厚労省による病床削減の犠牲者?
『30病院に拒まれ死亡 大阪の89歳 到着まで2時間

 大阪府富田林市で25日未明、下痢や嘔吐(おうと)など体調不良を訴えて救急搬送された同市内の女性(89)が、府内の計30病院に受け入れを拒否された末、約2時間後に搬送された病院で心肺停止状態となり、翌日夕、死亡していたことがわかった。受け入れを拒んだ病院の多くは「別の患者を処置中で対応できなかった」などと説明している。

 富田林市消防本部などによると、25日午前4時49分、女性の家族が119番通報し、8分後に救急車が自宅に到着。救急救命士が酸素投与などの処置をしながら、同消防本部の通信指令室とともに搬送先を探した。堺市や八尾市、大阪市平野区など周辺9市の市民病院や大学病院などを含む30病院に計35回受け入れを要請したが、いずれも拒否されたという。

 救急車はこの間、富田林市内の国道で待機。女性は車内でも意識があり、最終的に隣接する河内長野市の国立病院機構大阪南医療センターに受け入れが決まったが、その搬送中に体調が急変。同センターに到着した午前6時40分、心肺停止状態に陥った。その後、呼吸が再開するなど、いったん持ち直したが、翌26日夕、出血性ショックで死亡。同消防本部の説明では、女性には高血圧の持病があったが、死因との関係は不明という。

 受け入れを拒否した病院側は「集中治療室に別の重症患者がいて対応できなかった」「ベッドに余裕がなかった」などと理由を説明している。中には、「一度診察したことのある患者しか診ない」と拒否した病院もあったという。同センターも一度は「処置中」を理由に受け入れを断っていた。

 富田林市では23日にも、救急搬送された女性(67)が計14病院に受け入れを拒否されている。同消防本部の溝川秀敏次長は「医師不足と言われる中で日々、対応に苦慮している。救急隊が懸命に処置しながら亡くなったのは残念。医師会などとの連携を強化していきたい」と話している。

 亡くなった女性の家族は28日、「医療体制のあり方を変えてもらわないといけない」と語った。』

医師不足はもう誰もが知ることとなったと思うが,救急病院のベッド数が不足していることはあまり知られていないのではないだろうか.全国規模のデータを見たことはないが,救急病院と言われるところの多くで救急患者を受け入れるための病床が不足しているのではないかと思う.

私のところでは,今年になり高齢者の救急搬送が増えてきているのだが,満床で搬入をお断りするケースもそれにつれて増えているような気がする.

高齢者が増えていることもあるのだろうし,高齢者は回復も遅いので入院期間が延びていることもあるだろうが,一番の問題点は救急患者を収容するためのベッド数が相対的に不足してきているのに増床できないということだろう.

この背景には厚生労働省が医師数を抑制し続けてきただけでなく,病院のベッド数を積極的に削減することで医療費の抑制を図ろうとしていることがあるのではないだろうか.

病院が満員つまりベッドが満床の状態では物理的に患者さんを受け入れることはできない.それならベッドを増やして入院させればいいように一般の人は思うかもしれないが,実は,病院のベッド数が社会保険庁に届け出た数を上回れば診療報酬が減額されるペナルティーがありそんな勝手なことはできないようになっているのである.

今回の診療報酬改定では救急医療や勤務医の環境改善などと調子のいい事を言っているが,現実にはこんなところで現場の足を引っ張り続けたりしているのである.地域の救急病院が地元の患者をすべて受け入れられない問題の裏にはこんな罠が仕掛けられているのである.

マスコミは医師や病院を悪者にしたいのでこんな記事しか書かないのかもしれないが,なぜこれほど多くの病院が満床で受け入れられないのか,本当の理由をもっとよく調べてから報道してもらいたいものだ.事実を報道するだけでなく真実を暴くのが報道機関の役目だと思うのだが,今どきのマスコミに期待するのが無理なのだろうか.

救急隊からの依頼を受けるのもストレスなのだが,それを断るのもまたストレスを感じることである.満床であるがゆえに脳外科医が自分で手術できる患者さんを隣町まで血圧をコントロールしながら搬送するなんてことが実際に起きているのだから,今の日本の医療政策は間違っていると断言してもいいと思うのだが,一般の人は自分が救急搬送を拒否されるまでこんなことになっているとは思いもしないことだろう.

コメント

naochan
naochan
2007年12月29日11:14

失礼ながら、近くで起きたことなので一言お許し下さい。

脳外科医さんの仰る事、以前より私も危惧していました。
断った病院ばかりを責める事は出来ないと。
近所の総合病院でも診療科として掲げていても
医師が居ないので休診状態の病院があります。
だから、救急に全ての病院が対応できない状態も
想像がつくのです。

でも素人は救急車が来た時点で『助かった』と思うのです。
日本の医療現場が、今、転換期を迎えようとしているのを感じます。

医者になりたくても大学に行く費用が無かったり、
費用はあっても、医療に携わるモラルが無かったり、
命に向かう現場には、一言では片付けられない様々な問題があるように思います。

医療を受ける方としては、緊急に受け入れる病院が
やはり整備される事を願ってやみません。

問題の根っこを掘り下げて改善される事を祈ります。
そして、脳外科医さんのつぶやきを友人と話す時に、
話題にしていきたいと思っています。
断る方のストレス、これは、経験した方でないと判らないことですもの。

nophoto
私も脳外科医
2008年1月4日15:15

良い医療を行うには、お金が必要です。と書くとマスコミはすぐ医者がもうけすぎている、といいます。しかし、これは医師の収入を上げることを意味しているのではなく、むしろ医療制度を整備するのにはお金が必要なのです。厚労省も、逆三角形の人口構成の中で崩壊しそうな国民皆保険や限られた予算の中で、選択の幅には限りがあるのでしょう。マスコミは視聴率や新聞販売数のことばかり考えずに、そのことをもっときちんと伝えないと社会的使命は消えますよ、と言いたい。

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