『 -- 若手医師、脳外科離れ 激務・訴訟リスクを恐れ? --

 今春、2年間の臨床研修後に脳神経外科を専門分野として選んだ若手医師が、数年前に比べ2割程度減ったことが、日本脳神経外科学会の調査で明らかになった。同学会理事会に11日報告された。理事らは「産婦人科医や小児科医などと同様、仕事のきつさや訴訟リスクが敬遠されたのではないか」とみている。

 担当した寺本明・日本医大教授らによると、調査は全国の大学の脳外科や学会訓練施設に指定されている約390施設が対象。04年に必修化された臨床研修の1期生が2年の前期研修を終えたのを機に、今春、脳外科を選んだ医師の数を調べたところ170人だった。99〜02年の同学会の新入会員数は203〜229人で、2割前後少ない。

 全国80大学のうち23大学では、新たに脳外科を選んだ医師が一人もいなかった。都道府県別でみても9県でゼロで、地方から影響が出る恐れが指摘されている。

 志望者減の理由は調べていないが、トラブルによる訴訟や昼夜を問わないなど厳しい勤務条件が原因で減っているとされる産婦人科医や小児科医と同じ構図とみる。また「臨床研修のカリキュラムが、脳外科に魅力を感じさせるものになっていないのではないか」との見方も出ている。

 若手医師の進路に関して最近のまとまった調査はないが、日本産科婦人科学会によると、大学病院などの常勤産婦人科医は03〜05年で8%減り、お産の扱いをやめた病院も相次いでいる。

 小児科も志望者減が著しい。日本小児科学会の調査によると、今春、研修後に小児科を志望したのは276人。03年度に比べ4割以上減った。

 厚生労働省調査によると、04年の医師総数は00年に比べ5.7%増えたが、小児科医、脳神経外科医の伸びはこれを下回り、産婦人科医は4%減っている。』

 脳外科専門医は多すぎるという意見をだいぶん前に聞いたことがある.ちょうど専門医になる頃で,専門医試験が非常に難しいのは専門医を増やさないためなんだと思っていた.それから10年以上経ってみると専門医というのは単に脳外科医ですよと自己紹介するための名刺みたいなもので,だから何だと言われると今でも答えに困ってしまうようなものである.高度に専門的な知識を持っていることに違いはないが,医学博士号と同程度であると言ったらまずいだろうか.

 研修医制度がはじまったころには新入医局員が2年間は来なくなることばかりが話題になっていたが,私はむしろ臨床研修終了後に脳外科医をめざすものが半減すると心配していたから2割減ならまだいいほうだったような気がする.それよりも小児科や産婦人科がこんなひどい状況になることは当時予想していなかったことである.もっとも,脳外科医である私が小児科医にならなくてよかったと思うくらいだから研修医たちがそう感じても不思議はないのかもしれない.

 脳外科医はこれから若手が相対的に少なくなり高齢化していくことになるのだろうか.いまのところ救急対応で深刻な事態になるとは思えないが,いずれ産婦人科のように頭部外傷や脳出血などの対応に問題が出る可能性はあるだろう.ところで,脳神経外科学会は今後積極的に脳外科医を増やすつもりなのだろうか.それとも少数精鋭でやっていくつもりなのだろうか.各種ガイドラインに従って自ら手術適応をせばめて手術の数を減らしたり,脳梗塞を神経内科医や循環器内科医にみてもらえばそれほど脳外科医はいらないという考え方もあるだろう.

 脳外科医を目指す医師が減少した理由が仕事のきつさや訴訟リスクというのはたしかにあるだろうが,本当の理由はもっと他にあるのではないだろうか.胸部外科や一般外科だって仕事はきついし訴訟のリスクもそれほど変わるとは思えないからだ.私が脳外科医になりたての頃に感じたのは,脳神経というのは未だに未知の部分が多く論理的に明快でなく理解しにくい,手術時間が長いだけでなく顕微鏡を使う手術の技術の習得に時間がかかり術者になれる人が限られている,そして,その割には診療報酬や社会的な評価が相対的に低い,ということである.

 一言でいえばやりがいがないということになるのではないだろうか.そのせいか,脳外科医には自己完結型の人が多いような気がする.悪く言えばひとりよがりな人間であるが,あえて未知の領域や困難な状況を自分の力で克服することに喜びを見いだせる人にとっては魅力的な診療科だろう.もっともそんな物好きな人間がそれほどいるわけはない.臨床研修制度のおかげで研修医は進路の決定のための比較がしやすくなったのだろうが,せっかく医師になったのだから,勇気を持って脳神経外科を選択してもらいたいものだ.

コメント

nophoto
撫子
2006年5月15日23:21

確かに小児科医に比べたら、脳外科医の先生達は、40時間くらい働いてると思います。小児科医は9時から17時までだけれど・・・

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