『--頭部手術ミスで死亡と提訴 --

 埼玉医大総合医療センター(埼玉県川越市)で頭部の手術を受けた同県吉見町の男性会社員=当時(34)=が死亡したのは執刀ミスとして、男性の妻らが15日までに、医大側に約1億4900万円の損害賠償を求める訴訟をさいたま地裁に起こした。

 訴状によると、男性は2003年1月29日、三叉(さんさ)神経痛治療のため左後頭部を切開、神経を圧迫していた血管と神経の間に特殊な綿を挿入する手術を受けたが、くも膜下出血を起こし13日後に死亡した。

 原告側は「執刀医が誤って血管を傷付け、十分な止血をしなかった」と主張。同医療センターは「診療はベストを尽くし、過失はなかった」としている』

 2年以上も前のことだが当時の手術ビデオなどは残っているだろうか.三叉神経の神経血管減圧術だろうがこの手術で大きな出血の原因となる血管としては上小脳動脈と前下小脳動脈,そして脳底動脈のほか錐体静脈などがあるのだが,いったいどこからの出血だったのだろうか.

 「過失はなかった」というのが事実なら,動脈瘤が偶然存在して破裂したという可能性も考えなければならないのだろうか.ただ,神経血管減圧術の合併症としてくも膜下出血による死亡というのを説明していたとは考えられないから,たとえ過失がなくとも例によって説明不足という理由で責任を問われることは十分考えられる.

 最近の判決の傾向として結果が期待されているものより悪ければまず間違いなく損害賠償になり,死亡すれば業務上過失致死罪になるようだ.これがひどくなれば米国の脳外科医のように高額な損害賠償保険料を払うか手術をやめるかの選択をしなければならなくなるのだろうか.

 好きでやっているつもりなので私は脳外科医でいいのだが,ただでさえ人手不足なのにこんなニュースをみて脳外科志望の研修医が減るのではないかと心配している.なんら責任ある仕事をさせてもらえない研修医にしてみれば,手術時間が短くて,夜中に緊急手術の少ないほうがやはり魅力的でしょうか.

 
夏ももうすぐ終わり
暑い夏が続いている.暑い日の夕暮れに飲むビールのなんと旨いこと.夏の夕暮れに似合うビールといえば,ワイキキビーチを見下ろすホテルのテラスでビーフジャーキーをかじりながらのクアーズというのも捨てがたい.夏休みにはハワイもいいが,テロも飛行機事故も怖い.そう言ってる間に夏は終わりそうだ.
『--ビールに放射線防護効果 染色体異常を40%軽減 放医研と東京理科大が確認--

 放射線医学総合研究所(千葉市)は11日、ビールに含まれる「メラトニン」などの成分に、放射線による染色体異常を最大で40%近く減らす効果があることが分かった、と発表した。同研究所が東京理科大と合同研究していた。

 同研究所によると「チェルノブイリ原発事故で、被ばく者の放射線障害がアルコール飲料で軽減された」との報告は過去にあったが、放射線防護効果があるビールの成分を特定したのは初めて。将来は、放射線治療に伴う副作用軽減への応用などが期待できる。

 研究グループが、ビール大瓶1本(約630ミリリットル)を飲んだ被験者の血液細胞に治療に使う1-6グレイの放射線を照射したところ、飲酒前に比べて異常を起こした細胞の染色体数が最大40%近く減った。

 ビールに含まれる成分のうち(1)アルコール分のエタノール(2)甘み成分のグリシンベタイン(3)微量成分のメラトニンとシュードウリジン-を被験者の血液細胞に加えたり、マウスに投与したりしてさまざまな強さの放射線を照射し、同様の効果があることを確認した。

 これらの物質は相乗作用で効果が高まるとみられる。グループは今後、メカニズムを詳しく調べ、被ばく後の効果、ほかの臓器細胞での実験を続ける。

 安藤興一(あんどう・こういち)グループリーダーは「放射線治療や、宇宙旅行で人が浴びる宇宙放射線の障害を防ぐ方法の開発につなげたい」としている。』

 私は酒類はなんでもいただくが,特にビールと赤ワインと泡盛は好きなほうである.だからではないが,閉塞性血管障害の予防にビールがいいという話は毎日ビールを飲むのに都合がいい.

 脳外科医に限らず放射線被爆が避けられない医療関係者の被爆からの防御のために適量のビールを患者さんや看護師さんといっしょに検査前に飲むなんていうことができたらまさに夢のような話だが,酒に弱い人は検査どころでなくなるかもしれない.

 閉塞性血管障害の場合ではビールの適量は1日500mlくらいだったから,たとえ検査前に1本飲んでもいいことになっても仕事が終わってからは飲めない計算になりこれはこれでちょっと困ったことかもしれない.(検査前に飲めるわけはないか...)

 これだけビールが体にいいのだったらビールだけは国民の健康のために1日あたり500ml1缶だけ無税にするなんていうのもいいのではないだろうか.

 まあビール好きの戯言だが,とは言いつつも最近はダイエットのためにビールは1日350ml1缶で我慢している.何といってもメタボリックシンドロームは男子で腹囲85cmで要注意だからだ.

 幸いにも暑い夏のおかげでダイエット効果は上がってはいるが,夏にビールを我慢しているところへこのニュース.またビールを飲める理由が増えて喜んでいいのかどうか微妙なところである.

99¢=150円?

