『 タバコの使用はいかなる形式であっても心筋梗塞のリスクを増大させる
喫煙の有害性と心血管系リスクは国や文化の境界を超えており、紙巻タバコ1本吸うごとに心筋梗塞発症のリスクが1.056倍に増えることが、大規模患者対照研究で示された
Reviewed by Gary D. Vogin, MD
タバコを吸うと、非致死性の心筋梗塞(MI)のリスクが有意に増加し、それは直接喫煙あるいは受動喫煙かにかかわらず、世界各地で見られるさまざま曝露形式から独立していることが、大規模な国際的患者対照研究で示された。この知見は、喫煙や他の方法によるタバコの使用が心疾患の原因となっていることを示す、大量の疫学的証拠に対する世界的な認識をいっそう強めるものである。
『Lancet』8月19日号に掲載された今回の分析では、現在の喫煙行為には、まったく喫煙経験がない者の調整したMIリスクを3倍近くにする有害性があり、その有害性はタバコの使用方法を変えても回避出来ないことが示されている。この研究ではタバコの影響について、無煙タバコだけでなく、南中央アジアなど特定の地域に主に限定されているあまり一般的でない喫煙方法についても調べられた。
「今回の結果は、タバコがいかなる形式であっても有害であることを示している」と、著者であるマクマスター大学(オハイオ州ハミルトン)のKoon K. Teo, MDらが記述している。その他の注目すべき知見としては、1日の紙巻タバコ消費本数が例え2,3本であっても、消費本数とMI発症の可能性傾向との間に有意な用量反応関係があることなどである。
この研究に関して、マサチューセッツ大学医学部(ウースター)のIra S. Ockene, MDがheartwireに寄せたコメントによれば、今回の研究はかなり昔の仕事を再現したものだが、地理的な面だけでなく、タバコ曝露のほぼすべての形式にわたり検討した点で、世界的に客観性を含んだ「これまで以上の大きな成果もある」。今回のデータの中では、噛みタバコと受動喫煙のリスクに関するデータが重要であり、「タバコを止めたことで利益が得られるのにかかる時間についての、これまでの知見がさらに進んだ」と、博士は述べた。しかし、禁煙することで肺癌リスクが改善されるためには多年を要するのに対して、心血管系への利益は比較的早期に現われることについては、ほとんどの心臓専門医でもその真の価値を認識していないと、博士は言う。
heartwireとのインタビューの中で、筆頭著者のTeo博士も禁煙で劇的に現われる利益について言及した。「たとえヘビースモーカーであっても、リスクは約半分になる。禁煙するのに遅すぎることはなく、その利益はかなり早くに現われる。これが私が今、患者に向けて伝えているメッセージだ」。
Teo博士らは、急性MIの初回患者12,133例と、年齢・性別をマッチングさせた地域住民対照群14,435例を対象にして、タバコ使用の種類を調査した。募集した国は、ほぼ全大陸の52カ国に及ぶ。極めて一般的な使用方法である紙巻タバコ喫煙を、人口統計学的、地理学的、そして他の変数で調整した分析では、
・総じて、現在の喫煙者における非致死性MIのリスク(オッズ比[OR])は禁煙経験のない者に対して2.95(P<0.0001)であった。リスクは、高齢者よりも若年者で高く、男性よりも女性で低かった。
・過去の喫煙者で、止めてから3年以内の者のリスクはほんの1.85であった。い一方、タバコを止めて20年経った者でもリスクは1.22で持続した。
・MIリスクは、1日の紙巻タバコ喫煙数が1本から9本の者では1.63であったが、1日に20本を超えると4.59に激増した(いずれの結果ともP<0.0001)。分析によれば、1日に吸う本数が1本増えるごとに、リスクが5.6%増加した。
・コントロール群のうち、受動喫煙に曝露していないと報告したものは半分に満たなかった。1週間の曝露時間が1時間から7時間までの者であっても、MIリスクはまったく曝露しない者に比べて1.24になり、有意に高かった。曝露時間が1週間あたり21時間を超えると、このリスクは1.62に達した。
