を問われても仕方ないだろう.だが,鎖骨下穿刺を選択する必然性があったのであろうか.最近では末梢静脈栄養が進歩して中心静脈栄養の必然性もかなり少なくなっている.

 いずれにしても必然性が無ければリスクの高い処置は避けるのが賢明ということだろう.
A.『--呼吸器交換後に心肺停止 杏林大病院、看護師ミスか--

 東京都三鷹市の杏林大病院で今月3日に人工呼吸器の交換後に男性患者(76)が心肺停止状態となり、その2日後に無酸素脳症で死亡していたことが10日、分かった。警視庁三鷹署は業務上過失致死容疑で捜査を始めた。

 調べでは、男性患者は慢性腎不全で3月に入院して人工呼吸器をつけていたが3日、呼吸器を交換した直後に呼吸できなくなった。担当の女性看護師(23)が排気用のキャップを外し忘れた可能性があるという。

 病院側は3日、三鷹署に「医療ミスがあった」と届けた。』

人工呼吸器の取り扱いに問題があったのが事実であれば医療ミスであるということに異存はない.業務上過失致死罪となるのだろう.

だが,次のケースは疑問の余地があると思う.

B.『--医療ミスで600万賠償--

 神奈川県厚木市は、同市立病院で受けた手術の麻酔ミスが原因で左脚に障害が残った30代の女性に対し、600万円の損害賠償を支払う方針を決め、承認を求める議案を9日、市議会に提出した。

 市によると、女性は2003年10月28日に手術を受けた後、左脚に知覚過敏の症状を訴え、検査の結果、硬膜外麻酔のミスで脊髄(せきずい)神経を損傷していたことが判明。現在も症状はあるが、日常生活に支障はないという。

 岡部武史(おかべ・たけし)院長は「医療事故には十分注意してきたが、今後も医療安全の向上を図り、再発防止に努めたい」としている。』

 硬膜外麻酔であればこのようなことは麻酔の合併症として知られていることであって術前に説明が十分になされているのであれば事故と言うには根拠が薄いと思われる.最近の医療訴訟の傾向として説明が不十分であることを指摘されることもあるが,患者側にも自分の身を守るという意味で医師まかせにせず自分で治療の合併症について説明を求める権利と義務があると思う.

 結果だけで補償を求めるのであれば現在の健康保険の診療報酬体系ではまったくもって不完全で,考えられる合併症の頻度に応じた保険料を上乗せしなければ外科医は手術をできなくなるだろう.そのようなことになれば結果として手術を必要とする患者さんに望ましい医療を提供することは不可能となるだろう.

 結果が思わしくなかったものをすべて医療事故と呼ぶのはそれでも結構だが,医療ミスというのは明らかな過失が証明されるものだけにしてもらいたいものだ.どんなに経験を積んだ医師がやっても技術的な点から起こり得るものについてまでミスといわれるのはまじめにやっている現場の医師のやる気を失わせ,訴訟対策に防衛医療の傾向をより強めるものだろう.

 現場の医師がやる気を失うということは患者にとっては治療の機会を失うということと同義だということにマスメディアもそろそろ気づくべきであろう.
 最近まためまいの患者さんが外来をよく受診するようになった.私が脳外科医になりたての頃はめまいの診断が難しくて患者さんが来ると自分の方がめまいがしそうになるなどと言ったものだ.しかし最近ではMRIなどによる画像診断の進歩のおかげで脳疾患によるめまいの鑑別診断はかなり確実なものになっている.

 最近のめまいの患者さんでまず一番多いのは耳鼻科医からの紹介である.ほとんどは良性の末梢性のめまいであり,耳鼻科医も自身でそう診断しているのであるが一応念のため脳外科を受診させるというものである.情報提供書(依頼書)にMRIで精査をお願いしますと書いてくるのも多い.おそらくは脳血管障害や聴神経腫瘍ではないことを確認してほしいということだろう.

 だが,時には小脳梗塞の患者さんが混じっていることがあったり,慢性硬膜下血腫があったり頚動脈の高度狭窄や脳動脈瘤まで見つかることもある.未破裂脳動脈瘤とめまいにどういう関係があるのかは私もわからないが,とにかく見つかってしまうことはあるのである.だが,これらの異常が見つかれば患者さんは不思議と納得するようだ.

 つい最近だが内科医からの紹介でやはりめまいで発症した小脳梗塞の患者さんが外来に紹介されてきた.しかも心臓からの血栓が後下小脳動脈という血管に一時的に詰まりその後再開通した疑いのあるものだった.幸い大事には至らなかったが私からの返事の情報提供書を読んでさすがに慌てたのかすぐにお詫びの電話がかかってきた.もっともお詫びをするなら患者さんにするべきなのだろうが.でも,この内科医は大変良心的だと思った.

 病院の中には大事をとってといいながら良性のめまいだとわかりきっているような患者さんを入院させ治療と言って点滴をし,さらに必要のない検査までしてそれが終わるとめまいが治っていなくとも内服薬を持たせてさっさと退院させるようなところもあるらしい.