2005年8月12日 その他
『--レコード会社を離れ、iTunesに向かう日本のアーティスト--

アーティストはiTunesに参加しないレコード会社に反対し、iTunesに楽曲を提供するかもしれない。大手芸能事務所も、レコード会社の動向に関係なく、iTunesに関心を示している。

 ソニーミュージックなど、Apple ComputerのiTunes Music Storeに参加していないレコード会社と契約している日本のミュージシャンが、所属レコード会社に反発し、先週日本でスタートしたiTunesで自分の楽曲を提供しようとしている。

 少なくとも1人のアーティストが既にレコード会社に反対して、iTunesで自身の楽曲を提供する準備をしている。日本のミュージシャンをマネジメントする大手芸能事務所は8月10日、レコード会社のスタンスに関係なく、Appleとの取引に関心を持っていることを明らかにした。

 日本では、オンライン音楽ストアは4日にiTunesがスタートするまであまり人気がなかった。iTunesは日本のレコード会社15社が提供する100万曲を掲げてオープンした。

 オープンから4日で、同サービスでは100万曲がダウンロードされた――米国などこれまで立ち上げられた20カ国の中で最も急ペースの売れ行きだ。ほとんどの楽曲は150円でダウンロードでき、楽曲の10%は200円で販売されている。米国では1曲99セントだ。

 しかしソニー傘下のソニーミュージックはiTunesに参加する契約を交わしていない。同社は、交渉中だが契約に至っていないと話している。

 Appleとソニーは携帯音楽プレーヤー事業において宿敵として浮上してきた。AppleのHDD搭載音楽プレーヤー「iPod」は、ネットワークウォークマン(一部にHDD搭載モデルもある)を推進するソニーに打撃を与えている。

 しかし反抗的なアーティストはこの問題を避けるようになっており、iTunesで自分の楽曲を提供する方を選ぶかもしれない。

 ソニーミュージックとレコーディング契約を持つロックミュージシャンの佐野元春氏は、一部の楽曲をiTunesで提供すると公式Webサイトには記されている。

 「何を使って聴くかは個人の自由。聴く人がいるところには僕の音楽を届けたい」という佐野氏の発言を10日付の日本経済新聞は伝えている。

 ソニーミュージック広報室の井出靖氏は、佐野氏はもう「ソニーのアーティスト」と考えていないと話す。ただし、ソニーミュージックの下でリリースされた佐野氏の楽曲をiTunesで提供するかどうかについては交渉で決めるという。その結果は各契約ごとに決められるものであり、交渉は継続中だと井出氏。

 日本の人気アーティストの一部を抱える芸能事務所アミューズも、iTunesへの参加を検討している。同社はソニーミュージックだけでなく、ほかのレコード会社と契約しているミュージシャンもマネジメントしており、当初はiTunesと契約しないと決めていた。

 「しかし、今後参加することを検討している」とアミューズの広報担当キョウコ・イジチ氏は10日に語った。「ユーザーの望むことをしたいと考えている」

 Appleのアプリケーション担当副社長エディー・キュー氏は今週、日本サービス向けにレコード会社との契約を増やすためにはもっと多くの作業が必要だと認めた。

 ビクターエンタテインメント広報グループの青木良明氏は10日、Appleとの交渉はまだ継続中と語りつつも、契約に関心があることを強調した。

 それでも日本でのiTunes人気は圧倒的だ。めったに見られないスティーブ・ジョブズCEOがイベントに登場するなどの宣伝キャンペーンは、メディアの注目を集めた。

 iTunes上陸前は、日本の最大手音楽ダウンロードサービス――ソニーが運営し、ソニーミュージック所属アーティストの曲を提供する――の売上は1カ月で平均45万ダウンロードだった。

 Appleは2001年10月の発売以来、iPodを世界中で2180万台販売し、iTunes Music Storeを通じて5億曲以上を販売した。』

 OS9でiPodを使っていたころにはiTunesがこれほど流行するとは思ってもみなかった.OSXが出て米国でiTunesが急成長した頃には日本でもと期待していたが,そこからが長かったようだ.やはり日本の音楽業界の特殊な事情があったものと思われる.

 それにしても米国で1曲99セントのものが日本で150円とは高いではないか.これでは1ドル360円だったころの洋書のようで,あまりに消費者がばかにされている感じである.それとも日本の著作権料は米国よりも高いのであろうか?

 おそらくレコード会社が利益率が高いCDとの差を埋めるために値段を高く設定しているのであろう.業界とはそういうものである.医薬品も医療機器も日本は海外に比べて異常に高いのもおそらく同じ理由だろう.自動車ではヤナセがそうであったように.

 これからはiTunesでアーチストが直販できる時代である.佐野元春氏はマックファンで知られた人である.私は『アンジェリーナ』の頃に好きだったが,ソニーミュージックに対する姿勢は勇気とともにその先見性を高く評価されるべきだろう.他にも追従するアーチストが増えることを期待したい.iTunesだけで楽曲を販売するレーベルなんていうのも面白いかもしれない.

 ソニーのMagic Gate Memory Stickなどはハードとソフトの両面で著作権保護を目的としていると言われるが,実態はソニーが音楽ソフトの流通を独占しようとしているようにも見えあまり歓迎できるシステムではない.そもそもMacには対応していないなど排他的な感じがするところが私の気にくわないところでもある.

 その点iTunesはWindowsにもMacにも対応しており回数制限はあるがコピーも可能である.iPodシリーズで可搬性にも優れるのだから現時点で望める最高のシステムであろう.だが,問題点もある.日本ではファイル交換ソフトでほとんどの曲のmp3データが手に入るのである.いくらコピープロテクトをかけたCDをつくってもコピーは可能である.1曲150円で違法コピーの利用者が減るのであろうか.

 売るほうも買うほうも良心的でなければビジネスというものは成り立たない.そういう意味ではiTunesの日本上陸によってレコード会社にも音楽ソフトの適正な値段を考える機会が与えられたと言えるだろう.

