医師はもう信用しない
2006年3月13日 医療の問題 コメント (3)『 -- 帝王切開の執刀医を起訴 福島県立病院医療事故で --
福島県大熊町の福島県立大野病院で2004年、帝王切開した女性=当時(29)=が死亡した医療事故で、福島地検は10日、業務上過失致死と医師法違反の罪で、執刀した医師加藤克彦(かとう・かつひこ)容疑者(38)=同県大熊町=を起訴した。
起訴状などによると、加藤被告は04年12月17日、帝王切開の手術を執刀した際、胎盤の癒着で大量出血する可能性があり、生命の危険を未然に回避する必要があったにもかかわらず、癒着した胎盤を漫然とはがし大量出血で福島県楢葉町の女性を死亡させた。また女性の死体検案を24時間以内に警察署に届けなかった。
日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は、加藤被告の起訴について「術前診断が難しく、治療の難度が最も高い事例で対応が極めて困難。産婦人科医不足という現在の医療体制の問題点に根差しており、医師個人の責任を追及するにはそぐわない部分がある」との声明を発表。
加藤被告の逮捕に反発し、インターネットで情報交換している医師グループの1人も「加藤医師に過失はなく起訴は不当」としている。』
医師はもう司法の大岡裁きを待つしかないのだろうか.一連の経過や産婦人科医たちのコメントを聞いたところでは,なにもわかっていない警察の不当逮捕と医療の現場が理解できない検察のピントはずれな起訴という評価しかできない.
起訴された以上は司法の判断を待つしかないだろうが,無知ゆえに社会への影響を考えることのできない一部の人たちのためにどれほどの妊婦さんや外科の患者さんたちが不利益を被るのかは想像できない.結果が悪ければ医学的に不可避と思えるような事態であっても,刑事告訴は免れないだけでなく逮捕もされるという現実が今回の一件で明らかになったわけである.
これでは合併症のリスクの高い手術や救命率の低い処置はすべて避けるようになるのが賢い医師の選択ということになるだろう.一定の確率で不測の事態に陥ることがわかっている外科医であればこそ,検察が仕掛けた地雷原の中にわざわざ目隠しで入り込むようなまねはしないだろう.そんなことをしていたら命がいくつあっても足りないからである.逮捕されてしまえばたとえ何年後かに裁判で勝ったとしても外科医としての生命は終わってしまうのである.
インフォームドコンセントの際にリスクの説明をしても本当にその意味を理解できる家族は実際には非常に少ないし,救命救急の場では十分に説明している時間もないのが現実である.結果が悪ければ今回のようにリスクを十分に説明してもらえなかったとかそんなに危険なものとは思わなかったとか言い出す家族は必ずいると思ったほうがいいだろうし,そういう家族がいれば警察そして検察も動くであろうことは容易に想像ができる.
自分が医の倫理にしたがってできるだけのことをやっていれば逮捕されたり訴えられたりしないと自信を持って言える医師がいたとすればきっとリスクの高い患者はみんなその医師のところに紹介されてくることになるだろう.医師法にはより適切な治療のできるところに患者を移すのは医師の義務であると書かれている.紹介しないで結果が悪ければ解釈次第で医師法違反で逮捕することも可能なのである.
後ろ向きな発言はしたくはないが,今回の逮捕劇にはこういった疑心暗鬼を医師に抱かせるに十分な要素が含まれていると思われる.臨床をちゃんとやってない医師や医師でない人たちにはこの異常な事態がきっと十分に理解できないのだろう.現在でも「患者が医者を信用しない」というお寒い状況のようだが,これからは「医者も患者を信用しない」とか「逮捕が怖いから治療しない」という医療の氷河期がくるかも知れないと言ったら少しはわかりやすいだろうか.
