『当直が明け、そのまま日直に入ってすぐのことだった。アルバイト先の千葉県内の病院。救急車で来る急患が心肺停止状態と聞き、怖さが先に立つ。病院にいる医師は、研修医の自分一人。心臓マッサージや人工呼吸の手順を何度も頭に描き、気持ちを落ち着かせた。
 ▽責任
 「蘇生(そせい)したからよかった。何かあったら問題になったかも」。東京都内の大学病院で研修中の山中憲一さん(27)=仮名=は最近の体験をこう振り返る。
 事故と隣り合わせの研修医のアルバイトは、医療現場で続いてきた悪慣行だ。研修先のわずかな手当では生活できない大学病院などの研修医が、人手不足のほかの病院で当直や日直をこなす。
 「外傷の縫合はできるけれど、骨折や脱臼の処置は無理」。山中さんはアルバイト先の看護師に対応可能な範囲を伝えておく。「それでも自分の能力を超えた急患が飛び込む。責任を持てない研修医のアルバイトはなくすべきだ」と話した。
 ▽過労
 山中さんが大学病院に着くのは午前八時すぎ。症例検討会議が始まり、約二時間続く。その後は入院患者の診療に回りながら急患の対応に追われる。注射や検査結果の整理などにも忙殺され、自宅で寝るのは数時間。当直が月十二回もあり、連続勤務が四十時間を超えることも珍しくない。
 「このままでは過労死してしまう」。大阪の社会保険労務士、森大量(もり・ひろのり)さん(62)の下には、同じような過酷勤務を強いられている研修医や心配した親から切羽詰まった相談が頻繁に寄せられる。
 森さんは一九九八年、関西医大病院の研修医だった長男大仁(ひろひと)さん=当時(26)=を過労による急性心筋梗塞(こうそく)で亡くした。同大に損害賠償を求めた訴訟で大阪地裁は二〇〇二年、研修医を「労働者」と認め賠償を命じた(大学控訴)。 森さんは今、研修医の相談には「まじめな人ほど追い込まれてしまう。我慢せず自分の体は自分で守って」と訴える。
 労働基準法を分かりやすく説明したパンフレットを作り、講演のため各地を飛び回る日々だ。「研修医の過酷勤務を改めようという機運がやっと見えてきた。だが、その負担が大学院生らほかの若手医師にいかないか心配だ」』

厚生労働省は4月以降、雇用契約で明確にアルバイト診療を禁止しなければ、補助金の一部を交付しないので実質的に研修医はアルバイト禁止になった.これはいいことかもしれない.そして,大学院生のアルバイトも名義貸し事件以降は自粛傾向となり大学院生に教員の臨床の仕事を手伝わせて給料を払う大学病院まで出てくる始末だ.

私の大学院時代のように当直を肩代わりして当直料を教員がピンはねすることが公然と行われていた時代よりは大分ましになったような気がする.だが,よく考えれば大学院生にとっては博士号の方が給料より重要なわけでわずかばかりの報酬は労働基準法対策という気もしないでもない.

要は名義貸し騒ぎに便乗して研修医制度による労働力不足を大学院生で少しでも補うための囲い込みなのだろう.それでも大学病院は人手が足りないので医師の『引きはがし』をやらねば生き残りが難しい時代になったようだ.

事故と隣り合わせの研修医のアルバイトは、医療現場で続いてきた悪慣行だそうだが,彼らが行かなければほかの病院はなりたたないのが現実だ.夜間救急に研修医が行かなければならないような病院はもう夜間救急はやめるべきだろう.責任が持てない以上救急患者の受け入れはするべきではない.その結果,救急車が受け入れ先を求めて迷走することになってもしょうがないと思えるならこんな悪慣行は即刻やめるべきである.

過労なのは研修医だけではない.大抵の基幹病院では医師は夜9時くらいまでは働き朝8時30分には出勤というのが多いだろう.そして当直が月に数回である.外部から当直がこなければ当直は確実に増える.毎日8時間労働で当直は月1回までで時間外手当も労働に見合っただけ出る病院なんてたぶん存在しないだろう.