 結局めまいが治らないからと私の外来に来た患者さんから聞いた話だ.入院して毎日点滴と検査をされた.それも放射性同位元素を使用するPETまでやられたらしい.1週間入院して検査がすべて終わったら異常なしと言われ退院させられたそうだ.これで3割負担したら1週間の入院で何万円払ったのだろうか.さぞかしめまいが悪化したことだろう.

 医療事故のニュースを見ていると必要な処置や治療がなされなかったということにどうしても目が向きがちである.しかし,出来るだけの治療という言葉を信用して必要のない処置や入院をありがたがっていると知らないうちに病院にだまされているようなことも起こりうるということも知っておいたほうがいいだろう.

 肝心なことは入院や検査や治療の前にその必要性についてよく説明を聞くことである.インフォームドコンセントと言うのは簡単であるが説明をする方にとっても説明を聞いて理解する方にとってもこれがなかなか厄介で眩暈の原因になるものなのである.
報道A『--抗てんかん薬注射後に死亡 病院関係者を書類送検へ--

 東京都大田区の城南福祉医療協会大田病院(村岡威士(むらおか・たかし)院長)で2001年9月、女性患者(62)が抗てんかん薬の注射を受けた後に嘔吐(おうと)物をのどに詰まらせて死亡していたことが1日、分かった。

 警視庁大森署は、注射後に患者の経過観察を怠ったのが原因とみて、業務上過失致死の疑いで関係者を書類送検する方針。

 調べでは、女性は01年9月30日夕方、てんかんの発作の症状を訴えて救急外来を受診し、男性医師(40)の指示で女性看護師(48)が抗てんかん薬「アレビアチン」を注射。医師は指示後に帰宅し、看護師は別の患者の応対をした。しばらくして女性がぐったりしているのに看護師が気づき、蘇生(そせい)処置を施したがまもなく死亡したという。

 アレビアチンは劇薬で、呼吸停止や嘔吐などの副作用がある。

 大田病院は「大森署には同日中に届けている。捜査中なのでコメントは差し控えたい」としている。』

報道B『--抗てんかん薬注射で死亡、容疑の2人を書類送検へ--

 東京都大田区の医療法人城南福祉医療協会「大田病院」(村岡威士院長)で約4年前、品川区の主婦(当時62)が抗てんかん薬を注射された直後に死亡していたことがわかった。警視庁は処置後の経過観察を怠ったとして、担当した内科の男性医師(40)と女性看護師(48)を業務上過失致死の疑いで近く書類送検する方針だ。

 大森署の調べでは、主婦は01年9月30日、てんかんの発作を訴えて同病院を訪れた。医師の指示で看護師が抗てんかん薬「アレビアチン」を注射した約40分後、嘔吐(おうと)物をのどに詰まらせて意識不明になり、約5時間後に窒息死した。

 アレビアチンは国が指定する劇物で、吐き気などの副作用があるため、投与から一定時間の経過観察が必要とされている。だが医師は看護師に投与を指示しただけで帰宅し、看護師は経過観察を怠って主婦のそばを離れ、死亡させた疑いが持たれている。

 大田病院は「患者さまが亡くなったことは事実ですが、警察の捜査に協力しており、コメントは差し控えたい」としている。 』

同じニュース報道だが,AとBを読んで印象はどうであろうか.私は報道Bの方を先に目にしたのだが,警察にしても報道機関にしてもあまりに短絡的なものの考え方にちょっとあきれてしまった.

 事実はひとつのはずだが,書き方が問題なのだ.抗てんかん薬注射で死亡とか看護師は経過観察を怠って主婦のそばを離れ、死亡させた疑いとかいうと非常にセンセーショナルな印象があるのだがどうだろうか.

 これに対してAの方は抗てんかん薬注射後に死亡,注射後に患者の経過観察を怠ったのが原因とありこれならまあ事実のように考えることもできる.だが,嘔吐の原因がアレビアチンと断定するのはかなり難しいし,たとえ注射後でなくとも嘔吐による窒息が原因で死亡したのであればそれ自体が問題ではある.

 だが,問題はそれだけではない.ほとんどの病院で救急の患者さんを処置後に24時間監視し続けることは不可能なのが現実であるということがこの記事を読んだ誰にわかるだろうか.救急患者に必要な処置やその後の指示をして医師が帰宅することは普通のことであり,看護師が他の救急患者の処置にあたることも日常的である.

 もし,一人の救急患者のために医師と看護師が張り付いて経過観察をしなければ刑事告訴されるというのだったら救急患者を受け入れ可能な病院はかなり限られるだろう.なぜなら,救急に医師を十分まわせるほど医師が足りている市中病院はないだろうから.

 確かに憶えきれないほどたくさんあるアレビアチンの副作用のリストのなかに「嘔吐」と書かれてはいる.だが私自身も今までに注射薬も内服薬もかなりの量を使用しているが,連用して中毒になった患者さん以外ではみたことはないから救急処置としての1回投与ですぐに嘔吐するのはかなり稀な例であると思われる.(アレビアチンは癲癇治療に頻繁に使われている薬なのに正確な副作用発現頻度はわかっていない.)

