医療崩壊は減速しない
2008年1月29日 医療の問題 コメント (3)『副作用、合併症で医学論文急減 医療事故調査委の発足見通し、医師ら処分恐れ萎縮?
治療の副作用や合併症に関する医学論文の数が昨年後半から急激に減少したことが、東京大医科学研究所の上(かみ)昌広客員准教授(医療ガバナンス論)らのグループの調査で分かった。このうち、診療中に起きた個別の事例を取り上げた「症例報告」はゼロに近づいた。グループは、厚生労働省が検討する医療事故調査委員会の発足後、行政処分や刑事責任の追及につながることを医師が恐れて萎縮(いしゅく)し、発表を控えたためと推測している。
グループは国内の医学論文のデータベースを使い、06年1月-07年10月に出された副作用や合併症に関する論文を探し、総論文数に対する割合を調べた。
毎月、1万-4万件前後の医学論文が発表され、一昨年から昨年前半までは合併症の論文が13-17%あった。しかし、昨夏ごろから急減し、10月には約2%になった。副作用の論文も以前は4-6%あったが、昨年10月には約2%に減った。
特に、副作用の症例報告は、以前は1%前後あったが、昨年10月にはゼロになった。合併症の症例報告も、以前は5-9%あったが、昨年10月には0・1%しかなかった。
厚労省は昨年10月、診療中の予期せぬ死亡事故の原因を究明するために創設する医療事故調査委員会の第2次試案を公表した。死亡事故届け出を医療機関に義務付け、調査報告書は行政処分や刑事責任追及にも活用する場合もあることを盛り込んだ。10年度をめどに発足を目指している。
上客員准教授は「医学が発展せず、国民の被害は大きい。リスクの高い診療科からの医師離れも促す。調査報告書は行政処分や刑事責任追及に使われないようにすべきだ」と訴えている。』
『大野病院医療事故:「責任を取ってほしい」 遺族3人が意見陳述--地裁公判 /福島
県立大野病院で04年、帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(40)の第12回公判が25日、福島地裁(鈴木信行裁判長)であり、遺族3人が意見陳述。女性の夫(34)は「言い訳や責任転嫁せず、何をミスしたかを真正面から受け止め、責任を取ってほしい」と加藤被告に訴えた。
夫は意見陳述で、今回の出産を「天国から地獄だった」と振り返った。術後の説明が「納得できる内容ではなかった」とし、「なぜ妻が死んだのか疑問に思う。自分の行動・言動に責任を持つのは大人の人間として当然のことだ」と話した。
女性の父親(57)は「加藤先生の行為は許せない」と語り、女性の弟(31)は「明るく元気な姉に会いたい」と無念さをにじませた。加藤被告は、終始うつむき加減だった。
また地裁は、弁護側が任意性を争っていた捜査段階の供述調書20通や、加藤被告の処置を妥当とした弁護側依頼の周産期医療専門家3人の鑑定意見書などを証拠採用した。この日で証拠調べが終わり、3月21日に検察側の論告求刑、5月16日に弁護側が最終弁論し、結審する予定。判決は夏ごろになる見通し。』
医学的な問題があるかどうかにかかわらず,患者さんが亡くなると医療事故として報道され,刑事責任を追及され,揚げ句に家族に恨まれ土下座までさせられるのでは手術して死亡する可能性のある患者さんはお断りするという風潮が強まるのは避けられないということだろう.
そして,医療事故調査委員会の発足でその流れは決定的になってしまうのではないかと多くの医師が考えているらしい.この調子では産科だけでなく外科系全般さらには内科救急にも悪影響が及ぶことは避けられないのではないだろうか.
医療事故調査委員会がどのようなものになるのかも心配であるが,私としてはまず加藤先生の裁判の判決に注目したいと思う.学会までを巻き込んだこの裁判で万が一にでも有罪にでもなろうことなら医療現場に与える影響は深刻なものになることは間違いないだろう.
もっとも,この裁判に危機感を持っているのは訴訟リスクを感じながら働いている現場の医師だけで,その影響が自分や自分の家族にふりかかると本気で思っている国民はほとんどいないのだろうから医療崩壊は今後も減速することはないだろう.