有害性は、従来の紙巻タバコに限られていなかった。本研究グループが「少量のタバコを乾燥したボンベイコクタンの葉で巻き糸で縛ったもの」と記載した、南アジアでは紙巻タバコより一般的な糸で縛った手巻きタバコ(ビーディ)の喫煙によるリスクは、タバコ未経験者に比べて2.89になった。中東で一般的な喫煙方法である水パイプを通した水タバコ(シーシャ)のリスクは、2.16であった。
タバコ製品を喫煙しないで用いる方法は、南中央アジアで最も一般的である。製品自体を噛む噛みタバコでは、MIリスクが2倍以上になった。噛みタバコと紙巻タバコの喫煙を両方行う者のMIリスクは、未喫煙者の4倍になった。
こうした情報は、自らの喫煙方法が紙巻タバコと同程度に有害であるとは思っていないことが多い多様な文化背景の患者を指導する際に有用だと、Teo博士は言う。「例えば南アジア出身の患者に、(タバコの)有害性が北米の研究で証明されたと話したとしても、患者は、それは米国人やカナダ人についてであって、自分は違う国の出身だと言うでしょう」。そうした場合にも今回の研究の説得力は強いはずだと、博士は述べた。
関連する論説記事において、「莫大な量のデータから得られた今回の圧倒的な結論とは、タバコ曝露は、紙巻タバコ、パイプ、葉巻、ビーディ、シーシャ、煙なしであろうが、受動喫煙または能動喫煙であろうが、フィルター付きであろうがなかろうが、ほんの少量であろうが、世界中の男性と女性において心筋梗塞の原因として大きな部分を占める、ということだ」と、ハーバード大学公衆衛生学部(マサチューセッツ州ボストン)のSarah A. Rosner博士とMeir J. Stampfer博士が記している。「ほんの低レベルの能動喫煙であってもリスクが顕著に増大するという知見は、受動喫煙も大きなリスク因子であることの信憑性をさらに高めるものである」Lancet. 2006;368:621-622, 647-658.』
これでも人前で煙草を吸う人は,酒酔い運転で他車に追突して死亡事故を起こす運転手と基本的にはあまり差がないと思います.もちろん自分が死亡するリスクの方が高いですが.
喫煙の有害性と心血管系リスクは国や文化の境界を超えており、紙巻タバコ1本吸うごとに心筋梗塞発症のリスクが1.056倍に増えることが、大規模患者対照研究で示された
Reviewed by Gary D. Vogin, MD
タバコを吸うと、非致死性の心筋梗塞(MI)のリスクが有意に増加し、それは直接喫煙あるいは受動喫煙かにかかわらず、世界各地で見られるさまざま曝露形式から独立していることが、大規模な国際的患者対照研究で示された。この知見は、喫煙や他の方法によるタバコの使用が心疾患の原因となっていることを示す、大量の疫学的証拠に対する世界的な認識をいっそう強めるものである。
『Lancet』8月19日号に掲載された今回の分析では、現在の喫煙行為には、まったく喫煙経験がない者の調整したMIリスクを3倍近くにする有害性があり、その有害性はタバコの使用方法を変えても回避出来ないことが示されている。この研究ではタバコの影響について、無煙タバコだけでなく、南中央アジアなど特定の地域に主に限定されているあまり一般的でない喫煙方法についても調べられた。
「今回の結果は、タバコがいかなる形式であっても有害であることを示している」と、著者であるマクマスター大学(オハイオ州ハミルトン)のKoon K. Teo, MDらが記述している。その他の注目すべき知見としては、1日の紙巻タバコ消費本数が例え2,3本であっても、消費本数とMI発症の可能性傾向との間に有意な用量反応関係があることなどである。
この研究に関して、マサチューセッツ大学医学部(ウースター)のIra S. Ockene, MDがheartwireに寄せたコメントによれば、今回の研究はかなり昔の仕事を再現したものだが、地理的な面だけでなく、タバコ曝露のほぼすべての形式にわたり検討した点で、世界的に客観性を含んだ「これまで以上の大きな成果もある」。今回のデータの中では、噛みタバコと受動喫煙のリスクに関するデータが重要であり、「タバコを止めたことで利益が得られるのにかかる時間についての、これまでの知見がさらに進んだ」と、博士は述べた。しかし、禁煙することで肺癌リスクが改善されるためには多年を要するのに対して、心血管系への利益は比較的早期に現われることについては、ほとんどの心臓専門医でもその真の価値を認識していないと、博士は言う。