 しかし,稀でも患者が死亡したとなれば薬の副作用と関連付けたくなるのだろう.報道Bのように書かれると一部のマスコミには疑わしい医療従事者は罰しようという意図があるのではないかとも思える.あまりに感覚的で短絡的な発想が一見正しいことのように報道されるのは困ったことである.なんでもそうだが,特に医療に関する報道は事実を科学的な視点から論じてもらいたいと思うのだが今のマスコミには不可能なのだろうか. 
『--蘇生措置断念も 末期がん、患者の同意で 尊厳死議論に一石 厚労省研究班、初の報告書--

 終末期医療の在り方を検討している厚生労働省の研究班(主任研究者・林謙治(はやし・けんじ)国立保健医療科学院次長)は、末期のがん患者で心臓や呼吸が停止した際の蘇生(そせい)措置は、あらかじめ書面で本人や家族の同意を得ていれば、必ずしも行う必要がないとする初の報告書を、29日までにまとめた。

 ただ、既に装着している人工呼吸器などの生命維持装置の停止を医師らに求めるのは、現状では困難だとした。

 過剰な延命措置を拒否する尊厳死を一部容認する内容と言え、明確な基準のなかった終末期医療の在り方や尊厳死をめぐる議論に一石を投じそうだ。

 研究班は今後、がん以外の病気についても検討し、延命治療の具体的手順を示した指針をまとめる方針。

 がんの末期段階で心肺停止になった場合、心臓マッサージや投薬で蘇生を試みるケースが多い。しかし、蘇生しても間もなく死亡する例がほとんどで、蘇生措置は「家族が臨終に間に合うための過剰な措置で、儀式のようなもの」という意見もある。

 報告書は、治療を尽くした上で複数の医師が回復する見込みがないと判断した場合、医師が蘇生措置の目的や結果を患者や家族に分かりやすい文書で説明し、書面で同意が得られたときは、必ずしも蘇生措置を行う必要はないとした。

 一方で、延命措置として人工呼吸や点滴による水分、栄養の補給が行われている患者に対し、これらを中止するような「司法判断を越える医療行為を、医療従事者に求めるのは困難」とした。

 また、質の高いケアを提供するようにとも提唱。「治療の手だてがない」と見放されがちだった末期がんに対しても、何回も病態の把握を行うとともに、インフォームドコンセント(十分な説明と同意)を得ながら、治療の差し控えや緩和医療などを選択するよう求めている。

 研究班は昨年、医学や看護、法律などの専門家をメンバーに発足した。』

 人間は皆等しく尊厳を持った死を迎える権利があるというのが正しい倫理観だと私は思う.がんの末期段階で心肺停止になった場合、心臓マッサージや投薬で蘇生を試みるケースが多いとはいったいどういうことなのだろうか.

 患者が助けてくれと言うわけはない.では,家族が泣き喚いて医師に延命を懇願するのであろうか.急性発症の病気や事故の救命ならともかくも末期の死を待つのみのがん患者であれば,静かで安楽な死を迎えさせることこそが医師の務めであろう.

 ならば「本人や家族の同意を得ていれば、蘇生を必ずしも行う必要がない」ではなく「本人や家族の希望と同意がある場合にのみ蘇生を試みる必要がある」が本来の医療の姿なのではないだろうか.

 もうひとつ忘れてならないのは経済的側面である.蘇生措置を行うと黙って見送るよりもはるかに病院にとっては経済効果が高いということである.蘇生してもまもなく死亡するのがわかっていながら高価な薬品を使用し人工呼吸器を装着したあげくにICUに入れるなど死へ旅立つ者から身ぐるみを剥ぐような行為のような気がする.病院経営者には喜ばれるだろうが,これが医師の仕事であろうか.

まだまだ議論を尽くす必要があると思うが,とりあえずがん以外の病気についても延命治療の具体的手順を示した指針ができることには概ね賛成の立場である.

 
『--ペースメーカーに不具合 CT検査受けた際に11件--

 重症心不全などで心臓ペースメーカーを装着した患者がコンピューター断層撮影(CT)検査を受けた際、患者に合わせてあった心拍数が基本設定に戻る不具合が11件起きていたことが26日、厚生労働省のまとめで分かった。

 メドトロニック社製の「InSync8040」で、2003年5月に輸入承認され約680台が出荷されている。健康被害が出たケースはないが、脈が遅くなったり動悸(どうき)が起きたりして重い被害が出る恐れもある。

 厚労省は、製品の添付文書にCT装置によるエックス線照射を行わないよう追記することを同社に指示し、「医薬品・医療機器等安全性情報」で医療関係者に注意喚起をした。他の製品でも同様の事例がないか調査している。

 報告によると、装着した患者がCT検査を受けたところ、ペースメーカーの心拍数が1分間に60の基本設定に固定される事例が、昨年4月-今年3月末までの1年間に11件あった。』

 今でもペースメーカーを装着した患者さんはMR-CT(核磁気共鳴CT)検査を受けることはできない.携帯電話と同じく磁力により誤動作する可能性があるからだが,今まではエックス線CT検査ではそのようなことはないと信じられてきた.