 
『--広島と長崎の原爆投下、57%が支持 米国内世論調査--

 広島と長崎への原爆投下に関する米国内の世論を調べた米ギャラップ社によると、60年前の2都市への原爆投下を57%が「支持する」と答え、「支持しない」は38%だった。同じテーマで聞いた10年前の前回調査と比べて「支持」は2ポイント減り、「不支持」が3ポイント増えた。同社が5日発表した。

 「原爆投下が戦争終結を早め、米国人の命を救ったと思うか?」には、「救った」が80%(前回より6ポイント減)で、「救わなかった」は16%(同9ポイント増)だった。「投下はより多くの日本人の命を救ったか。それとも日本人の犠牲者を増やしたか?」には「救った」が41%(同1ポイント増)で、「犠牲者を増やした」は47%(2ポイント増)だった。

 男性で原爆投下を支持したのは73%、女性は42%だった。共和党支持者のうち73%が投下を支持し、民主党支持者は47%だった。調査は全米の18歳以上の1010人を対象に電話で聞いた。 』

 60年も前のことだし原爆が日本人の犠牲者を増やしたことは事実だろうが、米国人の命を救ったことにはなるのだろうか。私は核を実際に使用するのは広島と長崎で終わりにしなければならないだろうとは思う。今度使った時には犠牲者を増やすばかりの最悪な悪循環の始まりとなるような気がするからだ。

 今や大陸間弾道弾などは持っていることに意味があるのであり使ってしまっては元も子もなくなることは明白である。ミサイル1発で広島の何十倍もの威力のあるのを実際に使えば地球環境が破壊され人類の未来も潰えることだろう。だから、持っていても使うわけにはいかない。

 心配なのは小型化された核兵器がテロリストなどによって使用されることだろう。米国の大都市で核テロが行われても米国人は核兵器が米国人の命を救ったと言い続けることができるのだろうか。実際に米国人が被爆を体験できなければわからないというのであればいずれそういったことも起こるにちがいない。歴史は続いているのであって、また繰り返されるということを忘れるべきではないだろう。

 悲劇を繰り返さないためにも、日本は唯一の被爆国として断固として核兵器の根絶に動くべきであろう。戦争を繰り返してもその悲劇から学べないのであれば人類の未来は決して明るいものではない。人類の持つ核兵器はすでに人類を滅亡させるに十分なだけあるのだから。
『--在宅の終末医療後押し 診療報酬の加算を検討 厚労省、06年度にも--

 厚生労働省は4日、患者が終末期を自宅や地域で迎えるため、医師や看護師、薬剤師など医療関係者とケアマネジャーら介護スタッフが連携する「在宅医療チーム」の体制づくりに乗り出す方針を固めた。自宅などで亡くなる人の割合を現在の約2割から4割にすることを目指す。

 終末期の患者が安心して退院できるよう、入院していた病院の担当者と、患者が住む地域の医療・介護スタッフが「診療計画(連携パス)」を策定し医療に取り組むことを報酬面で後押しする。

 早ければ診療報酬と介護報酬が初めて同時に見直される2006年度改定に「地域連携パス加算」(仮称)を盛り込みたい考えだ。今後、社会保障制度審議会などで検討する。

 自宅だけでなく地域での患者の受け皿を用意するため、ケアハウス(軽費老人ホーム)や少人数で共同生活するグループホーム、小規模な多機能型施設などに医療スタッフが出向いていく仕組みも検討。特別養護老人ホームで訪問看護を受けることが可能になるような制度の変更も目指す。

 厚労省は、住み慣れた場所で最期を迎えたいという終末期の患者の希望に沿うと同時に、自宅での医療に比べ高額となる入院医療費の抑制効果も期待できるとしている。

 患者の治療は1つの医療機関で完結することが難しく、通常は急性期の病院から回復・慢性期の病院、さらに介護施設などを経て在宅療養に移行するとされる。

 しかし、入院先の病院担当者と地域の開業医や看護師、介護施設の間での情報の共有が少ない上、患者の容体が急変した際の受け入れ態勢なども整っておらず、終末期を自宅で迎えることは難しい現実がある。』

 こんなことをやっても喜ぶのは開業内科医ぐらいだろう.患者の容体が急変したらせいぜい電話一本で救急病院へ送るだけでいいのだから.「診療計画(連携パス)」なんていうものを書くだけで診療報酬がもらえるのだったらこんなうまい話はないだろう.介護保険の業者と開業内科医そして調剤薬局が手を組んで一般病院の診療報酬をうまくかすめとる良い方法だ.

 だが,診療や介護のレベルが入院中より上がることはないだろうし,家族の負担も増えるわけだから,健康保険料の支払いが少なくなった分以上にサービスが低下することは確実である.まあ,介護保険の時と同じで病院から患者を引き離して保険料を節約し,家族の経済的,肉体的自己負担を増やすことに変わりはない.

 そんなに終末期の患者に健康保険を使わせるのがいやなら終末期医療にも自由診療を取り入れて患者や家族に選択させるべきだろう.療養型の入院もいずれ食費や光熱費は自己負担させるようだから,これに保険の効く医療行為と自由診療を合わせて自由診療分は患者に選択させればいいだろう.

 
『--がんで脳死の米女性出産 820グラムの女児は元気--

 AP通信によると、妊娠早期に脳腫瘍(しゅよう)のため脳死と診断された米バージニア州のスーザン・トレスさん(26)が2日、女児を出産した。

 脳死の女性による出産例はほかにもあるが、トレスさんの場合はがんが既に肺などに転移、子宮に広がる前に胎児が十分に発育できるか時間との闘いになっていたため、内外の注目を集めていた。帝王切開で生まれた女児は体重わずか820グラムだが元気という。トレスさんの状態は不明。

 ワクチン研究者のトレスさんは5月、自宅で突然倒れ呼吸が停止。極めて悪性度の高いがんの一種メラノーマが脳に広がっていた。夫のジェーソンさんは仕事を辞めて妻に付き添い、出産のために人工呼吸器の装着を続けた。

 出産後の赤ちゃんが発育できるぎりぎりの時期とされる妊娠24週が過ぎた2日、手術が行われた。

 集中治療室(ICU)でのケアなど保険適用外の医療費が週に数万ドルかかるため、日本など海外からも含め、これまでに総額40万ドル(約4400万円)の寄付がトレスさんに寄せられた。』

 その後のニュースがなくてどうなったか心配していたのだが,無事に生まれたようだ.メラノーマには脳原発のものと転移性のものとあるのだが,どちらだったのであろうか.

