『宮崎大学医学部付属病院(宮崎県清武町、江藤胤尚(えとう・たねなお)院長)は2日、食道がんで入院中の血液型O型の男性に誤ってA型の血液を輸血するミスがあったと発表した。男性は輸血後に死亡。病院側は「直接の死因は大動脈破裂だが、輸血ミスが何らかの影響を与えた可能性は否定できない」としている。
 同病院によると、男性は同県内に住む40歳代。3月29日午後9時すぎ、食道近くの大動脈破裂により大量吐血。血圧が低下するなどしたため緊急輸血をすることになった。男性の血液型が分からず、消灯後の病室で検査した医師がA型と判定し約15分間輸血した。一時的に血圧などが回復したが、その後の精密な血液型試験でO型であることが判明して輸血を中止。大動脈からの出血は止まらず、O型の輸血などを続けたが、男性は30日未明死亡した。輸血ミスの原因について、病院側は緊急を要した上、病室が暗かったため担当医師が血液型の判定を誤ったとみている。治療に当たった医療チームは死亡直後に、遺族に輸血ミスがあったと謝罪。病院は今月2日になって宮崎南署や厚生労働省などに報告した。江藤院長は「原因究明と再発防止のために学外の医師を招き調査委員会を設置したい」と話した。』

大学病院に入院中の患者の血液型がわからないなんてちょっと信じられない話だ.私は医師になって以来勤務したどこの病院でも入院患者の血液型は入院時に検査してわかっていた.再入院の場合は保険で査定されることがあるので前回入院時に検査した血液型が添付されたりしていた.いずれにしても診療録には患者の血液型が参照できるようになっているのが当たり前というのが私の常識だったのだが.まあ,ところ変われば品変わるなのだが入院時に血液型を調べない大学病院があるということはわかった.

輸血ミスという記事だがちょっと考えてみたい.まず輸血すべきだったかどうかである.ひとつには,もし食道がんの末期で有効な治療がない状態だったら輸血の適応があったかどうかということ.次に輸血で救命できる見込みがあったかどうかである.どこの大動脈かはわからないが癌の浸潤による動脈性出血に輸血だけで対応して救命できるものだろうか疑問である.救命できる見込みがないのにとりあえず輸血というのだったら無意味な延命治療ではないだろうか.

血液型判定のミスの原因の説明が-病室が暗かったため担当医師が血液型の判定を誤った-というのもいただけない.赤血球凝集反応は懐中電灯でも十分判定できるのだから,こんな説明をしたら臨床検査技師に笑われてしまう.これでは医師の診断能力までが疑われてしまう.

病院側の「直接の死因は大動脈破裂だが、輸血ミスが何らかの影響を与えた可能性は否定できない」とする見解もなんら根拠がない主張である.直接の死因が輸血ミスでないという証明ができなければ死因に関しては少なくとも50%の責任が輸血ミスにあると考えるのが妥当ではないだろうか.

血液型も事前に把握しておらず,病室が暗かったことを血液型の判定を誤った原因とし,さらになんの根拠も示さずに輸血ミスが直接の死因でないと言ってもだれも信用しないに違いない.やはり専門家が聞いても納得できるような説明がなされなければ医療に対する社会の不信感はぬぐえないだろう.医学の進歩に重大な使命を負った大学病院としてはあまりにずさんな説明でこんなニュースが流れると大学病院のさらなるイメージ低下は免れないだろう.

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