『妊婦搬送拒否:札幌でも5件発生 「10代女性、11回」も----06年まとめ

 奈良県橿原(かしはら)市の妊婦(38)が救急搬送された同県や大阪府内の病院に受け入れを断られ死産した問題で、札幌市でも06年に搬送中の妊婦や女性の受け入れを病院が拒否した事例が5件あったことが分かった。流産や死産につながった例はなかったが、この中には11回拒否された妊婦もいた。

 市消防局によると、5件の妊婦らは腹痛や出血を訴え、119番通報した。いずれも産婦人科の受診歴がなく、かかりつけの医師がいなかった。

 11回拒否されたのは10代の妊婦。昨年2月、腹痛を訴え、救急隊員が病院に電話で受け入れを打診したのに対し、「医師がいない」「患者の処置中」「ベッドの空きがない」などの理由で断られた。最終的に市内の総合病院に搬送されたが、通報から到着まで平均所要時間の3倍以上の1時間半を要した。

 病院側が受け入れを拒否する理由について、札幌医科大付属病院の斎藤豪教授(産科・周産期科)は「自分の患者でも未熟児に対応できる施設は少ない。妊娠何週目かも分からずに受け入れ、未熟児に対応できなくなるリスクを避けるためではないか。受け入れても対応できなければ、対応できる高次病院を探すことになってしまう」と話した。』

 マスコミの言い分では搬送拒否はあってはならないことのような印象を受けるし,多くの人は病院が救急患者を受け入れないなんてことは許されないことのように思っているのかもしれない.しかし,正当な理由で搬送を受け入れないケースは日常的に起こりうることを理解してもらいたいものだ.

 その正当な理由としては以下の状態が考えられる.
1.病院のベッドが満床で入院が受け入れられない場合.
2.他の患者を治療中で搬入されても対応できる医師がいない場合.
3.救急隊の情報から自分のところでは対応不能と考えられる場合.

 1.と2.についてはだれも異論はないだろうが,3.の場合については救急隊の情報の精度と医師の判断基準によっては場合により対応が異なる状況が生じると思われる.

 産科の場合には,かかりつけの医師がいないということは未熟児だった場合に対応できなくなるリスクがあるということなのだろう.自分のところで受け入れても,対応できなければ,対応できる高次病院を探すことになる.その時になって受け入れ先が見つからなかったりしたらどこかの病院の二の舞になるから受け入れを拒否するということになるのだろう.

 実は,脳神経外科医が交通事故による頭部外傷患者を受けても,外科や整形外科に転送が必要になることもあるし,救急隊の言う軽い頭痛がクモ膜下出血だったのにベッドが満床だったら脳神経外科がある他の病院まで搬送するハメになったりすることもあるのである.自分が数時間で手術できる患者さんをいつ再破裂するかヒヤヒヤしながら救急車に乗って夜中に走るくらい心臓に悪いことはない.

 たとえリスクを覚悟して患者を受け入れて最善を尽くしたとしても,すみやかに処置したり,より高次の救急病院へ搬送できるとは限らないのが救急医療の現場なのだが,先日の福島の事件の裁判での検察官の発言,そして身勝手な患者やその家族の発言をマスコミの偏った報道で毎日のように聞かされれば,自分の身は自分で守ろうと考える医師や病院が増えるのも仕方がないことで一方的に非難されるようなことではないだろう.
 

コメント

しゃな
しゃな
2007年9月5日8:26

知り合いが交通事故により脳挫傷で生死をさまよい救急車に
乗せられましたが、近くの総合病院ではやはり拒否されたようです。でも、2番目に向かった病院は脳外科で有名な
某病院だったらしく、無事助かったようです。
知り合いは、2番目ところに搬送されてよかったです。
搬送も悪いことばかりではないんですよね・・・。

ブログ脳外科医
脳外科医
2007年9月5日8:35

患者さんの状態に適切に対応できる病院に最初から搬送されるのが理想だと思います.しかし,実際にはなんでも転送する病院があったり,救急隊の情報がいいかげんだったり,患者や家族が搬入後に有名病院への転送を希望したりと救急担当医を悩ます事態がよく起こるのも事実です.

スミぱん@国会を見よう
スミぱん
2007年9月10日3:49

ウチの近所には、外来でも一見さんお断りのところが
あります。外来の待合室が一杯で、もうこれ以上
診る事ができないからという理由なんですけどねー。
田舎は医者が少なすぎる。

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