 だが,このような事例があることがわかり添付文書にCT装置によるエックス線照射を行わないよう追記されることになれば少なくともこのタイプのペースメーカーを装着した患者さんは循環器内科の医師の監視下でしかCT検査は受けられなくなるだろう.

 さらに,ほかのタイプでもこのようなことがないのかを十分検証してもらわないとペースメーカーを装着した患者さんの検査に対しては責任が負えないことにもなるだろう.他のタイプでは起きないことを厚生労働省が保証するわけはないだろうから,きっと事故が起きればまた責任は現場の医師が負うことになるのだろう.

 臨床の現場では誰も知らないことであれば不可抗力ともいえるだろうが,こうしてニュースになるような副作用は知らなかったでは済まされない.確率的には非常に低いのではあるが,事故が起きる可能性があることをあらかじめ説明して同意を得なければならないのである.

 現実的にはどう対応すればいいのかまだわからないが,CT検査の前後に心電図検査が必須なんてことにでもなったら面倒なことだ.また,それによって異常が意外にたくさん起きていることがわかったりしたら循環器内科へご依頼とさらに面倒なことになりかねない.ちょっと心配しすぎだろうか.

公序良俗

2005年5月24日 医療の問題
『--代理出産の母子関係認めず 大阪高裁が抗告棄却--

 米国で代理出産によって生まれた子の出生届を自治体が受理しなかったのを不服として、関西在住の50代の夫婦が処分の取り消しを求めた家事審判の抗告審で、大阪高裁(田中壮太裁判長)は、「母子関係は認められない」として夫婦の申し立てを却下した家庭裁判所の判断を支持し、2人の抗告を棄却した。夫婦は「子どもを持ち、幸福を追求する権利が侵害された」として24日にも最高裁に特別抗告する方針。

 大阪高裁の20日の決定によると、夫婦は子どもができなかったため、米国カリフォルニア州で米国人女性から卵子の提供を受け、夫の精子と体外受精させた。さらに別の米国人女性の体内に着床させる方法で、02年に子をもうけた。

 田中裁判長は「法律上の母子関係を、分娩(ぶんべん)した者と子との間に認めるべきだとする基準は今なお相当だ」として家裁決定を支持。医療の発展があっても「例外を認めるべきではない」とした。

 さらに代理出産について「人をもっぱら生殖の手段として扱い、第三者に懐胎、分娩による危険を負わせるもので、人道上問題がある」と指摘。子を産んだ女性との間で子を巡る争いが生じる恐れもあり、「契約は公序良俗に反して無効とするのが相当」と判断した。』

 生みの親より育ての親という言葉もあった。だが、たとえ契約だったとしても子を産んだ女性を実母というのが当然であろう。妊娠や出産という胎児との経験の共有こそが生みの親であることの意味でありそれこそが実母というもので、遺伝子がどうこうということは親子の人間関係で重要視すべきことではないだろう。

 この夫婦のいう「子どもを持ち、幸福を追求する権利が侵害された」というのはまったく見当違いである。なぜなら養子縁組という方法で代理出産させた子供を法的に自分たちの子供とする自由があるからである。また、たとえ契約した代理母にそれを拒まれたとしてもそれはそれで仕方のないことであろう。自分がお腹を痛めて生んだ子供の遺伝子が自分のものではなくても愛着が沸くのもまた人間であるからである。

 そもそも自分たちの幸福を追求するために他人の体を危険にさらしていいわけがあるだろうか。私は医師として人間の生と死だけはお金や社会的地位とは関係なく平等にあるべきだと思っている。どんな理由があるにせよお金で子供を手に入れるという行為は人身売買につながる考え方であり危険であると思うのだがどうだろうか。
『--治療行為の停止、殺人容疑と認定 医師を書類送検--

 北海道立羽幌病院で昨年2月、当時勤務していた女性医師(33)が人工呼吸器を取り外して男性患者(90)を死亡させた問題で、道警は18日、同医師を殺人の疑いで旭川地検に書類送検した。

 調べでは、男性患者は食事をのどに詰まらせて病院に搬送されたが、心肺が停止。医師の蘇生措置で心臓は動いたものの、自発呼吸停止と瞳孔拡大から医師は脳死状態と判断した。翌日に親族の同意を得て呼吸器を外したという。

 95年の「東海大病院事件」の横浜地裁判決で、治療行為の中止が合法とされる要件として、死が避けられない末期状態であることや、家族による本人意思の推定などの3点が示された。道警は今回のケースが当てはまるかどうかについて、専門知識が必要になるため判断を避けたという。

 神戸生命倫理研究会代表の額田勲医師は「今回のような場面に医師として遭遇することはよくある。生命維持装置を使った延命と、患者個人の尊厳のどちらを重視するかは現代医学最大の難問とも言え、今回の件を一人の医師の問題に矮小(わいしょう)化するべきではない」と話している。 』