現在の健康保険診療が続く限りこの『安くてサービスの悪い』日本の医療は改善されることはないだろう.なぜなら健康保険はコスト配分の適正化を妨げることによってコストの割りに質のいい医療を提供することを目的としているからである.つまり,病院としてはちゃんとコストをかければもっと質のよい医療を提供することもできるのだが,これ以上お金をかけたくない厚生労働省がその場しのぎで診療報酬を削減し続け適正なコスト配分を病院側ができない環境をつくりあげてきたということだ.

その結果が顕在化したのが医療事故,名義貸しという問題である.研修医制度はひとつの解決策なのかもしれないが,これにより事態がさらに悪化する可能性が高い.なぜなら,今のところ研修医制度は医療費の削減に寄与すると考えられるからである.これはさらなるサービスの低下を招くと思われるのだが,いずれまた考えてみよう.
『 愛媛県新居浜市の新居浜協立病院(山岡伸三院長)の34歳と25歳の女性看護師が昨年11月、入院していた市内の男性患者(当時78歳)に対し、胃へ入れるチューブを過って肺に挿入、肺炎で死亡させたとして、新居浜署は18日、2人を業務上過失致死容疑で書類送検した。 調べによると、2人は昨年11月8日朝、脳卒中の後遺症で寝たきり状態となった男性患者に栄養剤を鼻からチューブで胃に送っていたが、午前7時ごろ、チューブが抜けたのに気付いて入れ直す際、過って肺に注入し、同日午後4時10分ごろに死亡させた疑い。 同病院によると、同日午前10時ごろ、男性の容体が急変したことから、誤注入が分かり、応急措置をとったという。 同病院はミスを認めており、倉田均事務長は「書類送検されたことを厳粛に受け止めている。今後の対応については院長らと協議して決めたい」と話した。 』

以上は昔から行われている胃管による経管栄養の際のチューブを食道から胃ではなく気管から肺へ誤挿入するというよくあることを見落とした事故である.最近ではPEGといわれる簡単な手術で胃漏増設が行われているが,以下はその際の事故である.

『愛媛県立中央病院(松山市)で今月十八日、同県北条市の八十歳の男性患者の胃に栄養剤を送るチューブを入れるため穴を開ける内視鏡手術を実施中、誤って大動脈を傷つけ、男性を失血死させていたことが二十二日、分かった。松山東署は業務上過失致死の疑いで調べている。 同病院によると、手術は五十代と二十代の二人の男性医師が担当。二十代の医師が内視鏡手術を行った。手術終了後、男性の血圧と呼吸が低下。検査で体内での出血が疑われたため、輸血や点滴をした後、止血のため開腹手術に踏み切ったが回復せず死亡したという。 同病院は十九日、松山東署に届け出た。男性はくも膜下出血で別の病院に入院していたが、脳こうそくや肺炎などを併発し三月四日、中央病院に転院したという。 同病院の藤井靖久(ふじい・やすひさ)院長は「遺族に対し心よりおわびする。警察の捜査を待ち、誠意を持って対応したい」と話している。』

PEGによる胃漏増設で上記のような事故は私も初めて聞いたが,腸管を貫通して胃に入ってしまった例を聞いたこともあるし,管の交換の際に胃に入らずに腹腔内に栄養を注入して腹膜炎になり患者が死亡して業務上過失致死で訴えられたニュースも昨年読んだ.

経管栄養は胃管にしても胃漏にしても嚥下障害や意識障害のために経口摂取できない患者さんには生きていくためにどうしても必要なものであるから避けて通ることはできない.だから医師も看護師も避けては通れない.私はPEGのほうが交換の頻度が低く呼吸器感染や食道潰瘍などのリスクが低いので一度できてしまえば安全性が高いと思っている.

だが,PEGにも造設時や交換時のこのような事故のことを考えると患者のリスクの軽減と引き換えに自分がリスクを負うというような側面があり,事故に対してあまりに責任を追及するような姿勢で処理されることはPEGの普及を妨げる要因になると危惧している.

