『新型コロナウイルスは「中国から流出」と断定した、米報告書の「驚くべき内容」

圧倒的な証拠が決め手となった

米下院外交委員会の共和党スタッフが「新型コロナウイルスは、中国の武漢ウイルス研究所から誤って流出した」と断定する報告書を発表した。この結論を導いたのは、衛星画像をはじめとする「圧倒的な量の証拠」だった。いったい、武漢で何があったのか。

同委員会の共和党スタッフは、マイケル・マッコール筆頭委員の下で、これまで2回にわたって、新型コロナ問題に関する報告書を発表してきた。2020年6月15日に発表された最初の報告書については、2020年6月26日公開コラムで紹介した(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73607)。

同年9月21日には、中国共産党と世界保健機関(WHO)の責任を厳しく追及する2回目の報告書を発表した(https://gop-foreignaffairs.house.gov/blog/mccaul-releases-final-report-on-origins-of-covid-19-pandemic/)。8月1日に発表された今回の報告書は、その続編だ(https://gop-foreignaffairs.house.gov/press-release/mccaul-releases-addendum-to-origins-of-covid-19-report/)。

今回の報告書は、これまで世界で断片的に報じられたり、収集された多くの客観的な証拠や証言を丹念につなぎ合わせて「武漢ウイルス研究所からの流出」という結論に導いた。その手法は、ほとんど「第1級の調査報道」と言ってもいい。

だれかが「私が流出させました」と自白したわけではないので、厳密に言えば、状況証拠の積み重ねである。それでも、もしも公正な裁判があるなら、「有罪判決」に導くのは可能だろう。少なくとも、中国とその仲間たちが宣伝してきた当初の「海鮮卸売市場起源説」は、もはやまったく信用に値しない。

報告書の後半では「仮説」と断りながら、武漢ウイルス研究所から始まった小さな感染が、あっと言う間にパンデミック(世界的な大流行)に拡大していくプロセスが物語のように語られていく。読者は「そういうことだったのか」と多くの謎に合点がいくはずだ。

突然起こった、不可解なシャットダウン

ここでは、報告書の記述に沿って要点を紹介したい。全文は84ページ。うち本文は62ページである(https://gop-foreignaffairs.house.gov/wp-content/uploads/2021/08/ORIGINS-OF-COVID-19-REPORT.pdf)。引用したサイトは、ほとんどすべて報告書に記載されている。

問題の武漢ウイルス研究所は、新型コロナの感染が広がる前、廃棄物処理システムやお粗末な空調設備の改造に取り組んでいた(https://archive.is/bfoTD#selection-229.0-229.131)。にもかかわらず、研究所の責任者の1人で「バット・ウーマン(コウモリ女)」こと、石正麗(Shi Zhengli)氏は、本来なら「BSL-4」という高度な実験室で行うべきウイルスの遺伝子操作実験を、「BSL‐2」や「BSL-3」のような簡易な実験室で取り組んでいた。BSL-2は歯医者の診察室レベルだ。

事件が起きたのは「2019年9月12日の午前2時から午前3時にかけて」だった。武漢ウイルス研究所のデータベースが突然、オフライン化されたのである。そこには、同研究所が収集した22000以上のコウモリとネズミの病原体サンプルと、その遺伝子情報が収録されていた。

このデータベースを参照すれば、どんな病原体がいつ、どこで収集され、ウイルスがうまく分離されたかどうか、が分かる。新型コロナにつながるウイルスがあれば、それがいつ、どう発生したのか、起源を突き止める決定的な証拠になるのだ。

それまでデータベースは公開されていたが、なぜか、この日のこの時間に突然、シャットダウンされ、現在に至るまで、外部から接続できないでいる。この事実は、中国自身のデータベース管理情報によって確認されている(https://archive.is/AGtFv#selection-1553.0-1567.2)。

オフライン化された武漢ウイルス研究所のデータベース情報

だが、石氏は、複数のメディアに対して「外部からサイバー攻撃を受けた後、保全上の理由でオフライン化した」とか「パンデミックの最中に受けたサイバー攻撃のためにダウンした」などと矛盾した答えを繰り返した。言うまでもなく、2019年9月時点でパンデミックは発生していない。

研究所は、中国人民解放軍とともに、生物兵器につながる秘密の研究をしてきた一方、安全性に重大な懸念があり、米外交官は国務省に技術者の訓練不足などを懸念する電報を送っていた。報告書は以上から「2019年9月12日以前のどこかで流出が起きた」と推測している。