 医療が進歩していることもあるのだろうが,それにしても赤ちゃんの生命力もたいしたものだ.たくさんの寄付が寄せられたのはひとつの命の尊さを知る人がたくさんいたからなのであろう.

 今度,米国の日系3世の監督が広島・長崎の原爆のドキュメンタリーをつくるそうである.今でも米国の多くの人たちは戦争終結のために原爆は必要であったと信じているそうであるが,一瞬でこの世から消えてしまった何千人もの子供たちのことはどう考えているのだろうか.

 私にとって毎年8月は命の重さについて考える季節である.
『--基本方針に異論続出 避けられない医療費抑制--

 増え続ける高齢者の医療費を抑制するための新たな制度の対象者は、75歳以上か65歳以上か。高齢者の本人負担は1割か2割か-。

 2003年に閣議決定された政府の基本方針は、75歳以上を対象にした独立型の高齢者医療制度の創設が柱だが、いまなお議論は平行線をたどっているのが実態だ。

 ▽思惑絡み対立

 来年の医療制度改革を議論している社会保障審議会の医療保険部会。

 厚生労働省の「75歳から外来が減って入院が増える。外来で済んでいた病気が変化していく分岐点」という説明に、日本医師会と日本薬剤師会は賛成したものの、日本経団連や健康保険組合連合会は65歳以上を主張する。

 「年金や介護は原則65歳以上。医療もこの年齢が分かりやすい。疾病の特性からみても75歳以上で変わるというのは明確ではない」

 高齢者の窓口負担の割合についても対立は深い。厚労省は現在の1割負担を維持する方針だが、世代間の不公平を解消するため健保連は2割(高所得者は3割)、日本経団連は外来3割(入院2割)を提案。負担増による受診抑制を懸念する日本医師会は1割の堅持を主張して譲らない。

 今年9月には部会としての意見を取りまとめる予定だが、調整は難航が予想されている。

 ▽適正化は必要だが...

 医療費の抑制は政府の構造改革の中でも大きな課題に浮上している。「どんな歳出も経済の規模を超えて伸び続けることは不可能」と経済財政諮問会議の民間議員は、経済成長率に連動した抑制目標を提案した。

 少子高齢化で急増する社会保障費のうち年金は昨年改正で経済事情を反映して給付の伸びを抑える「マクロ経済スライド」が導入された。介護保険も今年の改正で将来の給付費が約2割抑制された。残るは医療費というわけだ。

 これに対し、厚労省は「給付の適正化は必要」としながらも「医療費の伸びは、経済の成長とは連動しない部分が多い。病気になっても病院にいくなとは言えない」と猛反発している。

 厚労省は経済とは直接関係のない生活習慣病対策などの個別の抑制策を積み上げていく方針だが、具体的な抑制策については年末の予算編成まで持ち越された形。財政難の中で医療費抑制圧力は強まるばかりだ。』

 厚労省は「医療費の伸びは、経済の成長とは連動しない部分が多い。病気になっても病院にいくなとは言えない」と猛反発というが,では「病気じゃないのに病院にいくな」とは言えるのだろうか?

 病気でもないのに病院に来る人は年齢に比例して増えているようにも思えるが,これは医療費の無駄だろう.病気じゃない人に健康保険を使うのは気が引けるから,病気かどうかを調べる検査費用は自己負担の割合を高くするというのはどうだろうか.

 また,老人であっても検査費用の本人負担は若年者と同じでいいと思われる.本当に病気で高額の医療費負担が増えるような場合のみ1割負担にしたり,年齢にかかわらず高収入な人には負担の割合を増やし,その代わり混合診療も認めるといった柔軟な料金体系があってもいいと思う.

 お金が無い人は結局は生活保護という形で税金による保障を受け取るわけだから年齢だけを基準に医療費の自己負担割合を議論するのはもうやめたほうがいいような気がするのだが,議論をする人たちの頭に柔軟性がないようだから期待するのが無理なのかも知れない.
『「机上の議論」などと反発 中医協改革案に日医や自民

 中央社会保険医療協議会(中医協)の改革案をまとめた厚生労働相主宰の「中医協の在り方に関する有識者会議」の報告書について、21日、日本医師会が「机上の議論」などとする談話を発表、自民党厚生労働部会では「党内で了承されていない」と異論が出るなど反発が広がった。

 有識者会議は、中医協の委員構成を開業医の発言力が大きい日医の影響力を薄めるため、医師代表5人のうち、病院代表を現在の1人から2人に増やすなどとした改革案を20日に報告。尾辻秀久厚労相は、厚労相が病院団体に委員2人の推薦を求め、この2人を含む5人を日医が推薦すべきだとの見解を示した。

 これに対し、日医は「有識者会議の委員は中医協の会議を一度も見ず、現場を理解しないまま机上の議論に終始」などと批判。

 自民党厚生労働部会では「事前に内容を聞いていない」「党内手続きが不十分だ」と異論が噴出。同部会で関連法の改正案を審議する際などにも議論になりそうだ。

 一方、11の病院団体でつくる日本病院団体協議会は21日、報告書を「大いに評価する」と歓迎する談話を発表した。』

 医師がすべて日本医師会に属していると一般人は思われるかもしれないがそれは間違いである.公立病院や大学病院の医師のほとんどは医師会には属していない.だから日医を医師の代表と考えるにはもともと無理があったといえるだろう.

