『奈良県立医大病院(奈良県橿原市)で昨年10月、くも膜下出血で入院した男性=当時(73)=の手術を執刀した同大救急医学教室講師(43)と上司の同教室教授(51)が、男性の家族から謝礼にそれぞれ現金80万円と30万円を受け取っていたことが16日、分かった。謝礼の受け取りは地方公務員法に抵触する可能性もあり、同病院は2人の処分も検討。高倉義典(たかくら・よしのり)院長は「驚くと同時に憤りを感じる。事実確認して厳正に対処する」とコメントしている。病院によると、男性は昨年9月22日に入院し、同26日にくも膜下出血の手術を受けた。10月に集中治療室(ICU)を出るなど経過は良好だったが、同月19日に誤嚥(ごえん)性肺炎で急死した。講師と教授は、手術後の9月末にそれぞれ30万円入りの袋を男性の家族から病院で手渡され、執刀医だった講師は翌月さらに50万円を受け取った。教授は12月、講師は今年1月に家族に全額を返却したが、病院には報告していなかった。病院は患者との金品授受はその場で拒否し、やむを得ず受け取った場合は上司に報告した上で返却するよう指導しているという。』

『奈良県立医大(奈良県橿原市)で昨年、入院男性=当時(73)=の手術を担当した同大救急医学教室教授(51)ら2人が男性の家族から謝礼金計110万円を受け取っていた問題で、手術後に男性が肺炎で急死したのは「病院側の医療過誤」と家族が指摘していることが17日、分かった。同病院は近く、内部の医療安全管理委員会で教授ら関係者から事情を聴き、男性が急死に至った経緯や原因を調査する。同病院総務課によると、男性は昨年9月26日にくも膜下出血で手術を受け、翌月にはチューブで流動食を取るなど経過は良好だったが、同月18日夜、突然ベッドで嘔吐(おうと)し、約13時間後に死亡した。死因は流動食が食道を逆流し、気管から肺に入ったことによる「誤嚥(ごえん)性肺炎」と診断された。家族は「流動食を投与する速度が速すぎたのではないか」と医療過誤を指摘。手術を担当した教授らが経緯を説明したが家族は納得せず、今月上旬に高倉義典(たかくら・よしのり)院長が家族を訪問、「説明が不十分だった」と謝罪したという。』

最近は病気がよくなって退院して行くときに謝礼金の受け取りをお断りする病院が増えているようだ.公的病院ではこれを禁止行為として医師や看護師に徹底しているのが普通だろう.だから県立医大の教授と講師が即座に謝礼を断らなかったことは一般常識からいって問題であろう.

後日全額返却したというのはまるで政治家の言い訳みたいだが,返却した理由はいったいなんだったのであろうか.患者さんが死亡したから?それとも地方公務員の自覚に目覚めたから?教授は12月に講師が1月にと返却の時期が異なっているのは,2人で相談したからかそれともしなかったからか?

脳血管障害で嚥下障害がありチューブで流動食をとる状態であればおう吐により嚥下性肺炎を起こすことは別に予想できない事態ではない.嚥下性肺炎は経管栄養のもっとも多い合併症で死亡することも当然ある.だからこのニュースだけではこのどこが「病院側の医療過誤」になるのかわからない.嚥下障害になるほどの重症なくも膜下出血であれば合併症で死亡することは十分考えられることである.

謝礼があまりに高額なのに驚いた.家族はよほど感謝していたのか,でなければ高額な謝礼と引き換えの特別な治療を期待していたのであろう.だが,期待に反した結果となったので「病院側の医療過誤」を疑ったということだろうか.もしそうなら家族の気持ちもわからないでもないが,これは勝手な思い込みだろう.謝礼をもらっても健康保険による治療では特別なことなどできるわけがないからそれが結果を左右することは考えられない.

最近の患者や家族の言動で気になるのは,医療というサービスをコンビニでの買い物のように思っているのではないかということである.外来で注射や検査の具体的内容まで指定し,忙しいから入院はできないとかあるいは逆に入院させろと要求する.これらは通常医師が決定することなのだがこの傾向がさらに進めばそのうちどこを切れだの治せだのと言い出すのではないかと心配だ.

最近の医療事故の扱いをみると結果がすべてで悪ければ家族には慰謝料を請求され警察からは業務上過失なんとかで起訴される.これなどはまるで欠陥品を売った三菱自動車と同じ扱いである.だが,よく考えてもらいたい.そもそも診療報酬は医師が決めているわけでもなく,診療を拒否する権利もなく,病気を持ったあるいはけがをした人を治療するのが医師なのである.

結果がすべてでお金ですべてを解決したいなら健康保険はもうやめるべきだろう.医師にも患者の選択権を与えればいい.そうして医師と患者が対等の立場で治療に関する契約をすれば治療の難易度と結果に対する患者の希望のバランスから市場原理により医療の値段が決まってくるであろう.これこそが患者の望む病院のコンビニ化であろう.

中心静脈栄養にしても経管栄養にしても事故で患者が死亡すれば医師が業務上過失致死で訴えられるというのでは嚥下障害の患者の治療などやりたい医師はいないだろう.だが,栄養しなければ患者はまちがいなく死亡する.患者を選択する権利も延命を拒否する権利も医師にはない.さて,あなたが医師だったらどうするだろうか.

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