『--羽幌病院問題の経過-- 
 2004年2月14日午後1時ごろ 男性=当時(90)=が昼食をのどに詰まらせ心肺停止状態で病院搬送。女性医師が蘇生(そせい)措置したが、自発呼吸が戻らず、瞳孔散大。人工呼吸器を装着し、家族に「脳死状態。長くもたない」と伝える

2月15日午前 家族が人工呼吸器の停止に同意

15日午前10時40分ごろ 家族立ち会いの下、医師が人工呼吸器のスイッチを切る

15日午前10時55分ごろ 男性の死亡を確認

16日 医師が院長に「家族に説明は十分した。家族の強い希望があった」と説明

5月14日 問題発覚 』

 現場で行われる手順としては,1.自発呼吸がない時点で人工呼吸器を装着するかどうか家族の同意を得て呼吸器を装着する.2.呼吸器を装着した場合はそのまま心停止を待つ.というのが正解だろう.

 救命救急の現場ではとりあえず可能な救命処置をやってから家族にインフォームドコンセントする場合がほとんどである.この女性医師がまずかったのは一人で勝手に脳死と決めてしまったことにある.医師が脳死状態と考えることと法的な脳死とは違うということがわからなかったためにこんな結果になったのだろう.

 マスコミはこれを終末医療と関連づけて論評しているが,それはちょっと違うような気がする.また,このケースでは脳死判定が必要な状態とも考えられない.問題は救命救急の手順であって1週間くらいで死亡するような患者に生命維持装置を使うか使わないかの問題ではないだろう.呼吸器を装着するだけで何年も生存する遷延性意識障害の患者とは違うのである.
『--「背景に医師不足」と指摘 介護報酬詐欺で道知事 --

 医師の数を水増しし介護報酬を詐取したとして北海道網走市の旧藤田病院(廃院)の元院長らが逮捕された事件について、北海道の高橋(たかはし)はるみ知事は10日の記者会見で「監督する立場にある道としても極めて残念、遺憾だ」と述べた。

 高橋知事は「過疎地域を抱える北海道の医師不足が大きな背景になったのではないか」と指摘。「医師の配置基準を国一律で決めるのはナンセンス。わたしどもが道内の医療状況を一番分かっている」として、配置基準を決める権限の委譲を引き続き国に求める考えを示した。』

 高橋知事の意見はもっともだ.厚生労働省は今後入院のできる診療所の医師配置基準を引き上げるようだが,過疎地域では不可能な話である.医師配置基準を引き上げて医療サービスの向上を計るというと聞こえはいいが,実際には地方の診療所からの医師撤退をすすめ入院可能な診療所が減少していくことになるだろう.

 仮に厚生労働省が言うように過疎地域では現状での診療所の存続をみとめるようなことをしても地方の診療所の医師のみが孤軍奮闘するという今の図式では先細りなのは見えている.ここに診療報酬の全国統一価格を適用されたのでは誰だって都市の病院へ逃げ出したくなるだろうし,たとえ医師が残っても地方の診療所の医療レベルも現状のままだ.

 高橋知事は「わたしどもが道内の医療状況を一番分かっている」とおっしゃったらしい.地方の医師不足という問題点はわかったのかもしれないが,具体的な解決策はあるのだろうか.あるのであれば具体的なプランを公表して国との交渉をしていただきたいものである.私も地方での医療に関わってきた医師として言いたいことはたくさんあるが,具体的な解決策など簡単には浮かばないのである.

 わたしが感じることは,国が医療に求めるのは医療費削減だけで,社会福祉の基本である国民の健康維持とか弱者救済というものは見えてこないのである.
 
『--バイパス血管切り患者死亡 新潟県立がんセンター--

 新潟県立がんセンター新潟病院(田中乙雄(たなか・おつお)院長)は27日、新潟市の70代の男性患者に実施した手術で、心臓へのバイパスになっていた動脈を知らずに切り離し、患者が心筋梗塞(こうそく)で死亡したと公表した。

 病院によると、5日午前に胆のう摘出などの手術をした際、胃の動脈が傷つき出血。患者は以前に別の病院で受けたバイパス手術で、この動脈を心臓につなげていたが、外科部長の執刀医(44)は気付かずに止血のため切り離した。

 その後、動脈が心臓につながっていたことが分かったが、患者の状態が安定していたため、執刀医は手術を続けた。しかし、術後に患者の血圧が低下。バイパスの動脈を再びつなげる手術をしたが容体は改善せず、5日夜に死亡した。血管を切り離したことが、心機能を低下させたとみられるという。

 執刀医は、患者のバイパス手術を知っていたが、どの血管をバイパスに使っているのか確認しなかった。

 田中院長は「患者とご遺族に衷心よりおわび申し上げる。今後は慎重な情報把握に努める」と話している。』

 執刀医の外科部長は業務上過失致死罪を免れることができるのだろうか.患者も医師も誠にお気の毒な話ではあるが,執刀医は2つの点で最善をつくさなかったことの責任をとらざるを得ないだろう.

