仏の耳の一回巻き上げ
写真を撮るのは小学6年生の頃からの趣味だが,恥ずかしながら最近はカメラやレンズを集めることも趣味と言わざるを得ない状況になっている.

ものの本によるとライカの正しいユーザーはカメラ一台,レンズ一本で写真を撮るそうだから,そういう意味では私はすでに正当派ユーザーではないことになるだろう.

しかし,そんな私も同じ型番のカメラは一台にするようにしている.今まで同じカメラを二台以上持ったのはNikon F3PとNikon D70だけだが,それも今は両方とも手元にない.少なくとも使う予定のないカメラは持たないことにしている.

娘が生まれてから写真を再開しずいぶん色々なカメラも買ったが,中でもライカはいつも何かの偶然で私のところにやって来る不思議なカメラだ.カメラにも人との出会いと同じような運命を私は感じてしまうのである.

昔からライカに関する本はたくさん出ていて,それらを読んでいてこんなライカを使ってみたいと思う事はある.しかし,中古カメラ屋を探し歩くなんてことはできないから大抵はそのまま何もしない.でも,ネットで中古のカメラやレンズを見ている時に偶然に見つけてしまうのだ.

M5とノクチルックスの時もそうだったし,ブラッククロームのM4なんかはクリスマスの夜だった.しかし,6年前に見たM3の時は,スペックは希望通りで買うとしたらこれだろうなとは思ったが,オークション品だったので手を出せないうちに終了してしまった.

それからもM3を見かけることはあったが,値段が高くてきれいな物はあっても希望のスペックを満たす物がなかったし,そもそも必要性をあまり感じなかったのでほとんど忘れかけていたのである.

それが特に理由もなく昨年の12月頃からM3が気になるようになり,ある写真家の本を読んでいるうちにまたM3が欲しくなったが,私の希望するスペックのM3が見つかるはずもないとあきらめていた.

私の希望はストラップアイレットが仏様の耳のように膨らんだ形で,フィルム巻き上げが一回になり距離計可動像の上下に被写界深度の指標がついたタイプだった.もちろん見かけにも大きな傷がない実用品で,さらに価格が手頃であるというのも重要なことである.

そんな都合のいいものがすぐに見つかるはずもない.しかし,ネット中古ぐらい見てないと見つかる物も見つからないと思って正月早々ネットを眺めていたら,その日登録された中古品リストの中にそのM3がポツンと一台だけあったのである.

年式から希望のものかもしれないと思い,拡大してみたら大きな傷はなさそうだが,シリアルナンバーの下四桁は判別不能だった.値段は許容範囲だったのでとりあえずカートに入れてしばらく考えた.シャッターの調子やファインダーの状態は実物でないとわからない.容姿はわかっても性格はつき合ってみなければわからないのと同じだ.

でも,この出来すぎた出会いのチャンスを逃したら次はいつ巡り合えるかわからないのだ.50年も前に作られたカメラがどういう訳か今自分に手の届くところにあるというのも何かの縁だろう.カートの商品が無効になる時間を待つまでもなく私は購入ボタンを押した.

そして,ついに私のもとにM3はやって来た.初めてなのに以前から使っていた物のように手に馴染む.シャッターの軽やかな音が響き,巻き上げはあくまでもスムーズで最後にトルクが抜けて巻き上げが終わることを知らせてくれるところはM5やM4あるいは私の最初の一眼レフであるNikon Fと同じだ.やはり私にはこのスプリングの一回巻き上げと言われるものが合っていると思う.

心配していたファインダーもきれいで気になる汚れやごみも見当たらない.あとはピントの調整がどうかだが,これは試写してみないとわからないのでさっそくDRズミクロンを着けてカラーネガを一本試写した.現像が上がってくるのが楽しみである.

中古のカメラやレンズにはそれなりにリスクがあり,時に高い授業料を払わなければならないこともあるが,気に入ったカメラでいい写真が撮れた時のことを思うとなかなか止められないのだ.

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