薬のリスクとベネフィット
『 -- 抗凝固療法に伴うICHが増加中 -- 抗凝固薬使用に伴う頭蓋内出血の発生率は1990年代に5倍になり、高齢者では10倍にもなった。ワルファリンは心房細動の多くの症例で今でも有効だが、そのリスクについても依然として慎重に検討する必要がある --

 抗凝固薬の使用に伴う頭蓋内出血(ICH)の発生率が1990年代に5倍に増加し、高齢者では10倍にもなっていると最新の研究が示唆している。

この増加分のほとんどは心房細動(AF)患者に対するワルファリンの使用が増えたことで説明される、と研究者らは述べている。この患者群の脳卒中がこの治療法で減少したことは、この10年間の数多くの研究で確認されている。ワルファリン療法の既知のリスクであるICHの増大が伴うという今回の調査結果は、必ずしも多くの患者にとってこの薬剤のベネフィットがリスクを上回らなくなったことを意味するものではないと、著者らは述べている。

「我々の調査結果で、適切な場合のワルファリンの使用を手控える必要はない」と、筆頭著者であるシンシナティ大学医療センター(オハイオ州)のMatthew L. Flaherty, MDが米国神経学会の記者会見で語った。「医師は、今回の結果を利用して、患者へのワルファリン使用のベネフィットとリスクを正確に測ることができる。研究者にとっては、脳出血患者に対するワルファリンに替わる、より安全な代替薬と有効な治療法の開発を、今回の結果が促進するものであると言える」。

この報告は、『Neurology』1月9日号に掲載されている。

伸びるワルファリンの使用量

ワルファリンを用いた抗凝固療法で、AF患者の脳卒中リスクを有意に低下させることができるということを示したStroke Prevention in Atrial Fibrillation(SPAF)試験などの複数の画期的な試験が1990年代に発表されて以来、ワルファリンの使用量は延び続けている。ワルファリン療法のリスク/ベネフィット比は、患者の脳卒中リスクが高い場合には良好だが、高齢者での一次予防として用いる場合には「リスクとベネフィットの差が縮まり」、ベネフィットが出血リスクで相殺される場合もあると著者らは記している。

この治療の合併症の中で「もっとも恐ろしい」のはICHだが、抗凝固療法関連のICHの正確な推定値は今のところ存在しないと著者らは指摘している。今回の研究においてFlaherty博士らは、グレートシンシナティ/ノースケンタッキー地域の1988年、1993-94年、1999年の3つの時期において、初めてのICHで入院した患者全員を特定した。この3つの時期は、AFにおける抗凝固療法の主要な試験が行われた時期の前後にあたる。出血は、患者がワルファリンまたはヘパリンを使用している場合に、抗凝固薬関連と見なした。

Fig.1

すると、抗凝固薬関連ICHの年間発生数(AAICH)はこれら3つの時期全体にわたって有意に増加しており、全ICH症例の中に占める割合も増加していた。

「AAICHの重大さについて言えば、その全発生率は今ではクモ膜下出血の発生率をわずかに下回るだけであり、都市部では年間10万人あたり6.6例が発生している」とFlaherty博士らは言及している。

80歳以上の患者では、発生率はさらに有意に増加しており、1988年には年間10万人あたり2.5例だったのが1999年には45.9例に増加している(傾向のP値 <0.001)。

1 人あたりのワルファリン使用量が4倍になった1988年-1999年におけるワルファリンのベネフィットを評価するために、研究者らは3つの時期のうち後半の2時期において初めての心原性脳塞栓症による入院の発生率も調べてみた。すると心原性脳塞栓症の発生率は、全体およびAF性のいずれについても、 1993-1994年から1999年にかけて有意な変化が見られなかった。

Fig.2

しかし上記の結果は、AF性の虚血性脳卒中は減少しているとするその他の研究の結果に整合していないことを、著者らは指摘している。また、米国のAF有病率は年齢に関係なく長期にわたって増大している様子があることに著者らは触れている。「その事実からすれば心原性脳塞栓症の発生率は増加するはずである。したがって我々の研究による静的発生率は、虚血性脳卒中の予防におけるワルファリンのベネフィットを表わしている可能性が強いと、我々は考える」。
この研究の資金の一部は、米国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)から提供されている。Neurology. 2007;68:116-121.』

 「納豆禁」で有名なワルファリンであるが,これとバファリンを混同している患者さんがいる.これらは共に脳梗塞を予防する薬であるが別物である.

 ワルファリンは弁膜症を伴わない心房細動(NVAF;不整脈の一種)のある脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)の再発予防では第一選択であり,これに替わる薬は今のところ無い.納豆が食べられないことは別にリスクでもなんでもないだろうが,過剰投与による出血性合併症は問題で,場合によっては命に関わることもあるということは知らない人も多いのではないだろうか.

 もっと問題なのは,この薬はいつも同じ量を服用していても効果が不安定でINRという指標で定期的に検査する必要があることである.外来通院のたびに採血されるのは苦痛だろうが,これ以外に効果を判定する方法はない.それでも出血性合併症を起したり,脳梗塞になることを思えばきちんと検査を受けてもらう以外ないのである.

 もうひとつ薬を中止した場合のリスクもある.抜歯や胃や大腸の内視鏡検査の際に薬の中止を求められ休薬することがあるのだが,その直後に脳梗塞になったり塞栓症を起こすことがある.どうしても必要な検査や手術であればやむを得ないことなのだが,こういうリスクもあることは意外と知られていないのではないだろうか.

 

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