信じられない記事
2004年2月25日『新潟大医歯学総合病院は25日、脳神経外科の医師が新潟県内の50代の男性患者に行った手術で、綿片を脳に残したまま縫合するミスがあったと公表した。術後のCT(コンピューター断層撮影装置)検査で綿を発見し、男性に説明して摘出手術をした。男性は既に退院し、健康上の問題はないという。
記者会見した同科の田中隆一教授によると、顔面に激痛を訴えて今月初旬に入院した男性に、神経を圧迫していた後頭部の脳内血管を緩める手術をした際、糸付きの綿(幅1・4センチ、長さ3センチ)を硬膜の表面に残した。
脳内の手術をする際は通常、残留を防ぐため綿に付いた長さ約30センチの糸を硬膜の外側に垂らしておくが、今回は執刀医が糸を数ミリまで短く切って使用したという。
田中教授は「今後は10センチより短く糸を切らないなど、再発防止に努める」と述べた。』
事実がどうであったのかはわからないが,新聞にも載っていたこの記事を読んで疑問を感じた脳神経外科医は多いと思う.三叉神経痛に対して行われる神経血管減圧術といわれる手術のことだと思うが,この手術の開頭は高々直径2.5cmしかない.硬膜というのは頭蓋骨を裏打ちしている組織であるから骨をはずすとすぐ直下にあるので,そこに綿があれば見えないほうがおかしいのだ.
それを置き忘れるということは,硬膜を閉鎖した後にちょっとみただけでわかる確認をしなかったということだ.もっとも硬膜を閉鎖して脳脊髄液の漏れを防ぐために意図的に置いたのならわかるが,そんなことをする脳外科医はいないと思いたい.
再発防止として糸をたとえ10cm付けたとしても手術をする脳外科医の注意力がこの程度では,その糸さえも見逃す危険があるような気がする.もともと綿の糸というのは深部の狭い視野で綿が行方不明にならないように付いているもので,こんな浅いところで見落とすようではお話にならない.綿の糸が短かったのが原因みたいな説明で問題をすりかえるような話はまるで政治家みたいで残念である.素人はこの記事で納得したかもしれないが,脳外科医で首をかしげたものは多いと思う.
もうひとつ気になったのはこれが大学病院で起きた事件だということだ.大学病院では手術のメインの部分を教授がやり,開頭や閉頭といった手術のはじまりと終わりの部分は研修医がやったりすることもよくある.これはもちろん教育のためだが,その際に指導医がいなくなることもあるだろう.このケースではどうだったのだろうか?一人の術者であればどこに綿があるかがわからなくなることはあまりないと思われるが,途中で他の医師に交代しそれが経験の浅い研修医だったらどういうことになるだろうか.
新潟大ではどうなのかを私は知るよしもないが,一人の術者がやってのミスならそんな医師に手術をまかせることに問題があるし,指導医がちゃんと監督していても見落としたのなら研修の体制の問題だし,万が一研修医が一人でやっていたなら大問題ということになるだろう.昨今,大学病院の危機管理意識の低さが問題となっているが,この報道をみるかぎりこんな情報公開をしても大学病院に対する信頼が回復するとはとても思えないのである.
記者会見した同科の田中隆一教授によると、顔面に激痛を訴えて今月初旬に入院した男性に、神経を圧迫していた後頭部の脳内血管を緩める手術をした際、糸付きの綿(幅1・4センチ、長さ3センチ)を硬膜の表面に残した。
脳内の手術をする際は通常、残留を防ぐため綿に付いた長さ約30センチの糸を硬膜の外側に垂らしておくが、今回は執刀医が糸を数ミリまで短く切って使用したという。
田中教授は「今後は10センチより短く糸を切らないなど、再発防止に努める」と述べた。』
事実がどうであったのかはわからないが,新聞にも載っていたこの記事を読んで疑問を感じた脳神経外科医は多いと思う.三叉神経痛に対して行われる神経血管減圧術といわれる手術のことだと思うが,この手術の開頭は高々直径2.5cmしかない.硬膜というのは頭蓋骨を裏打ちしている組織であるから骨をはずすとすぐ直下にあるので,そこに綿があれば見えないほうがおかしいのだ.
それを置き忘れるということは,硬膜を閉鎖した後にちょっとみただけでわかる確認をしなかったということだ.もっとも硬膜を閉鎖して脳脊髄液の漏れを防ぐために意図的に置いたのならわかるが,そんなことをする脳外科医はいないと思いたい.
再発防止として糸をたとえ10cm付けたとしても手術をする脳外科医の注意力がこの程度では,その糸さえも見逃す危険があるような気がする.もともと綿の糸というのは深部の狭い視野で綿が行方不明にならないように付いているもので,こんな浅いところで見落とすようではお話にならない.綿の糸が短かったのが原因みたいな説明で問題をすりかえるような話はまるで政治家みたいで残念である.素人はこの記事で納得したかもしれないが,脳外科医で首をかしげたものは多いと思う.
もうひとつ気になったのはこれが大学病院で起きた事件だということだ.大学病院では手術のメインの部分を教授がやり,開頭や閉頭といった手術のはじまりと終わりの部分は研修医がやったりすることもよくある.これはもちろん教育のためだが,その際に指導医がいなくなることもあるだろう.このケースではどうだったのだろうか?一人の術者であればどこに綿があるかがわからなくなることはあまりないと思われるが,途中で他の医師に交代しそれが経験の浅い研修医だったらどういうことになるだろうか.
新潟大ではどうなのかを私は知るよしもないが,一人の術者がやってのミスならそんな医師に手術をまかせることに問題があるし,指導医がちゃんと監督していても見落としたのなら研修の体制の問題だし,万が一研修医が一人でやっていたなら大問題ということになるだろう.昨今,大学病院の危機管理意識の低さが問題となっているが,この報道をみるかぎりこんな情報公開をしても大学病院に対する信頼が回復するとはとても思えないのである.
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