heartwireとのインタビューの中で、筆頭著者のTeo博士も禁煙で劇的に現われる利益について言及した。「たとえヘビースモーカーであっても、リスクは約半分になる。禁煙するのに遅すぎることはなく、その利益はかなり早くに現われる。これが私が今、患者に向けて伝えているメッセージだ」。
Teo博士らは、急性MIの初回患者12,133例と、年齢・性別をマッチングさせた地域住民対照群14,435例を対象にして、タバコ使用の種類を調査した。募集した国は、ほぼ全大陸の52カ国に及ぶ。極めて一般的な使用方法である紙巻タバコ喫煙を、人口統計学的、地理学的、そして他の変数で調整した分析では、
・総じて、現在の喫煙者における非致死性MIのリスク(オッズ比[OR])は禁煙経験のない者に対して2.95(P<0.0001)であった。リスクは、高齢者よりも若年者で高く、男性よりも女性で低かった。
・過去の喫煙者で、止めてから3年以内の者のリスクはほんの1.85であった。い一方、タバコを止めて20年経った者でもリスクは1.22で持続した。
・MIリスクは、1日の紙巻タバコ喫煙数が1本から9本の者では1.63であったが、1日に20本を超えると4.59に激増した(いずれの結果ともP<0.0001)。分析によれば、1日に吸う本数が1本増えるごとに、リスクが5.6%増加した。
・コントロール群のうち、受動喫煙に曝露していないと報告したものは半分に満たなかった。1週間の曝露時間が1時間から7時間までの者であっても、MIリスクはまったく曝露しない者に比べて1.24になり、有意に高かった。曝露時間が1週間あたり21時間を超えると、このリスクは1.62に達した。
有害性は、従来の紙巻タバコに限られていなかった。本研究グループが「少量のタバコを乾燥したボンベイコクタンの葉で巻き糸で縛ったもの」と記載した、南アジアでは紙巻タバコより一般的な糸で縛った手巻きタバコ(ビーディ)の喫煙によるリスクは、タバコ未経験者に比べて2.89になった。中東で一般的な喫煙方法である水パイプを通した水タバコ(シーシャ)のリスクは、2.16であった。
タバコ製品を喫煙しないで用いる方法は、南中央アジアで最も一般的である。製品自体を噛む噛みタバコでは、MIリスクが2倍以上になった。噛みタバコと紙巻タバコの喫煙を両方行う者のMIリスクは、未喫煙者の4倍になった。
こうした情報は、自らの喫煙方法が紙巻タバコと同程度に有害であるとは思っていないことが多い多様な文化背景の患者を指導する際に有用だと、Teo博士は言う。「例えば南アジア出身の患者に、(タバコの)有害性が北米の研究で証明されたと話したとしても、患者は、それは米国人やカナダ人についてであって、自分は違う国の出身だと言うでしょう」。そうした場合にも今回の研究の説得力は強いはずだと、博士は述べた。
関連する論説記事において、「莫大な量のデータから得られた今回の圧倒的な結論とは、タバコ曝露は、紙巻タバコ、パイプ、葉巻、ビーディ、シーシャ、煙なしであろうが、受動喫煙または能動喫煙であろうが、フィルター付きであろうがなかろうが、ほんの少量であろうが、世界中の男性と女性において心筋梗塞の原因として大きな部分を占める、ということだ」と、ハーバード大学公衆衛生学部(マサチューセッツ州ボストン)のSarah A. Rosner博士とMeir J. Stampfer博士が記している。「ほんの低レベルの能動喫煙であってもリスクが顕著に増大するという知見は、受動喫煙も大きなリスク因子であることの信憑性をさらに高めるものである」Lancet. 2006;368:621-622, 647-658.』
これでも人前で煙草を吸う人は,酒酔い運転で他車に追突して死亡事故を起こす運転手と基本的にはあまり差がないと思います.もちろん自分が死亡するリスクの方が高いですが.
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