 日医は明らかに開業医の利益を代表する団体である.それは医師が開業するにあたっては地元の医師会に属さねばならない事実が示すところであるから異論はないだろう.そして,診療報酬改定はいつも開業医が,もっと言えば開業内科医の利益が守られるように改定されてきたと言っても過言ではないだろう.

 今回の「中医協の在り方に関する有識者会議」の報告書に対する日医の反発は自分たちの利益を守るために当然であろう.そして同様に反発した自民党厚生労働部会の議員もまた日医に有利な診療報酬改定から利益を受けていたということなのだろう.

 脳外科医の立場から言わせてもらえば,現在の診療報酬は外科と内科の診療報酬もリスクを含めて考えれば外科に不利なものである.外科手術に比べて患者へのリスクや侵襲が低いにもかかわらず点数が高いものがあるのは開業内科医に有利である.楽な検査と外来で利益を上げ,休日前や患者の状態が悪くなると総合病院へ転送する開業内科医がどこに行ってもいるものだが,真面目に患者さんを診ている医師には目障りなだけである.

 足りない医療費を有効に使うためにも診療コストやリスクに見合った診療報酬体系にしてもらいたい勤務医は私だけではないだろう.
『金沢大教授が病院科長就任 東京医大の心臓外科刷新

 心臓手術の名医として知られる金沢大医学部の渡辺剛(わたなべ・ごう)教授が、心臓手術で患者4人が死亡した東京医大の兼任教授と、新設の心臓外科科長に就任したことが20日、分かった。

 就任は6月1日付。東京医大は「手術体制を再生させるための取り組み。9月から手術を再開させたい」としている。

 東京医大によると、渡辺教授は国内で約2000例の執刀経験があり、2003年から同大の客員教授と非常勤講師として手術も担当していた。今回は付属病院の科長に就任、同大に月2回通い、執刀の指導をする。

 心臓外科は9月に、従来の第2外科から分離して正式に発足。ほかの診療科と兼任だった麻酔医と看護師を専任にするなど安全に配慮した体制になるという。』

 本当に人材不足なのか,そうでなければイメージダウンがよほど深刻だったのか,あるいはその両方か,いずれにしても外部の名医を移入して再生を計らなければならない事態ということだろう.

 これで患者が戻ってくればいいが,心臓外科は術後管理が非常に大切なはず.手術が終わって教授が帰った後が一番危険なような気がするのは私だけだろうか.

夏の一日

2005年7月15日 私の写真集
夏の一日
天気も回復していよいよ夏だが仕事は疲れることばかり.
どれも解決へ向けてひとつずつやっていくしかないのだが,それだけで夏が終わってしまいそう.夏休みを全部消化できるかどうかが目下の心配になってしまった.
ゆっくり休みたいのでどうか今夜は写真でご勘弁を...
『--障害者の費用負担1割に 自立支援法案を可決 衆院厚生労働委員会--

 障害者への福祉サービスを一元化し、同時に障害者に費用の1割負担を求める障害者自立支援法案が13日、衆院厚生労働委員会で自民、公明両党の賛成多数で可決された。週内にも開かれる衆院本会議で可決、参院に送付される。参院の審議が順調に進めば今国会で成立する見通し。来年1月から順次施行される。

 負担増との批判を受けた与党が一部修正し、精神障害者通院費の1割負担への引き上げ(現行は5%負担)などの実施時期は、今年10月から来年1月に延期された。

 同法案は、これまで身体、知的、精神の障害種別ごとに分かれていたサービス体系を一元化。市町村が運営する在宅サービスに対する国の財政負担を義務化し財政の安定を図る。また、障害者に原則1割、最高で月額4万200円を上限とする自己負担を求め、施設・通所サービスでの食費、光熱水費は実費負担とする。低所得者については負担軽減策をとる。

 一元化で、現在は福祉サービスの対象外となっている精神障害者も在宅サービスの対象となる。一方、公費補助を受けていた人工透析患者など現在の「更生医療」対象者、障害児など「育成医療」対象者の医療費が来年1月から1割に引き上げられる。

 自己負担分を障害者本人が払えない場合は、配偶者や親、きょうだい、子どもなど同一世帯の家族が負担。ただ、配偶者以外は(1)障害者を扶養することによる所得控除を受けていない(2)障害者を家族の公的医療保険の被扶養者としていない?場合などには負担を免除する。

 同法案はまた、市町村や都道府県に対して障害者福祉計画を策定することを義務付けている。通所施設の規制を緩和し、社会福祉法人に加え特定非営利活動法人(NPO法人)の参入も認める。

 障害者が一般就労に移行するための支援事業も創設。付則に、障害者の所得保障を検討することが盛り込まれた。』

 障害者に費用の1割負担を求めることのどこが自立支援なのだろうか,最近の制度はまず負担増ありきで,その後に食費、光熱水費は実費負担と続き,最期に支援だの低所得者の負担軽減と続くのが決まりのようだ.支援事業が軌道にのってから負担増をお願いするのが筋ではないだろうか.順序がちがうと感じるのは私だけだろうか.

 現在は福祉サービスの対象外となっている精神障害者も在宅サービスの対象となるというのもいいように聞こえるが,市町村が運営する在宅サービスが今後も地域住民の負担増なしに可能という試算は聞いたことが無い.これなどは国がまったくやってこなかった精神障害者福祉をこの機に地方に負担させただけだろう.

 今後は弱小な地方自治体は在宅サービスの負担増で破綻する可能性があるがこれを国の財政負担を義務化し財政の安定を図ることで本当にふせげるのかどうか疑問である.東京都のような大都市部では可能かもしれないが,過疎地域ではサービスの低下は避けられないと思われる.

 医師の引き上げで医療格差が拡大するだけでなく在宅サービスの格差も生じるのであれば過疎地域は福祉政策のしわ寄せをまともに受けることになるのだろう.財政破綻のつけは国民に確実にはね返っているように感じる.障害者も例外ではないということでいいのだろうか.

