いつかはこうなる

2005年10月15日
『--約2800万円の賠償命じる 函館赤十字病院のミス認定--

 北海道の函館赤十字病院で受けた動脈瘤(りゅう)の手術で全身まひなどの後遺症が出たとして、福岡市の女性(56)とその夫が、病院を管理する日本赤十字社(東京都)に約9000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、函館地裁の大久保正道(おおくぼ・まさみち)裁判長は13日、日赤に約2800万円の支払いを命じた。

 大久保裁判長は判決理由で「医師が動脈瘤の破裂の危険性を十分に認識せず、止血対策を十分に整えることをしなかった」と病院側のミスを指摘。減額の理由については「本件手術以外にもくも膜下出血をしており、被告のミスがなくても後遺症があった可能性が高い」と述べた。

 判決によると、2000年1月、北海道上磯町に住んでいた女性は激しい頭痛で函館赤十字病院に入院。くも膜下出血のため手術を受けたが、手術中の動脈瘤破裂などによる大量出血で脳障害が起き、全身のまひや意識障害などの後遺症が出た。

 同病院は「判決文をよく読んで、今後の対応を決めたい」と話している。』

「医師が動脈瘤の破裂の危険性を十分に認識せず、止血対策を十分に整えることをしなかった」というのはちょっと信じられないことである.脳動脈瘤の手術をする脳外科医が破裂のリスクを知らないわけはないし,出血に対する準備をできるかぎりするのは常識である.手術前に家族に説明し同意を得る際にも必ず破裂と出血のリスクの説明がなされるはずであるが,それを怠っていたのであろうか.

 それと止血対策といっても破裂した動脈瘤の親血管を止血のために閉塞させれば脳梗塞を起す可能性もあるのである.だから止血ができても結果的に大きな後遺障害を起す可能性もある.要するに破裂した際には可能なかぎりの処置を施しても重大な結果になることが避けられない場合があることは脳外科医なら誰でも知っていることである.

 刑事訴訟でないだけましではあるが,2800万円の賠償額が適当かどうかは意見がわかれるところであろう.ちなみに脳動脈瘤の手術の技術料は68万円程度である.破裂脳動脈瘤は初回の破裂で約50%が死亡するといわれる.残り50%のうち半分の約25%が社会復帰できるとしても残り25%の患者さんは後遺障害で苦しむわけである.もちろん不幸にして寝たきりになってしまう患者さんもその中にいるわけである.

 仮に手術した患者さんの5%が寝たきりになったとして,その家族が手術の結果だけで同様の訴訟を起したらどうなるであろうか.動脈瘤が1個X68万円X19例=1292万円.損害賠償1例X2800万円.これではいずれ手術する病院はなくなり脳外科医になる医師は激減し脳外科の治療レベルも低下するだろう.

 これなら損害賠償分の保険料を診療報酬に上乗せするか,もしくは手術の結果に補償をもとめる場合は自由診療とするのでなければ成り立たないだろう.それでも金銭的な問題は緩和されても執刀医が刑事訴訟に巻き込まれるリスクは避けられないのである.脳外科医である以上,脳動脈瘤の患者を救命するためにしたことで訴えられることが避けられないとしたら脳外科医にも救済処置が欲しいと考えるのはいけないことであろうか.

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索