『 -- 防衛医大医療過誤、遺族敗訴を破棄 最高裁 --

 元立正大教授の男性(当時61)が防衛医大病院(埼玉県)で脳の手術を受けた後に死亡したことを巡り、「医師の説明義務違反があった」などとして、遺族が国を相手に約9600万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審判決が27日、あった。最高裁第二小法廷(滝井繁男裁判長)は「どの術式を受けるか、あるいは手術を受けずに様子を見るか、患者が熟慮の上判断できるようにわかりやすく説明する義務を尽くさなかった」として、遺族を敗訴させた二審・東京高裁判決を破棄。説明内容についての事実関係の審理を尽くすよう、同高裁に差し戻した。

 判決によると、元教授は95年12月、同病院で破裂していない脳動脈瘤(りゅう)があると診断された。翌年2月にプラチナ製の形状記憶合金(コイル)で動脈瘤に血が入らないようにふさぐ手術を受けたが、コイルが動脈内に流れ出し、開頭手術でも取り除けず、およそ半月後に死亡した。

 脳動脈瘤は放置しても6割は破裂しないとされ、今回の手術は緊急性のない予防的なものだった。同小法廷は「コイル塞栓(そくせん)術は脳梗塞(こうそく)を発生させるなどの危険があり、こうした医学的知見について説明すべきだった」と述べた。』

 「脳動脈瘤は放置しても6割は破裂しない」と最高裁が認定したのかどうかはわからないが,「コイル塞栓(そくせん)術は脳梗塞(こうそく)を発生させるなどの危険があり、こうした医学的知見について説明すべきだった」とあるのは,防衛医大病院ではそれさえも説明しなかったということなのだろうか.医療事故関係のニュースではいつものことだがよくわからない点が多い.

 未破裂脳動脈瘤が脳ドックなどで見つかったら,予防的治療をするのかしないかの2つに1つである.そして,手術には開頭術と血管内手術があるが,必ずしもどちらでも好きなほうでというものでもない.動脈瘤の部位や形状によって安全性には差があると考えられるのだが,たとえより安全な方を選んだとしても1%程度のリスクは残ると考えるべきだろう.

 手術だからではなく,世の中に100%安全なんていうものはないと考えるのがあたりまえだと思うからである.未破裂動脈瘤について言えば,手術をしなくても破裂すれば50%くらいの確率で死亡するし,開頭術でもコイル塞栓術でも死亡するリスクは0ではないから,当事者になれば死亡率は100%である.問題は自分がその当事者になるかどうかであって,全体に対する発生確率を考えても自分のことはわからないということである.

 脳外科医の立場で言えば,手術のリスクはある程度までは自分の腕でコントロール可能であるが,不測の事態は常に起こり得るわけで外科医であればそれは職業上のリスクであり避けることはできない.最近では,手術の結果が悪ければ訴訟になる確率は以前より高くなったと思われる,それも民事訴訟ならまだしも刑事訴訟ではどうにも対処のしようもない.

 民事訴訟に巻き込まれないためにできることと言えば,手術の前に説明と同意に十分な時間をかけるというのはもちろん大切だろうが,話をしながら家族の様子を伺うことも重要だろう.以前にも書いたが,先生と呼ばれる職業の人たちは要注意である.この場合,それでも医師であれば手術のリスクを理解してもらえる可能性は高いだろうが,それ以外の職種では「先生におまかせします.」といいながらも結果に対する期待値が高すぎて結果に不満が出ることもあるだろうから,こういう患者や家族に対しては普段にもまして慎重な対応が必要だろう.

 結局,医師がいくら十分に説明したつもりであっても,相手がそれをどのように理解したかが問題で,それを事前に正確に把握する手だてはない.手術の際に不測の事態が起きることが理解されないまま不満足な結果に終われば,「そんな説明は聞いていない」「そんなことが起きるとは思わなかった」となり損害賠償請求のリスクは避けられないのではないのだろうか.

 こう考えてみると,無過失責任保険のような救済制度は産科だけでなく,すべての外科手術に必要だということになると思われる,現在は,まだそこまで議論にもなっていないし,それも医師や病院側で準備するような話になっているようだが,本来であれば手術で救われる患者側もまさかの時のために相応の負担をするべきではないかと思うのは私だけだろうか.

 
 

コメント

nophoto
S.L.
2006年10月28日20:43

たまたま受けた検査で、身内の脳底動脈の分岐部に18mmの未破裂脳動脈瘤が見つかりました。上京、初診、入院、再検査、開頭クリッピング術まで、一週間でした。手術後、右脳に広範な脳梗塞を生じました。一年半たった今、寝たきりで、肺炎、敗血症、多臓器不全を起こし、一時危篤になりました。発見時、「破裂したら死ぬ」と言われ、本人はパニック、ノイローゼになりました。家族も無知でした。脳梗塞をおこす可能性ありとは聞きました。でも脳梗塞でこれほどいろいろな後遺症が出るとは。経験して知りました。執刀医は男の家族のほうばかり見て説明し、女の身内を無視しました。なぜか聞いたら「訴訟をおこすのは男の家族だから」と言いました。

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