『一刻も早い治療が重要な脳卒中や急性心疾患の救命率を上げるため、厚生労働省は31日までに救命救急医療の体制強化に乗り出すことを決めた。10年間で死亡率を25%改善するのが目標だ。専用の集中治療室整備や、不整脈が起きたときに心臓に電気ショックを与える自動体外式除細動器(AED)の普及のための予算を、来年度の概算要求に盛り込んだ。両疾患の患者は、生活習慣病になる人の増加や高齢化に伴って増えている。脳卒中の死亡率は10万人当たり約100人、心疾患は同120人で、死因の3位と2位を占める。脳卒中には、脳血管が詰まる脳梗塞(こうそく)、血管が破れる脳出血などがあり、患者は推計で約137万人。脳細胞が壊死(えし)するため、迅速な治療が生死や後遺症の程度に大きく影響する。厚労省は、急性期の脳卒中患者に特殊な救命治療を実施する脳卒中集中治療室(SCU)の増設を進める。同省によると、全国約170の救命救急センターのうちSCUがあるのは約30施設。一般の病院を含めても十分とはいえず、全都道府県に複数は設置したいという。心筋梗塞など血流障害で起きる虚血性心疾患の患者は、推計約91万人。治療が遅れるほど救命率が下がるため、心疾患集中治療室(CCU)を増やす。また、今夏から一般の人でも使えるようになったAEDの講習会を各地で開き、救命活動の拡充につなげる計画だ。』

どうも官僚の方々はまず箱物つまり施設の整備からでないと物事が始められないようだ.たしかにSCU(Stroke Care Unit)という概念はBrain Attackの治療単位としては欧米でも取り入れられている大切なものなのだが,それは集中治療室という部屋が重要なのではなく.脳外科医,脳神経内科医,循環器内科医,神経放射線科医そして看護師といった専任のスタッフでチームが組めているということがより重要なのである.これがSCUの本体でなければ名前がSCUという部屋に入院しても治療効果は上がらない.

だが,実態はどうであろうか.これだけのスタッフをそろえることができる病院は一部の大病院を除けば皆無であろう.しかるに脳卒中の患者さんはどこにでもいるのである.関東以北には脳神経内科などという内科医もほとんどいないのが実態である.循環器内科医は心疾患の患者で忙殺されているか脳卒中になど興味が無いものが大半である.脳卒中を診れる医者は脳外科医だけという病院がほとんどであろう.

国民の死因第3位の疾患をほとんど脳外科医が診ているなんていうのも日本だけだろう.それなのに脳外科は研修医の必修科目にすらなっていないのである.これでは厚生労働省が本気で脳卒中の治療に取り組む気があるのか疑われてもしょうがないだろう.

脳卒中の死亡率を下げるだけなら実はそれほど難しいことはないかもしれない.だが,機能予後の改善をはかりつつということを前提にすると現在のところ10年で5%上げるのはかなり困難であると思われる.遷延性意識障害で回復不能でもかまわないというなら生存させることができるケースはあるだろうが,それでは意味がないだろう.

くも膜下出血と高血圧性脳内出血の死亡率は実のところもう横ばいに近く大きな改善はあまり期待できないことに加え,脳梗塞で死亡するほどの例はかなり機能予後が悪いからである.来年あたりにt-PAが脳梗塞超急性期の適応をとればたしかに心原因性塞栓症の死亡率を下げることは期待できるが,それにしても脳梗塞全体の10%には満たない部分であろう.

脳卒中の死亡率を5%下げるのはどれほど大変か理解していただけたであろうか.脳卒中や急性心疾患の死亡率をあわせて25%改善というのなら心疾患の死亡率が20%も改善できるということなのだろうか.目標を高く持つのは結構なことだが,そのための手段がスタッフの確保の目途もないままに脳卒中集中治療室をつくることだというのではあまりに短絡的であると思われる.

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