意識の清明な患者であれば体の異常をすぐに訴えるのでわかるのだが,意識障害などの患者は異常を訴えたりできないから,知らないうちに重症化するということもある.こういうことは現場の医師しかわからないだろう.

結果が悪いとミスと考える気持ちもわかるが,胃管挿入やPEGの穿刺などは実際にやっていることを直視下で見ることはできないブラインド操作の部分があるので,100%の結果を期待することは無理なのである.内視鏡や血管内手術も似たようなものだ.だから人間である医師がやる以上ミスは起こりうるということを患者さんや家族が理解できないのであれば,いずれこれらの手技を行うものはいなくなるであろう.

経管栄養を行わなければ患者さんは餓死する.中心静脈栄養も同様のリスクがあるから代用にはならない.これからは,家族に事故のリスクも説明して同意してもらうしかないのであろう.患者のリスクを本人や家族が負ってくれるのでなければ医師は診療を拒否するしかなくなるだろう.
『全国の大規模病院の中で、同じ施設で同じようなミスが繰り返されているケースが相次いでいることが12日、総務省の医療事故に関する行政評価・監視結果で分かった。同省は、安全対策が不十分だとして、全国すべての医療施設に事故を報告させる制度の導入や、事故防止策を検討するため全施設に設置が義務付けられている安全管理委員会を活性化させることを厚生労働、文部科学両省に勧告した。
 頻発する医療事故を受け、総務省が初めて調査・勧告した。全国の医療施設の中から、公立や民間の病院も含め計217施設を任意抽出し、01年1月から02年7月までの約1年半の事故について調査した。
 それによると、手術器具やガーゼを誤って体内に残したり、点滴投与の対象患者を間違うなど、同じ施設で同じ種類のミスを繰り返しているケースが17施設で計91例あった。死亡したり、重度障害を負う例はなかったが、同省は「一歩間違えば深刻な事態に陥る」として、安全対策の徹底を要請した。
 また、安全管理委員会は3施設で設置されていなかったほか、大学病院・国立病院の計4施設で一度も開催されていないなど、活動実績が乏しいことも判明した。
 厚労省は04年度から、大学病院や国立病院などの大規模施設に限定して事故報告制度を始めるが、総務省は「再発防止のためには全施設からの報告が必要」としている。』

『東京慈恵会医大青戸病院(東京都葛飾区)の腹腔(ふくくう)鏡手術ミスによる患者死亡事故で、日本泌尿器科学会(会員数約7400人)は12日、厚生労働省で記者会見し、事故情報を集約し、教訓として生かすための報告制度であるサーベイランス・システムの整備などを柱とする再発防止策を発表した。
 青戸病院の医療ミスは、主治医ら3人の医師が2002年11月、腹腔鏡を使った男性患者への前立腺がん摘出手術を誤り、1カ月後に死亡させた事故。
 学会は医師3人の逮捕後、特別委員会を設け、事故の医学的検証や再発防止策を検討していた。』

政府も学会も報告制度をつくるというが,これはまず事故発生の実態把握というのが第一の目的だろう.実際,病院の事故防止委員会というものも事故の発生の事実と原因,対処についての報告書の提出がなされ事故の実態の把握がなされている.現在これさえもない病院あるいはあっても活動実績がないというのはお話にならないが,事故防止委員会でこういった報告書で事故を分析しても同じ事故が何回も起きているというのが現実である.

事故で一番多いのは点滴や処方のミスで処方の書き間違い,患者の取り違えといった初歩的かつ人為的ミスである.これが不思議となくならない.次いで多いのが転倒・転落といった患者管理のミスである.これには人手不足といった問題も関係するのだが,気をつけてはいてもこれもゼロにはならない.

手術手技のミスなどは通常は考えられない事態が起きないと本当にミスとなるようなことはないはずなのだが,ニュースを見ていると確かに起きているようだ.だが,これはやはり術者に負うところが大きいと思われるので報告していくとリピーター医師の存在が明らかになることが期待できるのでいいかもしれない.

私が知っている範囲でもミスとは言えないまでも技術に問題がある術者はけっこういるような気がする.だが,報告をいくら重ねても結局事故がなくなることはないだろうし,事故と手術で回避できない緊急事態との境界はあいまいなので,結果だけを報告すればいいというものでもないだろう.

