『強制わいせつ容疑で医師逮捕=検査で女性患者に−「故意でない」と否認

 女性患者にわいせつな行為をしたとして、警視庁捜査一課と目白署は7日までに、強制わいせつの疑いで、東京都板橋区小豆沢、外科医師○○○○容疑者(53)を逮捕した。同課によると、○○容疑者は行為を認めたが、「故意ではなく、手元が狂った」として否認している。
 逮捕容疑は2004年5月28日午後、勤務していた豊島区内の病院で、大腸の内視鏡検査を受けに来た都内在住の30代女性に対し、内視鏡を使い、わいせつな行為をした疑い。
 同課によると、女性が行為に気付き、同容疑者に指摘したところ、故意を否定したという。』(実際には実名で報道されています.)

 実は私もこれをネットで「外科医を強制わいせつ容疑で逮捕 」という見出しで見かけた時は外科医にも変なのがいるなと思った程度で内容は読まなかったのだが,その後,何回も見かけるのでちょっと興味を持ったのである.

 ネットでの医師の反応は概ね内視鏡検査の偶発症としてありうる,もしくは自分も経験したという意見が多いようだが,非医師と思われる人々のネットでの意見は9割以上が「手元が狂うわけない.故意に決まっている」という調子だった.

 マスコミは警察から流された情報なのでそのまま実名報道していて構わないという判断なのかも知れないが,これが裁判で無罪になったらマスコミはどう責任を取ってくれるのだろうか.大腸の内視鏡検査なんて全国で日常的に行われているのだから,この影響は単に個人への風評被害にとどまらないということがマスコミには理解できないか,あるいはそんなことには無関心なのだろう.

 海外渡航歴がなく、新型インフルエンザ感染の可能性の低い発熱患者が、医療機関から診察を拒否されるケースが相次いでいることが問題になっているようだが,受診した患者が万が一新型インフルエンザでそれで病院がマスコミの餌食にされてしまうことが病院にとっては一番恐ろしいことではないだろうか.

 厚労省からの通達が届いたが,それを読んでも「相談センターが『疑いなし』とした患者の診療を拒否しないように」と書かれているだけで,電話で嘘の申告をした患者がコンビニ受診して病院がトラブルに巻き込まれてもどうせ何もしてくれないだろう.

 第一,新型インフルエンザでないのなら38度以下の微熱や風邪症状だけで急いで病院を受診する必要なんてないはずであるし,重症で緊急性を要する程なら感染症対策病院でもなければちゃんとした隔離もできないのである.

 話が横道にそれてしまったが,大野病院事件のおかげで産婦人科医の意識は大きく変化したし,私も少なからず手術の訴訟リスクについて考えさせられる結果になったが,患者とその家族やマスコミに対する警戒心は大きくなったことは間違いない.

 なぜ,この事件では5年も経って今年になってから警察に相談に行ったのかがよくわからないが,身に覚えがないのなら病院からコメントを出すべきだろうし,こういった偶発症について内視鏡学会ももっと一般に知ってもらうような努力をするべきではないだろうか.

 大野病院事件からも学べないマスコミにはとっくに愛想が尽きているが,いくら素人とは言え無責任なマスコミに釣られたかのように一方的に医師を非難するようなコメントを書くのはどうだろうか.事実はどうであれ,医師だって人間だということを忘れるべきではないと私は思うのだがどうだろうか.


コメント

アンポタン
2009年5月9日5:59

おはようございます。
ときどき覗かせて頂いてましたが、コメントするのは初めましてですね(^^)。

今回書かれた内容 色々考えたのですが、上手く考えがまとまらないうえ上手く書けなません。
(それならば何故に書いた?等と突っ込まないでください)
マスコミ側とは色々な媒体が含まれているのでひっくるめては言い切れないです。
ゴシップ誌からただ公表れたことを淡々と読むニュースから広すぎますので。

それとやはり私は患者側です。
医者と患者 へだてる壁は大きくて厚いのでしょうか・・・

わたしは大きな病気怪我などしてませんので深く自身が対面した事もないのですが、やはり人生長く生きると何かの場合にしてお世話になる病院です。
小さなお話を書くことが出来たらと思います。

変な初コメント申し訳ございません。

nophoto
れい
2009年5月11日16:57

こんにちは。

本件について、どちらが真実なのかは判りませんが、ネットでの医師の反応は概ね内視鏡検査の偶発症としてありうるという意見に対して、どのような場合にそんな偶発が起きるのか想像できません。内視鏡を挿入する時に「よそ見」でもしているんでしょうか?挿入時に「膣」と「肛門」を間違うような合理的な状況の想像がつかない以上は、「手元が狂うわけない。故意に決まっている。」という非医師と思われる人々のネットでの9割以上の意見に傾むくのも仕方ないように思います。

ブログ脳外科医
2009年5月11日17:20

私は内視鏡医ではないのでよくわかりませんが,患者さんの解剖学的な個体差や精神的な緊張状態により内視鏡があらぬ方向に滑り込むということが起こるらしいです.

医療事故に限らず,私の持論は「可能性として考えられることは,全て実際に起こる」ということですし,本当のリスクマネージメントというのはそういう考え方でないとできないと思います.

内視鏡検査を日常的にやっていない医師や非医師がどう思っても,問題は事故発生の確率が専門医の目から見て納得できる範囲内であるかどうかだと思います.

色々な考え方があるのでしょうが,真実もわからないうちから診療に風評被害が出るような医師の実名報道をするマスコミや,なんの医療知識もない人が勝手な思い込みからコメントして真面目に診療している医師のやる気も削いでいるような現状には憤りを感じます.

nophoto
田舎の医学生♀
2009年5月15日23:46

初めまして。
今回の事件の記事を検索しておりまして、先生のブログにたどり着きました。
私は女ですので、最初このニュースを知った時はそんなミスは有り得ないと思い、よっぽどストレスがたまってたのかな、と感じた程度でした。
が、しかし今週タイムリーに女性のCFを見学させて頂きまして、『うわ……こういう状況なら可能性あるわ。私も気をつけよう』と思いました。
実際、過去に同じ事例はあるようですね。
ですが私はまだ学生ですので、あまり知ったことが言える身ではないことも確かです。
けれども、あと二年もすれば現場に出るわけで……。
こういうニュースを耳に挟むたび、将来に不安を覚えてしまいます。また、実習をさせて頂くようになって、患者さんの医療に対する不信を直に聞くようにもなりました。
昨今の医師不足の中、いけないとは分かってはいるのですが、学生同士で『自分のQOLと安全を守れる道を探そうか』と、半分冗談、けれど半分本気で話す毎日です……。
長々と乱文失礼致しました。

ブログ脳外科医
2009年5月16日0:24

相手が人間である以上,臨床医になったら現状では逮捕や訴訟の可能性から逃れることは出来ないと思いますし,せっかく医師になったのに自分に興味の無い診療科で働くなんて楽しくないから長続きしないと思います.患者さんにもスタッフにも困った人はたくさんいますが,好きな仕事ならなんとかやっていけるものではないでしょうか.忌野清志郎さんが『僕たちの歌を聴きに来て〜ください〜.僕たちはいつも一生けんめえ〜歌っていま〜す.たとえお客が厭な奴ばかりでも〜僕たちはいつも一生けんめえ〜歌っていま〜す.ほんとです.』と歌ってましたが,今さらながらプロってそういうものだよな〜と思っています.

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