懲りない中国

2005年7月13日 その他
『--論文発表は「機密漏えい」 中国、鳥インフルエンザで--

 中国南部の家禽(かきん)を発端にした鳥インフルエンザ(H5N1型)感染拡大の可能性を指摘する論文を英科学誌に発表した香港大の研究者が発表後、中国農業省から論文は「国家機密漏えい」に当たるとする通知を受けていたことが分かった。12日付香港紙、香港経済日報が伝えた。

 通知は論文の内容を否定した上で「法的責任を問う可能性もある」と研究者に警告したという。中国では5月末、当局の許可なくウイルスのサンプルを収集・分析したり、感染情報を公表することを禁じる新条例が施行された。研究者への通知は同条例などが根拠とみられるが、感染情報の迅速な開示が阻害されるとの懸念が高まりそうだ。

 研究者らは7日付英科学誌ネイチャー(電子版)に論文を発表。中国青海省で死んだ渡り鳥から検出したウイルスは中国南部の家禽から伝わったとみられるとし、感染が今後南アジアや欧州に広がる可能性を指摘した。

 中国では2003年に新型肺炎(SARS)感染が広がった当初、当局が「感染隠し」をしていると国内外から批判された。』

 SARSの時に対応のまずさから保健医療レベルの低さを図らずも露呈した中国であったが,あくまでも臭いものには蓋をするような情報操作で「感染隠し」をすれば悪い噂を防げるとでも思っているのだろうか.こんなことをしたところで鳥インフルエンザ(H5N1型)の感染が拡大すればまたもやその保険医療政策のまずさを公表するようなものである.

 うまく隠したつもりでもいずれはバレるのが世の常であると私は思うし,自分だけがうまいことをやっているつもりでもいつかは足元をすくわれるものである.そうでなくとも人生には限りがあるのである.死んだ後にバレたのでは永久に名誉回復は不可能であろう.やはり嘘をついたり人を陥れるようなことをすればいずれは自分に返ってくるということを忘れずにクールに生きるというのが私の理想である.
『--医療ミスで医師ら書類送検 呼吸器外れ女性患者死亡--

 愛知県稲沢市の尾西(びさい)病院(大野恒夫(おおの・つねお)院長)で昨年10月下旬、女性患者=当時(33)=が手術中に人工呼吸器の管が外れて死亡した事故があり、稲沢署は12日、業務上過失致死の疑いで、担当した男性医師(55)=三重県桑名市=と女性看護師(33)=稲沢市=を書類送検した。

 調べでは、2人は昨年10月28日午後、女性に全身麻酔をかけて卵巣のう腫(しゅ)などの手術をした際、麻酔器の設定や女性の容体を十分に見ることを怠り、麻酔を兼ねた呼吸器の人工鼻と気管チューブが外れていたのに気付くのが遅れ、死亡させた疑い。

 医師らが女性の容体の変化に気付いたのは、人工鼻と気管チューブが外れてから約四十分後だった。異常を知らせるアラームのスイッチを入れておらず、発見が遅れたという。

 女性は低酸素で意識不明の重体となり、同年11月14日に死亡した。』

 昨年10月というから最近の話である.全国的に麻酔科医が不足しているから俗に言う術者が麻酔をかける自前麻酔での手術だったのだろうか.麻酔科医というのはある意味で高度に専門的な領域で手術のときに患者さんの全身状態を管理してくれるいわば命の守備の専門家である.野球で言えば術者が投手で麻酔科医は捕手という感じだろうか.

 術者が麻酔をかける自前手術は実は病院にとって二つのメリットがあるのだ.ひとつは人手不足で麻酔科医を確保できず大学からの出張派遣もしてもらえない場合の解決策という側面で,もうひとつは麻酔管理料という健康保険診療の報酬を麻酔科医に払わずに病院の収益にできることだろう.不思議なことに麻酔専門医や指導医という資格があってもなくても診療報酬上は差がないのである.これでは,お金のために自前で麻酔をかけることを外科医に強制する病院が現れても不思議はない.

 このニュースが事実だとすると麻酔器に附属する各種のモニターが適切に設定あるいは使用されていなかったようでもあり,自前麻酔をするにしてもあまりに管理がずさんだったように思われる.確かに自前でも麻酔は安全にかけられる外科医は多いだろうが,私の場合は麻酔を気にしながら手術をするのは術野に集中できないし,出血がひどい場合などには止血操作で精一杯でとても麻酔や全身状態まで気配りできる状態でない場合もあり得るので麻酔科医がいなければ手術する気にはなれない.

 危機管理という面から考えたら自前麻酔の患者側のメリットは皆無であることに異議のある外科医はいないであろう.だが,現実には麻酔科医は不足しているのである.大学病院では麻酔科医が足りないために自前ではないが,麻酔科医が複数の患者を同時にかけ持ちで麻酔をかけているところもあるらしい.これでも事故が起きたらきっと麻酔科医が責められるのであろうか.地方の病院では医師不足のために自前麻酔を余儀なくされ,大学ではかけ持ち麻酔をするように指示された挙句に事故が起きたらやったものの責任というのではあまりに無責任ではないだろうか.
『--ストレスで病気、原因解明 特定物質増加、徳島大--

 アトピー性皮膚炎や心臓病を起こす特定の生理活性物質がストレスにより増えることを、関山敦生(せきやま・あつお)徳島大講師(精神医学・免疫学)らが7日までに、マウス実験で突き止めた。ストレスで病気になる仕組みの一端を解明したもので、この物質はストレスに比例して増え、どのくらいストレスがあるかの指標になるのではないかという。

 関山講師はストレスのある患者は、免疫で炎症を起こす人と、免疫が弱まり風邪にかかりやすい2タイプがいることに着目。インターロイキン18(IL18)という生理活性物質が両方の作用を持つことに気付いた。

 狭い空間に入れてストレスを与えたマウスの実験で、血液中のIL18の量が増えるのを確認。ストレスでできる活性酸素がカスパーゼ1という酵素を活性化させ、IL18のもとになる物質がIL18になるのを促進していた。IL18が増えると、リウマチなどの原因となるIL6という物質が増えることも判明した。

 関山講師は「食事などで活性酸素を抑制する方法を開発すれば、ストレスによる病気を防げる可能性がある」としている。研究成果は米科学誌イミュニティに発表した。』

 ストレスで免疫反応が強くなったり,弱くなったりするのはなんとなくわかっていた.このニュースを見て興味深かったのはその両方の作用をIL-18が持っているという点だ.自己免疫の調節機構についての研究は抗ストレス薬開発に有望かもしれない.

