研修医制度で何が改善するの
2004年3月30日 医療の問題『当直が明け、そのまま日直に入ってすぐのことだった。アルバイト先の千葉県内の病院。救急車で来る急患が心肺停止状態と聞き、怖さが先に立つ。病院にいる医師は、研修医の自分一人。心臓マッサージや人工呼吸の手順を何度も頭に描き、気持ちを落ち着かせた。
▽責任
「蘇生(そせい)したからよかった。何かあったら問題になったかも」。東京都内の大学病院で研修中の山中憲一さん(27)=仮名=は最近の体験をこう振り返る。
事故と隣り合わせの研修医のアルバイトは、医療現場で続いてきた悪慣行だ。研修先のわずかな手当では生活できない大学病院などの研修医が、人手不足のほかの病院で当直や日直をこなす。
「外傷の縫合はできるけれど、骨折や脱臼の処置は無理」。山中さんはアルバイト先の看護師に対応可能な範囲を伝えておく。「それでも自分の能力を超えた急患が飛び込む。責任を持てない研修医のアルバイトはなくすべきだ」と話した。
▽過労
山中さんが大学病院に着くのは午前八時すぎ。症例検討会議が始まり、約二時間続く。その後は入院患者の診療に回りながら急患の対応に追われる。注射や検査結果の整理などにも忙殺され、自宅で寝るのは数時間。当直が月十二回もあり、連続勤務が四十時間を超えることも珍しくない。
「このままでは過労死してしまう」。大阪の社会保険労務士、森大量(もり・ひろのり)さん(62)の下には、同じような過酷勤務を強いられている研修医や心配した親から切羽詰まった相談が頻繁に寄せられる。
森さんは一九九八年、関西医大病院の研修医だった長男大仁(ひろひと)さん=当時(26)=を過労による急性心筋梗塞(こうそく)で亡くした。同大に損害賠償を求めた訴訟で大阪地裁は二〇〇二年、研修医を「労働者」と認め賠償を命じた(大学控訴)。 森さんは今、研修医の相談には「まじめな人ほど追い込まれてしまう。我慢せず自分の体は自分で守って」と訴える。
労働基準法を分かりやすく説明したパンフレットを作り、講演のため各地を飛び回る日々だ。「研修医の過酷勤務を改めようという機運がやっと見えてきた。だが、その負担が大学院生らほかの若手医師にいかないか心配だ」』
厚生労働省は4月以降、雇用契約で明確にアルバイト診療を禁止しなければ、補助金の一部を交付しないので実質的に研修医はアルバイト禁止になった.これはいいことかもしれない.そして,大学院生のアルバイトも名義貸し事件以降は自粛傾向となり大学院生に教員の臨床の仕事を手伝わせて給料を払う大学病院まで出てくる始末だ.
私の大学院時代のように当直を肩代わりして当直料を教員がピンはねすることが公然と行われていた時代よりは大分ましになったような気がする.だが,よく考えれば大学院生にとっては博士号の方が給料より重要なわけでわずかばかりの報酬は労働基準法対策という気もしないでもない.
要は名義貸し騒ぎに便乗して研修医制度による労働力不足を大学院生で少しでも補うための囲い込みなのだろう.それでも大学病院は人手が足りないので医師の『引きはがし』をやらねば生き残りが難しい時代になったようだ.
事故と隣り合わせの研修医のアルバイトは、医療現場で続いてきた悪慣行だそうだが,彼らが行かなければほかの病院はなりたたないのが現実だ.夜間救急に研修医が行かなければならないような病院はもう夜間救急はやめるべきだろう.責任が持てない以上救急患者の受け入れはするべきではない.その結果,救急車が受け入れ先を求めて迷走することになってもしょうがないと思えるならこんな悪慣行は即刻やめるべきである.
過労なのは研修医だけではない.大抵の基幹病院では医師は夜9時くらいまでは働き朝8時30分には出勤というのが多いだろう.そして当直が月に数回である.外部から当直がこなければ当直は確実に増える.毎日8時間労働で当直は月1回までで時間外手当も労働に見合っただけ出る病院なんてたぶん存在しないだろう.
現在の健康保険診療が続く限りこの『安くてサービスの悪い』日本の医療は改善されることはないだろう.なぜなら健康保険はコスト配分の適正化を妨げることによってコストの割りに質のいい医療を提供することを目的としているからである.つまり,病院としてはちゃんとコストをかければもっと質のよい医療を提供することもできるのだが,これ以上お金をかけたくない厚生労働省がその場しのぎで診療報酬を削減し続け適正なコスト配分を病院側ができない環境をつくりあげてきたということだ.
