脳血管内手術での出血は事故か?
2005年7月6日 医療の問題『--手術ミスで女性が意識不明 杏林大病院、警視庁が捜査--
杏林(きょうりん)大病院(東京都三鷹市)で6月、脳血管手術を受けた東京都内の70代の女性患者が、手術後にくも膜下出血で意識不明になっていることが6日、分かった。病院側は「手術中のカテーテルの操作ミスで血管を傷つけた可能性がある」と家族らに謝罪し、警視庁三鷹署に届けた。同署は業務上過失傷害容疑で捜査を始めた。
病院は外部の専門医を含む調査委員会を設け、原因の究明を進めており、石井良章(いしい・よしあき)病院長は「結果を重く受け止め、再発防止に努めたい」としている。
病院側によると、女性は4月から歩行障害やめまいの症状があり6月20日、脳浮腫などで同病院に入院。脳硬膜の静脈に異常が見つかり、6月30日に閉塞(へいそく)した血管を再開通する手術を受けた。
手術は午前9時40分ごろに始まったが、女性が吐き気などを訴えたため約3時間で中止。女性は同日午後4時20分ごろ、くも膜下出血で昏睡(こんすい)状態となり呼吸も停止、集中治療室(ICU)で意識不明の状態が続いている。
手術は50代の助教授、40代の非常勤講師、30代の助手の3人が担当。当初は助手がカテーテルを操作したが、操作が困難になるなどして途中で助教授に交代した。3人とも手術の経験は豊富という。』
脳血管内手術中のくも膜下出血はたしかに医療事故なのかもしれないが,脳外科医からみれば治療によって起こりうる合併症のひとつであり再発防止にとりくんでもこれを0にすることは今の器具と手技ではおそらく不可能と思われる.そして出血すればほとんどの場合は致命的であるというのが現状だろう.それゆえ脳外科医の私としては直達手術が安全に行えるものまで血管内手術をするのには賛成できない.というかたとえ頭にキズが残っても血管内手術で偶発的に死ぬのだけはお断りである.
専門医とは十分なトレーニングを受けて血管内治療学会の認定を受けた医師であるが,だからといってすべての合併症を避けれるわけではないということを患者や家族も理解しておく必要があるだろう.そもそも手術を行わずに造影剤を使って脳の血管の検査をする脳血管撮影だけでさえ合併症のリスクは1%程度はあるといわれており,最近では治療に不必要な血管撮影は避ける傾向にあるぐらいなのである.
とはいえ血管内手術は直達手術より生体侵襲が少ないため高齢者の場合や,直達手術のリスクが非常に高い場合,あるいは塞栓術のように血管内からしか行い得ない場合には第一選択となる治療法であることも事実である.むしろ問題はリスクを犯しても手術をする必要があったのかとか,患者側にこういったリスクが十分に説明されて納得されていたのかということだろう.
そもそもこういった事故はミスだったのか不可避なものだったのかも術者しかわからない場合もあり結果だけで判断されるのには問題があるだろう.最近の傾向として死亡事故になると専門医であっても業務上過失致死に問われたりするので血管内治療をやる医師のストレスはかなりのものだろうと思われる.
予期し得ない,あるいは予防し得ないトラブルは臨床には付き物であり,これは初心者のミスとはちがって症例をたくさんやっていればいつかは経験する可能性のあるものである.外科医をやっていてよく思うことは「運も実力のうち」ということである.これから医師になろうと思う人は日頃から運を味方につける生活態度を心がけたほうがいいだろう.悪運が強い人は気にならないかもしれないが,気の小さい私などは最近では運に見放されないように清く正しい生活を心がけている次第なのである.
杏林(きょうりん)大病院(東京都三鷹市)で6月、脳血管手術を受けた東京都内の70代の女性患者が、手術後にくも膜下出血で意識不明になっていることが6日、分かった。病院側は「手術中のカテーテルの操作ミスで血管を傷つけた可能性がある」と家族らに謝罪し、警視庁三鷹署に届けた。同署は業務上過失傷害容疑で捜査を始めた。
病院は外部の専門医を含む調査委員会を設け、原因の究明を進めており、石井良章(いしい・よしあき)病院長は「結果を重く受け止め、再発防止に努めたい」としている。
病院側によると、女性は4月から歩行障害やめまいの症状があり6月20日、脳浮腫などで同病院に入院。脳硬膜の静脈に異常が見つかり、6月30日に閉塞(へいそく)した血管を再開通する手術を受けた。
手術は午前9時40分ごろに始まったが、女性が吐き気などを訴えたため約3時間で中止。女性は同日午後4時20分ごろ、くも膜下出血で昏睡(こんすい)状態となり呼吸も停止、集中治療室(ICU)で意識不明の状態が続いている。
手術は50代の助教授、40代の非常勤講師、30代の助手の3人が担当。当初は助手がカテーテルを操作したが、操作が困難になるなどして途中で助教授に交代した。3人とも手術の経験は豊富という。』
脳血管内手術中のくも膜下出血はたしかに医療事故なのかもしれないが,脳外科医からみれば治療によって起こりうる合併症のひとつであり再発防止にとりくんでもこれを0にすることは今の器具と手技ではおそらく不可能と思われる.そして出血すればほとんどの場合は致命的であるというのが現状だろう.それゆえ脳外科医の私としては直達手術が安全に行えるものまで血管内手術をするのには賛成できない.というかたとえ頭にキズが残っても血管内手術で偶発的に死ぬのだけはお断りである.
専門医とは十分なトレーニングを受けて血管内治療学会の認定を受けた医師であるが,だからといってすべての合併症を避けれるわけではないということを患者や家族も理解しておく必要があるだろう.そもそも手術を行わずに造影剤を使って脳の血管の検査をする脳血管撮影だけでさえ合併症のリスクは1%程度はあるといわれており,最近では治療に不必要な血管撮影は避ける傾向にあるぐらいなのである.
とはいえ血管内手術は直達手術より生体侵襲が少ないため高齢者の場合や,直達手術のリスクが非常に高い場合,あるいは塞栓術のように血管内からしか行い得ない場合には第一選択となる治療法であることも事実である.むしろ問題はリスクを犯しても手術をする必要があったのかとか,患者側にこういったリスクが十分に説明されて納得されていたのかということだろう.
そもそもこういった事故はミスだったのか不可避なものだったのかも術者しかわからない場合もあり結果だけで判断されるのには問題があるだろう.最近の傾向として死亡事故になると専門医であっても業務上過失致死に問われたりするので血管内治療をやる医師のストレスはかなりのものだろうと思われる.
予期し得ない,あるいは予防し得ないトラブルは臨床には付き物であり,これは初心者のミスとはちがって症例をたくさんやっていればいつかは経験する可能性のあるものである.外科医をやっていてよく思うことは「運も実力のうち」ということである.これから医師になろうと思う人は日頃から運を味方につける生活態度を心がけたほうがいいだろう.悪運が強い人は気にならないかもしれないが,気の小さい私などは最近では運に見放されないように清く正しい生活を心がけている次第なのである.
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