 脳外科医に限らず仕事や日常生活でストレスを感じる人は多いだろう.ストレスを減らすにはいったいどうしたらよいのだろうか.私が最も強いストレスを感じる時はといえば難しい手術の時はもちろんだが,最近けっこうストレスなのは外来で患者さんの話を聞くときだったりする.

 いちばん困るのはこちらの話を聞かない(聞けない?)人たちだ.脳の病気とは関係なさそうなのにまったく話を聞いてくれない,あるいは聞いてるようでまったく理解していない人が意外といるのではないかということが気になるのである.最近はテレビの影響なのか自分の病名やその治療だけでなく主治医の医師像までも自分で決めてしまってから病院に来たのかと思われるような患者さんまで現れた.

 一応私は脳外科医で精神科医ではないのだが,確かに最近こういう先入観(妄想?)を持った人は増えているようである.だから目の前の現実の医師の言葉を聞くことができないのではないかと思う.自分で病名を言ったり,検査方法を医師に指示したり,処方する薬を指示したがる人が増えているような気がするのは私だけだろうか.

 ストレスと関係ない話になってしまったが,外来でこういう患者さんに当たってしまった後のストレス解消法はズバリ『忘れる』ことぐらいしかないのだろうか.手術時のストレスは大抵コントロールできるようになったのだが,こればかりは相手が相手だけになんともストレスが溜まる原因になりやすく始末が悪いのである.飲むだけでストレスがなくなる薬なんていうのがあったらさぞかし成人病予防に有用だろう.

今日は雨

2005年7月10日 私の写真集
今日は雨
 九州では梅雨前線の停滞で雨による犠牲者が出ているようだ.「人間には自分にこれから起こることを知る能力は与えられていない.」とはトルストイの『人はなんで生きるか』の天から落ちてきた天使の言葉だが,病死ならまだしも災害死とはあまりに悲惨である.

脳死??

2005年7月8日 その他
『--がんで脳死の米女性出産へ 時間との闘いに支援広がる--
 
 妊娠早期に脳腫瘍(しゅよう)のため脳死と診断された米バージニア州の女性(26)とその家族に、米内外で支援の動きが広がっている。赤ちゃんを出産させようと夫らは人工呼吸器装着の継続を決断したが、がんは既に肺などに転移しており、子宮に広がる前に胎児が十分に発育できるか「時間との闘い」になっているためだ。

 女児とみられる胎児は今のところ元気な様子で、医師団は今月中旬にも人工的に出産させる計画。米メディアの報道で苦渋の選択を知った内外の人々からは、これまでに計30万ドル(約3400万円)の寄付が家族に寄せられたという。

 支援団体や報道によると、女性はワクチン研究者のスーザン・トレスさん。妊娠17週だった5月7日に自宅で突然倒れ、呼吸が停止。当惑する夫ジェーソンさんと2歳の長男に告げられた診断は、極めて悪性度の高いがんの一種メラノーマが脳に広がり、脳死になった-だった。

 脳死が「人の死」と広く認められている米国だが、ジェーソンさんは「妻ならそう望むはず」と妊娠継続を決意。病院は赤ちゃんが母体外で生きられるほどに育つまでを目標に、スーザンさんに集中治療室(ICU)でのケアを続けている。

 米国では、今のところ倫理面の論争には発展していないが、赤ちゃんががんにかかった場合、治療が極めて難しいことを懸念する専門家もいる。』

 これが日本での脳死の診断基準と同じ「脳死」だとしたら極めて珍しいケースということになるがおそらくそうではないのだろう.脳死と診断された成人が一週間以上生存することは極めてまれである.

 こういうニュースは脳死に対する誤解を与えかねないのでなんらかの解説が必要だと思うが,マスコミとはこんなものだろう.報道したことで悪影響があっても責任はとらず,今度はその悪影響を報道のネタにするだけであるからなんともお気楽な商売である.それでもマスコミ関係者は偉いらしく政治家,医療関係者,教師,とならんで入院しても態度の悪い患者の代表でもある.

 それはさておき脳死かどうかは別としてこの胎児にはなんとか無事に生まれてきてもらいたいものだ.人間の生命力みたいなものを感じられるのが産科のいいところだと思うのだが,最近は医療事故を恐れてか不妊症に熱中する医師ばかりが増えているようでなんとなく不自然で不気味な感じがするのは私だけだろうか.

 脳死後の生存期間についてさらなる興味のあるかたは以下を参照してみてはどうでしょうか.

http://www6.plala.or.jp/brainx/chronic_brain_death.htm

年齢制限?