その結果が顕在化したのが医療事故,名義貸しという問題である.研修医制度はひとつの解決策なのかもしれないが,これにより事態がさらに悪化する可能性が高い.なぜなら,今のところ研修医制度は医療費の削減に寄与すると考えられるからである.これはさらなるサービスの低下を招くと思われるのだが,いずれまた考えてみよう.
▽責任
「蘇生(そせい)したからよかった。何かあったら問題になったかも」。東京都内の大学病院で研修中の山中憲一さん(27)=仮名=は最近の体験をこう振り返る。
事故と隣り合わせの研修医のアルバイトは、医療現場で続いてきた悪慣行だ。研修先のわずかな手当では生活できない大学病院などの研修医が、人手不足のほかの病院で当直や日直をこなす。
「外傷の縫合はできるけれど、骨折や脱臼の処置は無理」。山中さんはアルバイト先の看護師に対応可能な範囲を伝えておく。「それでも自分の能力を超えた急患が飛び込む。責任を持てない研修医のアルバイトはなくすべきだ」と話した。
▽過労
山中さんが大学病院に着くのは午前八時すぎ。症例検討会議が始まり、約二時間続く。その後は入院患者の診療に回りながら急患の対応に追われる。注射や検査結果の整理などにも忙殺され、自宅で寝るのは数時間。当直が月十二回もあり、連続勤務が四十時間を超えることも珍しくない。
「このままでは過労死してしまう」。大阪の社会保険労務士、森大量(もり・ひろのり)さん(62)の下には、同じような過酷勤務を強いられている研修医や心配した親から切羽詰まった相談が頻繁に寄せられる。
森さんは一九九八年、関西医大病院の研修医だった長男大仁(ひろひと)さん=当時(26)=を過労による急性心筋梗塞(こうそく)で亡くした。同大に損害賠償を求めた訴訟で大阪地裁は二〇〇二年、研修医を「労働者」と認め賠償を命じた(大学控訴)。 森さんは今、研修医の相談には「まじめな人ほど追い込まれてしまう。我慢せず自分の体は自分で守って」と訴える。
労働基準法を分かりやすく説明したパンフレットを作り、講演のため各地を飛び回る日々だ。「研修医の過酷勤務を改めようという機運がやっと見えてきた。だが、その負担が大学院生らほかの若手医師にいかないか心配だ」』
厚生労働省は4月以降、雇用契約で明確にアルバイト診療を禁止しなければ、補助金の一部を交付しないので実質的に研修医はアルバイト禁止になった.これはいいことかもしれない.そして,大学院生のアルバイトも名義貸し事件以降は自粛傾向となり大学院生に教員の臨床の仕事を手伝わせて給料を払う大学病院まで出てくる始末だ.
私の大学院時代のように当直を肩代わりして当直料を教員がピンはねすることが公然と行われていた時代よりは大分ましになったような気がする.だが,よく考えれば大学院生にとっては博士号の方が給料より重要なわけでわずかばかりの報酬は労働基準法対策という気もしないでもない.
要は名義貸し騒ぎに便乗して研修医制度による労働力不足を大学院生で少しでも補うための囲い込みなのだろう.それでも大学病院は人手が足りないので医師の『引きはがし』をやらねば生き残りが難しい時代になったようだ.
事故と隣り合わせの研修医のアルバイトは、医療現場で続いてきた悪慣行だそうだが,彼らが行かなければほかの病院はなりたたないのが現実だ.夜間救急に研修医が行かなければならないような病院はもう夜間救急はやめるべきだろう.責任が持てない以上救急患者の受け入れはするべきではない.その結果,救急車が受け入れ先を求めて迷走することになってもしょうがないと思えるならこんな悪慣行は即刻やめるべきである.
過労なのは研修医だけではない.大抵の基幹病院では医師は夜9時くらいまでは働き朝8時30分には出勤というのが多いだろう.そして当直が月に数回である.外部から当直がこなければ当直は確実に増える.毎日8時間労働で当直は月1回までで時間外手当も労働に見合っただけ出る病院なんてたぶん存在しないだろう.
現在の健康保険診療が続く限りこの『安くてサービスの悪い』日本の医療は改善されることはないだろう.なぜなら健康保険はコスト配分の適正化を妨げることによってコストの割りに質のいい医療を提供することを目的としているからである.つまり,病院としてはちゃんとコストをかければもっと質のよい医療を提供することもできるのだが,これ以上お金をかけたくない厚生労働省がその場しのぎで診療報酬を削減し続け適正なコスト配分を病院側ができない環境をつくりあげてきたということだ.
その結果が顕在化したのが医療事故,名義貸しという問題である.研修医制度はひとつの解決策なのかもしれないが,これにより事態がさらに悪化する可能性が高い.なぜなら,今のところ研修医制度は医療費の削減に寄与すると考えられるからである.これはさらなるサービスの低下を招くと思われるのだが,いずれまた考えてみよう.
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