さらに問題なのは総務省や厚生労働省が医療現場についてちゃんと理解しているかも相当に疑わしいので報告すること自体が医師への責任転嫁に終わることも予想される.こうなってくると医師側は治療しないことが最善の方法になりかねない.それは,手術の適応が患者さんの治療のメリットとデメリットではなく医師側の危機管理上のメリットとデメリットで決まるようになることを意味しているのである.

正直言ってリスクの高い手術の多い脳外科医としてはやりにくい時代になったと思う.

事故?

2004年3月8日 医療の問題
『 新潟県五泉市の北日本脳神経外科病院で入院中の女性患者(54)の容体が急変、死亡したことについて佐藤光弥(さとう・みつや)院長は五日、記者会見し「人工呼吸器をいったん止めた看護師が、その後作動させたかどうか覚えていないと話している」と明らかにした。
 院長によると、三日午後十一時十五分ごろ、女性看護師(54)が女性のタンを吸引するため人工呼吸器を一時停止させた。
約四十分後、女性が呼吸していないことに別の看護師が気付いた。心拍は一時再開したが、四日午後零時四十五分ごろ死亡した。女性には容体を監視するモニターがあり、異常時には警報が鳴るシステムだったが、作動したかどうか不明という。
 佐藤院長は「四十分間人工呼吸器が止まっていたのが、直接の死因になったと考えられる」と説明。「同じことが起きないように態勢を見直したい」と話した。五泉署は、人工呼吸器の扱いにミスがあったとして、業務上過失致死の疑いで調べている。』

人工呼吸器が接続されている患者さんの喀痰吸引の際に気管チューブと呼吸器回路の接続をはずすことはあっても呼吸器を停止することは通常はありえない.この記事は本当なんだろうか.

モニターによる監視も最近では血圧,心電図,酸素飽和度モニターくらいはどこの病院でも行っているはずである.ちゃんと設定されていればアラームが鳴らないわけはない.

この記事が事実ならあまりに奇異な事故である.これを人工呼吸器の操作ミスでかたづけていいのだろうか.

情報があまりに少なくて判断のしようがないが,事故としては不自然な経過なので関係者には慎重に原因を究明してもらいたい.

ところで鳥インフルエンザ騒動で初めて国内での人間の犠牲者が出たようだ.ご存知のようにインフルエンザの感染で死亡したわけではない.危機管理のできない無責任な行政,人に感染したわけでもないのに危機感をあおる報道,あいかわらず何も知らずに騒ぐ消費者,そして現実から逃避する犠牲者.いつもながらの病んだ日本社会の現実がここにある.合掌
『 脳卒中の疑いで入院した長嶋茂雄・アテネ五輪野球日本代表監督(68)(読売巨人軍終身名誉監督)について、東京女子医大病院(東京都新宿区)の主治医が5日正午過ぎに記者会見、「意識は保たれているし、話にも応じている。しかし、左大脳に脳梗塞(こうそく)の症状があり、右半身に軽いマヒがある」「中程度の脳梗塞で、軽いとは言えないが、命に危険を生じる状況ではない」などと病状を説明した。
 会見に出席した同病院脳神経センター神経内科の内山真一郎教授によると、長嶋監督は4日午前に体調不良を訴え、同病院の関連病院で診察を受けた後、同センターに搬送された。コンピューター断層撮影法(CT)などで詳しい検査を行った結果、左大脳に脳梗塞が見つかった。心臓の左心房に血栓ができ、血管を通じ脳に達した脳塞栓症と診断された。
外科的手術の必要はなく、内科的薬物療法で治療する。8月のアテネ五輪で監督を務めることに関し、内山教授は「現時点では病状が不安定で長期的な展望は話せない」と明言を避けたが、「(今後)1、2週間経過を見れば、予測的なことが言えると思う」と、見通しを示した。』

内山真一郎教授は脳神経内科の権威で学会でも脳卒中の治療に積極的かつ大きな影響力をもつオピニオンリーダー的人物である.脳外科医からみるとどちらかというと外科的治療の特殊性を極端に排除する傾向があってあまり好きなタイプではない.だが,診断能力は確かだと思うのでこの記事が正しければ,長嶋監督の病名は心原性塞栓症という脳梗塞の中でも重症化しやすい大変な病気ということになる.

