報道A『--抗てんかん薬注射後に死亡 病院関係者を書類送検へ--

 東京都大田区の城南福祉医療協会大田病院(村岡威士(むらおか・たかし)院長)で2001年9月、女性患者(62)が抗てんかん薬の注射を受けた後に嘔吐(おうと)物をのどに詰まらせて死亡していたことが1日、分かった。

 警視庁大森署は、注射後に患者の経過観察を怠ったのが原因とみて、業務上過失致死の疑いで関係者を書類送検する方針。

 調べでは、女性は01年9月30日夕方、てんかんの発作の症状を訴えて救急外来を受診し、男性医師(40)の指示で女性看護師(48)が抗てんかん薬「アレビアチン」を注射。医師は指示後に帰宅し、看護師は別の患者の応対をした。しばらくして女性がぐったりしているのに看護師が気づき、蘇生(そせい)処置を施したがまもなく死亡したという。

 アレビアチンは劇薬で、呼吸停止や嘔吐などの副作用がある。

 大田病院は「大森署には同日中に届けている。捜査中なのでコメントは差し控えたい」としている。』

報道B『--抗てんかん薬注射で死亡、容疑の2人を書類送検へ--

 東京都大田区の医療法人城南福祉医療協会「大田病院」(村岡威士院長)で約4年前、品川区の主婦(当時62)が抗てんかん薬を注射された直後に死亡していたことがわかった。警視庁は処置後の経過観察を怠ったとして、担当した内科の男性医師(40)と女性看護師(48)を業務上過失致死の疑いで近く書類送検する方針だ。

 大森署の調べでは、主婦は01年9月30日、てんかんの発作を訴えて同病院を訪れた。医師の指示で看護師が抗てんかん薬「アレビアチン」を注射した約40分後、嘔吐(おうと)物をのどに詰まらせて意識不明になり、約5時間後に窒息死した。

 アレビアチンは国が指定する劇物で、吐き気などの副作用があるため、投与から一定時間の経過観察が必要とされている。だが医師は看護師に投与を指示しただけで帰宅し、看護師は経過観察を怠って主婦のそばを離れ、死亡させた疑いが持たれている。

 大田病院は「患者さまが亡くなったことは事実ですが、警察の捜査に協力しており、コメントは差し控えたい」としている。 』

同じニュース報道だが,AとBを読んで印象はどうであろうか.私は報道Bの方を先に目にしたのだが,警察にしても報道機関にしてもあまりに短絡的なものの考え方にちょっとあきれてしまった.

 事実はひとつのはずだが,書き方が問題なのだ.抗てんかん薬注射で死亡とか看護師は経過観察を怠って主婦のそばを離れ、死亡させた疑いとかいうと非常にセンセーショナルな印象があるのだがどうだろうか.

 これに対してAの方は抗てんかん薬注射後に死亡,注射後に患者の経過観察を怠ったのが原因とありこれならまあ事実のように考えることもできる.だが,嘔吐の原因がアレビアチンと断定するのはかなり難しいし,たとえ注射後でなくとも嘔吐による窒息が原因で死亡したのであればそれ自体が問題ではある.

 だが,問題はそれだけではない.ほとんどの病院で救急の患者さんを処置後に24時間監視し続けることは不可能なのが現実であるということがこの記事を読んだ誰にわかるだろうか.救急患者に必要な処置やその後の指示をして医師が帰宅することは普通のことであり,看護師が他の救急患者の処置にあたることも日常的である.

 もし,一人の救急患者のために医師と看護師が張り付いて経過観察をしなければ刑事告訴されるというのだったら救急患者を受け入れ可能な病院はかなり限られるだろう.なぜなら,救急に医師を十分まわせるほど医師が足りている市中病院はないだろうから.

 確かに憶えきれないほどたくさんあるアレビアチンの副作用のリストのなかに「嘔吐」と書かれてはいる.だが私自身も今までに注射薬も内服薬もかなりの量を使用しているが,連用して中毒になった患者さん以外ではみたことはないから救急処置としての1回投与ですぐに嘔吐するのはかなり稀な例であると思われる.(アレビアチンは癲癇治療に頻繁に使われている薬なのに正確な副作用発現頻度はわかっていない.)

 しかし,稀でも患者が死亡したとなれば薬の副作用と関連付けたくなるのだろう.報道Bのように書かれると一部のマスコミには疑わしい医療従事者は罰しようという意図があるのではないかとも思える.あまりに感覚的で短絡的な発想が一見正しいことのように報道されるのは困ったことである.なんでもそうだが,特に医療に関する報道は事実を科学的な視点から論じてもらいたいと思うのだが今のマスコミには不可能なのだろうか. 

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