IT化すればいいってもんじゃないよ
2009年3月15日 医療の問題『日経社説 レセプト完全電子化を後退させるな 3月9日
経済社会の様々な場面でIT(情報技術)が革新し、くらしが便利になっている。だがIT化が遅れている分野もまだある。代表は医療だ。
医療機関が患者を治療したり薬を処方したりしたときに健康保険組合などに出す診療報酬の明細書(レセプト)も、IT化はさほど進んでいない。2008年12月診療分の電子請求の割合をみると、病院は57%だが診療所は4%にすぎない。歯科の請求にいたっては、いまだにすべて紙のレセプトに頼っている。
政府は11年度から完全に電子化すると閣議決定済みだ。ところがこの公約をほごにして「完全電子化」を「原則電子化」に変え、3月中に閣議決定し直すよう求める声が自民党内に急速に広がりつつある。
同党の支持基盤である日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の反対運動を受けた動きだ。その理由として、専用のコンピューターシステムを導入するための投資負担が重い、高齢の医師が経営する過疎地の診療所は電子請求の作業に十分に対応できない、などをあげている。
しかし、これらは電子化を忌避するための言い訳ではないか。診療所のシステム投資には税制上の支援策や厚生労働省の独立行政法人による低利融資がある。診療報酬政策でも電子化への加算制度を設けた。コンピューター操作に難がある高齢医師などを対象に、地域の医師会が請求を代行する仕組みも準備中だ。
完全電子化は必ず成し遂げるべき医療制度改革の柱である。請求事務の効率化や人件費の圧縮を通じ、国民医療費の増大を抑えるのに役立つからだ。電子請求があまねく行き渡れば、病気の種類ごとに治療方法を標準化する作業にも弾みがつく。
さらに医療機関が診療報酬を請求する過程が健保組合や患者本人にガラス張りになり、過大請求や不正請求があった場合は即座に見抜けるようになる。一部の医療関係者に根強い反対論の根っこに、ガラス張り請求への抵抗があるのだろうか。
医療政策に影響力を持つ自民党議員のなかには、電子化を強いれば閉院を余儀なくされる診療所が出てくるので地域医療が崩壊するという声がある。小泉構造改革の負の側面だとレッテルを張り、世論の共感を得ようという思惑も見え隠れする。
その背景には、次の衆院選で電子化への反対を掲げて医師会などの票を取り込もうとする一部の野党の戦術があるようだ。与野党の間に患者や国民の立場より圧力団体の利益優先を競う風潮があるとすれば、憂うべき事態である。』
このIT化で制度上のメリットを受けるのは社会保険庁ひいては厚生労働省なんだろうが,直接的なメリットはPCとソフトのメーカーつまり産業界,そして,データ収集が容易になる保険業界といったところだろうか.
では,医療機関側のメリットは何だろうかと考えてみるが,これが思いつかないのである.むしろ,導入時に始まるコスト増大や返戻時などの手間が増えてチェックに時間がかかるようになるのだろう.請求事務の効率化や人件費の圧縮なんて妄想にすぎない.
患者側にメリットはあるかと考えても,実際のところはおそらく無いのだろう.病気の種類ごとに治療方法を標準化する作業なんて言っているが,実際は病名が同じなら治療費を一律に最低料金にすると言っているようなもので,病状に応じた治療という選択枝を奪うことにほかならない.
患者側にとってのメリットが過大請求や不正請求があった場合は即座に見抜けるだけだとしたら,その代償に失うものを考えてみたほうがいいだろう.新たに発生するコストや手間の増加を嫌った診療所の閉院による医療の地域格差の拡大,医療費の標準化による治療内容の画一化と医療費抑制による医療レベルの低下である.
かつて厚生労働省の考えた施策で実効性があった医療改革なんて私の記憶にないし,始めるときにはいいように聞こえても実際にやると失策で,しかも被害を被るのはいつも医療側と患者側だけなのであるから信用されないのは当り前である.介護保険制度しかり医師研修制度しかりである.
現状では問題があるにせよ,いずれIT化されるべきであることも理解できるが,やり方が拙速なのは問題である.医療の現場は常に理屈では計れない人間というものを扱っているから,IT化すれば現在の医療の問題が解決できると思っている医師は少数派だろうし,急いで導入した拙劣なシステムによる失敗を許容できるような力はもう医療機関側には残っていないだろう.
患者や国民の立場より圧力団体の利益優先を競う風潮と書いているが,語るに落ちるとはこのことで,医療の現場を知らずに現場の声を無視するばかりか医療不信を煽るような書き方をしてまでシステム導入を急ぎたがるのは,日経が患者や国民の立場より企業の利益を優先しているからに他ならないからだと思うのだがどうだろうか.