2005年7月8日 その他
『--55歳で医師の道は駄目? 群馬大に入学許可求め提訴--

 群馬大学医学部を受験した東京都目黒区の女性(55)が7日までに「年齢を理由に不合格とされたのは不当」として、大学側に入学許可を求める訴訟を前橋地裁に起こした。

 訴状によると、女性は2月の学力検査を受験。不合格となったため情報開示を求めると、得点が合格者の平均点を10.3点上回っていたことが判明した。面接の情報は明らかにされなかった。

 女性が入試担当者に電話で説明を求めて「卒業時の年齢を考えると問題がある」との非公式の説明を受けたという。

 女性は「年齢を理由に不合格とするのは失当で、合否判定権の乱用があった」と主張。群馬大は「検討中のため、現段階ではコメントできない」としている。』

 得点が合格者の平均点を10.3点上回っていたということは面接で落とされたということになるのであろう.電話で説明を求めて入試担当者に「卒業時の年齢を考えると問題がある」との非公式の説明を受けたとあるが,裁判になれば不合格になった理由を大学側は明らかにせねばならないだろう.個人の能力の差は合否の基準になるだろうが年齢は該当しないだろう.

 このニュースは最初は無視していたのであるが,これに関する医師の反応が様々で非常に面白かった.不合格を是とする側の意見は1.55歳での入学は一人前の医師になるには遅すぎる.2.だから税金の無駄使い.3.若い人にチャンスを与えるべき.というのが多く.大学の対応に疑問の声としては1.年齢で制限するなら願書に明記すべき.2.学問の自由だから年齢は関係ない.というものだった.

 私は55歳の医学生はいてもいいと思うのである.一人前の医師になれる可能性は低いとは思うが,それは本人の考える問題である.入学はひとつのチャンスではあるが,医師国家試験の前にも後にもいろんな関門がまだある.すべてをクリアして初めて一人前の医師だと思う.自分を省みると脳外科専門医になってから大分経った今でも不十分な点を患者さんから学ぶことは多い.臨床医というのは人との関係で成り立つものだからゴールはない.医学も進歩する.だからいつまでやっても道なかばということだろう.

 人生にはかぎりがあるから55歳で始めたら道の残りはすでに半分くらいしかないのかも知れない.裁判で合格し国家試験にも合格したとしたら,その短い時間をどのように有効に使うのか(使えるのか?)に興味があるのは私だけだろうか.

 

もう夏か

2005年7月6日 私の写真集
もう夏か
ほぼ赤道上空あたりだったろうか.眼下にまばらに島影が見えた.ここらあたりは一年中夏なんだろうな.
私にももうすぐ短い夏が来る.短くて暑い夏.
だが,今年も海には行けそうも無い.
大好きなビールでも飲んで涼むしかない.
『--手術ミスで女性が意識不明 杏林大病院、警視庁が捜査--

 杏林(きょうりん)大病院(東京都三鷹市)で6月、脳血管手術を受けた東京都内の70代の女性患者が、手術後にくも膜下出血で意識不明になっていることが6日、分かった。病院側は「手術中のカテーテルの操作ミスで血管を傷つけた可能性がある」と家族らに謝罪し、警視庁三鷹署に届けた。同署は業務上過失傷害容疑で捜査を始めた。

 病院は外部の専門医を含む調査委員会を設け、原因の究明を進めており、石井良章(いしい・よしあき)病院長は「結果を重く受け止め、再発防止に努めたい」としている。

 病院側によると、女性は4月から歩行障害やめまいの症状があり6月20日、脳浮腫などで同病院に入院。脳硬膜の静脈に異常が見つかり、6月30日に閉塞(へいそく)した血管を再開通する手術を受けた。

 手術は午前9時40分ごろに始まったが、女性が吐き気などを訴えたため約3時間で中止。女性は同日午後4時20分ごろ、くも膜下出血で昏睡(こんすい)状態となり呼吸も停止、集中治療室(ICU)で意識不明の状態が続いている。

 手術は50代の助教授、40代の非常勤講師、30代の助手の3人が担当。当初は助手がカテーテルを操作したが、操作が困難になるなどして途中で助教授に交代した。3人とも手術の経験は豊富という。』

 脳血管内手術中のくも膜下出血はたしかに医療事故なのかもしれないが,脳外科医からみれば治療によって起こりうる合併症のひとつであり再発防止にとりくんでもこれを0にすることは今の器具と手技ではおそらく不可能と思われる.そして出血すればほとんどの場合は致命的であるというのが現状だろう.それゆえ脳外科医の私としては直達手術が安全に行えるものまで血管内手術をするのには賛成できない.というかたとえ頭にキズが残っても血管内手術で偶発的に死ぬのだけはお断りである.

 専門医とは十分なトレーニングを受けて血管内治療学会の認定を受けた医師であるが,だからといってすべての合併症を避けれるわけではないということを患者や家族も理解しておく必要があるだろう.そもそも手術を行わずに造影剤を使って脳の血管の検査をする脳血管撮影だけでさえ合併症のリスクは1%程度はあるといわれており,最近では治療に不必要な血管撮影は避ける傾向にあるぐらいなのである.

 とはいえ血管内手術は直達手術より生体侵襲が少ないため高齢者の場合や,直達手術のリスクが非常に高い場合,あるいは塞栓術のように血管内からしか行い得ない場合には第一選択となる治療法であることも事実である.むしろ問題はリスクを犯しても手術をする必要があったのかとか,患者側にこういったリスクが十分に説明されて納得されていたのかということだろう.

 そもそもこういった事故はミスだったのか不可避なものだったのかも術者しかわからない場合もあり結果だけで判断されるのには問題があるだろう.最近の傾向として死亡事故になると専門医であっても業務上過失致死に問われたりするので血管内治療をやる医師のストレスはかなりのものだろうと思われる.

 予期し得ない,あるいは予防し得ないトラブルは臨床には付き物であり,これは初心者のミスとはちがって症例をたくさんやっていればいつかは経験する可能性のあるものである.外科医をやっていてよく思うことは「運も実力のうち」ということである.これから医師になろうと思う人は日頃から運を味方につける生活態度を心がけたほうがいいだろう.悪運が強い人は気にならないかもしれないが,気の小さい私などは最近では運に見放されないように清く正しい生活を心がけている次第なのである.

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