福島県大熊町の福島県立大野病院で2004年、帝王切開した女性=当時(29)=が死亡した医療事故で、福島地検は10日、業務上過失致死と医師法違反の罪で、執刀した医師加藤克彦(かとう・かつひこ)容疑者(38)=同県大熊町=を起訴した。
起訴状などによると、加藤被告は04年12月17日、帝王切開の手術を執刀した際、胎盤の癒着で大量出血する可能性があり、生命の危険を未然に回避する必要があったにもかかわらず、癒着した胎盤を漫然とはがし大量出血で福島県楢葉町の女性を死亡させた。また女性の死体検案を24時間以内に警察署に届けなかった。
日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は、加藤被告の起訴について「術前診断が難しく、治療の難度が最も高い事例で対応が極めて困難。産婦人科医不足という現在の医療体制の問題点に根差しており、医師個人の責任を追及するにはそぐわない部分がある」との声明を発表。
加藤被告の逮捕に反発し、インターネットで情報交換している医師グループの1人も「加藤医師に過失はなく起訴は不当」としている。』
医師はもう司法の大岡裁きを待つしかないのだろうか.一連の経過や産婦人科医たちのコメントを聞いたところでは,なにもわかっていない警察の不当逮捕と医療の現場が理解できない検察のピントはずれな起訴という評価しかできない.
起訴された以上は司法の判断を待つしかないだろうが,無知ゆえに社会への影響を考えることのできない一部の人たちのためにどれほどの妊婦さんや外科の患者さんたちが不利益を被るのかは想像できない.結果が悪ければ医学的に不可避と思えるような事態であっても,刑事告訴は免れないだけでなく逮捕もされるという現実が今回の一件で明らかになったわけである.
これでは合併症のリスクの高い手術や救命率の低い処置はすべて避けるようになるのが賢い医師の選択ということになるだろう.一定の確率で不測の事態に陥ることがわかっている外科医であればこそ,検察が仕掛けた地雷原の中にわざわざ目隠しで入り込むようなまねはしないだろう.そんなことをしていたら命がいくつあっても足りないからである.逮捕されてしまえばたとえ何年後かに裁判で勝ったとしても外科医としての生命は終わってしまうのである.
インフォームドコンセントの際にリスクの説明をしても本当にその意味を理解できる家族は実際には非常に少ないし,救命救急の場では十分に説明している時間もないのが現実である.結果が悪ければ今回のようにリスクを十分に説明してもらえなかったとかそんなに危険なものとは思わなかったとか言い出す家族は必ずいると思ったほうがいいだろうし,そういう家族がいれば警察そして検察も動くであろうことは容易に想像ができる.
自分が医の倫理にしたがってできるだけのことをやっていれば逮捕されたり訴えられたりしないと自信を持って言える医師がいたとすればきっとリスクの高い患者はみんなその医師のところに紹介されてくることになるだろう.医師法にはより適切な治療のできるところに患者を移すのは医師の義務であると書かれている.紹介しないで結果が悪ければ解釈次第で医師法違反で逮捕することも可能なのである.
後ろ向きな発言はしたくはないが,今回の逮捕劇にはこういった疑心暗鬼を医師に抱かせるに十分な要素が含まれていると思われる.臨床をちゃんとやってない医師や医師でない人たちにはこの異常な事態がきっと十分に理解できないのだろう.現在でも「患者が医者を信用しない」というお寒い状況のようだが,これからは「医者も患者を信用しない」とか「逮捕が怖いから治療しない」という医療の氷河期がくるかも知れないと言ったら少しはわかりやすいだろうか.
コメント
本件に関して,福島産科医師不当逮捕に対し陳情書を提出するホームページ http://www006.upp.so-net.ne.jp/drkato/がありますので,どうぞ先生のブログでもご紹介下さい.
このDrはかなり周囲開業医からの評判もいいDrだっと聞きます.同じ年代のため,僕自身も大変心を痛めるとともに,バイト先での今後の処置等に影響が出そうです.
コロノ助先生がおっしゃっているホームページ、
私も拝見して、署名(メール)しました。
こういう事例が続くと、訴えられないような診療科に進む
学生が増えるでしょうね。
なんとも寒い時代になったもんです。