 ひとつは患者のバイパス手術を知っていたが、どの血管をバイパスに使っているのか確認しなかったということで,もう一点は動脈が心臓につながっていたことが分かった時点で再吻合するなどの処置を試みなかったことである.

 手術前のリスクの評価として既往歴は非常に大切な場合があるが,術野が近い過去の手術はその最たるものであろう.脳外科でも以前に開頭術をしていた場合に脳が周囲と癒着していて手術が非常に困難なことがあったり,血管吻合術を受けた患者さんに別な手術をしなければならない場合などは吻合した血管の処理にかなり気を使うことになる.

 それ以外の一般的な既往歴として高血圧,糖尿病,虚血性心疾患(狭心症,心筋梗塞),喘息などは術中,術後の合併症のリスクが高く要注意であるが,病状が悪いか不安定な場合は専門医に相談し麻酔科にもリスクの評価をしてもらうことになる.

 こういった術前のリスクの評価がきちんとなされないと術者は予期しないトラブルに巻き込まれるわけだ.だから,術者は自分でこれらの確認をすべきなのだが,大きな病院ほど術者も忙しいのかこれらを人まかせにしてしまう傾向があるような気がする.これも大病院の知られざるリスクだろう.

 いずれにしても最近の傾向としては知らなかったではすまされないわけで,知っていたのに対応を誤ったのであればさらに責任は重いだろう.

 そういえば羽田空港の管制官の方々は工事で使用中止の滑走路に新千歳と帯広からの便を着陸させようとしたそうだ.帯広からの便は確認はしたものの管制にしたがってそのまま着陸したそうだが,新千歳からの便の機長は確認後に自分の判断で管制に従わずに別な滑走路に着陸したそうである.

 外科医であれば私は後者の機長のようなリスクマネージメントのできる執刀医が理想だと思うのだがどうだろうか.
『--感染者と患者1万人超す エイズ、最悪の状況 厚労省の動向委まとめ--

 エイズ発生報告制度が始まった1984年以降、国内のエイズウイルス感染者とエイズ患者の累計が1万人を超えたと、厚生労働省エイズ動向委員会が25日発表した。

 85年に国内で患者が初確認され、99年に5000人を突破。2004年は新たな感染者、患者とも過去最多で、年間合計が1000人を初めて突破し1165人に達するなど最悪ペースで増加している。

 吉倉広(よしくら・ひろし)委員長(前国立感染症研究所長)は「感染の早期発見による早期治療と、感染拡大の抑制が重要だ」と指摘した。

 感染者は、15-19歳が約2%、20-24歳は約15%、25-29歳は約24%、30-34歳は約20%、35-39歳は約12%で、最近は若年層に広がってきている。

 感染経路別にみると、日本国籍の感染者では、同性間性的接触による感染が最も多く約2500人で、男性が多数を占める。日本国籍の患者では異性間性的接触が約1120人、同性間が約790人。

 04年は東京をはじめ関東、甲信越の報告が依然多く、感染者、患者の半分以上。他の地域でも過去最悪レベルが続き、特に近畿で著しい。』

 早期発見といっても若者が自主的に検査に行くなんてことはないだろうし,AIDSの可能性のある者が検査のために献血するなんてことがあっては感染の抑制はできないだろう.

 病院でもルーチンに肝炎や梅毒の検査をすることは健康保険で認められてもAIDS検査は認められていないのが現状であるし,職場での健康診断でも結核くらいは胸部写真で見つけられてもAIDS検査は行っていないから一般人のスクリーニングはまったく行われていないわけだ.

 いまだに同性愛との関連を言ってもこれだけ増えてくれば無意味だろう.すでに妊婦から胎児へのAIDS感染が問題になっているほどである.梅毒や淋病やクラミジアといった性感染症と同様にこれからは爆発的に増えていくのであろう.

 同性愛に限らず怪しい人間とは関わらないほうが安全である.医師も看護師もAIDS検査がルーチンで行われない以上は患者を診たらAIDSと思えという考え方でないと自分を守ることはできない.注射や手術などの観血的処置はリスクを伴うことを自覚すべきだろう.

 先進国の中でAIDS感染者が増加しているのは日本だけだそうであるが,GDPに占める医療費も最低なわが国はすでに医療では先進国とはいえない状態になりつつあることに気づくべきだろう.
『--幹細胞、長い培養でがん化 欧で確認、安全確保に課題--

 人の骨髄や脂肪細胞などに含まれ、日本や各国で傷んだ組織を修復する再生医療に使われ始めている「間葉系幹細胞」と呼ばれる未熟な細胞について、スペイン・マドリード自治大などのチームが「試験管内で約5カ月にわたって培養したら、がんを起こす細胞に変質した」と米医学誌「キャンサーリサーチ」に21日までに発表した。一般的とされる2カ月以下の培養では異常はなかったものの、幹細胞を医療に利用する際には安全性の慎重な確認が課題となりそうだ。