画像を見ていないのでなんともいえないが,左大脳半球ということであれば,右半身の麻痺だけでなく場合によっては失語症などの高次機能障害を生じる可能性もあって予断を許さない状態であろう.治療および再発予防にはワルファリンの投与がガイドラインではグレードAで推奨されている.この薬物は安定して使用するために血液凝固検査が必須であるから,これが投与されているだけで長期の海外渡航には不利である.また,順調にコントロールされても再発のリスクは他の脳梗塞に比べると高い.

順調に回復されることを期待しているが,やっぱり大事をとればアテネ五輪の監督をお願いするのには無理があるだろう.残念だが仕方がない.

長嶋監督の話ではないが,非弁膜症性といわれる心房細動などの不整脈によるものが近年増加していることが以前から指摘されており,不整脈の原因として仕事のストレスなども指摘されている.日頃からストレスが多く,時々動悸や胸部の不快感がある人は一度循環器内科で相談してみたほうがいいだろう.
『 坂口厚生労働相は3日の衆院予算委員会で、年金保険料を使って建設された年金福祉施設265施設のうち256施設が赤字となっていることについて、「過去の問題については、第三者機関を設けて検証したい」と述べ、第三者機関を設置して経営責任などを究明していく考えを示した。  また、厚労相はこれまで徴収してきた厚生年金と国民年金の保険料総額は約370兆円で、このうち約5兆6000億円が年金の給付以外に使われたことを明らかにした。  一方、年金資金の運用が年金財政に損失を与えている問題について、参考人として出席した年金資金運用基金の近藤純五郎理事長は「深刻に受け止め、責任は感じている。中長期的に効率的な運用を行っていくことで責任を果たしたい」と述べた。同基金の累積損失は2003年9月時点で約3兆6000億円。』
『厚生労働省などに3日、坂口厚労相の前日の「モウ、ケッコウ」発言に抗議電話やメールが相次いだ。発言は、閣議後の記者会見で鳥インフルエンザに関する記者団の質問に対し「さまざまな県へ出荷している場合は国が調整するシステムが必要ではないか」などと答えた後に「牛やら鶏やら、モウ、ケッコウ」と述べたもの。 国会では、年金福祉施設の赤字問題に関する厳しい追及が続いており、坂口氏としては新たな火種は抱えたくないのが本音。4日は衆院予算委で「食の安全」に関する集中質疑が開かれる予定のため、坂口氏は「誤解を与えるような軽はずみな面があった」などと陳謝する答弁予定稿を用意して審議に臨むことになった。』

医師出身という話だが,年金問題という慢性病をかかえた患者に本当の原因を話さないでいたのがばれたところへ,鳥インフルエンザが流行し外来が忙しくなって,さすがに頭に来たにちがいない.だが,元をただせば厚生労働省の生活習慣からきている病気なのだからそう簡単に改善することはないだろう.

それにしてもニュースをみても関係者そろって言い訳が多くていやになる.国民も年金問題では反応が鈍いがヒトに感染してもいないうちから大騒ぎするものだからまたかという感じでもう飽きてしまった.

まあ,それほど騒がなくてもインフルエンザなのだからそのうちこの騒ぎはおさまるはずだ.私がおさまらないのはやはり年金問題だ.年金の流用は年金福祉施設だけでなく厚生労働省のお役人の交際費や高級官舎の建設にまで及ぶらしいから庶民はまさに「お役人様恐れ入りました.」というしかないのである.これは国家による個人財産の横領に近い.税金と年金は違うはずだ.

