エビデンスのない治療
2012年6月17日 医療の問題 コメント (5)『シチコリン、脳卒中に効果なし
文献:Dávalos A et al.Citicoline in the treatment of acute ischaemic stroke: an international, randomised, multicentre, placebo-controlled study (ICTUS trial).The Lancet, Early Online Publication, 11 June 2012.
中等-重度の急性虚血性脳卒中で入院した患者2298人を対象に、シチコリンの有効性を無作為化プラセボ対照試験で検討(ICTUS試験)。National Institutes of Health Stroke Scaleなどによる90日目の回復度は、シチコリン群とプラセボ群で同等だった(オッズ比1.03、P=0.364)。』
シチコリンはニコリン注という名前で私が脳外科医になった頃からずっと使われている薬だが,私は専門医になってからは使っていない.脳代謝賦活剤と同様に効いている実感がないので自然と使わなくなってしまった.もちろん脳卒中診療ガイドラインにも名前さえ載っていないような薬である.
だが,たとえエビデンスがなくとも昔から愛用されている薬はこれ以外にも存在するのが医療の現場である.エビデンスベースドメディシンなどという考え方など無かった時代に厚生省によって承認された薬で保険点数が低いつまり値段の安いものはそのまま残っているようなものが多いのではないだろうか.
こういう薬は言わば毒にも薬にもならないような,言ってみればプラセボ効果で効いているようなものだから再審査などされることもなく残っているのだろう.保険診療で認められているかぎり投与するかしないかは主治医の裁量によるのだから,たとえ誰か他の医師が投与しているのを見かけてもわざわざ中止したりはしない.
だが,ガイドラインでほとんど効果がないとされ投与して副作用が出た場合に予後を悪化させるとなれば私ならそんなリスクを犯す気にはならないだけに見て見ないふりをするのは難しい.それでも主治医でもないのに勝手に指示を書き換えるのも指示を出した同僚や先輩医師のことを考えると難しい.
結局のところ副作用の出現に私も注意しながら無事に回復することを祈るしかないのだが,いつも思うのは薬の副作用の怖さは経験した医師しか分からないものもあり,実際に起きてもそれがその薬によるものかどうかを示すのも難しいということだ.その結果,自分の今までの経験に頼り目の前で起きていることをあまり気にしない医師は同じ間違いを繰り返すことになる.
外科医の場合は手術などでも同様のことがあるのだが,何が悪いかを教えてあげようと思っても頑固な性格の人は聞く耳を持たないこともあり,そういうのは見ていて冷や冷やするのがストレスになるので一緒に手術に入りたくなくなるものだ.歳をとると確かに経験は増えるがだからと言って昔ながらの方法に固執するのではなく,新しい知識を積極的に取り入れて行く姿勢が大切ではないかと思う。
文献:Dávalos A et al.Citicoline in the treatment of acute ischaemic stroke: an international, randomised, multicentre, placebo-controlled study (ICTUS trial).The Lancet, Early Online Publication, 11 June 2012.
中等-重度の急性虚血性脳卒中で入院した患者2298人を対象に、シチコリンの有効性を無作為化プラセボ対照試験で検討(ICTUS試験)。National Institutes of Health Stroke Scaleなどによる90日目の回復度は、シチコリン群とプラセボ群で同等だった(オッズ比1.03、P=0.364)。』
シチコリンはニコリン注という名前で私が脳外科医になった頃からずっと使われている薬だが,私は専門医になってからは使っていない.脳代謝賦活剤と同様に効いている実感がないので自然と使わなくなってしまった.もちろん脳卒中診療ガイドラインにも名前さえ載っていないような薬である.
だが,たとえエビデンスがなくとも昔から愛用されている薬はこれ以外にも存在するのが医療の現場である.エビデンスベースドメディシンなどという考え方など無かった時代に厚生省によって承認された薬で保険点数が低いつまり値段の安いものはそのまま残っているようなものが多いのではないだろうか.
こういう薬は言わば毒にも薬にもならないような,言ってみればプラセボ効果で効いているようなものだから再審査などされることもなく残っているのだろう.保険診療で認められているかぎり投与するかしないかは主治医の裁量によるのだから,たとえ誰か他の医師が投与しているのを見かけてもわざわざ中止したりはしない.
だが,ガイドラインでほとんど効果がないとされ投与して副作用が出た場合に予後を悪化させるとなれば私ならそんなリスクを犯す気にはならないだけに見て見ないふりをするのは難しい.それでも主治医でもないのに勝手に指示を書き換えるのも指示を出した同僚や先輩医師のことを考えると難しい.
結局のところ副作用の出現に私も注意しながら無事に回復することを祈るしかないのだが,いつも思うのは薬の副作用の怖さは経験した医師しか分からないものもあり,実際に起きてもそれがその薬によるものかどうかを示すのも難しいということだ.その結果,自分の今までの経験に頼り目の前で起きていることをあまり気にしない医師は同じ間違いを繰り返すことになる.
外科医の場合は手術などでも同様のことがあるのだが,何が悪いかを教えてあげようと思っても頑固な性格の人は聞く耳を持たないこともあり,そういうのは見ていて冷や冷やするのがストレスになるので一緒に手術に入りたくなくなるものだ.歳をとると確かに経験は増えるがだからと言って昔ながらの方法に固執するのではなく,新しい知識を積極的に取り入れて行く姿勢が大切ではないかと思う。