ついこのあいだ神経血管内治療専門医のことを書いたばかりだったのでニュースに驚いた.

聖路加国際病院の神経血管内治療専門医で指導医も持っているという放射線科部長を含む医師3人が,55歳男性の脳底動脈の未破裂動脈瘤のコイル塞栓術をしていてクモ膜下出血を起こし脳死に近い状態という.

神経血管内治療の指導医ということは学会で認定された十分に経験を積んだ医師ということである.でも事故は起きてしまった.

これは確かに医療事故ではあるが,医療過誤というのは脳外科医の常識からはちょっと言いにくい.

こう言うと一般の人にはわかりにくいかもしれない.要するに特に技術的ミスがなくても起こっても不思議のない事故だということだ.

確かに指導医にも技術的な問題が起こる可能性はある.しかし,一方で血管内治療では血管の穿孔や動脈瘤破裂は頻度こそ少ないが,ひとたび起きればこのような致命的な事態になる恐れが十分にあるということである.

だから,術者はたくさんやっていれば余程の強運でもないかぎり,いつかは遭遇する事故であると思う.実際,血管内治療の結果がよくなかったという話は他にも聞いたことがある.

出血してもすぐに血管内から処置できればよいが腹腔内視鏡による出血とは違い,クモ膜下出血はすぐに脳外科医が開頭手術をしても結果は満足できるものではない.

だが,私は現時点ではこの事態になっても納得できる人だけがこの治療を受けるべきだと思う.このケースではこの治療をやってまで治療する必要がある脳底動脈瘤だったのかも問題になるかもしれない.

患者や家族の中には医師の説明のなかから自分に都合のいい話だけを憶えていたり,恐い話は自分には起こらないと信じようとしたりするものだ.

でも,これは外科医の側にも言えるのだ.学会で治療成績悪いデータを声高に発表するわけはないのに,いいデータを信じてつい自分にも出来そうな気がしてしまう.

私はいつも自分に「起こる可能性のある事故は起こる」と言い聞かせながらツキをなくさないように日頃の生活態度に気をつけたりしているのであった.

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