『イレッサ和解勧告「治験以外の副作用、検討必要だった」

 肺がん治療薬「イレッサ」訴訟の和解勧告で、東京地裁が、国に対し、個人輸入などで使った患者の副作用情報も慎重に検討して、治療が難しい肺炎の副作用が起きうると強く注意喚起すべきだったとの認識を示していることがわかった。厚生労働省内では「不確実な情報でも確認を求められ、新薬の審査期間が長くなるなどの影響が出かねない」との声が出ている。』

 先日,他の病院で治療をうけている認知症の患者さんと家族が私の外来に初診で受診した.夜間せん妄や暴言が目立ってきたということなのだが,何故か主治医からの診療情報提供書はなく在宅介護支援の職員が書いた病状説明書を持ってやって来た.

 まあ,認知症だと思っていても慢性硬膜下出血や脳梗塞ということもあり得るし,認知症の患者さんが脳卒中になっても不思議はないから頭部MRIで検査した.幸い検査の結果は脳が萎縮はあるものの脳梗塞など入院を要するような異常はなかったので薬を調整するということになった.

 この場合,通常は治療をうけている病院で内服薬を調整してもらえばいいのだが,そのように説明しても家族は納得しなかった.いや,納得しないばかりか今度アルツハイマー病治療薬の新薬が出るからそれを使ってくれないかと言い出した.使ってくれるなら病院を替わりたいと言うのだ.

 突然の話であるし,初めて診る患者さんでもある.返答に窮していると,今度は自分が出来ないなら新薬で治療してくれそうな神経内科の専門医を紹介しろと言い出した.さすがにこれはちょっとまともに相手をしてられないと思ったので,新薬を使うかどうかは現在使えるアリセプトでの経過をみるのと,新薬について自分で治療効果や副作用に関して納得してからだと話した.

 話を聞いているうちに,今回受診の目的は現在の病院の治療に満足していないのと,新薬に過大な期待を抱いているらしいということがわかったので,新薬を使うかどうかは約束できないということと,とりあえず今回問題になっている症状については薬をひとつだけ出してみるからそれで様子をみるように話した.

 家族は「それは病院として方針か,それとも先生の考えか.」と言ったので,「私の考えだ.」と言ったら「どうもありがとうございました.」と言って帰っていった.長い問答で疲れたが,病院にかかるにもマナーがあるのではないだろうか.

1.他の病院で継続的に治療を受けているなら,救命救急時でもない限り主治医に診療情報提供書を書いてもらうこと.
2.治療方針を決定するに足る情報なしに医師に治療方針を聞いても無駄.
3.病院を選択し治療を選択する自由は患者にあるが,薬を処方するかしないかは医師の裁量.
4.治療は医師と患者の信頼関係で成り立つということを患者側も忘れるべきではない.

結局のところ4.が一番大切だと思うのだが,最近はそんなことはお構いなしに自分の都合ばかり言う患者や家族が増えてきているようで恐ろしい..


コメント

ちゃめ
2011年1月14日9:08

脳外科医さん、こんにちは。

セカンドオピニオン、ということが浸透してきてから、
患者としてはどうしても、より自分を納得させてくれるお医者様に
出会えるのではないか、と、過度に期待して
病院をはしごしてしまうケースが増えているのかな、という気がします。

実は私も今、セカンドオピニオンを貰いに行こうか迷っているのですが、
考えるうちに、「それはセカンドオピニオンというよりも、
自分の中にある”こう言ってもらいたい”願望に沿う診断をしてほしい」
という気持ちの表れなだけだよな、とも思い・・・。

治療はお医者様との信頼関係で成り立つ、本当にそうだと思います。
私の主治医も、お忙しい中よく話を聞いて下さる方だと思いますが、
毎日毎日多数の患者に忙殺されるお医者様に迷惑をかけたくないと、
本当はもっと詳しく聞きたいことも飲み込んでしまったり
ちょっとした言動に敏感になってしまったりと
「より良い治療をしてほしい」気持ちと
「より良い患者でいたい」気持ちの板ばさみになったりしています。

スミぱん@国会を見よう
2011年1月14日19:40

自分に都合のいい治療をしてくれる医者が「いい医者」ということに
なるんでしょうかね。それで何かあると裁判となると、やってられませんね。

明日は精神科の診察日、話すことをまとめておかないと。(^^;)

nassie
2011年1月14日19:50

『消費者は王様』の大波が、医療分野にも押し寄せている感じですね。しかも表層的な医療情報が氾濫し、自分の願望に合わせて都合のいい情報だけを偏食的に取り入れることも多くなっている感じがします。
他方で、患者の側だけでなく、ひょっとして医師の側でも専門医志向が強く、なんでも見る、なんでも相談に応じるといういわゆる町医者、ゼネラリストも減って来て、風邪薬をもらいに高度医療施設に、というようなこともあるようですし。
この我儘な消費者が、日本の産業をここまで持って来たので、医療でもおんなじことが起こっているんでしょうが、やはり社会的に大きな無駄をしているような気がします。

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