 チームが調べたのは、人の脂肪細胞から分離した間葉系幹細胞。4-5カ月培養を続けた細胞のサンプルの一部が、分裂速度が速く染色体に異常を持つ細胞に変質し、これをマウスに移植したらがんができたという。受精卵からつくる胚(はい)性幹細胞(ES細胞)は、人体のどんな細胞にも成長できる代わりに、そのまま移植するとがん化することが分かっている。しかし間葉系幹細胞のような大人の体からも採れる細胞が、培養中に自然にがん化したとの報告は初めて。』

 脳神経外科領域では脳梗塞や脊髄損傷の夢の治療である神経再生の鍵となる幹細胞であるが神経細胞は間葉系ではなく外胚葉系であるのがせめてもの救いなのだろうか.

 脊髄のような末梢神経系でも細胞分化の制御ができなければ移植した細胞が癌化する可能性があるのだろうから,こういうニュースをみると夢がまた遠のくような気分になる.

 これが皮質領域の脳梗塞となると細胞分化の後に神経回路の再構築という問題があるわけだからさらに道のりは遠いのだろう.この辺に中枢神経系ならではの問題があるのだが,この問題はいつになったら先が見えるのだろうか.私にとってはまだまだ先の長い道のりのように思える.
『 --重大な医療事故533件 初集計、半年で死亡83件 報告義務化で主要病院--

 患者が死亡するなどの重大な医療事故が、大学病院や国立病院など主要な病院で3月までの半年間に533件あり、うち死亡例は83件に上ることが15日、財団法人「日本医療機能評価機構」(東京)の集計で分かった。昨年10月、報告が義務付けられてから集計は初めて。同機構は事例を分析し、再発防止に役立てる考え。

 報告が義務化されたのは、大学病院や国立病院など276施設。ほかに任意で医療機関257施設が参加し、集計対象は計533施設。1施設当たり1件の報告があった計算となった。

 事故の程度は「障害が残る可能性が低い」が254件で最多。「不明」(104件)「死亡」(83件)「障害が残る可能性が高い」(74件)の順だった。発生場所は病室が241件でトップ、手術室も77件と多かった。体内に異物が残った事故は16件。ガーゼや縫合針、鉗子(かんし)、ねじ、義歯、カテーテルなど多岐にわたっていた。

 同機構は当面、異物残存のケースと、医療機器の使用に関する事故(7件)の2つのテーマで原因などを分析する。2005年度は年4回の集計を予定しており、医療機関に傾向や対策をフィードバックする。

 報告制度は、後を絶たない医療事故の再発防止を目指し厚生労働省が医療法施行規則を改正して義務付けた。患者が死亡したり予期しない処置が必要となったりした重大事故が報告対象。正直に報告してもらうため病院名は伏せ、行政処分をする厚労省とは別の同機構が受け付ける。』

 これを見てその多さに驚いた人は大学病院で勤務した医師ではないだろう.大学で勤務医をやったことがある人ならまあこんなものだろうと思うだろうし,まだまだ全部を報告していないんじゃないかと思う医師も多いだろう.

 医療事故のニュースに大学病院の事故が多く取り上げられているように感じるが,特に大学病院だからではなく重大事故が実際に起こっているから報道されているだけなのかもしれない.

 たしかに大学病院のように高度な先端医療を要する病気ならばリスクがあっても大学病院にかかるしかないだろうが,小さな病院でもいいような病気でかかると思わぬリスクを背負い込むことになりかねない側面も大学病院にはあるということをこの報告は示しているのではないだろうか.

 病院の規模が大きくて手術数の多い病院がより良いと一般には信じられているのかもしれないが大病院ならではのリスクがあることを忘れてはいないだろうか.続く...
『--主治医を業過致死で起訴 埼玉医大で不適切な治療--

 環境評論家船瀬俊介(ふなせ・しゅんすけ)さん(54)の長女真愛美(まなみ)さん=当時(14)=が、埼玉医大病院(埼玉県毛呂山町)で入院中に死亡したのは適切な治療を怠ったためとして、さいたま地検は14日、業務上過失致死罪で、当時主治医だった田島弘(たじま・ひろし)医師(50)=東京都世田谷区=を在宅起訴した。

 起訴状によると、田島被告は、体調を崩して入院していた真愛美さんに、2000年5月1日から28日にかけ、高カロリー輸液剤の点滴をする際にビタミンB1を並行して投与する指示をせず、同月30日に多臓器不全で死亡させた。

 船瀬さんらは01年2月、当時の浦和地検に未必の故意による殺人容疑で田島被告を告訴していた。田島被告は昨年、埼玉医大を退職している。

 船瀬さんはベストセラー「買ってはいけない」の著者の1人。船瀬さん夫妻は01年10月に病院と主治医らに損害賠償を求め提訴。東京高裁は04年11月「適切な処置が遅れたことに過失があった」として約4500万円の支払いを命じた。

 医師の起訴に対し、埼玉医大は「司法の判断を待ちたい」としている。』

 この記事を読んでまず思ったのは,「殺人罪というからにはビタミンB1を補給していればこの娘さんが必ず助かっていたということをどうやって検察が科学的に証明するのか」ということである.