なぜ,国民は選挙の時にこういったことを問題にできないのだろうか.政治家も高級官僚には弱いのだろうか.そういえば,公立病院では医師の待遇もひどかった.まず,医師であっても基本給は年功序列で事務と同じである.特別職で手当てが多いだけで給与のカットはまず手当てから始まる.夜間の呼び出しが多くても医師駐車場を病院の近くにすると事務から不満が出る.何を頼んでも決して今までどおりのやり方から変えようとせず新しい仕事はしない.等々あげたらきりがない.

まあ,きっとこういった事が厚生労働省でもあるにちがいない.働かざるもの食うべからず.公務員も医師のように責任の所在が明確になるようなシステムにして税金を無駄使いする高級官僚はどんどんリストラする法律でも作るところからはじめたらいいのではないだろうか.
『 長野県木曽福島町の県立木曽病院で一九九八年三月、同県南部に住む男性患者(39)に水頭症の手術をした際、脳の血管を傷つけるミスがあり、男性に高次脳機能障害が残ったとして、長野県は一日までに、男性に約七千九百万円の損害賠償金を支払う方針を決めた。県の県立病院室によると、男性は脳内の髄液が流れにくくなる水頭症の内視鏡手術を受けたが、医師が髄液の流れ道を広げる作業中に血管を傷つけ、約二十分出血した。病院は手術後、家族に対して出血の事実と言語障害などの後遺症の可能性を説明。男性は覇気がなくなるなど高次脳機能障害の症状が出たため仕事をやめ、現在は共同作業所に通っている。
 県は「術後に症状が出ており、手術との因果関係は否定できない」として、〇三年度の補正予算案に賠償金を計上した。木曽病院の宮坂斉(みやさか・ひとし)院長は「患者や家族に迷惑をかけ申し訳なく思っている」と話している。高次脳機能障害は交通事故などで脳を損傷した場合に生じる後遺症。失語症や記憶、情緒の障害など日常生活と密接にかかわる障害が発生するが、治療法は確立されていない。』

手術中の出血と高次機能障害の因果関係はこの記事からはわからないが,要するに手術によって脳組織障害を起こし後遺障害がでたということだろう.内視鏡手術は一般に低侵襲という印象があるが,最近の内視鏡手術の事故をみてもわかるように確かに外からみた手術創は小さいが組織に対する侵襲は普通の手術と変わらず出血を止めるための止血操作の際には視野が狭く操作の自由度が低いため確実性に乏しいという問題点がある.

従来,水頭症に対しては頭の中の髄液を腹腔に流す手術(脳室腹腔シャント術)が多く行われてきたが,以下のような問題点の解決法として神経内視鏡による手術が最近行われている.
1. 髄液が体の姿勢によっては流れすぎることがある。
2. 希に閉塞することがある。
3. 異物を体に残すため感染を起こすことがある。

私も小児の水頭症の患者さんの内視鏡手術に助手で入ったことがあるが,脳室腹腔シャント術にくらべ手技は煩雑で時間もかかり,脳に対する侵襲は明らかに大きいと思われた.それでも小児の場合は再発のリスクを考えても成長に伴うシャントチューブの交換や髄液の流れすぎによるトラブルを考えればメリットは大きいと理解している.

さて,問題の記事では相変わらずの--結果が悪かったので賠償金を払う--という直線的な解決で,ともすると読み流してしまいそうだが,私の感じる問題点は39歳の患者さんに神経内視鏡手術による水頭症手術を行う必然性はどこにあったのかということと,内視鏡手術のリスクの説明がどのようになされたのかということである.

たしかに生体にとってシャントシステムは異物であり器具は故障もありうるのだが,脳組織への侵襲や手術時間そして手術の難易度を考えると内視鏡手術の利点も薄れると思う.そういった内視鏡手術のデメリットや手術のリスクを術者たちがどう考え患者側にどう説明したかが一番問題であろう.私は成人男性の水頭症手術として内視鏡手術にそれほどの必然性があるとは思えない.むしろ最新の医療に対する過信はなかったかと思うのである.

