『--肩凝りと診断後意識不明に くも膜下出血で倒れる --
 長野県臼田町の佐久総合病院(夏川周介(なつかわ・しゅうすけ)院長)で頭痛の原因を肩凝りと診断された佐久市の女性(55)が、診察後にくも膜下出血で倒れ、意識不明の重体になっていることが18日、分かった。女性の関係者は、診察した医師のミスとして業務上過失傷害容疑での告訴状を臼田署に出した。
 佐久総合病院によると、女性は10月23日午後2時ごろ、後頭部に頭痛がしたため同病院で診察を受けた。研修医は、女性の症状から肩凝りが原因と診断、鎮痛剤を処方した。女性は自宅に戻った後、倒れて意識不明となった。同日午後6時すぎに救急車で同病院に運ばれ、コンピューター断層撮影装置(CT)で検査した結果、くも膜下出血だったことが判明した。女性は現在も重体のまま同病院に入院中。夏川院長は「家族には病院として誠心誠意対応したい」と話している。』

この記事では研修医がくも膜下出血を誤診したという書き方だがそれにはちょっと問題がある.まず,後頭部痛で受診したと言うことだが,初診時に頭部CTを撮っていたかいたかどうかがまず問題になる.撮っていてくも膜下出血があったのなら見逃したことになるが専門医が見てもわからないほどの切迫破裂による出血や,まだほとんど出血していない解離性動脈瘤なんてこともある.こうなると研修医には診断できなくても不思議はない.

痛みというものには個人差があり,私の経験でも脳内出血を伴う動脈瘤破裂のくも膜下出血でも外来に歩いてやって来た人もいるくらいだから痛みの程度ではわからないだろう.むしろ,それまで痛くなかったものが突然に痛み出すのがくも膜下出血の特徴でそれが唯一の診断の手がかりだと私は思っているくらいである.

くも膜下出血の診断は誤診すれば極めて重大な結果となるので注意を要するものなのである.だが,もっとも大きな問題点は研修医制度で脳外科が必須でないことであろう.現在,日本では脳卒中による死因は癌,心筋梗塞に次ぐものであり,その中でも脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血による死亡率は高齢化によりわずかに増加傾向とはいえ減少はしていないのである.

こんなことを言うと明日にでも外来が増えるかも知れないが,筋緊張性頭痛や大後頭神経痛とくも膜下出血による頭痛の鑑別診断を研修医が行って誤診したら業務上過失傷害容疑にされるのでは頭痛の診断は脳外科専門医でもなければ責任を持てないだろうと思われる.たとえ神経内科医でも頭部MRAが読めて解離性動脈瘤の経験でもなければ脳外科専門医に紹介したいところだろう.

ところで,研修医には必ず指導医がいるはずであるが,このような場合には指導医にも責任が問われるのであろうか.こんなことで責任が問われるとしたら,やっぱり指導医なんてやってられないだろう.まあ,まれなケースではあろうが臨床研修医制度にはこのような潜在的な問題点はまだまだあると思われる.

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