記者はわかってるのだろうか?
2006年6月28日 医療の問題 コメント (3)『 -- 動脈と静脈間違えて処置 患者死亡で県警捜査 --
千葉県市原市の県循環器病センター(龍野勝彦(たつの・かつひこ)センター長)は27日、約2年前にカテーテルを静脈に挿入する際、誤って動脈に刺す医療事故があり、脳に障害が残った70代の男性入院患者が25日に死亡したと発表した。
同センターから26日に連絡を受けた市原署は、死亡した男性のカルテ類の任意提出を受け、センター長らから事情を聴くなどして、業務上過失致死容疑を視野に捜査を始めた。
同センターによると、男性は2004年4月、腹部大動脈瘤(りゅう)破裂と診断され入院、手術を受けた。大腸菌による血液の凝固を防ぐため04年5月中旬、30代の担当医が薬剤を投与するため、鎖骨下の静脈にカテーテルを挿入しようとしたところ誤って動脈を刺し、出血多量で心肺停止状態になった。
男性は蘇生(そせい)術で一命を取りとめたが、重い脳障害が残り、今年2月には多剤耐性緑膿(りょくのう)菌を検出。今月25日に細菌性肺炎で死亡した。
担当医は当時、カテーテル挿入の経験があり、センター側に「やり方は熟知していた」と説明していたという。
龍野センター長は「2年前は家族の要望があり、警察に届けなかった」としている。』
たとえ事実であっても解説が不十分なためにマスコミが社会に害を及ぼした例として「白インゲン豆ダイエット法」で視聴者が下痢などを訴えた問題がある.総務省は「番組を見た1000人以上が体調不良を訴えるなど重大な被害を引き起こした」と行政指導では最も重い総務相名の警告を出し,TBS側は取締役2人を減俸20%、制作局長ら4人を2〜3日の出勤停止とするなどの処分を発表し,井上弘社長は給与の30%を自主返上することにしたそうである.
マスコミの言うことを鵜呑みにする国民にも問題がないとは言わないが,これだけ影響力があるのだから情報の発信には十分注意する社会的責任がマスコミにはあるのではないだろうか.いままでにも医療事故の不適切な報道は多々あったのだが,今回のニュースはあまりにもずさんな文章なので少しコメントさせてもらうことにした.
記事の内容としては「約2年前に大腸菌による敗血症からDICとなった男性に鎖骨下静脈穿刺による中心静脈ルートを確保しようとしたところ動脈を穿刺してしまい心肺停止となり,蘇生はしたものの脳障害が残った.今年2月に多剤耐性緑膿菌を検出し今月25日に細菌性肺炎で死亡した.」ということだろう.
だがこの記事には疑問な点がたくさんある.
1.細菌性肺炎で死亡したのなら死因は肺炎であるはず.
2.細菌性肺炎の起因菌は2月に検出された多剤耐性緑膿菌緑膿菌だったのか.
3.もしそうなら死因は院内感染による疑いがあるのではないだろうか.
4.脳障害と感染症で死亡する可能性の因果関係を合理的に証明できるか.
5.鎖骨下動脈穿刺が原因の出血多量で心肺停止することがあるのだろうか.
6.DICかつ出血多量の心肺停止がなぜ蘇生できたのか.
7.「2年前は家族の要望があり、警察に届けなかった」とはどういうことか.
それが,何故,「動脈と静脈間違えて処置 患者死亡で県警捜査」というタイトルになるのだろうか.これがもっとも疑問である.どうも不幸にして起きてしまった医療事故と患者の死亡を強引に結びつけているような印象がするのは私だけだろうか.
鎖骨下静脈穿刺という手技は皮膚の上から見えない静脈を穿刺するものであり,動脈を穿刺しての出血や肺を穿刺しての気胸などの合併症は誰がやっても起きる可能性があることもこの記事からはわからないであろう.中心静脈ルートは手足の末梢静脈から投与できない薬を使う上で必須である.頚静脈,鎖骨下静脈,大腿静脈などを穿刺するが,状況によりどこを穿刺するかは主治医の判断や経験によるものである.
外科的手技の起きうる合併症で,死亡したら訴えられるというのでは治療法として選択しにくくなるのは明らかである.患者が自分の病気を治療する際のリスクを負わないというのであれば,医師もリスクを負いたくなくなるのは当然ではないだろうか.救命救急の現場では説明と同意に時間をかけることができない場合も多い.中心静脈ルートをとるために説明に時間をかけていたら患者が蘇生もできずに死亡してしまうことだってあり得るのである.
医療現場の実態もわかってないようなマスコミが医療事故を十分な解説もせずにセンセーショナルなタイトルで報道することはいたずらに医療不信を流布し国民にとって不利益をもたらすだけだと思うのだが,こういったマスコミの行為はだれが監視し規制すべきなのだろうか.繰作された情報に流され医療者を敵にまわして高くて質の悪い医療になっては国民の利益になることは一つもないだろう.医療事故の監視と同様にマスコミの医療事故の報道を監視する第3者機関もつくったほうがいいのではないだろうか.