治療を行うにあたってのメリット,デメリット両方を説明し患者側が了承して手術を行った場合であればある程度のリスクは患者側も負うべきであろう.もちろんその際に患者さんを自分たちのやりたい治療に誘導するような説明は厳に避けるべきであるが.
結果が悪かった時にこそ問題点をよく検討する必要があるだろう.単なる手術ミスというような解釈で終わって欲しくないのだが.
『坂口力厚生労働相は十三日、二〇〇四年度の診療報酬改定案を中央社会保険医療協議会(中医協)に諮問、原案通り答申を受けた。四月一日から実施される予定。
 不採算で診療科の閉鎖が相次いでいる小児医療を支援するため、時間外診療などの報酬を引き上げる。病名や治療の種類ごとに医療費を定額にする「包括払い制度」の対象病院を拡大、医療の効率化を目指す。
 小児医療は(1)夜間・休日を診療時間内とする病院にも時間外加算を認める(2)時間外の初診料・再診料を引き上げる(3)開業医が他の病院の夜間・休日診療をした場合を評価する要件を緩和?などで支援。新生児の入院医療の報酬も上乗せする。
 病気の種類と治療に応じて入院医療費を定額にする包括払いには、医療費抑制のほか病院の評価が容易になるとの期待があるが、「医療の質などの検証が不十分」(日本医師会)との指摘もある。
 包括払いでは、従来の診療報酬明細書(レセプト)では把握が難しかった「同一基準による各医療施設の活動の評価」ができるようになる。例えば「脳こうそく、手術あり」という診断群による各施設の入院日数や医療費などの情報が公開される。医師は、患者の症状や治療などを踏まえた上で、日数や医療費などについて他病院との違いを説明することが求められ、患者が病院を選ぶ参考になる。』

まず,小児医療を支援とあるがこの程度では小児科医は救われないように感じる.多くの小児救急の病院では日中の業務の後に交代で夜間診療をやっているのが実態だろう.2人だったら1日交代である.それも毎晩のように救急でもない患者を連れた親がやってくるのであるから私だったらとても相手をする気にはなれない.

でも中には本当に救急の子供もいるのだろうから夜間小児科の救急をやっている病院の小児科医は忍耐を強いられるわけである.診療報酬でコスト面を改善しても助かるのは病院の経営で小児科医が増えないことには小児科医は支援されたことにはならない.

包括払いには、医療費抑制のほか病院の評価が容易になるとの期待があると書かれているが,この意味が私にはよくわからない.医療費抑制効果はもともとの狙いなのだということはわかる.要するにこの病気はいくらで治せと厚生労働省が勝手に決めるのだからいくらでも抑制できるだろう.ただし,質を落とさないのが前提だと一般人は思うだろうが,はたして現実にそうなるだろうか.

私は,そんなことは現実には起こらないと思う.理由は簡単だ.病院の経営側は包括払いを採用した途端に医師に診療コストの抑制を要求しだすに決まっているからだ.その結果は当然のことながら診療の切り詰めが起こるだろう.厚生労働省はそんなことは予想していてもひたすら診療報酬の削減を行うにちがいない.

小児の夜間診療をみてもわかるように社会問題化してそうとうひどいことになるまでは包括払い制度は改善されないだろう.介護医療を介護保険に押し付け,身体障害者や精神障害者福祉も介護保険に上乗せしようと画策し,さらに包括払いで保健医療の質の低下を病院の責任に転嫁しようとする厚生労働省は無責任発言のまかり通る小泉内閣をまさに具現化している代表的政府機関と言えるだろう.

どなたが書いているのかは知らないが,時々読んでいるある小児科医の日記がある.興味のある方はどうぞ.
http://www4.diary.ne.jp/user/412474/
今夜も当直で病院にいる。医師になってからずいぶん経つが、いったい何回くらい当直したのかわからない。もっとも多かったのは大学院生だった時で1ヶ月に10日以上当直したこともあった。大学院生は無収入なのでアルバイトをしないとやっていけなかったし、大学外からの当直依頼に行く人を決める仕事もやらされたので人がいないと自分がいくはめになったりしたからだ。