 なにもしなければ死亡する患者に医療行為を施して救命もしくは延命することが治療で,医療行為を施してもその行為の一部にミスがあり結果として患者が死亡すれば殺人罪と家族はいいたいのだろうか.気持ちはわからないでもないが,娘が死亡した恨みを医師にぶつけたら気が晴れるのだろうか.

 訴えられたくなければ医師は重症の患者の治療を避けるのが懸命ということになるかもしれない.ところが患者や家族は医師を選ぶことができるのに医師は患者を選ぶことはできない.医師には病院に来た患者を診る義務が課せられているからだ.だから医療ミスを起こす医師に遭遇するのは患者や家族に選択ミスがあったといえるかもしれない.このように結果で考えると医療事故は虚しい話になる.

 患者が死亡したらどこかにミスがあったのではと疑われ,結果が悪ければ損害賠償を請求され,挙句に殺人罪で訴えられるというのが社会現象になるようなら医師にも患者を診ない権利を与えるのが公平だろう.医療行為とは信頼関係で成り立っているはずである.お互いに信じられない者が患者と医師の関係になるのが不幸の始まりだろう.

 そもそも病気とは患者のかかえる問題であり医師はそれに救済の手を差し伸べる存在であるということをお互いに忘れてはいないだろうか.もちろん患者の家族もである.
『--提供拒否の登録制を検討へ 移植法改正で与党議員ら--

 本人が事前に拒否していなければ家族の同意で臓器を提供できるとする臓器移植法改正案について、与党議員らでつくる検討会の河野太郎衆院議員(自民)は12日、移植患者団体からの意見聴取の後、記者会見で「(提供は)ノーという意思表示を担保するための登録方法を考えないといけない」と述べた。

 提供拒否の意思表示を、現在の意思表示カードだけでなく、登録方式でもできるよう制度を検討する考え。厚生労働省は「拒否の人を全員登録するシステムは難しい。アイデアの一つとしてうかがっている」としている。

 この日の検討会では、メンバーの議員から「脳死判定の実施は、従来通り家族が拒否できるようにすべきだとの声が党内にある」との意見も出された。改正案では、判定は医師の裁量に委ねるとしており、検討課題とすることを確認した。

 提供しない意思について、河野議員は「(改正で)意思に反して臓器を摘出されるとの誤解もあり、必要なら登録制をやらなければならないのかなと思う」と説明した。』

本人の意思表示がない場合は臓器を摘出するというのが前提になっているということを自然に受け入れられる人が多数派なのだろうか.これと同様のことが延命拒否の意思表示だろう.

あくまでも移植医療をすすめたいのであれば,本人の意思表示がなければ延命しないことにすれば話は非常にすっきりするような気がするが,それでいいのだろうか.

問題は移植医療や延命治療にほとんど関心のない人たちが普段から臓器提供拒否や延命治療拒否の意思表示をするかどうかだろう.移植医療に携わる者や移植を受ける者は当然のことながら臓器提供の機会を増やしたいのだろうからこういう人たちが中心になっている今の議論には問題があると思うのだがどうだろうか.
『--「意図的な死」と非難 ローマ法王庁--

 ローマ法王庁(バチカン)の報道官は3月31日、米フロリダ州のテリ・シャイボさん(41)が栄養補給を打ち切られて死亡したことについて「一つの命が絶たれた。意図的に死が早められた」と非難した。

 法王庁は、中絶を含め、人工的に人間の命が操作されることに基本的に反対している。ANSA通信によると、法王ヨハネ・パウロ二世は昨年3月「生命延長のための栄養補給を中断するのは、不作為による安楽死に当たる」とスピーチしており、報道官の発言もその考え方に沿っている。

 バチカンは「過度な治療」には反対しているが、報道官は「栄養補給は過度な治療には当たらない」としている。』

延命とは本来助からないものを意図的に生きながらえさせることである.だから,延命の中止を意図的に死が早められたというのか本来の自然な死をむかえさせたというのかは主観的な表現の問題だろう.

生物とは本来は自分で摂食できなくなれば死に至るものであると考えれば意識が一定期間以上なければ餓死してしまうのは自然の摂理といえるだろう.テリ・シャイボさんは栄養補給を打ち切られて14日目に死亡したそうだから,そのあたりが遷延性意識障害の場合の本来の生死の境であるのだろうか.

瀕死の状態のローマ法王も自身の自然な死を希望されることだろうが,主治医たちは延命治療をどこで打ち切るか,または打ち切らないのか宗教倫理と医師の使命感との間で悩んでいるに違いない.

家族に迷惑をかけないよう癌の末期や遷延性意識障害になった時のために,今のうちに自分の治療をどこでやめてもらうのかを決めて遺書にでも書いておき,意識がなくなって2週間くらいしたら読んでもらうのがいいのかもしれない.

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