地道な検証作業が実を結んだ

すると、何が起きたか。

報告書は、ボストン大学やハーバード大学の研究者たちによる調査に注目した。彼らは衛星画像を基に19年9月と10月、武漢にある6つの病院のうち、5つの病院の駐車場が他の平均的な日に比べて、非常に混雑していたことを突き止めた(https://dash.harvard.edu/bitstream/handle/1/42669767/Satellite_Images_Baidu_COVID19_manuscript_DASH.pdf)。

さらに、研究者たちは中国の検索エンジンである「バイドゥ」で「咳」と「下痢」が武漢でどれほど検索されていたか、を調べた。その2語は、同じ9月と10月にピークに達していた。「新型コロナと同じ症状の病気が武漢で広がっていた」状況を示唆する有力な証拠である。

武漢の「咳」と「下痢」の検索量

衛星画像や検索エンジンを調べて、感染状況を観察するとは、素人には思いもよらない方法だ。犯罪捜査でいう「デジタル・フォレンジック(法医学)」の手法に近い「デジタル疫学」と言ってもいい。

2019年10月18日から武漢で「大イベント」が始まった。第7回軍事スポーツ世界大会(MWGs)である。これは「軍人のオリンピック」だった。世界109カ国から9308人の選手が集まり、27種類の329競技で競った。中国政府は23万6000人のボランティアを募り、90のホテルを用意した。

参加したカナダの選手は「街はロックダウン状態だった。私は到着後、12日間、熱と悪寒、吐き気、不眠に襲われ、帰国する機内では、60人のカナダ選手が機内後方に隔離された。私たちは咳や下痢などの症状が出ていた」とカナダ紙に証言している。

報告書は、この大会が「新型コロナを世界に広げた原因」とみている。競技会場も、6つの病院も、さらには大会参加後に体調不良を訴えた選手がいた場所も、すべて武漢ウイルス研究所の周辺に位置していた。

報告書は参加国のうち、イタリアとブラジル、スウェーデン、フランスの4カ国について、具体例を示しながら「2019年11月から12月にかけて、国内での感染発生を確認した」と記している。帰国した選手から感染が国内に広がったのだ。

中国による、必死の「隠蔽工作」

一方、武漢ウイルス研究所は石氏を中心にして、2013年からコロナウイルスを抽出する研究が始まっていた。6月25日公開コラムで書いたように、研究資金の一部は米国の国立衛生研究所(NIH)や国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)から、ニューヨークの非営利団体であるエコヘルス・アライアンスを通じて、武漢ウイルス研究所に流れていた(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/84497)。

報告書は「石氏とその仲間は、米国の資金とピーター・ダスザック氏(注・エコヘルス・アライアンス代表)の支援を得て、パンデミックが始まる前の2018年から19年にかけて、コロナウイルスを遺伝子的に操作し、ヒトの抗体システムに試す実験を盛んに行っていた」と記している。米国納税者の資金が中国の生物兵器研究に使われていたのである。

石氏は感染が広がり始めると、研究所の関与を隠蔽する工作に関わった。最初の試みは、2020年1月20日に科学専門誌「ネイチャー」に発表した論文である(https://www.nature.com/articles/s41586-020-2012-7)。

石氏は、論文で「雲南省の洞窟にいるキクガシラコウモリから抽出された『RaTG3』というウイルスが、新型コロナウイルスの遺伝子配列と96.2%同じであり、もっとも近い」と主張した。つまり「RaTG3こそが、新型コロナは自然由来であることを示す証拠」と指摘したのだ。

ところが、この論文が墓穴を掘ってしまう。

RaTG3について、専門家から多くの疑問が指摘され、彼女は10カ月後の20年11月17日、同じネイチャー誌で「RaTG3は、実は2012年から13年にかけて採集した『ID4991』というウイルスだった。また、完全な遺伝子配列が得られたのは、最初の論文に書いた2020年1月ではなく、2018年だった」と修正した(https://www.nature.com/articles/s41586-020-2951-z)。

彼女の主張が真実かどうか、は分からない。なぜなら、彼女は「ウイルスのサンプルはすべて使い果たした」と言っており、データベースのダウンで外部からは検証不能であるからだ。報告書は「なぜ、彼女はウイルスの名前を変えたのか」「なぜ、遺伝子配列の取得時期を偽ったのか」と疑問を投げている。