専門医になる前は救急部や救急センターでの当直はいろいろな患者が来て面白かったが、それもひととおり経験し脳外科専門医になってからは内科の患者さんはすぐ内科医に依頼し、外傷も頭部外傷がなければ外科か整形外科のどちらに依頼するか決めるだけになってしまう。子供はもちろん小児科に依頼する。最近の親は自分はまったく子供を看ないくせにすぐに小児科医を呼べというような人が多いので、小児科医には悪いと思いつつもすぐに呼ぶほうが親と話す面倒がない。

現在は夜間救急患者の少ない病院なので当直は病院に泊まるだけだ。書類書きや勉強の時間ができて便利ではあるのだが退屈である。こんな当直がなぜ必要なのだか最近特に疑問を感じるようになった。救急センター以外ではもう当直医制度は廃止してもいいのではないだろうか。

外来救急患者への対応を除いた場合の当直医の必要性はなんだろうか。入院患者の急変時の対応という意味ならちゃんとした集中治療室には麻酔科医が常駐することになっている。一般病棟で危篤状態の場合には当直医ではなく主治医が残るのがいいだろう。

では、一般病室での急変時の対応と考えるかもしれないが実際にはそんなことはほとんど起こらないし、それを言うなら自宅にいてもいつ急変するかはわからないわけで応急処置は救命救急士でも看護師でもいいはずである。

当直の弊害は多い。その最たるものが無駄な医師の配置による医師の必要数の増加と病院のコストの圧迫であろう。大学病院では通常は各科当直なのでさらにたくさんの人員が必要でその結果大学院生まで働かされるわけである。地方の病院でも当直ローテーションのために大学院生にきてもらっているところも多い。

今回の名義貸し騒ぎでもっとも迷惑したのは名義貸しをしていなかったのに当直医が来なくなった地方の病院である。診療報酬はカットされ医師数が足りないとさらに収入を減らされる。その結果といえば、現場医師は少ない人手で低コストの医療を提供することを強いられ、さらに当直の回数も増えるという最悪の事態だ。

これは厚生労働省による都市と地方の医療格差の拡大の加速だと思う。そう考えるとこんな無意味な当直制度はもう廃止して夜はゆっくり休ませて欲しいのだが。こんなことを考える医師は私だけなんだろうか。
東京女子医大病院で起きた人工心肺の操作ミスによる事故がニュースになったあたりから医療事故の報道が以前にもまして多くなったような気がしていた.

今日も東京医大,京大などが医療事故として報道されている.

誤薬や中心静脈へのカニュレーションなどの事故は医師や看護師も人間である以上ある意味では避けられない事故である.

人工心肺の繰作ミスにも驚いたが,最近の東京慈恵会医大青戸病院の一件にはさらに驚いた.

これらは前述の避けられない事故とはちがう.
いつもとは違う状況で慣れない機器を使うとか一度もやったことのない手術をやるというのは人命を扱う資格がないと言われても仕方のないくらい無謀なことだと私は思う.

だから,これらの医師に責任をとらせるのは当然のことである.

だが,これらの医師に医師免許を与えたのは誰で彼らはどこで一人前の医師になったのであろうか?

これら通常の社会人からみるとひどく常識に欠ける医師のために医療への信頼がなくなるのは外科医として寂しい限りである.

もともと医師は体の悪い人や社会的な弱者のために働く人のはずで,医療は善意で行われるべきなのだが,最近の報道を見ていると私も医療不信になりそうになる.

最近はこれらの事故に対して刑事責任が追及されるようになったり,刑が確定する前に行政処分されるようになってきた.

こうなってくると医師が自己防衛の医療を行うようなこともこれから顕在化してくるにちがいない.リスクの高い治療は結果が悪ければよくても慰謝料,悪くすれば逮捕されるという危惧が医師側にあるからである.

脳神経外科の学会の会場でも最近は訴訟が増えていることが話題になっていた.
医師が自ら治療の選択枝を狭めていくことになったらそれによる患者の不利益は計り知れない.

だが,医療事故に対して厚生労働省はなんの責任あるコメントも出してはいない.いったい何を恐れているのであろうか?

国民の反発?医師会の反発?それとも健康保険料の増大?

いずれにしてもこのままではそのしわ寄せは患者やその家族,いつかは自分や自分の家族にもふりかかると思うとどうにもすっきりしないのであった.


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