治療の副作用や合併症に関する医学論文の数が昨年後半から急激に減少したことが、東京大医科学研究所の上(かみ)昌広客員准教授(医療ガバナンス論)らのグループの調査で分かった。このうち、診療中に起きた個別の事例を取り上げた「症例報告」はゼロに近づいた。グループは、厚生労働省が検討する医療事故調査委員会の発足後、行政処分や刑事責任の追及につながることを医師が恐れて萎縮(いしゅく)し、発表を控えたためと推測している。
グループは国内の医学論文のデータベースを使い、06年1月-07年10月に出された副作用や合併症に関する論文を探し、総論文数に対する割合を調べた。
毎月、1万-4万件前後の医学論文が発表され、一昨年から昨年前半までは合併症の論文が13-17%あった。しかし、昨夏ごろから急減し、10月には約2%になった。副作用の論文も以前は4-6%あったが、昨年10月には約2%に減った。
特に、副作用の症例報告は、以前は1%前後あったが、昨年10月にはゼロになった。合併症の症例報告も、以前は5-9%あったが、昨年10月には0・1%しかなかった。
厚労省は昨年10月、診療中の予期せぬ死亡事故の原因を究明するために創設する医療事故調査委員会の第2次試案を公表した。死亡事故届け出を医療機関に義務付け、調査報告書は行政処分や刑事責任追及にも活用する場合もあることを盛り込んだ。10年度をめどに発足を目指している。
上客員准教授は「医学が発展せず、国民の被害は大きい。リスクの高い診療科からの医師離れも促す。調査報告書は行政処分や刑事責任追及に使われないようにすべきだ」と訴えている。』
『大野病院医療事故:「責任を取ってほしい」 遺族3人が意見陳述--地裁公判 /福島
県立大野病院で04年、帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(40)の第12回公判が25日、福島地裁(鈴木信行裁判長)であり、遺族3人が意見陳述。女性の夫(34)は「言い訳や責任転嫁せず、何をミスしたかを真正面から受け止め、責任を取ってほしい」と加藤被告に訴えた。
夫は意見陳述で、今回の出産を「天国から地獄だった」と振り返った。術後の説明が「納得できる内容ではなかった」とし、「なぜ妻が死んだのか疑問に思う。自分の行動・言動に責任を持つのは大人の人間として当然のことだ」と話した。
女性の父親(57)は「加藤先生の行為は許せない」と語り、女性の弟(31)は「明るく元気な姉に会いたい」と無念さをにじませた。加藤被告は、終始うつむき加減だった。
また地裁は、弁護側が任意性を争っていた捜査段階の供述調書20通や、加藤被告の処置を妥当とした弁護側依頼の周産期医療専門家3人の鑑定意見書などを証拠採用した。この日で証拠調べが終わり、3月21日に検察側の論告求刑、5月16日に弁護側が最終弁論し、結審する予定。判決は夏ごろになる見通し。』
医学的な問題があるかどうかにかかわらず,患者さんが亡くなると医療事故として報道され,刑事責任を追及され,揚げ句に家族に恨まれ土下座までさせられるのでは手術して死亡する可能性のある患者さんはお断りするという風潮が強まるのは避けられないということだろう.
そして,医療事故調査委員会の発足でその流れは決定的になってしまうのではないかと多くの医師が考えているらしい.この調子では産科だけでなく外科系全般さらには内科救急にも悪影響が及ぶことは避けられないのではないだろうか.
医療事故調査委員会がどのようなものになるのかも心配であるが,私としてはまず加藤先生の裁判の判決に注目したいと思う.学会までを巻き込んだこの裁判で万が一にでも有罪にでもなろうことなら医療現場に与える影響は深刻なものになることは間違いないだろう.
もっとも,この裁判に危機感を持っているのは訴訟リスクを感じながら働いている現場の医師だけで,その影響が自分や自分の家族にふりかかると本気で思っている国民はほとんどいないのだろうから医療崩壊は今後も減速することはないだろう.
コメント
2か月後に調査し直すと、ここまで急激な下降はしないかもしれません。
副作用の症例の論文を、現時点で別のデータベースで調べたら、10月にも100件を越える記事がヒットしました。
私の尊敬する先生は、医者は病気を治しているのではなく、治るようにお手伝いしているだけ。医者や病院を過信してはいけない。検査も薬も、もちろん手術にも危険は付きまとうので、安易に病院に頼りすぎないようにと診察室でお話をしてくださり、納得して帰ってきたのを覚えています。感謝をしながら生きていけば、周りも自分も幸せになって免疫力も高まりますよ、とも言われました。
私たちは必ず寿命がきます。死をどう受け止めるかが問題だと思います。高齢の父の死でも、私は受け入れるのに時間がかかりました。若い方の死を家族が受け入れられないのもわかるような気がします。これらは死の教育の遅れも原因の一つであるように思います。
よろしくお願いします。