その答えは「2018年時点でID4991=RaTG3を発見していたとなれば、それに人工的な遺伝子操作を加えて、新型コロナウイルスを作っていたのではないか」という疑問が直ちに生じてしまうからだろう。報告書は、こう指摘している。

〈RaTG3と新型コロナの最大の違いはスパイク・プロテインであり、それこそ武漢ウイルス研究所が何年もの間、さまざまなコロナウイルスを改変しようとしていた部分だ。さらに、研究者たちはウイルスの名前を変え、遺伝子配列が得られた時期についても、嘘をついていた。そうした事実に照らして、新型コロナが遺伝子操作で作られたのだとすれば、ID4991=RaTG3こそが新型コロナの源(a source of genetic material)でありうる〉

もう、言い逃れできなくなった

論文の修正を迫られて以降、石氏は「支離滅裂状態」になっていく。

たとえば、2020年夏の中国国営テレビとのインタビューでは「我々のウイルス研究はすべて記録が残されており、だれでもチェックが可能だ」と語った。だが、実際には先に書いたように、データベースに外部からアクセスできない。

2021年6月のニューヨーク・タイムズとのインタビューでは「私の研究所では、ウイルスの機能を高める『機能獲得』研究をしたことがない」と語った(https://www.nytimes.com/2021/06/14/world/asia/china-covid-wuhan-lab-leak.html)。これも、いまとなっては「真っ赤な嘘」であるのは明らかだ。

詳細は省くが、報告書は、武漢ウイルス研究所で「2005年以来16年間にわたって、石氏がダスザック氏とともに行ってきたコロナウイルスに関する研究」の足跡を、論文を紹介しながら、綿密に辿っている。そこでは、少なくとも2015年以降、まさに機能獲得研究が行われていた。

同じインタビューで、石氏は2019年秋に武漢ウイルス研究所の研究者が体調を崩した件を問われて「そんな事例はなかった」と否定した。これも、7月30日公開コラムで書いたように、ウォール・ストリート・ジャーナルの報道と米国務省の報告、さらにはWHO調査団に対するオランダのウイルス学者の証言で「事実」と確認されている(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/85677)。

責任の追及は、まだまだ続く

これで、もうお分かりだろう。

新型コロナは、石氏らが雲南省の洞窟で採取したコウモリの糞などから抽出したウイルスを人工的に操作して、生み出した。その研究には米国の納税資金が使われていた。ウイルスは「2019年9月初めごろ、誤って流出したと判明した」。それが軍人オリンピックを経て、世界的なパンデミックを引き起こしたのである。以上が報告書の結論だ。

報告書は、さらに真相を究明するために、ダスザック氏を議会に召喚するよう要求した。先週7月30日公開のコラムで書いたように、ダスザック氏と連携していたNIAIDのアンソニー・ファウチ氏も共和党議員によって、司法省に犯罪照会されている。

ジョー・バイデン大統領が米情報機関に指示した「武漢ウイルス研究所からの流出説」を含めた調査報告の提出期限は、8月24日に迫っている。大統領がどんな報告を受け取るのか。ここで紹介した共和党の報告書が大きな影響を与えるのは、間違いない。』

私の考えでは、最初から中国はクロである。最初の海鮮市場から発生したと言う中国の説明が怪しかったのと、むしろウィルス研究所が非常に近いことと、研究所施設の管理の緩さが以前から指摘されてことを思えば、誰だってウィルスの漏洩事故ではないかと思うのが普通だろう。

機能獲得研究というと聞こえはいいが、ウィルスを生物兵器として使うための研究を米国からの資金でやっていたのも許しがたい。

中国共産党の常識は自由主義社会では考えられない事ばかりだ。やはり天安門事件のことを忘れてはいけなかったのだと、今さら気付いてもすでに手遅れかもしれない。習近平は中国共産党による世界制覇のためなら何だってやるに決まっているのだ。それが、彼が崇拝する毛沢東から学んだことなのだから。

日本にもまさかそこまではしないだろうという甘い期待を中国に抱いている人もいるのだろうが、そんな期待は台湾有事となって見事に裏切られるに違いないだろう。

コメント

yasai
2021年8月7日19:11

ブログ脳外科医 殿

内容 素晴らしく 克明に書いて頂き ありがとう ございます

本文の通りなのに と 思います

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