千葉県市原市の県循環器病センター(龍野勝彦(たつの・かつひこ)センター長)は27日、約2年前にカテーテルを静脈に挿入する際、誤って動脈に刺す医療事故があり、脳に障害が残った70代の男性入院患者が25日に死亡したと発表した。
同センターから26日に連絡を受けた市原署は、死亡した男性のカルテ類の任意提出を受け、センター長らから事情を聴くなどして、業務上過失致死容疑を視野に捜査を始めた。
同センターによると、男性は2004年4月、腹部大動脈瘤(りゅう)破裂と診断され入院、手術を受けた。大腸菌による血液の凝固を防ぐため04年5月中旬、30代の担当医が薬剤を投与するため、鎖骨下の静脈にカテーテルを挿入しようとしたところ誤って動脈を刺し、出血多量で心肺停止状態になった。
男性は蘇生(そせい)術で一命を取りとめたが、重い脳障害が残り、今年2月には多剤耐性緑膿(りょくのう)菌を検出。今月25日に細菌性肺炎で死亡した。
担当医は当時、カテーテル挿入の経験があり、センター側に「やり方は熟知していた」と説明していたという。
龍野センター長は「2年前は家族の要望があり、警察に届けなかった」としている。』
たとえ事実であっても解説が不十分なためにマスコミが社会に害を及ぼした例として「白インゲン豆ダイエット法」で視聴者が下痢などを訴えた問題がある.総務省は「番組を見た1000人以上が体調不良を訴えるなど重大な被害を引き起こした」と行政指導では最も重い総務相名の警告を出し,TBS側は取締役2人を減俸20%、制作局長ら4人を2〜3日の出勤停止とするなどの処分を発表し,井上弘社長は給与の30%を自主返上することにしたそうである.
マスコミの言うことを鵜呑みにする国民にも問題がないとは言わないが,これだけ影響力があるのだから情報の発信には十分注意する社会的責任がマスコミにはあるのではないだろうか.いままでにも医療事故の不適切な報道は多々あったのだが,今回のニュースはあまりにもずさんな文章なので少しコメントさせてもらうことにした.
記事の内容としては「約2年前に大腸菌による敗血症からDICとなった男性に鎖骨下静脈穿刺による中心静脈ルートを確保しようとしたところ動脈を穿刺してしまい心肺停止となり,蘇生はしたものの脳障害が残った.今年2月に多剤耐性緑膿菌を検出し今月25日に細菌性肺炎で死亡した.」ということだろう.
だがこの記事には疑問な点がたくさんある.
1.細菌性肺炎で死亡したのなら死因は肺炎であるはず.
2.細菌性肺炎の起因菌は2月に検出された多剤耐性緑膿菌緑膿菌だったのか.
3.もしそうなら死因は院内感染による疑いがあるのではないだろうか.
4.脳障害と感染症で死亡する可能性の因果関係を合理的に証明できるか.
5.鎖骨下動脈穿刺が原因の出血多量で心肺停止することがあるのだろうか.
6.DICかつ出血多量の心肺停止がなぜ蘇生できたのか.
7.「2年前は家族の要望があり、警察に届けなかった」とはどういうことか.
それが,何故,「動脈と静脈間違えて処置 患者死亡で県警捜査」というタイトルになるのだろうか.これがもっとも疑問である.どうも不幸にして起きてしまった医療事故と患者の死亡を強引に結びつけているような印象がするのは私だけだろうか.
鎖骨下静脈穿刺という手技は皮膚の上から見えない静脈を穿刺するものであり,動脈を穿刺しての出血や肺を穿刺しての気胸などの合併症は誰がやっても起きる可能性があることもこの記事からはわからないであろう.中心静脈ルートは手足の末梢静脈から投与できない薬を使う上で必須である.頚静脈,鎖骨下静脈,大腿静脈などを穿刺するが,状況によりどこを穿刺するかは主治医の判断や経験によるものである.
外科的手技の起きうる合併症で,死亡したら訴えられるというのでは治療法として選択しにくくなるのは明らかである.患者が自分の病気を治療する際のリスクを負わないというのであれば,医師もリスクを負いたくなくなるのは当然ではないだろうか.救命救急の現場では説明と同意に時間をかけることができない場合も多い.中心静脈ルートをとるために説明に時間をかけていたら患者が蘇生もできずに死亡してしまうことだってあり得るのである.
医療現場の実態もわかってないようなマスコミが医療事故を十分な解説もせずにセンセーショナルなタイトルで報道することはいたずらに医療不信を流布し国民にとって不利益をもたらすだけだと思うのだが,こういったマスコミの行為はだれが監視し規制すべきなのだろうか.繰作された情報に流され医療者を敵にまわして高くて質の悪い医療になっては国民の利益になることは一つもないだろう.医療事故の監視と同様にマスコミの医療事故の報道を監視する第3者機関もつくったほうがいいのではないだろうか.
コメント
私は花屋さんなのでよく分からない言葉もありますが、病院は利用する側なので興味深いことばかりです。
北海道にも憧れます。
これからも続けていってくださいね。
人気ブログランキングの[HOME]のクリックが長いこと分からなかったです。読む側からすれば興味が薄い部分なので高齢者にも分かる程大きくしてほしいです。
1000回やったら1回はこういうことが起きます.....という
確率の問題でも「ミス」と書きたてられると
ちょっとでもリスクのあるものは避けたいと思ってしまいます。
良かれと思ってやったことで、その結果が悪かった場合
「ミスだ!!」と訴えられる....。
なんて割りに合わないんでしょう....。
モチベーション下がります。