経済社会の様々な場面でIT(情報技術)が革新し、くらしが便利になっている。だがIT化が遅れている分野もまだある。代表は医療だ。
医療機関が患者を治療したり薬を処方したりしたときに健康保険組合などに出す診療報酬の明細書(レセプト)も、IT化はさほど進んでいない。2008年12月診療分の電子請求の割合をみると、病院は57%だが診療所は4%にすぎない。歯科の請求にいたっては、いまだにすべて紙のレセプトに頼っている。
政府は11年度から完全に電子化すると閣議決定済みだ。ところがこの公約をほごにして「完全電子化」を「原則電子化」に変え、3月中に閣議決定し直すよう求める声が自民党内に急速に広がりつつある。
同党の支持基盤である日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の反対運動を受けた動きだ。その理由として、専用のコンピューターシステムを導入するための投資負担が重い、高齢の医師が経営する過疎地の診療所は電子請求の作業に十分に対応できない、などをあげている。
しかし、これらは電子化を忌避するための言い訳ではないか。診療所のシステム投資には税制上の支援策や厚生労働省の独立行政法人による低利融資がある。診療報酬政策でも電子化への加算制度を設けた。コンピューター操作に難がある高齢医師などを対象に、地域の医師会が請求を代行する仕組みも準備中だ。
完全電子化は必ず成し遂げるべき医療制度改革の柱である。請求事務の効率化や人件費の圧縮を通じ、国民医療費の増大を抑えるのに役立つからだ。電子請求があまねく行き渡れば、病気の種類ごとに治療方法を標準化する作業にも弾みがつく。
さらに医療機関が診療報酬を請求する過程が健保組合や患者本人にガラス張りになり、過大請求や不正請求があった場合は即座に見抜けるようになる。一部の医療関係者に根強い反対論の根っこに、ガラス張り請求への抵抗があるのだろうか。
医療政策に影響力を持つ自民党議員のなかには、電子化を強いれば閉院を余儀なくされる診療所が出てくるので地域医療が崩壊するという声がある。小泉構造改革の負の側面だとレッテルを張り、世論の共感を得ようという思惑も見え隠れする。
その背景には、次の衆院選で電子化への反対を掲げて医師会などの票を取り込もうとする一部の野党の戦術があるようだ。与野党の間に患者や国民の立場より圧力団体の利益優先を競う風潮があるとすれば、憂うべき事態である。』
このIT化で制度上のメリットを受けるのは社会保険庁ひいては厚生労働省なんだろうが,直接的なメリットはPCとソフトのメーカーつまり産業界,そして,データ収集が容易になる保険業界といったところだろうか.
では,医療機関側のメリットは何だろうかと考えてみるが,これが思いつかないのである.むしろ,導入時に始まるコスト増大や返戻時などの手間が増えてチェックに時間がかかるようになるのだろう.請求事務の効率化や人件費の圧縮なんて妄想にすぎない.
患者側にメリットはあるかと考えても,実際のところはおそらく無いのだろう.病気の種類ごとに治療方法を標準化する作業なんて言っているが,実際は病名が同じなら治療費を一律に最低料金にすると言っているようなもので,病状に応じた治療という選択枝を奪うことにほかならない.
患者側にとってのメリットが過大請求や不正請求があった場合は即座に見抜けるだけだとしたら,その代償に失うものを考えてみたほうがいいだろう.新たに発生するコストや手間の増加を嫌った診療所の閉院による医療の地域格差の拡大,医療費の標準化による治療内容の画一化と医療費抑制による医療レベルの低下である.
かつて厚生労働省の考えた施策で実効性があった医療改革なんて私の記憶にないし,始めるときにはいいように聞こえても実際にやると失策で,しかも被害を被るのはいつも医療側と患者側だけなのであるから信用されないのは当り前である.介護保険制度しかり医師研修制度しかりである.
現状では問題があるにせよ,いずれIT化されるべきであることも理解できるが,やり方が拙速なのは問題である.医療の現場は常に理屈では計れない人間というものを扱っているから,IT化すれば現在の医療の問題が解決できると思っている医師は少数派だろうし,急いで導入した拙劣なシステムによる失敗を許容できるような力はもう医療機関側には残っていないだろう.
患者や国民の立場より圧力団体の利益優先を競う風潮と書いているが,語るに落ちるとはこのことで,医療の現場を知らずに現場の声を無視するばかりか医療不信を煽るような書き方をしてまでシステム導入を急ぎたがるのは,日経が患者や国民の立場より企業の利益を優先しているからに他ならないからだと思うのだがどうだろうか.
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